仮想通貨では特に重視すべき需給分析

分析
2018-11-14 更新

中学生の頃に社会科の授業で習った需要と供給の曲線のことを覚えているでしょうか? 左右から曲線が互いに逆方向へ斜めに伸びていて、中央付近で交差するというものです。

市場などで取引されている(買い手と売り手がやりとりしている)ものは、需要(買い手の要望)と供給(売り手の要望)が一致した地点で、その価格と売買の数量が決まるということを示したものでした。需要と供給を総称して、「需給」という言葉も用いられます。

この需給は、仮想通貨の価格を決定づける重要な要素となっています。では、その需給関係はどのようなことによって決まっていくのでしょうか?

そもそも需給関係のメカニズムとは?

需要は英語でDemand、供給はSupplyで、価格はこれら D(買い手の要望)と S(売り手の要望)が折り合った地点で決まります。DとSは、なぜ冒頭で触れたように逆相関の曲線を描くのでしょうか?

一般的に、価格が上昇するにつれて需要は減退傾向を示します。いくら欲しくても、想定以上に高いと諦めるのが人間の心理というものでしょう。

これに対し、価格が上昇するにつれて供給は逆に増加傾向を示します。売り手としては、高く売れれば利益も多くなるので、当然とも言える経済行動です。

こうしてDとSは正反対の推移を辿っていきますが、必ず両者が折り合う(交差する)地点が出現します。ここで、価格が決まるわけです。

仮想通貨価格の場合も例外ではなく、DとSが一致したところがその価格となっています。ビットコインが2017年12月に約235万円(国内の仮想通貨交換業者における平均価格)という史上最高価格をつけたのも、買い手がそのような高値でもいいから買いたいと望んだからです。

そして、買い手と売り手におけるそれぞれの要望には、折々で変化が生じます。「もっと高くなりそうだから、今のうちに買っておきたい」とか、「みんなが買っているから、自分も欲しい」と思う人が増えればおのずとDが拡大し、価格は上昇傾向を示します。

逆に、「これから値下がりしそうだから、そのタイミングを待とう」とか、「みんなが手放しているから、自分も売っておこう」といった考えが広まれば、Dの低下に伴って価格は低下していくことになります。

一方、Sのサイドにおいても、「発行上限に近づいてきたので、巷に出回る流通量が減りそうだ」といった観測が強まったりすると、供給の減少が価格に上昇圧力をもたらすことになります。反対に、「この通貨のマイニングは他のものよりも稼げる!」という動きがマイナーの間で拡大して供給量が増えれば、価格には低下圧力がかかってきます。

仮想通貨の需給に影響を及ぼすものとは?

結局、その仮想通貨を欲しがっている人は、高くても許容範囲であれば買うでしょう、どうしても売りたい人は安値でも手放すことでしょう。こうした買い手と売り手の思いが交錯しながら、価格が推移していくのです。

では、どんなことが仮想通貨の需要と供給に影響を与えるのでしょうか? まず挙げられるのはマイニングの動向で、これが供給量の変化に直結します。

円やドルなどの法定通貨は、中央銀行が発行してその流通量をコントロールするものです。これに対し、仮想通貨はマイニングを通じて発行される仕組みになっています。

本来のマイニングとは、地中に埋まっている鉱物などを採掘することを意味します。仮想通貨の世界ではブロックチェーンに参加している人たちがすべてのトランザクション(取引)の承認作業を行っており、その行為のことをマイニングといいます。

いち早く承認を済ませてブロック内にそのトランザクションを記載した人は、その作業の報酬として新たに発行された仮想通貨を受け取るため、結果的に採掘しているようなことになるからです。そして、報酬を目当てに承認作業を行っている人たちのことをマイナーと呼んでいます。

マイニングが活発化すれば発行量は増え、需要には特に変化がない中で供給が拡大すれば、その価格は下方向に動きやすくなります。逆にマイニング量が減ってくると、供給不足が価格の上昇をもたらしやすくなるのです。

マイニングの動きに影響をもたらすイベントの一つとして、ハードフォークの実施が挙げられるでしょう。その仮想通貨が抱えている技術上の問題点を解決するために実施される仕様変更で、従来から用いてきたものとは互換性のない改変となることから、ブロックチェーンが枝分かれして新たな仮想通貨が誕生することになります。

それに伴って新たなものへと乗り換えるマイナーが続出する一方で、もともとあったほうの仮想通貨の需要が堅調なら、供給量の低下に伴い価格上昇が発生する可能性があります。実際、2017年にビットコインから分裂してビットコインキャッシュ(BCH)やビットコインゴールド(BTG)、ビットコインダイヤモンド(BCD)が誕生した後も、ビットコインの価格の上昇が見られました。

発行上限数量や先物取引などの需給への影響は?

ビットコインは誕生した時点から発行上限数量が定められていて、2,100万BTCを超える量は世の中に出回らなくなっています。この上限に近づくと需要サイド(買い手側)が限られたパイを奪い合う格好になり、価格が上昇する可能性が考えられます。

異なる側面から見れば、発行上限数量が定められていることはマイナーたちの心理にも影響を及ぼしていることがわかります。残りが限られているなら、さっさと採掘しないと手数料を取り逃すと考えるマイナーが増えても不思議はないのです。

そうなると供給が過剰気味となって、仮想通貨の価格が下落する恐れが出てきます。いわゆるインフレーション(通貨価値が下落して物価が高くなること)です。

そこで、それを防ぐためにあらかじめ設けられているのが半減期と呼ばれるもので、これが訪れる度にマイニングの報酬が半額に引き下げられるようになっています。たとえば、誕生した時点でビットコインのマイニング報酬は50BTCでしたが、2012年の半減期で25BTC、2016年の半減期で12.5BTCに引き下げられています。

ビットコインの場合、半減期が訪れるのは21万ブロックが生成された時点で、ほぼ4年に1度というペースになります。では、半減期があるとどうしてインフレーションを防ぐことが可能なのでしょうか?

手数料が半減すれば、マイニングに対する意欲が減退するからです。別の仮想通貨に乗り換えるマイナーも出てくるでしょうし、こうして供給量が低下すれば、価格の下落を食い止められるわけです。

一方、需要のほうにもいくつかの変化がうかがえます。2017年12月、CBOE(シカゴ・オプション取引所)とCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)においてビットコインの先物取引がスタートしたことがその一つです。

また、米国の金融界では仮想通貨を投資対象とする投資信託も組成され始めています。こうして仮想通貨に投資する手段が増えれば、新たな需要を誘う可能性が考えられるのです。

これまで仮想通貨の取引は個人投資家が中心となってきましたが、機関投資家も参加しやすい環境がさらに整っていけば、需要の大幅な拡大も見込まれそうです。実際、2017年12月にビットコインの上昇が顕著になったのも、先物取引のスタートがそういった可能性を秘めていることを好感したのが一因と言えそうです。

目先の需給だけでなく、中長期の需給にも注目

仮想通貨の価格は日々刻々と変化していますが、その動きに影響を与えているのは、随時入ってくるニュースなどをキッカケとした投資家間の思惑です。そして、そういったニュースの中には需給面に関するものが少なくありません。

目先における需給関係の変化にフォーカスを当てて、短期売買で利益を追求するというのも一つの有効な手だと言えるでしょう。ただ、将来的な需給の変化を展望したうえで、大きくチャンスが拡がりそうな局面をあらかじめ想定しておくという戦略も考えられます。

たとえば、そのヒントの一つとなるのがビットコインETFを巡る動きでしょう。ETFはExchange Traded Fundsの略称で、日本語では「指数連動型上場投資信託」となります。

特定の指数に連動するように設計された金融商品で、株式などと同じように市場に上場して時価で売買されます。実は、ビットコインの先物取引が始まったのがキッカケとなって、米国ではビットコインETFの上場申請が続出しています。

米国のSEC(証券監視委員会)はその審査に慎重な姿勢を示しており、2018年9月時点で上場を果たしたビットコインETFはまだ存在していません。しかしながら、いずれ登場することになれば、新たな需要の呼び水として期待される可能性があります。

2018年8月には、NYSE(ニューヨーク証券取引所)の親会社であるインターコンチネンタル・エクスチェンジがマイクロソフトやスターバックス、ボストンコンサルティングなどと共同でBakktという仮想通貨交換業者を開設することが報じられました。特筆すべきは、機関投資家もターゲットとした市場であることです。

しかも、Bakktにおいて取り扱う予定のビットコイン先物取引は、前述したCBOEやCMEのものとは異なり、ビットコインの現物による裏付けがあるといいます。先物取引の売買に応じて、市場からビットコインが購入されて、契約期間中は保管されるのです。

この取引が活発になれば、ビットコインが現実に大量売買されることになり、その価格動向に大きなインパクトを及ぼしうるのです。投資対象として注目しながらも、インフラなどが整っていなくて二の足を踏んでいた機関投資家が一気に流れ込んでくる可能性も十分に考えられそうです。

米中貿易戦争も仮想通貨の価格に影響する?

さらに違う方向に目を向ければ、米中貿易戦争をはじめとして、国家間での貿易面の対立が深刻化しています。こうした問題がインフレを誘発することも懸念されており、そのことも仮想通貨の価格に何らかの影響を及ぼすかもしれません。

先述したように、インフレとは通貨価値の下落を意味し、たとえば関税引き上げによって米国の国内物価が上昇すれば、今まで1ドルで買えたものが1.5ドルまで出さないと手に入れられないようなことになってきます。つまり、米ドルの価値が低下し、それに伴って資産の一部を他の通貨に換えておく動きが活発化すれば、ビットコインをはじめとする仮想通貨が選択されることも考えられます。

いずれにしても、需給関係は仮想通貨の価格を左右するだけに、先々をしっかりと見渡しておくことが重要でしょう。

暗号資産(仮想通貨)の中長期の需給について興味を持たれた方は「暗号資産(仮想通貨)における長期保有(ガチホ)のメリットとデメリット」もご参照ください。

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