今後、仮想通貨のICOは規制されるのか?

ICO
2018-11-14 更新

中国がICOの禁止に踏み切るなど、仮想通貨のICOに対する規制を強化する国が出てきています。ところが、それでも世界的にICOはいっそう活発化する傾向がうかがえるようです。

そもそもICOとはどういったもので、なぜ規制を強化する国が出てきたのでしょうか? その仕組みや注意すべき点、今後の見通しなどについてまとめてみたいと思います。

そもそもICOとは何か?

ICOはInitial Coin Offeringの略称で、「新たな仮想通貨を発行し、それを公開販売することで資金を調達する」という手法です。株式のIPO(Initial Public Offering=新規公開)と名称が似ていますが、大きく異なる部分もあり、そういったポイントに注意を払う必要があります。詳しくは後ほど解説します。

また、ICOは企業や個人が何らかのプロジェクトを進めるための資金をインターネット上で募るクラウドファンディングにも似ています。IPOやクラウドファンディングとの根本的な違いは、出資を行った人が特定の仮想通貨を受け取ることです。

正確に言えば、ICOで出資した際に得られるのはトークン(代用仮想通貨)です。まず、出資したい人は仮想通貨交換業者でイーサリアム(ETH)を購入し、それをトークンと交換するという流れになっているのが一般的です。

ただし、イーサリアムが用いられるケースが多いからといって、同仮想通貨の運営側とICOを実施する団体との間に必ずしも関連性があるわけではありません。イーサリアムをはじめとする仮想通貨のブロックチェーンは基本的にオープンソースとなっています。イーサリアムはトークンを発行しやすいスキームになっていることから、そのプラットフォームが活用されやすいわけです。

では、ICOに参加することによって、出資者はどのようなメリットが得られるのでしょうか? それは、手に入れたトークンの価値が上昇した場合にキャピタルゲイン(値上がり益)を得られる可能性があることです。

もちろん、けっして約束された話ではなく、逆に価値がまったく高まらないことも考えられます。それどころか、無価値と化すリスクもあるとさえ言えるでしょう。

なお、ICOは「クラウドセール」や「プレセール」、「トークンセール」などとも呼ばれています。イーサリアムのような仮想通貨を介して出資を行うので、日本に居ながらにして海外のICOにも簡単に参加できます。

なぜICOの規制が検討されるようになったのか?

ICOはリスクが高いものであることについてはすでに少し触れましたが、他にもいくつかの注意すべきポイントがあります。その一つは、ICO を実施する事業者の信頼性です。

株式のIPOの場合は主幹事や幹事を務める証券会社が必ず存在し、上場したい企業に対して、まずはその企業が証券取引所への上場基準を満たしているかどうかを確認し、改めるべきことがあれば改善を指導します。そうした上場申請手続きへのサポートを得つつ、申請した証券取引所の審査を経てIPOに至るわけです。

こうして第三者によって内容が吟味されたうえで、一般に公開販売されるようになっているわけです。ところが、ICOでは第三者が介在することなく、事業者が独自のトークンをインターネット上で直接販売します。これがIPOとICOの違いの1つです。

しかも、IPOと違ってICOでは、発行されたトークンが必ず証券取引所のような市場に上場されるとは限りません。むしろ、そうした市場がないもののほうが多いと言えるでしょう。この点もIPOとICOで大きく異なるポイントです。

つまり、ICOには明確な基準や第三者の介在がないために、事業者の意のままに実施できるわけです。現に、単に資金が欲しいだけでそのトークンを公開取引させる計画が最初からなかったり、資金だけ集めてさっさと消え去ってしまったりする詐欺まがいの動きも観測されました。

ICOの実施に当たって事業者はホームページ上でホワイトペーパー(公開文書)を公表しており、その中にはプロジェクトの目的や企画内容、採用技術などが記載されています。明らかに怪しい事業者の場合、開発の意図も曖昧で技術面も単に他の仮想通貨のモノマネにすぎないことも少なくありません。

ただ、ホワイトペーパーは英語で記載されているのが通常で、特に技術面に関する説明については読み解くのが容易ではないでしょう。これだけを手掛かりに、健全な事業者を選りすぐるのは至難の業だと言えそうです。

そこで、一部の国々の間ではICOに対する規制を強化する動きが出ています。たとえば、中国人民銀行は2017年9月にICOを全面的に禁止しました。

また、韓国でもICOは禁じられましたし、ロシアでも厳格な基準が設けられました。これに対し、米国のSEC(証券取引委員会)は有効な資金調達法であることは認めつつ、規制によるコントロールも必要との見解を示しています。

日本については2018年10月15日の時点で特に規制強化は図られていませんが、先々で何らかの対策が打たれる可能性は十分に考えられます。金融庁が主催する「仮想通貨の規制のあり方や現行法の問題点などを議論する研究会」においても、ICOに関する協議が重ねられてきたようです。

これからICOはどうなっていくのか?

では、これからICOはどうなっていくのでしょうか? 先行きについて展望するうえで、識者の考えを参考の一つとしたいものです。

そこで、仮想通貨に詳しい早稲田大学大学院経営管理研究科の岩村充教授から話をうかがったところ、巷でよく耳にするICO規制強化論を掲げる人たちとは一線を画していることについて、最初にこう前置きしました。 

「私としては、『詐欺まがいのものと真っ当なものとの見極めが困難であるからICOは禁じるべきである』とか、『国家による投資家保護を受けられないから取り締まるべきである』などといった意見に賛同するつもりはありません。」

ICOに限らず、基本的に取引とはむやみに規制すべきものではないというのが岩村教授のスタンスのようです。そのうえで、次のような見解も示しています。

「世の中の秩序は個々の法律や契約のように可視化された仕組みだけでなく、人々の心の中にあるコンセンサス(共通認識)体系によって支えられています。社会学や政治学ではソーシャル・キャピタル(社会関係資本)と呼ばれるもので、イーサリアムがそうした合意基盤を提供するものになる可能性はあると思いますし、それを作り上げることに挑戦する人たちのスピリットに私は敬意を持っています。」

とはいえ、ICOの動向について岩村教授は楽観視しているわけではないようです。

「今のICOには、これまで紙に書いていた契約をブロックチェーン上に移したうえでスマート・コントラクト(契約の自動化)などと名づければ、それで事業が成立して世の中が動き出すかのように思っている人たちが群がっている気がしてなりません。だとしたら、ICOは危うい。お金を投じる側にしても、同じような無理解があるように思われます。」

出資を募る側と出資する側の双方がICOをまるで錬金術のような捉え方をしていること自体が最も危険だということでしょう。「 ICOを巡る風景は18世紀のミシシッピ・バブルの再来のように見えるところがある。」と岩村教授は指摘します。

ミシシッピ・バブルとは、ルイ14世没後にフランスで発生したもので、膨らんでいた財政赤字を減らして経済を建て直すためにジョン・ロー(John Law)という人物が考案したミシシッピ計画がその震源となりました。当時フランス領だった北米のミシシッピ川周辺で大規模な開発を進めるという計画で、大量に刷った紙幣を国の債務の引き受けに充てたうえで、開発会社の株とも交換できるようにしました。

紙幣の大量発行は一時的にフランス経済を潤し、開発会社の株価は高騰。しかし、2年後には投資バブルが崩壊して株価は暴落、開発会社とセットになった銀行が発行した紙幣もただの紙くずになりました。

「ジョン・ローは、経済的価値というものは利用価値ではなく希少性から生じるということを初めて論じたほどの人物ですから、いわゆる詐欺師でも愚か者でもなかったはずでしょう。しかし、彼のプロジェクトは、ルイ王政下のフランスでは早すぎたのではないかと私は思っています。彼のプロジェクトがバブル騒ぎに終わったのは、紙幣や株式とはどんなものか、それを発行した者にどんなモラルと責任が必要か、それについての社会的な合意基盤が当時のフランスになかったためだと思います。そういえば、J.K.ローリング(J.K.Rowling)著の『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(松岡佑子訳・静山社)には「脳みそがどこにあるか見えないのに、一人で勝手に考えることができるものは信用しちゃいけない」というフレーズがありますね。これこそ、投資というものを考えるとき肝に銘じて欲しい心がけです。」

私たち投資家としては、規制によって守ってもらうのを待つ受け身の姿勢ではなく、自分で考えることが肝要だということではないでしょうか? 

ICOの資金調達額は依然として急拡大中

ここまでの話をまとめると、ICOにおいてはそれを実施する事業者に対する信頼性に疑問符がつくケースが多く、いわゆる“玉石混交”であるのが実情だということです。“玉”よりも“石”のほうがはるかに多いと思っておいたほうが良いかもしれません。

もっとも、ICOへの参加を検討している投資家の間で、詐欺まがいの行為が横行していることなどに関して認識が広がってきていることも確かでしょう。裏返せば、もはや中身の伴っていないいい加減なICOを実施しても、なかなか投資家には相手にされなくなってきたことを事業者側が痛感している可能性が考えられます。

投資家の間で選別志向が強まれば、詐欺まがいのICO案件は次第に淘汰されていくかもしれません。その一方で、日本政府も何らかの対策を打ち出すものと目されます。

このように、ICOを取り巻く情勢には明らかに変化が生じつつあるようです。しかしながら、それでもICO自体の規模は拡大の一途を辿っています。

ICO案件のリストアップや統計調査を行っている英国のコインスケジュール社によれば、2016年に9878万1391ドルだった資金調達額は2017年に65億6306万5802ドルに拡大。2018年に入ってから押し並べて仮想通貨の価格が下落傾向に転じ、ICOに対する風当たりが強くなってきたにもかかわらず、10月15日の時点ですでに212億8928万3314ドルにまで調達額が膨らんでいます。

いまだに信頼性に欠けるICO案件に出資する無防備な投資家が後を絶たないのか、それとも逆に投資家から信認を得たICO案件が多額の資金調達に成功しているのか、その背景を正確に読み解くのはなかなか難しいでしょう。しかしながら、全体的な調達額が大幅に増えていることは揺るぎない事実です。

怪しいICO話にはいくつかの特徴がある

ずさんな事業計画で資金を募るケースがある一方で、ICOに対する関心が高まっていることにかこつけた詐欺話を持ちかけるという行為も見受けられます。しかし、そういった悪徳業者は自ら尻尾を出すようなセールストークを口にしがちです。

たとえば、著名人も投資しているという話を持ちかけるのがその典型でしょう。また、日本国内だけの限定販売と称して希少性をアピールしがちです。百歩譲ってそれが本当なら、2017年に改正された資金決済法に定められている仮想通貨の前提(誰でも法定通貨と交換可能であること)に反していることになります。

セミナーなどへの参加を誘い、その場でしか購入できないと訴えかける手口も明らかに正当な行為ではないでしょう。少なくとも、ここで例に挙げたようなものはいずれもICOの話自体が虚偽であると思ったほうが安全です。

そして、ちゃんとICOが実施される案件においても、事業者の目的やプランが不明瞭なものは視界に入れないのが賢明でしょう。あるいは、周囲が盛り上がっている局面こそ、高揚して冷静な思考が鈍りがちになるので、熱が冷めるまでしばらく静観するのも一考かもしれません。

前述したように、ICOによる資金調達は明らかに拡大しているので、今を逃せば後がないようなことはまず考えられないでしょう。

ICOについて詳しく知りたい方は「新たな資金調達方法STOとは?ICOとの違いや仕組みを解説」もご参照ください。

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