ビットコインの系譜
仮想通貨の元祖で最大の時価総額を誇っており、一般的にも広くその存在を知られているのがビットコインです。サトシ・ナカモトなる人物の論文によってその構想が明らかになったのは、今から10年も前のことになります。
ただ、2017年になってから分裂騒動が発生し、ビットコインキャッシュ(BCH)やビットコインゴールド(BTG)、ビットコインダイヤモンド(BCD)が相次いで誕生。これらと比べれば知名度は低いものの、他にも「ビットコイン」の名を冠した仮想通貨の話を耳にします。
いったい、それぞれの関係はどうなっているのでしょうか?ビットコインの系譜について、きちんと整理してみたいと思います。
幻と化してしまったビットコインXT
2008年10月にサトシ・ナカモトのビットコインに関する論文が公開され、最初のブロックが生成されたのが2009年1月。その後、法定通貨(米ドル)との交換や決済での使用など、ビットコインは実際に使用されるようになっていき、その認知度や価値も着実に高まっていきました。
そして、ビットコインを支持する人が増えるのに従い、その開発の中核を担っている人たちの間では様々な改善策が協議されるようになりました。2015年にギャビン・アンダーソン(Gavin Andresen)という開発者により提案された「BIP101(ビットコイン改善提案の101番目)」もその一つです。
具体的にはビットコインXTという提案で、ビットコインのセキュリティ向上やブロックサイズ拡張を図ろうとする内容でした。外部からの攻撃に対するセキュリティを強化する一方で、スケーラビリティ問題を解決するのがねらいでした。
ビットコインのブロック容量は1MBしかなく、それに入りきらない取引の件数が増えると処理速度の低下や送金手数料の高騰がもたされるのが難点です。そこで、ビットコインXTではブロック容量を8MBに拡張することで処理速度の向上を達成するとともに、今後の発行量拡大にも対応できる体制を整えることが提唱されていたのです。
もっとも、ビットコインXTにはいくつかの難点もありました。8MBへの拡張で処理スピードがアップすることはユーザーにとって朗報である反面、マイナーはそれを処理できるハイスペックのマシンを用意しなければなりません。
そうなると、資本力のある一部のマイナーたちにビットコインが支配される構図となりかねないことが危惧されたのです。そして何より、ビットコインXTではハードフォークを実施することが大前提となっていました。
ハードフォークとは、それまでのブロックチェーンに用いてきた旧ルールとは異なるルールを定めて、新たなブロックチェーンを生成していくというものです。旧ルールと新ルールに互換性はなく、ブロックチェーンは2つに分岐したまま一本化されることはありません。
つまり、ビットコインが2つに分裂してしまうことを意味するわけです。こうしたことから反対する声も多かったのですが、開発チームの一部が強行策に踏み切り、新たなチェーンを生成してビットコインXTをリリースしました。
しかし、やはりマイナーたちからの賛同は得られず、実際には分裂には至りませんでした。ビットコインXTは幻の存在となったのです。
最初の分裂の伏線となったビットコインアンリミテッド(BTU)
ビットコインXTは支持されなかったものの、普及が進み始めたビットコインにとってスケーラビリティ問題は避けては通れないものとなってきました。そこで、同じく2015年の12月にマイナーたちが中心となって提案したのがビットコインアンリミテッド(BTU)です。
その内容は、やはりブロックサイズを拡張することによってスケーラビリティ問題を解決するというもので、ハードフォークの実施が不可欠でした。世界最大のシェアを誇っていたマイニングプール・Antpoolがその実施を強く推したのですが、期待通りの支持を獲得できず、ビットコインアンリミテッドも日の目を見ることはありませんでした。しかしながら、実はそのプロトコル(定義基準)は後に登場するビットコインキャッシュに受け継がれることになります。
その後もスケーラビリティ問題の解決をめざしてハードフォークの提案は続き、2016年2月にはブロックサイズを2MBに拡張するビットコインクラシックの構想が浮上しました。こちらもハードフォークの実施には至らなかったものの、その思想のアウトラインはビットコインキャッシュに継承されたとも捉えられます。現に、ビットコインクラシックを提唱してきた人たちは、ビットコインキャッシュの登場で自分たちの役割は終わったと判断して開発を停止しました。
ビットコインの分裂が現実に!ビットコインキャッシュ(BCH)の誕生
その一方で、2017年6月に密かにハードフォークが実施されてビットコインから分岐したとされているのがライトビットコイン(LBTC)です。ただ、流通量はかなり限られており、その存在の認知が進んでいないのが実情でしょう。
ビットコインにおいて本格的な分裂が現実となったのは、やはり2017年8月のビットコインキャッシュ誕生が最初だと言えそうです。これはマイナーが主導したハードフォークで、それを機にサイズを8MBに拡張したビットコインキャッシュのブロックがビットコインのチェーンから枝分かれして生成され始めました。
誕生早々、価格がいきなり急落したことでも話題を集めましたが、マイニングの難易度が高すぎたことが原因の一つだったようです。難易度の調整後は急騰に転じています。
ただ、主要マイナーが中心となって生まれただけに、彼らの一挙手一投足が価格動向に影響を及ぼしがちであるのも確かでしょう。こうしたことから、本家のビットコインと比べると中央集権的な色が強いとの批判も出ているようです。
中国のマイナーに反発して生まれたビットコインゴールド(BTG)
ビットコインキャッシュの誕生を機に、まるで堰を切ったかのようにビットコインでは分裂騒動が表面化しました。同じく2017年の10月、香港のマイニンググループがハードフォークを実施してビットコインのブロックチェーンが分岐し、それに伴って誕生したのがビットコインゴールドです。
その背景には、ビットコインのマイニングを中国のマイナーが牛耳り、中央集権化が進んでいることに反発する声が強まっていたことがあります。そこで、ビットコインゴールドではそれまでマイニングに用いられてきたASICという集積回路を使用できないようにしました。そして、マイニングの難易度調整にもビットコインとは異なる手法が用いられています。
ブロックチェーン技術を用いた仮想通貨では、ブロックの生成時間を一定に保つためにマイニングの難易度が定期的に見直しされています。ビットコインの場合は2週間に1度の頻度ですが、ビットコインゴールドでは各ブロックが生成される度に(約10分に1回のペースで)調整が行われているのです。
また、ビットコインゴールドではビットコインと異なるアルゴリズムが用いられています。前述したように、中国のマイナーたちが愛用してきたASICという集積回路を使えなくするためで、代わりにPCに搭載されたGPU(画像処理装置)でマイニングを行います。
こうした違いを除けば、基本的にビットコインとの間に大きな違いは見られません。ブロックの容量についても、1MBのままで変更されていません。
翌月にはビットコインダイヤモンドも新登場
ビットコインゴールドが誕生した翌月にはまたしてもハードフォークが実施され、今度はビットコインダイヤモンドが産声を上げました。ビットコインキャッシュがスケーラビリティ問題、ビットコインゴールドがマイニング報酬を中国勢が独り占めしている問題の解決をめざしたのに対し、ビットコインダイヤモンドでは3つの課題と4つの具体策が掲げられました。
列挙すると、①プライバシーの保護(取引金額の暗号化)、②トランザクション処理速度の向上(ブロックサイズを8MBに拡大)、③新規参入障壁を低くする(発行量上限をビットコインの10倍に拡大)、④新規参入障壁を低くする(GPUによるマイニング)です。
ただ、ビットコインダイヤモンドについてはベールに包まれている部分が多いのも確かでしょう。開発者の身元は明らかになっていませんし、情報開示に対してもあまり積極的な姿勢を示していません。
以降もビットコインからの分裂が相次いでいるが…
一般的なニュースではほとんど取り上げられた形跡が見られませんが、ビットコインダイヤモンドが登場した翌月の2017年12月は、ビットコインの分裂ラッシュが発生していました。それに伴って、ビットコインゴッド、ビットコインウラニウム、ビットコインシルバー、ビットコインX、スーパービットコイン、ビットコインSegwit2xが誕生したとされているのです。
また、2018年1月にはビットコインアトムが分岐して登場。異なる仮想通貨の取引をユーザー間で直接行えるアトミックスワップという仕組みが採用されているのが特徴だそうです。続いて2月には、その名称からも想像できるように、匿名性を重視したビットコインプライベートも生まれています。
もっとも、こうして林立したビットコインの“分家”に関しては、詐欺まがいのものも混じっていると警戒する声が出ているのも確かです。現に、2017年12月にビットコインから分裂して誕生するとされていたビットコインプラチナは、韓国に住む10代の少年が空売りで稼ぐことを目的に流布したデマだったことが判明しました。
2018年1月には分裂して登場するとされていたビットコインキャッシュプラスにしても、2018年9月時点でまだハードフォークが実施されていません(その名称から誤解されがちなのですが、ビットコインキャッシュからではなく、ビットコインから分裂する計画となっています)。
少なくとも、情報量が乏しくて真贋の判断がつきかねるような分裂話には近づかないのが無難でしょう。
「ビットコイン」と冠されていても赤の他人のケースも!
さらに、名称にビットコインという言葉が入っていても、そのブロックチェーンから分岐したわけではなく、まったく無関係のアルトコイン(ビットコイン以外の仮想通貨)であるケースも多いのが現実です。具体例を挙げれば、ビットコイン21、ビットコインプラネット、ビットコインプラス、ビットコインレッド、ビットコインスクリプト、ビットコインダーク、ビットコインファスト、ビットコインTX、ビットコインZなどが該当します。
その中には、ビットコインの技術はまったく用いられておらず、イーサリアムがベースとなっているものまで存在しているのです。ビットコインの知名度の高さにあやかろうとしているのかもしれませんが、とにかく実態がよくわからない仮想通貨には注意を払ったほうがよさそうです。
ビットコインの分裂は今後も続く!?
分裂によって生まれたビットコインキャッシュやビットコインダイヤモンドではブロックの容量が拡張されましたが、本家のビットコイン自体のスケーラビリティ問題はまだ解決されていません。今後もハードフォークによって新たな分裂が発生する可能性は十分に考えられるでしょう。
その際、しっかりとチェックしておきたいのは、ハードフォークの目的と、それによってどのような改善が施されるのかというポイントです。また、推進しようとしているのがどのような人物で、どこまで信頼できるのかに関しても、慎重に確認しておきたいところです。
ハードフォークについて興味を持たれた方は「ブロックチェーンのハードフォークとは何か」もご参照ください。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
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