ETH(イーサリアム)のアップデート“The Merge”は価格推移にどう影響するか
Daily Market Report 2022/8/12
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・PoWとPoSとは?
暗号資産時価総額ランキング第2位のETH(イーサリアム)がまもなくThe Mergeアップデートを実装する。予定では2022/9/19前後に実施される見込みだ。このアップデートの意義は、現在ETHはPoWをメインに採用しているが、PoSに統合(Merge)するよう変更するものである。PoWからPoSに移行した暗号資産は今までに存在しない。
The Mergeを控えて、まずは簡単にPoWとPoSについておさらいしてみる。
PoWとは”Proof of Work”の略称で、日本語にすると「Workによる証明」である。ここでいうWorkとは、コンピュータによる計算量を指している。つまり、Workさせたコンピュータ量によって分散性を維持するというものである。また、報酬は計算量によって決定している。
ただ、問題点としては、その計算を行うのに莫大な電力を消費している点だ。暗号資産が批判される要因の一つである。
(詳しい解説はhttps://bitcoin.dmm.com/glossary/proof_of_work)
一方、PoSとは”Proof of Stake”の略称で、日本語にすると「Stakeによる証明」である。ここでいうStakeとは、コンピュータが持つ暗号資産を指す。つまり、十分にStakeしているコンピュータ量によって分散性を維持するというものである。また、報酬は暗号資産の保有量や保有期間によって決定している。
(詳しい解説はhttps://bitcoin.dmm.com/glossary/proof_of_stake)
一見、PoSが優秀でPoWを採用しない方がいいように感じるが、PoSは分散の十分性で劣ることが問題点とされている。すなわち、PoSは保有量によって報酬の割合が決まるので、PoSでは暗号資産を売らずに保有するメリットが大きく、時間が経つほど暗号資産の保有割合が傾いていくのである。
分散ネットワークを追求しているブロックチェーンにおいて、分散性がなくなっていくことは本末転倒であり、PoSとPoW、どちらにもメリットデメリットがあると言える。
ETHは、PoWによって資産を十分に分散させた後、PoSによって、資産の分散性を保ったまま、電力を極力使わない、環境に優しい非中央集権的なネットワークを構築しようとしているのだ。そうした移行を時価総額の大きいETHが実施するとなれば、暗号資産史上最も大きなイベントと言っても過言ではない。
・フォークの可能性
ブロックチェーン上で、従来の仕様との互換性を保たず新しい仕様になると、分岐が生じることになる。それがハードフォークである。”The Merge”のケースで言えば、PoWのETH(以下powE)とPoSのETH(以下posE)が生じるというものである。
posEが本流のETHになり、powEは副産物的な立場になるのだが、暗号資産のマーケットは面白いことに、powEがETH保有者にエアドロップ※され、価格がつく可能性があるという反応の仕方をしている。
※エアドロップ・・条件を満たせば、暗号資産のトークンが無料で付与されるイベント
その証拠に、ETHの現物と期限付き先物の価格乖離がある。海外大手暗号資産取引所BINANCEでは、現物ETHと比べて1230限先物は現在3%ほど価格が低いのある。バックワーデーションという現象である。本来は、先物価格は時間的価値が加味され現物価格より上にある(コンタンゴという)。
なぜこのようなことが生じるかと言えば、投資家は現在、現物のETHを購入しつつ先物でヘッジし、ETH自体の価格変動リスクを抑えながらエアドロップでpowEを貰おうとしているからとも言える。また、海外大手暗号資産取引所であるPoloniexではIOU※でpowEの取引を開始しており、このような期待感からも生じた歪みと捉えることができるだろう。
※IOU・・取引所が独自に実施する事前取引のこと
ただし、エアドロップを正式に決定した取引所は今のところ存在せず、エアドロップの実施の有無も取引所によって対応が異なることは注意されたい。
・OMGのBOBAエアドロップイベントの振り返り
以上のことから、市場参加者がpowEエアドロップを見据えた取引をしていると仮定する。そこで、比較的時価総額が大きくエアドロップのイベントがあったOMGの価格推移を例に挙げ、ETHの価格推移を考察する。
2021/11/12の21時(日本時間)にスナップショット※があり、現物OMG保有者にBOBAトークンの付与量が決定した。付与されるトークン量はOMG保有量と1:1という事前告知があったこともあり、エアドロップのイベントとして大いに盛り上がった。
※スナップショット・・既存のすべてのアドレスと取引、手数料、残高、メタデータなど関連データを含むブロックチェーンの台帳全体の内容が記録されること
以下で、2021/9/1から2021/12/31の範囲を切り取り、OMGのチャート(上)とBTCのチャート(下)を比較する。
OMG/JPY 日足Bidチャート(当社取引ツールより作成)
OMG(オーエムジー)のチャート・価格情報はこちら
OMG/JPY 日足Bidチャート(当社取引ツールより作成)
これらのチャートを比較すると、2021/11/12付近までは暗号資産全体の価格が上昇していた時期でもあったので断定することはできないが、少なくともスナップショットの前日はBTCの価格と比べてOMGの上昇率が大きく、スナップショットまでは、現物OMGはエアドロップに期待して相対的に買われる傾向があったと言えそうだ。
スナップショット時のOMGの価格は、11/12の日足高値付近である約1,900円であった。ただ、注目すべきはスナップショット後の価格変動だ。スナップショット直後、日足も陰線に転じ、BTCと比べても非常に下げ率が大きいことがわかる。これは、BOBAトークンのエアドロップのために、投資家は投機的に参加していたので、スナップショット終了直後から現物OMGの投げ売りが行われたと考えられる。
・ETHのシナリオ
では、今回のETHの価格はどうなるだろうか。足下の状況でも”The Merge”の期待感からETHが買われる傾向にあるが、より短期的な価格推移の考察を、powEをエアドロップすると発表した取引所がないことに留意して、3つのシナリオを挙げていく。
・シナリオ1
9月半ばまでに、世界の取引高上位の暗号資産取引所がpowEのエアドロップを行うと発表した場合…
現物と期限付き先物の乖離が現在約3%ほどで、OMGの場合は最大約30%までひらいていたことからすると、まだ投機勢はETHを買いきれていないと考えられる。そして、そのような発表がされる直後から、現物ETH買いが加速し価格が上昇し、その後、スナップショット終了後価格は下落すると考える(OMGの例で考察したような展開)。
・シナリオ2
9月半ばまでに、世界の取引高上位の暗号資産取引所がpowEのエアドロップを行わないと決定する場合…
現在バックワーデーションになっていることから、ある程度の投機勢がすでに参加していることがわかる。このことから、そのような発表がある直後から現物の投げ売りが行われ、下落幅は乖離度程度(現在の数値で言えば約3%)と考察する。もしくは、ヘッジをしていないETH保有者の失望売りも呼び込み、それ以上の下落になるかもしれない。
・シナリオ3
そもそも、9月半ばに”The Merge“が行われず、延期すると発表があった場合…
シナリオ2と同様のことが発生すると考察する。
現在、ETHは、GoerliテストネットにてPoSが正常に完了し、9/19予定のThe Margeに向け順調に進捗している(8/11 コインテレグラフ)。
情報はトレードをするうえで大事な要素である。情報のアンテナを常にはりつつ、トレード戦略を考えることも重要であり、今後のETHの情報に注意が必要である。
(8/12 午前7:00時点)
・銘柄別価格前日比(%)
社内データより作成
8/11の当社取扱い銘柄別終値の前日比は上記グラフの通り。
平均値は1.51%、中央値は1.15%、標準偏差は2.88%となった。
最大上昇銘柄はETC/JPYの12.62%、最大下落銘柄はDOT/JPYの-2.77%。
最大上昇銘柄のETC/JPYは、もともとはETHからハードフォークした暗号資産である。
ETHの”The Merge”の実装が迫る中、PoSへの移行に伴い既存マイナーが採掘続行不可能になるため、マイニングプール大手のAntPoolが、ETCのエコシステムに投資するなど、ETCのポジティブなニュースが確認されている(7/27 CoinPost)。
最大下落銘柄のDOT/JPYは、8/10 21時台に急騰したあと順調に推移し、8/11 10時台に高値1270円を付けた。その後は振るわず緩やかに下落し終値1,210円でクローズした。目先は8/10 21時の始値1,170円付近がレジスタンスとなるかに注目したい。
・24時間ボラティリティ(%)
社内データより作成
8/11の当社取扱い銘柄の24時間ボラティリティは上記グラフの通り。
平均値は5.01%、中央値は3.82%、標準偏差は4.18%となった。
最もボラティリティが高かった銘柄はXEM/JPYで18.11%。
一方、最もボラティリティの低かった銘柄はZPG/JPYで1.05%となった。
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