仮想通貨は暗号資産に?その影響と今後を探る
2018年12月14日、金融庁は「仮想通貨」を「暗号資産」という呼称へ正式に変更すると発表しました。そして2020年5月1日から改正資金決済法が施行されたのに伴い、名称が国際標準である「暗号資産」に統一されました。これまで仮想通貨という呼称で普及してきたものがどうして暗号資産という呼称に変える必要があったのか、疑問に感じている人もいるでしょう。今回は、暗号資産へと呼称が変更された理由について詳しく解説します。
1.金融庁が呼称変更「仮想通貨」は「暗号資産」に
世界の先進国が集まって経済について会議を行うG20にて、日本で仮想通貨と呼ばれていたものを「暗号資産(英語でcrypto-asset)」と呼ぶことが提案されました。日本の金融庁は、これを受けて2018年12月14日、仮想通貨の呼称を「暗号資産」へと変更することを決定したと正式に発表したのです。暗号資産という呼称に変更することで、適用される法律が資金決済法だけでなく、金融商品取引法も対象となりました。
2.なぜ「暗号資産」へと呼称変更したのか?
仮想通貨の呼称を「暗号資産」へと変更した理由については、金融庁は「仮想通貨については、最近の国際的な場において使用されている表現や、法定通貨と誤認されやすいとの指摘を踏まえ、今般の改正において、法令上の呼称を「暗号資産」に変更しています。」。とコメントしていますが、詳しい背景などは触れられていません。ここでは、呼称変更が行われた要因などについて見ていきましょう。
2-1.世界では「仮想通貨」と呼ばれていない
日本では仮想通貨という呼称が一般的になったものの、海外では違う名前で呼ばれていました。日本の仮想通貨にあたる英語は「CryptoCurrency=暗号通貨」であり、業界に深く携わる人たちのなかには、暗号通貨という呼称を使用してきた人もいました。本来、仮想通貨という言葉が示すものは広く、たとえば電子マネーや買い物時に付与されるポイントまで含んでしまうためです。そのため「仮想通貨」と呼ばれているものは、「暗号技術が使われているインターネット上の資産」であるため、「暗号通貨」という呼称が適切であると言われてきました。
しかし、実際に普及したのは「仮想通貨」という呼称だったため、業界においてもそちらに合わせるという状況が続いてきたのです。こうした経緯もあり、金融庁が「暗号資産」という呼称を使うと発表した件について、評価する声もあがっています。
2-2.現状では「通貨」としての役割を果たし切れていない
一般に、通貨には3つの役割があると言われています。「価値の尺度」「価値貯蔵」「交換手段」という3つの機能を果たすものが通貨と呼ばれるのです。しかし暗号資産(仮想通貨)にはいくつかの機能が欠けている状態が続いています。たとえば、「価値の尺度」としての機能を果たすのは、ある程度安定した価値を維持しなければいけません。しかし、暗号資産の価格は短期間に大きく変動することが多く、安定しているとは言えないでしょう。ビットコインが決済手段として普及しつつあるものの、利用できる場所は限定的なため「交換手段」としても不十分です。「価値貯蔵」についても、ハッキングなどの危険性から疑問を抱かれています。通貨としての役割を担っていないものを「通貨」と呼称すべきではないという意見から、「暗号資産」という呼称への変更が行われたという面があるのです。
2-3.「資産」としての特性の方が強い
暗号資産の根幹になっているブロックチェーンが実現した情報空間は、従来のインターネットよりも公共性や透明性が高いものです。これまでのインターネット空間は情報の匿名性により自由な情報交換が可能だった半面、情報の信頼性が低いというだけではなく、匿名であるがゆえの悪意ある情報も多く含まれていました。ブロックチェーンはインターネットにおける匿名性を保ちつつ、低コストで「情報(価値)」をやり取りできる空間を実現しているのです。
暗号資産は、その情報空間でやり取りされる価値のごく一部でしかありません。ブロックチェーンの技術が最初に利用されたのが「ビットコイン」だったため注目を浴びてきたものの、世界的にはむしろブロックチェーンとそれを利用した情報空間のほうに期待が集まりつつあります。現在、ブロックチェーンを利用した価値のやり取りには、不動産や著作権、ウェブ上の行動履歴やゲームのアイテムなどのあらゆる情報が含まれるようになっています。これらは「価値や権利」のやり取りであるため、「通貨」よりも「資産」という呼称のほうが特性を適切に表現しているのです。
2-4.「仮想通貨」というワードにはマイナスイメージがある
日本では「仮想通貨」という呼称が一般に浸透しています。しかし、それは必ずしも好意的なイメージばかりではありません。ICO詐欺・詐欺コインによる事件や、さまざまな盗難・流出事件などにより、「実態がないから危険である」といった印象を抱く人も少なくないのです。仮想通貨に関わる人たちのなかには、こうしたマイナスイメージを払拭するために、「暗号資産」という新しい呼称へ変更することを受け入れたいという人もいるでしょう。こうした要望も、呼称変更を進めることを後押ししたと言えるでしょう。
3.「暗号資産」への呼称変更に対する反応
「仮想通貨」を「暗号資産」という呼称に変更するという決定について、反対を表明する人がいる一方で、肯定的な意見もあります。ここでは、反対派と賛成派それぞれの反応について見ていきましょう。
3-1.反対派の反応
日本国内において、「仮想通貨」という呼称は一般に浸透しつつあります。そのため、仮想通貨という呼称を利用して事業者登録を行っている事業者も少なくありません。この状況で「暗号資産」という呼称へ変更される場合、正式な呼称とは異なる名前を使用し続けるか、改めて事業者登録し直すかを選択する必要があります。仮想通貨の関連団体や企業のなかには、「仮想通貨」という呼称の使用を続けたいという声もあがっていました。
3-2.賛成派の反応
国際的には「暗号資産」という呼称への賛成意見が大きくなりつつあります。たとえば、バハマでは国家によるデジタル通貨の導入政策プランがあり、仮想通貨などのトークンを「暗号資産」と定義するための討論論文を発表しています。国際的な会議などでは、すでに「仮想通貨」という呼称は使われていません。今後、仮想通貨に対する規制や法整備などを踏まえた場合、国際的に協調した取り組みが必要になってくるでしょう。日本でも国際的な場に合わせて「暗号資産」という呼称を導入したいという意見が強くありました。また、「暗号資産」という呼称になることで、一般的な電子マネーなどと区別することができるという点からも賛成意見が出ていたのです。
参考:
仮想通貨の呼称「暗号資産」に 投資家から賛否の声:日本経済新聞
4.「暗号資産」への呼称変更を行なった団体
2020年5月1日に改正資金決済法が施行されたことを受けて、暗号資産の自主規制団体の「日本仮想通貨交換業協会」は同日に「日本暗号資産取引業協会」に変更されました。略称は変わらずJVCEAのままです。さらに暗号資産を取り巻く業界の推進や課題についてセミナーを実施している日本仮想通貨ビジネス協会も2020年4月1日から名称を「日本暗号資産ビジネス協会」に変更しました。ただ、2020年8月現在ではまだ「仮想通貨」という呼称は残っており、メディアなどで暗号資産と併記されることも多くあります。また、「暗号資産」という言葉は財政金融委員会などでも話題に上ることもあります。
麻生太郎財務大臣は2020年6月、財政金融委員会での音喜多駿議員(日本維新の会)の答弁で、「『暗号』というと名前が怪しげな感じがなきにしもあらずなんで、ステーブルコインみたいな日本語使ったらどう?」と名称の変更を提案しました。
5.「暗号資産」は今後どうなる?仮想通貨との違いは?
「仮想通貨」から、「暗号資産」という呼称に変更されると金融庁が発表した背景には、単純に名前を変えるという以上の意味がありました。「暗号資産」という呼称が利用されること以外にも何が変わったのかを紹介します。
5-1.変化1:暗号資産交換業者が厳しく管理されるようになった
2017年に資金決済法で定義されてはきたものの、暗号資産の法的な取り扱いは曖昧でした。暗号資産の購入には決済手段として利用するというよりも、投機的な側面が強くありましたが、株やFXのような法規制は整っていなかったのです。「暗号資産」という呼称に変更した背景には、「仮想通貨をほかの金融商品同様に規制する」という目的があります。改正資金決済法では利用者から預かった金銭の信託義務や、利用者財産の保全義務強化が盛り込まれています。ルールや規制が厳格化されることで、ユーザーが安心して取引に参加できるというメリットがあります。
さらに2020年5月1日に改正された金融商品販売法では、暗号資産交換業者に対して顧客の負担軽減を目的として、業者側に損害賠償請求の説明義務を課しました。暗号資産取引や暗号資産デリバティブ取引が説明義務の対象となったことで、ユーザーの安心感に繋がったとされます。
5-2.変化2:証拠金取引に関する規制の整備
今回の改正資金決済法とともに改正金融商品取引法も施行されました。改正金融商品取引法の施行によってデリバティブ取引を行うことは「金融商品取引業」になりました。そこで大きな話題となったのが暗号資産デリバティブにおける証拠金倍率の上限を2倍にするというものです。(改正金融商品取引法内閣府令の施行日から1年を経過する日までの間は猶予されます。)海外では50倍、100倍という取引所もあるなかで、わずか2倍となると、利用者側のインセンティブに影響を与え、国内産業の衰退にもつながるという声も出ています。一方で消費者保護という観点から考えると、過度な倍率を設けないことで安心した取引につながるとも言えるでしょう。
5-3.変化3:暗号資産と有価証券の区別
「仮想通貨」から「暗号資産」に変更された際には、改正資金決済法では電子記録移転権利に該当する箇所が除外されました。これが重要なのは決済手段としての暗号資産と有価証券が区別されるようになったからです。
「暗号資産や電子記録移転権利に該当するかは、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものと考えられますが、電子記録移転権利を表示するものは暗号資産から除かれています(資金決済法第2条第5項ただし書)。」(金融庁「暗号資産の範囲及び該当性の判断基準(交換業ガイドラインⅠ-1-1)」)
「電子記録移転権利」は今回、改正金融商品取引法に、新設されました。ここでSTO(Security Token Offering)発行のトークンが規制対象となっています。
こうした区別を受けて、金融庁は暗号資産については日本暗号資産取引業協会(JVCEA)を、STOについては日本STO協会をそれぞれ自主規制団体として認定しています。
参考コラム:
暗号資産(仮想通貨)の法律が変わる?2020年の法改正とは
6.「暗号資産」に呼称変更しても仮想通貨の投資価値は高いまま
「仮想通貨」を「暗号資産」という呼称に変更する背景として、法律による規制強化の流れがあります。そのため、「これまでのように自由な取引ができなくなる」という懸念の声もあるのです。その一方で、しっかりとした規制が行われることで、投資家が安心して取引に参加できるようになるという展望もあります。むしろ、ICO詐欺による被害などが減少することで、暗号資産の投資価値が上がる可能性もあるでしょう。暗号資産の購入を検討するなら、今後の動向について注目しておくことが大切です。
暗号資産に関する法改正について興味を持たれた方は「暗号資産(仮想通貨)の法律改正を解説」もご覧ください。
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