主要国の政治経済が暗号資産(仮想通貨)に及ぼす影響

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2024-06-26 更新

その国の中央銀行が発行して流通量もコントロールしている円やドルのような法定通貨とは違い、ブロックチェーンに参加している人たちが集団で管理している非中央集権型の暗号資産(仮想通貨)は、特定の国もしくはグローバルな政治経済の影響をあまり受けないような印象を抱くかもしれません。しかし、実際のところはどうなのでしょうか? 

過去を振り返りながら、政治経済と暗号資産との関係性について探ってみたいと思います。

主要国の政治経済と相場の関係

円やドルのような法定通貨の為替相場には、各国の政治経済の動向が影響を及ぼしがちです。過去を振り返っても、1995年にクリントン政権下で当時のルービン財務長官が「強いドルは米国の国益にかなう」との政策を打ち出し、その後はドル高・円安基調が鮮明になりました。

また、経済情勢に応じて実施される中央銀行の金融政策も然りです。たとえば、米国経済が好調に推移していることを踏まえてFRB(連邦準備制度理事会=米国の中央銀行に相当)が政策金利の引き上げを実施し、ゼロ金利政策を維持していた日本との間で金利差が拡大しました。

その結果、利息を期待できない日本と比べて金利が上がった米国のほうがいっそう魅力的な運用先だと考える投資家が増えます。すると、円を売ってドルを買う動きが活発化し、円安・ドル高が進みやすくなります。

近年は自国通貨を自分勝手な方向に誘導するのは好ましくないというのが国際的な風潮となっていますが、それでも事実上、中国の人民元のように政府が意図的に自国通貨の価値をコントロールしているケースもあります。さらに、2018年の夏にはトルコリラが記録的な急落を示しましたが、同国が議員内閣制を廃止して強権的な大統領制に移行したり、米国との対立が表面化して経済面への悪影響が懸念されたりしたことがその原因と考えられています。

こうした法定通貨とは対照的に、暗号資産はいずれの国の管理下にも置かれていませんし、そもそも金利が関わってこないので金利差のような概念がないといえるでしょう。しかしながら、各国の政治経済は暗号資産の価格に大きなインパクトを与えています。

米国の暗号資産(仮想通貨)に関する政策と影響

主要国の中でも、暗号資産(仮想通貨)に最も大きな影響力を持つのは世界一の経済大国である米国です。

米国では同国の証券取引委員会(SEC)が2024年1月にビットコイン現物ETFを承認しました。これにより、米国では多くの国民がビットコインを直接保有することなく、ビットコインに投資できる環境になり、投資家の中でも特に機関投資家の参入が見込まれることで、その後の価格上昇に寄与したと考えられています。

ビットコイン現物ETFをめぐっては「噂で買い、ニュースで売る」という相場の格言どおり、承認後に一時的に下落しましたが、その後、反発して暗号資産市場全体の強気相場に影響を与えました。ブルームバーグの報道によると、ビットコイン現物ETFの承認以後、米国の取引時間中にボラティリティが集中するようになりました。

政治に関しては、2024年の米大統領選との関係も重要でしょう。暗号資産相場や価格動向についての影響は不透明ですが、暗号資産企業からのロビー活動費が年々増加しており、政治への関わりが顕著になってきています。

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中国の暗号資産(仮想通貨)に関する政策と影響

中国では、過去に暗号資産(仮想通貨)のマイニング(採掘)が世界トップシェアを占めていたことや、世界の取引シェアの90%を占めていることが報道されてきましたが、2024年4月時点では、中国の政治経済が暗号資産の価格へインパクトを与える影響は少なくなったといえるでしょう。

その理由は、中国政府によって2021年5月に暗号資産マイニングが禁止され、同年9月には暗号資産を使った決済や関連サービスを全面的に禁止したためです。それ以来、政府や規制の動きによる相場への影響は小さくなりました。

ただ、2023年ごろから中国株が下落しているのを受けて、個人投資家などが規制をすり抜けて暗号資産に投資しているとの報道も出ています。ある調査によると、中国における暗号資産の相対取引規模の世界ランキングは22年の144位から23年に13位まで上昇しました。特に大口の個人投資家が多いようです。人口規模が大きい中国の経済動向によって、暗号資産に資産を移す動きが価格動向に影響を与えるかもしれません。

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EUも暗号資産(仮想通貨)の規制に取り組む

EUも暗号資産(仮想通貨)の規制に取り組んでいます。2023年5月には暗号資産市場規則(Regulation on markets in crypto-assets = MiCA)を承認し、EUレベルの法制度を初めて整備しました。

マネー・ロンダリングを防止するルールの遵守を含め、発行者やサービスプロバイダーを対象とする透明性の向上と枠組みの整備により、投資家を保護するものです。

MiCAは暗号資産業界の規制を整備するもので、好意的に捉えられている一方で、2024年1月に施行された「EUデータ法」ではスマートコントラクトを中断、または終了させるように設計する条項が含まれていることから業界に懸念を起こしています。暗号資産投資商品プロバイダーのレポートでは「ブロックチェーン開発者を遠ざけるだろう」と阻害要因として挙げているようです。2024年4月時点では、欧米の規制や経済の影響による価格の変動について報道されることは少なくなりましたが、後述するように、過去にはギリシャショックによりビットコイン価格は大きな影響を受けたことがあります。

過去にあった他国からの影響

米国や中国といった大国以外にも、諸外国の情勢がビットコインをはじめとした暗号資産価格に影響をもたらしてきました。特にキプロスで起こった過去の大きな出来事を確認しておきましょう。

キプロス危機がもたらしたビットコイン価格の高騰

地中海の東部、トルコの南に位置する島国のキプロス共和国をご存じでしょうか?国土面積は日本の四国の半分程度にとどまる小国において、2013年に深刻な金融危機が発生しました。

その引き金となったのは、いわゆるギリシャショックです。2009年10月に政権が交代したのを機に、ギリシャでは財政赤字が公表していた水準よりも大幅に膨らむことが発覚し、瞬く間にその影響が周辺国にも波及しました。

キプロスもその例外ではなく、同国の銀行が行っていた融資や債券投資で巨額の不良債権が発生し、ついにはEUやIMF(国際通貨基金)に支援を求めました。問題だったのは、キプロスがいわゆるタックスヘイブン(租税回避地)であり、高金利と税制優遇によって海外から多額の資金を集めていたことです。

2012年6月に同国はEUに支援を求めたのですが、その代わりにキプロス国内の預金者にも資金不足を穴埋めするため、預金額をカットすることが強いられました。その結果、当然ながら同国内は大パニックに陥りました。

2013年3月に銀行が約2週間ぶりに営業を再開したところ、預金の引き出し制限や海外への送金制限といった措置が取られている中で、人々は窓口やATMに殺到しました。そのような光景を目の当たりにし、ギリシャショックの波及に伴って同じようなことが連鎖するのではないかと、他のユーロ圏に住む人々も考えました。

その結果、顕著になったのがユーロからビットコインへと資金を避難させる動きです。2012年末に1BTC=14ドルだったその価格は一時1BTC=266ドルまで上昇し、当時としての史上最高価格を記録しました。

一方、2018年夏にトルコリラが暴落した局面では対照的な動きが観測されました。同国の大統領による恐慌政治や米国との関係悪化などが招いたことが原因ですが、これを機に株式などのリスク資産からいったん資金を回収する動きが強まり、ビットコインからの資金流出も顕在化したのです。

それに伴って、ビットコインの価格はその年の最安値に接近しました。2017年に驚異的な高騰を記録したこともあって、よりハイリターンを求める資金が大量に流入し、それらがいったんリスク回避の動きを示したのかもしれません。

真相はともかく、こうした世界的な政治経済の動きがビットコインをはじめとする暗号資産の価格動向にも影響を及ぼしうることは紛れもない事実だとみなされています。

政治献金にも暗号資産(仮想通貨)が用いられる時代に

米国では2014年の米連邦選挙委員会によるガイドラインによって、議会の候補者が政治献金として暗号資産(仮想通貨)を受領することが可能となりました。

これを受け、ワシントンD.C.では2015年から暗号資産による選挙献金が認められています。さらに2018年7月には米州務長官がコロラド州において、暗号資産を政治献金に用いることを承認しました。

前述したように、米国では大統領選で暗号資産が取り沙汰されるようになっています。2020年に暗号資産企業がロビー団体や候補者に寄付した費用は150万ドルほどでしたが、2022年には2700万ドルまで急増するなど、米国では暗号資産の普及に企業が多額の資金を費やしています。

米国ではたびたび、規制の遅れが指摘されていますが、暗号資産業界や企業の積極的な動きを注視する必要があるでしょう。

ちなみに、選挙活動に暗号資産による献金を用いた史上初の候補者は米国のアンドリュー・ヘミングウェイ(Andrew Hemingway)氏だったといわれています。2014年のニューハンプシャー州知事選に出馬し、ビットコインによって約2割に相当する献金を獲得したものの、共和党内の予備選で対立候補に敗れたそうです。

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まとめ

今後も引き続き、暗号資産(仮想通貨)を巡る主要国の動きがその価格に影響を与えていくことはほぼ間違いないでしょう。

特に米国でビットコイン現物ETFが承認されたことによって、米国の取引時間中での変動が大きくなっています。2024年4月時点では、主要国の中でも特に米国の動向に注目する必要があるでしょう。

グローバルに見渡してみると、政治的な波乱含みの局面は何度も訪れています。その度に暗号資産は「避難資産」として使われていることも起きています。暗号資産の取引においても、主要国の政治動向をきちんと観察しておくことが重要な意味を持ってきそうです。

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