イーサリアム分裂の歴史
ビットコインに次いでメジャーな存在となっている暗号資産(仮想通貨)がイーサリアム(Ethereum)です。そして、この暗号資産は誕生してからわずか3年余りのうちに2度にわたる分裂が発生したことでも知られています。
イーサリアムはどのような経緯で誕生し、どうして分裂に至ったのでしょうか?その歴史を振り返ってみます。

イーサリアム(Ethereum)とはどんな暗号資産(仮想通貨)?
イーサリアム(ETH)の時価総額は2021年10月時点で55兆7,000億円を超え、135兆8,500億円台のビットコインに次いで第2位の規模を誇る暗号資産となっています。ビットコインには及ばないものの、アルトコイン(ビットコイン以外の暗号資産)で最大の勢力となっています。
ビットコインと同じく、イーサリアムにもブロックチェーンと呼ばれる暗号技術が用いられています。ただし、ビットコインが抱えていた課題に着目して、より機能を拡張させているのがその特徴だと言えるでしょう。
ビットコインとの決定的な違いとなっているのは、イーサリアムにスマートコントラクトと呼ばれるテクノロジーが用いられていることです。スマートコントラクトとは、取引が行われる際に個々の契約内容(取引条件)が自動保存されるという機能のことです。
ビットコインもブロックチェーン上にあらゆる取引記録が記載されていますが、イーサリアムの場合は個々の詳細な契約内容まで管理されています。その結果、取引内容の改ざんがビットコイン以上に難しくなっていると考えられています。
イーサリアムのネットワーク上では、イーサ(ETH)とERCトークンという2タイプのトークンが発行されています。まず、イーサ(ETH)はマイナーへの報酬を支払うために発行されるとともに、イーサリアムのネットワーク上で決済を行った際にその手数料として利用者から徴収されるようになっています。
実は、この手数料徴収はセキュリティ対策としても機能しています。悪意ある何者かがシステムダウンを狙ってトランザクション(取引)を意図的に大量生成して負荷をかけようとすれば、途方もない手数料を負担することになるからです。
一方、ERCトークンはERC20、 ERC223、 ERC721などといったいくつかの種類に分かれています。そのうち、ERC20の代表例として挙げられるのがAugur(REP)やGolem(GNT)です。
イーサリアムを開発したのはロシア系カナダ人の青年
イーサリアムを世に送り出したのは、ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)という名のロシア系カナダ人の青年でした。1994年にロシアの首都・モスクワで生まれた彼は、6歳の時に家族とともにカナダに移住しました。幼い頃から理系の分野に強く、小学生の時点で高度なプログラミングが可能だったそうです。
そんな彼の人生を大きく左右したのが、17歳の時にビットコインの存在を知ったことでした。そして、その研究に没頭したことで、2年後の2013年には彼の頭の中でイーサリアムの構想が具体化したと言われています。
翌2014年にはイーサリアムの開発に着手し、早くも同年7月にはICO(Initial Coin Offering)によるプレセールが行われました。ICOとは、クラウド上で暗号資産を発行してそれを購入してもらうことで開発資金などを調達するという手法です。その際の価格は1ETH=26円で、4回にわたるICOで約16億円を獲得したとのことです。
その後、イーサリアムは最初のICOからちょうど1年後の2015年7月に正式にリリースされたのですが、プレセール時の4.6倍超に及ぶ1ETH=約120円で取引がスタートしました。さらに、2016年3月には使用できる範囲の拡大につながるアップデートが行われ、その頃からイーサリアムの価格上昇が顕著になっていきます。
しかし、同年半ばにはイーサリアムにとって大きな試練が待ち受けていました。
イーサリアムにとって試練となったThe DAO事件
誕生から約2年後の2016年6月、イーサリアムは大規模なハッキング被害に見舞われました。その被害総額は360万ETHにも上り、当時の価値で約65億円に達したとも言われています。
この大規模なハッキング被害はThe DAO事件と呼ばれています。イーサリアムから派生したトークンがハッカーの標的となりました。The DAOとは、ドイツのSlock itという会社が設立した「自律分散型投資ファンド」の名称です。このファンドがイーサリアムのトークンを発行していたわけです。
イーサリアム自体のシステムには問題がなかったのですが、The DAOのプログラム上に脆弱性が存在していたことにハッカーは目をつけました。そして、360万ETHをまんまと盗み出したのですが、換金に関して大きな縛りがあったことが犯人にとって大きなネックとなりました。
The DAOが発行したトークンはSplitと呼ばれる機能によってイーサリアムに交換できるのですが、ハッカーが作成したアドレスに資金を移動する指示を出してから28日が経過しなければ、一切引き出せないルールになっていたのです。
この28日間の猶予の間にどのような手を打つべきか、イーサリアムの開発に携わっていた人たちの間で協議が行われました。生みの親であるヴィタリック・ブテリンがブログを通じて提唱したのは、ソフトフォークを実施してハッカーの資金を28日経過後も動かせなくするというものでした。
苦渋の決断を強いられたイーサリアム
ソフトフォークとは、それまでよりも厳格なルールに沿った内容にアップデートするという手法です。新ルールと旧ルールが混在することになってブロックチェーンはいったん枝分かれしてしまいますが、それは一時的な現象にとどまり、やがて1本化されていきます。ただし、ソフトフォークはその暗号資産に関わっているコミュニティから過半の支持を獲得できなければ成立しないのが難点です。
これに対し、旧ルールを拒絶して新ルールに即した規格のブロックを生成していくようにアップデートするのがハードフォークと呼ばれる手法です。ブロックチェーンは旧ルールのものと新ルールのものに枝分かれしたまま、一本化することはありません。
ブテリンの提唱に対して異論を唱える声も少なくなかったことから、イーサリアムの関係者たちは最終的に以下の3つの選択肢の中から1つを選ぶことになりました。
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何も手を打たない
イーサリアムのシステム自体に問題はなかったにもかかわらず、ソフトフォークやハードフォークを実施するのは、非中央集権的な思想に基づくイーサリアムの理念に反するとの理由からです。 -
ソフトフォーク
ソフトフォークによって、盗まれたイーサリアムを使えなくするというものです。とはいえ、被害額を取り戻せるわけではありません。 -
ソフトフォークを実施したうえでハードフォークも敢行
ソフトフォークによってハッカーが盗んだイーサリアムを凍結したうえで、ハードフォークを行って新ルールに一本化し、「そもそも流出したという事実は存在しなかったことにする」という荒療治です。
結局、選択されたのは3.だったのですが、ソフトフォークのプログラム上でバグが発覚したことから、正確にはハードフォークのみの実施となりました。ただし、満場一致でこの策が選ばれたわけではありません。
分裂で新たに生まれたイーサリアムクラシック(ETC)
ハードフォークの実施後、新ルールに沿ったイーサリアムのブロックチェーンはThe DAO事件のハッキングはなかったものとして連鎖が続いていきましたが、そのことに反対する勢力は旧ルールに基づくブロックチェーンへの書き込みを続けたのです。こうして、イーサリアムは2016年9月から2つに分裂していくことになりました。
新ルールを採用したイーサリアムに対し、旧ルールのブロックチェーンを継承しているほうはイーサクラシック(ETC)という名で発行が続けられました。なお、The DAO事件の騒動を巡って、イーサリアムの価格は大幅な下落を記録しました。
イーサクラシックとイーサリアムとの間に大きな差は見られませんが、思想には明確な違いがあるようです。イーサクラシックは非中央集権の信念を貫き、どんなことがあっても仕様変更(ブロックチェーンの分岐)は実施すべきではないというスタンスを守っています。
イーサリアムでは発行数量が特に定められていませんが、マイニング手数料が引き下げられる「半減期」が定められており、それが近づくと価格が大きく動く可能性が考えられます。
またしても盗難事件を機にイーサリアムの分裂が発生
2018年1月、イーサリアムがまたしても分裂し、新たにイーサリアムゼロが誕生しました。そのキッカケとなったのは、2017年7月に発生したイーサリアムの盗難事件です。
Parity Technologiesが提供していたウォレットの脆弱性に着目したハッカーによって、15万3,000ETH(当時のレートで約34億円)が盗み出されたのです。そこで、被害の拡大を防ぐために、93万ETHがロックされ、送金や取引が一時停止となりました。
そして、ハードフォークが実施されてイーサリアムゼロ(ETZ)が新たに誕生しています。イーサリアムクラシック以来の分裂で大いに話題を集め、ハードフォークの前から様々な思惑や憶測が入り乱れて、イーサリアムの価格が急騰する局面もありました。
イーサリアムゼロも基本的にイーサリアムと同じような特徴を有していますが、いくつかの違いも挙げられます。その一つは、その名称からもイメージできるように、送金などの手数料がゼロであることです。
加えて、イーサリアムゼロのブロック生成スピードは10秒で、イーサリアムよりも5秒短縮されています。つまり、それだけトランザクション(取引)の承認が早いわけです。
承認アルゴリズムの変更も予定されている
なお、分裂にまでは発展しなかったものの、イーサリアムでは4段階の大掛かりなアップデートが計画されており、これまでにその大半が進められてきました。①フロンティア、②ホームステッド、③メトロポリス、④セレニティといった名称がつけられたアップデートで、①は2015年7月、②は2016年3月から実施されました。
③についてはビザンチウムとコンスタンティノープルと呼ばれる2つのステップに分かれおり、前者は2017年10月に行われ、セキュリティの強化やプライバシーの保護の強化が図られました。コンスタンティノープルは2019年3月に実施されました。
④については2020年12月に実施したフェーズ0を始め、フェーズ1、フェーズ2とアップデートを行う予定(2021年10月時点)ですが、イーサリアムが誕生当初から採用してきたプルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work)と呼ばれる承認アルゴリズムをプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake)に移行する計画になっています。
プルーフ・オブ・ワークでは、最も早くトランザクション(取引)の演算処理を済ませたマイナーが報酬を受け取るというスキームになっています。この承認アルゴリズムはセキュリティの高さは利点であるものの、相応の時間を要するため、高性能のマシンや膨大な電気代が求められるのがネックでした。
その点、プルーフ・オブ・ステークはイーサリアムの保有量が多い人がトランザクションの確認作業を行う権利を得られる(報酬をもらえる)というルールになっており、時間や電気代を大幅にカットできます。
今後もイーサリアムの分裂は起こりうる!?
アップデートを通じてイーサリアムのセキュリティはいっそう強化される一方、利便性なども向上していくものと思われますが、「二度あることは三度ある」とも言われるように、トークンなどで脆弱性が発覚する可能性はゼロとは言いがたく、ハッキング事件などを機に3度目の分裂が発生することも考えられますので、そういったことには注意を払ったほうがよさそうです。
もともと暗号資産はボラティリティが高い(値動きが荒い)うえ、分裂の前後ではその動きに加速がつきやすいことを念頭に置いたほうがよいでしょう。
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