イーサリアム現物ETFとは?ETH価格への影響は?

イーサリアム現物ETF
2024-07-27 更新

「イーサリアム現物ETF」は、イーサリアム(ETH)の現物資産を基にした上場投資信託(ETF)です。イーサリアム価格への連動を目指して設計された金融商品で、米国でも2024年5月に承認されました。イーサリアム現物ETFは、ビットコイン現物ETFと同様に、これまで暗号資産に投資してこなかった人々からの資金流入が見込まれると期待されています。この記事ではイーサリアム現物ETFとは何か、ETH価格への影響について検討していきます。

ETF(上場投資信託)とは

まずはETF自体について説明しましょう。

ETFとはExchange Traded Fundの頭文字をとったもので、取引所(Exchange)で取引(Trade)される投資信託(Fund)のことです。日本語で「上場投資信託」と訳されます。

投資信託とは、プロが投資家からお金を集めて、株式や債券、不動産などに運用することで得た利益を、投資家に分配する金融商品です。プロが株式や債券、不動産などを組み合わせた金融商品のセットを作り、そのセット商品を個人投資家が購入するものです。

ETFとは、この投資信託が株式市場に上場して売買が可能となった金融商品のことです。投資信託には運用型の分類方法として、指数と連動する「パッシブ(インデックス)運用」と投資銘柄を入れ替えるなどして目標の成果を目指す「アクティブ運用」があります。ETFも過去にはパッシブ型が大半を占めていましたが、2024年5月時点で「アクティブETF」が増加傾向にあります。

また、ETFには多くの商品があり、例えば先物価格に連動するETFと現物価格に連動するETFがあります。さらに現物価格に連動するETFにも、組成スキームによる分類があります。

組成スキームによる分類

組成スキームによる分類は「現物設定・現物交換型」と「金銭設定・現物交換型」、「金銭設定・金銭償還型」に分けられます。

現物設定・現物交換型は、指定参加者が現物を直接渡してETFを受け取る方法です。

一方の金銭設定・金銭償還型は、指定参加者が金銭を拠出することでETFを運用会社から受け取る方法です。

金銭設定・現物交換型は、設定時に拠出するのが現金であり、交換または解約時に交付するのが現物となります。

特に米国でビットコイン現物ETFが承認された際に話題になったのが、この組成スキームによる分類でした。2024年5月末時点で米国内において承認されているビットコイン現物ETFは金銭設定・金銭償還型です。

運用会社は金銭設定・金銭償還型の設定を行うにあたって、現金を受け取った後にビットコインの現物を調達する必要があり、償還する際には保有するビットコインを売却した後に現金を引き渡すことになります。一度現金を挟むために、効率性が悪いことや、直接交換ではないために価格の安定性がその他の組成スキームよりも劣るとされています。

イーサリアム現物ETFとは

イーサリアム現物ETFとは、イーサリアム現物を基にした上場投資信託(ETF)でイーサリアムの価格に連動する金融商品です。

イーサリアム現物ETFは、証券会社の証券口座を通じて、そのほかのETFと同様に取引できます。証券会社が扱うため、一定の規制下で運用されます。そのために、仮に証券会社が破綻しても資産が保護されるため、株式や為替といった暗号資産外の投資家の参入が見込まれています。

イーサリアム現物ETFはイーサリアム自体を購入することと比べてメリットとデメリットがあります。

イーサリアムを直接保有するとなると、ETFを売買するよりも管理方法の選択方法が自由になる反面、ウォレットの運用や秘密鍵の保管など管理面が煩雑になるといったデメリットがあります。

取引面では、直接保有では、24時間いつでも取引ができるというメリットがある一方で、現物ETFは市場の取引時間中に高い流動性や取引環境の向上が見込まれます。また、現物ETFはプロのファンドマネジャーが運用するため、取引における専門的な知識は軽減されますが、運用手数料などがかかるというデメリットがあります。

なお、2024年5月時点で、日本では暗号資産(仮想通貨)のETFを組成することはできません。日本の投資信託法では、投資資産が「特定資産」として認められる必要がありますが、金融庁は暗号資産を特定資産として認めていません。海外の暗号資産ETFを国内で扱おうとしても、特定資産として認められていないために、認可される可能性は低いとされています。

世界で初めて香港で承認

海外では日本に先駆けて、イーサリアム現物ETFが承認されています。

2024年4月には、ビットコイン現物ETFと同時に世界で初めてイーサリアム現物ETFが香港で承認されました。

香港では金銭償還型の米国と異なり、現物償還型であるため、実際の市場価格と密接に連動し、価格の安定性が高まるという利点があります。さらに暗号資産(仮想通貨)を保有する投資家にとって換金する手間が省けることに加えて、中国本土からの資金が流入するのではないかという期待が暗号資産業界からは上がっていました。

しかし、香港市場に上場した6銘柄の初日の取引高は、予想されていた1億ドルから大幅に低い1100万ドルでした。香港での取引が期待よりも低かったことで、暗号資産市場の下落につながったとの指摘もあります。1100万ドルの流入内訳はビットコインETFが850万ドルでイーサリアムETFが250万ドルでした。

香港ではすでに暗号資産先物ETFが上場し、2024年第1四半期には5億2900万ドルの純流入を記録していることから、投資先として暗号資産への注目度が低いわけではなさそうです。

そのため、香港の暗号資産ETFは中国本土の資金を取り込めるかどうかが注目されています。中国本土の富裕層は香港で設立した資産管理会社を通じて資産運用するケースが多いとされており、香港の資産運用企業はこうした資金を目当てに人民元建てでもビットコインETFを購入できるようにしています。

米国でもイーサリアム現物ETFが承認

イーサリアム現物ETFにとって最も重要だったイベントは、2024年5月に米国の証券取引委員会(SEC)から承認されたことです。ヴァンエック、ブラックロック、フィデリティといった金融大手がイーサリアム現物ETFを取引するための規則を申請し、これが承認されました。

当初は承認が難しいと想定されていましたが、承認可否直前になってSECが方針を転換しました。その背景は、米大統領選挙の動きを受けたものとされています。トランプ元大統領が暗号資産(仮想通貨)に関連した国民の支持を集めようとしたことに、現職のバイデン大統領が対抗し、若者票を取り込むことを目的にSECに働きかけたのではないかという憶測が報じられています。ただし、あくまで憶測であり、噂ベースの話が元になって報道されているため、確証があるわけではありません。

米国では「証券性」がイーサリアム現物ETFの承認のハードルとなっていました。特にイーサリアムがプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake:PoS)に移行したことで、ステーキングの機能を持つことが証券に該当するのではないかと危惧されていました。

ステーキングはバリデータと呼ばれるユーザーが一定期間、当該の暗号資産をネットワークにロック(預け入れ)し、ブロック生成に貢献する代わりに報酬を受け取る行為です。この動きが株式の配当に近い性質に該当すると判断される可能性がこれまでにも指摘されてきました。

この懸念に対応するため、SECの承認可否の締切直前にイーサリアム現物ETFを申請していた各企業は、ファンドの中のETHがステーキングされないことを明記した書類に修正しました。

イーサリアム現物ETF承認による価格への影響は?

ビットコイン現物ETFが承認された際には暗号資産市場全体の強気相場に影響を与えましたが、イーサリアム現物ETFも市場に影響を与えています。

特にイーサリアムのERC-20というトークン規格はミームコインに広く影響を与えていることから、承認によってドージコイン(DOGE)やシバイヌ(SHIB)などがETF承認後に大幅に上昇しました。

対ビットコインに対してもイーサリアムの上昇が際立っており、アルトコインへの資本の移動が確認されています。

前述したように、イーサリアム現物ETFが世界で初めて承認されたのは、2024年4月の香港でした。香港ではビットコイン現物ETFも同時に承認されたこともあり、期待を持って迎えられていましたが、期待ほどの出来高がなかったためか、相場には失望売りが広がりました。

しかし、その後の同年5月に米国で承認された際は、承認前に価格が上昇しました。当時は承認拒否されるのではないかとの思惑が広がっていましたが、直前で著名アナリストから承認可能性が高まったことが伝えられ、申請企業が相次いで、SECの要望通りの修正申告をしたことで期待が高まり、ビットコインよりも高いパフォーマンスを見せて上昇しました。

ただ、気になるのは今後、ETFに資金流入が続いて継続的な上昇相場になるかどうかでしょう。

これについては明確なことは誰にもわかりませんが、イーサリアムはビットコインの「デジタルゴールド」のように覚えやすい売り文句がないとの指摘があります。ETFの承認によって広く投資機会が開かれたとしても、認識してもらえなければ資金が集まりません。特に米国の経済を動かしているとされるベビーブーマー世代を惹きつける必要があるとされています。

まとめ

イーサリアム現物ETFは、イーサリアムの価格に連動する金融商品です。2024年4月と5月に香港、米国と相次いで承認され、ビットコインに次いで大きな資金流入が期待されています。

一方で、イーサリアム現物ETFに投資資金が集まるかどうかについて、懐疑的な声もあります。2024年5月末時点では、イーサリアムのステーキングに関して、SECは証券性があると判断していると想定されることから、ステーキング報酬を期待する投資家や、ビットコイン以上の期待が集まることは難しいとも考えられます。さらにビットコインのデジタルゴールドのような売り文句がなく、既存の株式投資家や機関投資家に魅力をどのように伝えるかが課題との指摘も出ています。

ただ、米国の承認直後にはドージコインやシバイヌといったミームコインの価格が上昇しました。独自のトークン規格を持つイーサリアムは多くの暗号資産(仮想通貨)の発行基盤となっており、イーサリアム現物ETFへの注目が高まれば、市場全体への影響も広がるかもしれません。イーサリアム現物ETFの今後の動向に注目です。

ビットコイン現物ETFについてお知りになりたい方は「ビットコインETFとは?その仕組みは?実現されると何が変わる?」をご参照ください。

※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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