暗号資産(仮想通貨)とエネルギー問題、ビットコイン価格への影響は?

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2024-07-27 更新

暗号資産(仮想通貨)は、発行する際に、エネルギー、特に電力を大量に消費することが度々問題になっています。国によっては政府がビットコイン(BTC)のマイニング(採掘)を厳しく規制する動きが出ており、需要と供給が変動することで特にビットコイン価格に影響が囁かれています。この記事ではビットコインに関するエネルギー問題について価格への影響とともに解説します。

ビットコインのエネルギー消費について

英ケンブリッジ大学のケンブリッジ・センター・フォー・オルタナティブ・ファイナンス(CCAF)が提供する「ケンブリッジ・ビットコイン電力消費指数(CBCEI)」によると、2024年5月末時点でのビットコインネットワークの年間の電力消費量は推定158TWhほどとされています。この消費電力はノルウェーやスウェーデンよりも多いものです。

一国家の消費電力よりも大きいことに加え、2022年の同大の調査ではビットコインネットワークの消費エネルギーの構成比で、化石燃料が約62%を占めていることが指摘されています。こうした大量の電力消費について、環境負荷が大きいことから一部の評論家や環境保護団体から批判されることがあります。ビットコインのマイニングで大量の電力が使われるために、米テキサスでは州民が電気料金を多く支払うことにつながっているという指摘も出るなど、住民への影響も広がっているようです。

ビットコインが大量の電力を必要とするのは、「プルーフ・オブ・ワーク(Proof of WorK:PoW)」というコンセンサスアルゴリズムを採用しているためです。PoWでは、ブロックの承認のために、膨大な試行回数が必要となります。単純ですが大量の計算を行い、いち早く答えを導いたマイナー(採掘者)にビットコインを報酬として与えられるという仕組みとなっています。

世界中に散らばるマイナーは、マイニングを行うために大量の計算が可能な高性能機器を導入しており、これによってマイニング企業などは24時間稼働させ、機器の冷却用電力と合わせて膨大な電力を使用しています。

さらに、マイニングのための計算式の難易度が一定期間ごとに自動で調整される仕組みになっています。マイニング機器の性能向上に合わせて、この計算難易度は上昇を続けており、マイニング企業は大量のマイニング機器を用いた高い処理能力が必要となっています。

2023年の報道では、マイニングは米国やロシア、湾岸諸国がトップ3のシェアを誇っています。これらの国々の化石燃料の消費も多いことから大量の二酸化炭素排出につながるといった環境面への悪影響を懸念する声につながっているようです。

一方、今後数年でカーボンネガティブ(二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出量よりも植物や樹木による吸収量が多い状態)になるという指摘も出ています。

実際に、マイニング企業や暗号資産業界は天然ガスの他に太陽光、水力発電や風力発電といった再生可能エネルギーを使用していることをアピールしており、再生可能エネルギーへの移行が進めばESG投資としての側面も出てきそうです。

再生可能エネルギー源によるビットコインネットワークのエネルギー消費量も増加しており、Bitcoin ESG Forecastによると、2024年1月時点で再生可能エネルギーがビットコインのマイニング消費の54.5%を占めているといいます。 CCAF のデータによると、2020 年 9 月の時点で、この数字は39%だったことから徐々に再生可能エネルギーが普及していると考えられそうです。ただ、業界全体として正確な消費量を示すデータは存在していません。

企業側もマイニングにおいて持続可能性な低炭素エネルギーの利用を促進させようとする動きも出ています。決済大手のペイパルは持続可能なエネルギー源を使用することでマイナーにインセンティブを与える手法を提案しています。

エネルギー消費とセキュリティ

環境負荷の観点からは批判されるエネルギー消費ですが、ビットコインの分散ネットワークの維持には必要であるとの声もあります。

大量の電力を必要とすることは、ビットコインのネットワークのセキュリティに貢献している側面があるためです。

ブロックチェーンではネットワークを乗っ取る「51%攻撃」などが問題になりますが、ビットコインネットワークで大量の電力を使えば使うほど、乗っ取るためにはそれ以上の大量の電力が必要となり、乗っ取ろうとするインセンティブが働きにくくなっているというものです。

そのため、一部の暗号資産業界の著名人からは、革新的な技術のためには電力消費は必要との発言も出ています。

電力消費とビットコイン価格への影響

国連の報告書によると、ビットコインのマイニングによるエネルギー消費はビットコイン価格との関係があるとされています。

当該報告書では2021年から2022年にかけて、「ビットコインの価格が400%上昇したことが引き金となり、世界中のビットコインマイニングによるエネルギー消費量が140%増加した。」と指摘し、ビットコイン価格の上昇とともにマイニング活動が活発化しエネルギー消費が増大したとしています。

なお、当該報告書ではマイニングが「甚大な二酸化炭素排出量に加え、水と土地へのフットプリントも大きい」と環境への影響が大きいことを指摘しつつも「暗号資産の利用が抑制されるべきではありません。むしろ、環境を害することなくグローバルな金融システムの効率性を向上させるために、規制や技術的進歩に投資をするよう促すことを望みます」と暗号資産を肯定的に捉えているようです。

さらに、ビットコインの電力消費に関する懸念は、企業や政府の意思決定に影響を与え、それによりビットコイン価格を変動させた事例もあります。

2021年2月に電気自動車メーカーのテスラがビットコインに15億ドルを投資し、決済手段として受け入れると発表しました。この発表がビットコイン価格の急騰を引き起こしましたが、同年5月には環境への影響を理由に、これを中止するとし、ビットコイン価格の下落に結びつきました。

さらに、ビットコイン価格が上昇するとマイニングでの電力消費が増大するために、各国政府から懸念が上がることがあり、実際に中国やカザフスタン、ベネズエラなどが厳しい規制や全面的な禁止を実施しています。

こうした動きがビットコイン価格へ影響することもあり、今後も電力やエネルギー消費とビットコインの動きは注視する必要がありそうです。

ビットコイン以外の暗号資産のエネルギー消費

暗号資産(仮想通貨)のエネルギー・電力消費に関して問題とされている銘柄は主にビットコインですが、他の銘柄はどうでしょうか。

イーサリアムは2022年9月に「マージ」によってコンセンサスアルゴリズムをそれまでのPoWから「プルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake:PoS)」に移行しました。

PoSへの移行によってマイニングの必要がなくなり、大量の試行回数が必要な計算問題を解かなくなったことで、電力消費量が大幅に減少しました。前述のケンブリッジ大学のデータによると、PoWを採用していた時点では年間消費電力は21.41TWhだったものが、PoSを採用している2024年5月末時点では、5.73GWhと、99%以上も減少しています。

同様にPoSを採用しているソラナやカルダノといったアルトコインでは電力消費の少なさや環境面でのメリットを打ち出していることが多く、ユーザーへのアピールに使われています。

暗号資産(仮想通貨)とエネルギーに関する米国の動向

ビットコインとエネルギーに関して動向を注視しておきたいのが米国です。

2021年9月から中国でマイニングが禁止されたことを受けて、米国に多くのマイナーが移ったことで、マイニングによる電力消費が問題となっています。米エネルギー情報局が2024年2月に発表した調査によると、マイニングによる消費電力は米国全体の0.6〜2.3%を占めているとのことです。

中国でのマイニングが禁止されて以来、米国でのマイニングシェアは上昇を続けています。ケンブリッジ大学のデータによると、2021年6月までは中国が国別でトップシェアを誇っていましたが、2022年1月時点で米国が37.84%と世界トップとなっています。

大きなシェアを占める米国でのマイニング環境が悪化すれば、ビットコインの価格にも影響が出るかもしれません。

すでにニューヨーク州やブリティッシュコロンビア州などでは、電力消費量の大きさを理由にビットコインマイニングが停止されています。

さらにバイデン大統領は2024年3月に提示した予算案で、暗号資産マイニングに伴う電力使用に30%の税金を課す方針を表明しました。

この方針が実施されればマイニング企業は使用する電力の量と種類を報告しなければならず、外部から電力を購入する場合は、使用した電力の価値を報告することになるため、煩雑な手続きや業界の発展の妨げになるとの声が上がっています。

この法案は、2024年12月31日以降の課税年度から有効になる予定であり、政府は最初の年に10%、2年目に20%、3年目に30%という3段階で税を導入する計画です。

まとめ

暗号資産(仮想通貨)の中でも、特にビットコインをマイニングする際に消費される電力が、国家規模となっていることが問題になっています。環境負荷や電気料金高騰が懸念され、各国政府も規制に乗り出しています。

過去にはテスラが環境負荷への懸念からビットコインの受け入れを取りやめ、ビットコイン価格の下落を招いたこともありました。ビットコインのエネルギー源に関する問題はまだ続きそうです。

しかし、ビットコインの電力消費は、再生可能エネルギーへの移行も行われています。米国では石油業界で使い道がなくなった「廃ガス」であるフレアガスを利用したマイニングに取り組む企業も報じられるなど、エネルギー源は多角化しているようです。さらに決済大手ペイパルは持続可能なエネルギー源を使用することでマイナーにインセンティブを与える手法を提案するなど、業界からも多くの知恵や手段が考えられています。

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