イーサリアムの歴史を解説!アップグレードやハードフォークの経緯とは?
ビットコイン(BTC)に次いでメジャーな存在となっている暗号資産(仮想通貨)がイーサリアム(ETH)です。イーサリアムはネットワークを改善するためのアップグレードやコミュニティが二分するようなハードフォークが行われてきた歴史を持ちます。
イーサリアムはどのような経緯で誕生し、なぜハードフォークが行われたり、アップグレードが頻繁に行われたりしているのでしょうか?その歴史を振り返ってみます。
イーサリアム(Ethereum)とはどんな暗号資産(仮想通貨)?
イーサリアムの時価総額は45兆400億円を超え、132兆800億円台のビットコインに次いで第2位の規模を誇る暗号資産(仮想通貨)となっています。(コインマーケットキャップ調べ:2024年1月時点)
イーサリアムはビットコインと同じく、ブロックチェーンと呼ばれる技術が用いられていますが、ビットコインが主に「通貨」としての機能を目的としているのに対して、イーサリアムはスマートコントラクトと呼ばれるテクノロジーによって「プラットフォーム」としての運用を目的としていることが大きな特徴です。
スマートコントラクトとは、取引が行われる際に個々の契約内容(取引条件)が自動保存される機能のことであり、例えば自動的な料金精算や暗号資産の分配などが可能となっています。
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イーサリアムにとって試練となった「The DAO事件」
2016年6月、イーサリアムは「The DAO事件」と呼ばれる大規模なハッキングにより、総額360万ETH(当時の価値で約65億円)にも達する盗難被害に見舞われました。
この事件のターゲットとなったThe DAOとは、ドイツのSlock.it社が設立した「自律分散型投資ファンド」の名称です。このファンドはプロジェクトの開始時にイーサリアム上で独自トークンを発行し、そのトークンとETHを交換して資金調達を行っていました。
この事件においては、イーサリアム自体のシステムに問題はなかったのですが、The DAOのプログラム上に脆弱性が存在していたことにハッカーが目をつけ、360万ETHをまんまと盗み出しました。
しかし、換金に関して大きな縛りがあったため、それが犯人にとっては大きなネックとなりました。The DAOが発行した独自トークンはSplitと呼ばれる機能によってETHに交換できるものですが、ハッカーが作成したアドレスに資金を移動する指示を出してから28日が経過した後でなければ、一切引き出しができないルールになっていたためです。
イーサリアムの開発に携わっていた人たちの間で、この28日の猶予の間にどのような手を打つべきか協議が行われました。イーサリアムの生みの親であるヴィタリック・ブテリン氏がブログを通じて提唱したのは、ソフトフォークを実施し、ハッカーの資金を28日経過後も動かせなくするという方法でした。
苦渋の決断を強いられたイーサリアム
ソフトフォークとは、ネットワークの互換性を保ちつつ、セキュリティを強化するためにアップデートをするという手法です。新ルールと旧ルールが混在することによりブロックチェーンはいったん枝分かれしてしまいますが、それは一時的な現象にとどまり、やがて1本化されていきます。ただし、ソフトフォークはその暗号資産(仮想通貨)に関わっているコミュニティから十分な支持を獲得できなければ成立しないのが難点です。
これに対しハードフォークは、全ての参加者が新しい規則を採用し、それに同意しない参加者は別のブロックチェーンとして既存のブロックチェーンを継続させます。
ブテリンの提唱に対して異論を唱える声も少なくなかったことから、イーサリアムの関係者たちは最終的に以下の3つの選択肢の中から1つを選ぶことになりました。
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何も手を打たない
イーサリアムのシステム自体に問題はなかったにもかかわらず、ソフトフォークやハードフォークを実施するのは、非中央集権的な思想に基づくイーサリアムの理念に反するとの理由からです。 -
ソフトフォーク
ソフトフォークによって、盗まれたイーサリアムを使えなくするというものです。とはいえ、被害額を取り戻せるわけではありません。 -
ソフトフォークを実施したうえでハードフォークも敢行
ソフトフォークによってハッカーが盗んだイーサリアムを凍結したうえで、ハードフォークを行って新ルールに一本化し、「そもそも流出したという事実は存在しなかったことにする」という荒療治です。
結局、選択されたのは3.だったのですが、ソフトフォークのプログラム上でバグが発覚したことから、正確にはハードフォークのみの実施となりました。ただし、満場一致でこの策が選ばれたわけではありません。
分裂で新たに生まれたイーサクラシック(ETC)
ハードフォークによって、新ルールに沿ったイーサリアムのブロックチェーンはThe DAO事件のハッキングはなかったものとして処理されましたが、全ての参加者がこの変更を受け入れたわけではありません。一部のコミュニティメンバーは、元々の規則に忠実なブロックチェーンへと記録を続ける選択をしました。
こうして2016年9月に、新ルールを採用したイーサリアムと、旧ルールのブロックチェーンを継承するイーサクラシック(ETC)の2つのブロックチェーンに分裂しました。2024年1月現在もイーサクラシックは非中央集権の信念を貫き、どんなことがあっても仕様変更(ブロックチェーンの分岐)は実施すべきではないというスタンスを守り、その独自の路線を維持しているのです。
また、このように、コミュニティの意見の対立からブロックチェーンの分裂が発生する事例もたびたび起きており、2022年9月の大型アップグレード「マージ」の実施に反発する少数のマイナーや開発者が、従来のPoWを維持することを目的として「イーサリアムPoW(ETHW)」や「イーサリアムフェア(ETF)」への分裂を行いましたが、こちらはイーサクラシックの際と異なり賛同者は少なく、2023年12月にはイーサリアムPoWの開発チームは解散しています。
分散型金融の夏(DeFiサマー)の流行
2018年から2019年の「暗号資産(仮想通貨)冬の時代」を乗り越えたイーサリアムは、2020年に「分散型金融(DeFi)」と呼ばれる新しいサービスで話題となりました。
DeFiとは、スマートコントラクトを使うことで中央集権的な管理者なしでも機能する、革新的な金融サービスを指します。DeFiには、安定した価格を保つステーブルコインや、ユーザー間で行われる直接的な貸し付けが可能なレンディング(貸付)サービスなどがあり、次世代のインターネットの概念である「ウェブ3」を構成する要素の一つといわれています。
DeFiは2020年の夏に最初にブームとなったことから、このブームは「DeFiサマー」と呼ばれます。中でも、自動で暗号資産の貸し借りができるレンディングサービスは最も脚光を浴び、そのサービスで利用できるトークンが市場で取引されると価格は急上昇し、さらなる注目を集めるという循環が起きました。
また、レンディングサービスを始めとしたDeFiの動きは、基盤テクノロジーとしてのイーサリアムに対する期待を加熱させ、ETHの価格は一時的ながらも著しく上昇しました。これにより、投資家たちや開発者がイーサリアムのポテンシャルとその応用範囲を再評価する契機となりました。
関連コラム:
「盛り上がりを見せる分散型金融(DeFi)とは?仕組みも紹介」
NFTへの注目
2021年に入り、イーサリアムのトークン規格「ERC-721」を用いて発行されるNFTが注目を集めました。特に2021年は「NFT元年」とも呼ばれ、大手オークションハウスのクリスティーズにて、アメリカのアーティスト「Beeple」が販売したNFTアート「Everydays: The First 5000 Days」に約75億円もの値段がついたことが話題となりました。
「非代替性トークン」と訳されるNFTは、デジタル作品に唯一性を担保できるのが特徴です。デジタルアートなどに固有の価値が与えることが可能となり、デジタル作品が売買できる市場が形成されました。
さらに、NFTはゲームをすることで収益が狙える「GameFi(ゲームファイ)」との関連でも注目が高まっています。ゲームをしながらキャラクターやアイテムを成長させることで固有の価値を生み出し、NFTとして売買する市場も形成されているほか、大手ゲーム会社などがNFTに参入しはじめており、今後の盛り上がりに注目です。
関連記事:
「NFT(ノンファンジブルトークン)とは?暗号資産(仮想通貨)との違いは?」
コンセンサスアルゴリズムがPoSに移行
イーサリアムでは、初期の構想から計画していた「フロンティア」、「ホームステッド」、「メトロポリス(ビザンチウム&コンスタンティノープル)」、「セレニティ」という4段階のアップグレードを、2015年7月~2020年12月にかけて実施しました。
その後、2022年9月に「マージ」を実行し、イーサリアムメインネットにビーコンチェーンが統合され、コンセンサスアルゴリズムをこれまでのプルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work:PoW)から、より効率的で環境にやさしいプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake:PoS)に移行しています。
PoWでマイニングされていたイーサリアムでは、膨大な計算処理が必要とされ、その結果として高い電力消費が伴っていました。PoS方式への移行は、これらの問題点を解決し、さらにネットワークのセキュリティを確保しつつ、トランザクションの処理速度を向上させるという目標に向かう大きな一歩となります。
2024年1月現在は、イーサリアムネットワークの長年の課題となっているスケーラビリティ問題を解決すべく、シャーディングやロールアップという技術を用いて、処理能力を向上させることを目指しています。
まとめ
幅広いユースケースを持つイーサリアムは、アップデートを通じてイーサリアムのセキュリティを強化し、スケーラビリティを高めることを目指しています。
しかし、利便性などが向上していく一方で、ハッカーなどの標的になることもあるかもしれません。今後、ハッキング事件などを機にETHやコミュニティの分裂が発生することも考えられますので、そういったことには注意を払ったほうがよさそうです。
もともと暗号資産はボラティリティが高い(値動きが荒い)うえ、分裂の前後ではその動きに加速がつきやすいことを念頭に置いたほうがよいでしょう。
イーサリアムの歴史とともに値動きについて興味を持たれた方は「イーサリアムの過去チャートから価格推移を追う!今後の動きに影響する要因とは?」をご参照ください。
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