ダイ(DAI)とは?将来性や特徴を解説

ダイ
2024-06-26 更新

ダイ(DAI)は、イーサリアム(ETHブロックチェーンで発行されるステーブルコインです。

ステーブルコインは、その価格が法定通貨、または市場で取引されるコモディティ(貴金属や工業用金属等の商品)などと連動(ペッグ)するよう設計されており、ダイは米ドルの価値にペッグすることを目指しています。

この記事ではダイについて、その仕組みや将来性を詳しく解説します。

ダイ(DAI)とは

ダイ(DAI)は、メイカー(Maker)というDeFiプロジェクトによって発行・管理されている暗号資産(仮想通貨)担保型のステーブルコインです。

イーサリアムブロックチェーン上で発行されるダイは、1DAI≒1米ドルを目標価格に設定しています。

ボラティリティ(価格変動率)の大きい通常の暗号資産に比べて、常に価値が安定しているステーブルコインは決済や送金手段に利用しやすいことから注目が高まっています。

価値の安定を目標に設計されたステーブルコインは世の中に数多くありますが、ダイはその中でも特に価値の安定性が高いことが最大の特徴であり、人気のステーブルコインの一つになっています。

自律分散型組織を目指してMaker財団からMakerDAOへ

ダイを発行するメイカーは、開発当初はMaker財団(Maker Foundation)という名称で始まったイーサリアムブロックチェーン上のオープンソースプロジェクトでした。

Maker財団は、2014年にデンマークの起業家ルーン・クリステンセン氏によって設立されMakerプロジェクトの開発や普及活動を行いつつ、ゆくゆくはDAO(自律分散型組織)によって分散的に運営することを目標に運営を進めてきました。

プロジェクトは、イーサリアムなどの暗号資産を担保にして米ドルにペッグされたステーブルコインを発行できるDAOを目指し、2017年12月には最初のホワイトペーパーが発行され、イーサリアムを担保にダイを発行できるステーブルコインシステムを発表しました。

ステーブルコインのダイは、2019年11月以降のダイとそれ以前のダイで大きく異なります。

2019年10月までは、イーサ(ETH)のみを担保にダイを発行できる仕組みでしたが、2019年11月以降は、イーサ以外にもベーシックアテンショントークン(BAT)が担保資産に加えられ、複数の暗号資産を担保にダイが発行できるようになりました。

前者のダイは、単一担保(Single-Collateral)のダイといい、区別するためにサイ(SAI)またはSCD(Single Collateral Dai)と表記しています。

これにより、サイは使用されなくなり、複数担保のダイが市場に流通するようになったことで、後者を正式なダイと呼ぶようになりました。

このようにメイカー財団を中心に開発を続けてきたMakerプロジェクトは、プロジェクトの自律分散組織化を目的に、2021年5月3日に運営資金をすべてMakerDAOに承継。2022年1月に当初の予定通り財団は解散し、それを機に、これまでのMakerDAOはプロジェクト自体をメイカーと呼び、プロトコルをメイカープロトコルと表記するようなりました。

2024年4月時点でのMakerDAOは、ガバナンストークンのメイカー(MKR)保有者によって承認されたイーサリアムベースの資産を新たに担保として受け入れられるようになり、さらに多くの担保によってダイを発行できるようになりました。

開発当初は、メイカー財団がMakerプロジェクトの運営をリードしてきましたが、財団が解散した今は、メイカー(MKR)保有者によって全ての意思決定が行われています。

メイカーは自律分散型組織として、まさに自律したプロトコルへと前進し、ステーブルコインであるダイの発行・管理には大きな影響力を持つ中央集権的な主体は、まったく存在しなくなりました。

ダイは暗号資産(仮想通貨)担保型のステーブルコイン

イーサリアムの共通規格であるERC-20に準拠するトークンであるダイは、イーサリアムに対応したアプリ(DApps)やサービスで管理できるため、利便性が高く、ユースケースの拡大が期待されています。

ステーブルコインは、その価値を裏付けする担保により「法定通貨担保型」「暗号資産担保型」「無担保型(アルゴリズム型)」「商品担保型」の4タイプの種類に分けることができますが、ダイは、このうちの暗号資産担保型に該当します。

ダイは何種類かの暗号資産に対応していることから、仮に担保の一つの暗号資産が暴落した場合でも、ステーブルコインが他の担保の価値に連動して暴落してしまうリスクを避けやすいというメリットがあります。

また、ダイは購入や生成のみならず、決済の支払手段として受け取ることもできます。ダイは他の暗号資産や法定通貨と同様に、誰かに送金したり、支払いを受ける側の同意があれば商品やサービスの支払いに使用したりできるほか、メイカープロトコルの機能を通じて、レンディングプラットフォームに貯蓄として預け入れることも可能になっています。

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ダイの発行方法

ダイは、暗号資産交換業者などから購入できますが、ユーザーはメイカープロトコル内にあるMaker Vault(スマートコントラクト)に担保資産を預け入れることでも、担保の価値に対してローンとして新しいダイを生成できます。

Maker Vaultに暗号資産等を預け入れることで、新しいダイを発行しローンとしてそのダイを自動的に借り入れる形になります。

Maker Vaultに預け入れた担保資産は借り入れたダイを返済することで、いつでも引き出すことが可能です。ただし、担保資産を引き出す際にはローンを利用した名目としてStability Fee(安定化手数料)という手数料が発生します。

Stability Feeは、ダイの需要と供給を鑑みて変動します。

手数料は、ダイの価格を安定させるための仕組みとして機能し、ダイの需要が急激に増加した場合はStability Feeを低く設定し売り圧力を増やし、逆にダイの需要が急激に低下した場合はStability Feeを高く設定し売り圧力を減らすことで、手数料を調整します。

こうして、Stability Feeを支払い、借り入れたDAIを返済することで預け入れていた担保を受け取ることができるため、ユーザーはイーサなどの担保資産を失うことなく、ダイを借り入れることができるわけです。

ローン返済後は、発行されたダイはすべて破棄されます。このプロセスはスマートコントラクトによって制御されるため、仲介者を一切必要としません。

価格維持を支える二つの仕組み

ステーブルコインの多くには、担保となる資産を管理し、価格を調節する発行主体が存在しますが、ダイにはそれが存在しません。

ダイは、他のステーブルコインであるUSDCやUSDTなどのような米ドルに直接価値を裏付ける法定通貨担保型のステーブルコインと異なり、その価値を1ドル付近に安定(ソフトペッグ)させています。

CDP(Collateralized Debt Positions)と呼ばれるスマートコントラクトを利用することで、発行や価格の調節を自動化させていますが、具体的には「過剰担保とロスカット」、「インセンティブ調整」という二つの仕組みをベースに機能しています。

過剰担保とロスカット

ダイのような暗号資産担保型ステーブルコインは、「過剰担保」によりその価値を裏付けます。

過剰担保とは、ダイの借入の際に借入額以上の担保資産を預け入れることです。つまり1DAIを発行する際は、1DAI以上の価値の資産を担保としてVaultに預ける必要があるということになります。

例を挙げると、イーサを担保としてダイを借り入れる場合、ダイは145%の最低担保率が設定されています。100DAI(100ドル相当)のDAIを借り入れるためには、最低でも145ドル以上の価値の担保を預ける必要があるということになります。100%以上なので、借入額よりも「過剰」に担保を預け入れています。

ちなみに、担保率とは、借入額に対して必要な担保額を割合(担保額÷借入額)で表したものです。

メイカーの最低担保率は、預ける資産によって異なるとともに一定ではなく市況に応じて変更される仕組みを持ち、最低担保率は、ガバナンスで検証され決定されています。

この仕組みにおいては、仮にダイの価値を裏付けている担保の市場価格が最低担保率を下回った場合、ユーザーは追加の資産を預け入れることができます。

もちろん発行したダイを戻すことで預け入れていた担保は返却されることになります。

ただし、担保率が最低ラインを下回ったまま、そのどちらも行わなかったユーザーに対しては、Maker Vaultは自動的に「強制清算(ロスカット)」というアクションを起こし、預け入れ担保は、すべて没収されることになります。

ロスカットによって没収された担保は、ユーザーが資産として取り戻すことはできません。没収された担保は「担保オークション」に売り出され、ダイによる入札が開始されます。

こうしてVaultへ返却されることができなかった不足分のダイをオークションにて補います。ロスカットが実行されたユーザーは担保を回収できないだけでなく、「清算手数料」というペナルティが課せられます。

ロスカットが実行されたユーザーには大きな損失が生じるため、ダイ発行の際には、最低担保率をさらに上回った額の担保を預け入れることが推奨されています。

インセンティブ調整

「過剰担保とロスカット」以外にもステーブルコインの価格維持の仕組みとして「インセンティブ調整」が行われています。

ステーブルコインであっても需要が増えれば価格や価値が上昇し、供給が需要を上回れば価格・価値は下落します。

価格の変動が起きれば、ステーブルコインはその機能は果たせなくなるため、メイカープロトコルでは、ユーザーのダイ発行または利用のインセンティブを調整しています。

このインセンティブ調整は、Stability FeeとDSR(DAI Savings Rate:貯蓄率)の二つが軸になっています。

Stability Feeとは前述の通り、ユーザーがダイを返却し担保資産を取り戻す際に支払わなければならない手数料です。

ユーザーは、必ずこの手数料を支払わなければならず、Stability Feeは、最新の料率に基づいて発行中は断続的に複利計算されることになっています。

DSRは、簡潔に述べるとメイカープロトコルが提供している銀行の金利のようなものです。

ユーザーは、メイカープロトコルにダイを預け入れることで、定められた金利を得ることができますが(ステーキング)、こうした報酬もまた調整の対象となります。

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ダイの将来性

ダイは2024年4月25日時点で時価総額が8200億円(約53億ドル)を超え、暗号資産(仮想通貨)全体の時価総額ランキングで21位となっています。ステーブルコインだけに限ると、3位と高い位置にランクしています。

メイカープロトコルの預かり資産(TVL)は、分散型金融全体の中でも4位に位置しており、ユーザーからの資金が集まっていることが伺えるでしょう。

今後の開発スケジュールとしては、2024年3月にはクリステンセン氏が大規模な変革プロジェクト「エンドゲーム」の具体的なロードマップを発表しています。このプロジェクトではダイの時価総額を競合するステーブルコインのテザーに匹敵する時価総額である1000億ドル以上にすることが掲げられています。

エンドゲームでは、新トークンのイールドファーミングを通じて、「貯蓄を楽しくする」ためのさまざまな取り組みが示されています。エンドゲームはフェーズ1、フェーズ2、フェーズ3に分かれており、フェーズ1は2024年夏に開始すると発表されていますが、フェーズ2とフェーズ3のスケジュールは明らかになっていません。

基軸通貨である米ドルとペッグするダイは、利用される範囲が広がれば広がるほど、その利用価値は大きなものとなり、より安定したステーブルコインへと成長する可能性も大いに期待できるでしょう。

ダイの課題

しかし、課題がないわけでもありません。ダイには他のステーブルコインにはないメリットがある反面、ダイ特有のリスクもあります。

ダイは、他の米ドルの価値に裏付けされた法定通貨担保型ステーブルコインと比べると、複数の担保に支えられているという性質上、その価値を支えるすべての資産の安定的かつ効率的な状況に依存します。つまり、複数担保のうちの一つで急激に価値が変動した場合、それだけでダイの安定性と米ドルとの1対1の価値に影響を与える可能性があります。

たとえば、新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年3月には、暗号資産市場の異常なボラティリティの結果、ダイも大きな影響を受けて、ピーク時には最大1.11米ドルまでダイの価値が乖離したことがありました。

また、ダイがベースとするイーサリアムネットワークが万が一過度に混雑した場合、ダイの価格維持調整の仕組みが機能せずに価格が急落または急騰する可能性は避けられません。

ダイそのものは分散型ですが、ダイはUSDCなどの中央集権型のステーブルコインも担保資産としてDAOに承認されており、そうした中央集権型資産の発行元などからも多くの支援を受けていることから、資産を管理・発行する中央集権が破産したり資金を不正に管理したりする可能性もあり、それらは一つのリスクになっています。

これらのリスクは新たな担保資産追加や清算時の仕組み改善により、リスクの懸念は回避される仕組みへと発展をし続けていますが、金融市場全体の不確実性については予測不可能であることから、そうしたリスクがあることは理解しておく必要があります。

緊急時シャットダウン機能

メイカープロトコルには、(コロナ禍などによる)長期的な市場の非合理な状況、ネットワークに対するハッキング、セキュリティ侵害などの深刻な脅威からシステムを保護する最後の手段として、緊急時シャットダウンというシステム停止機能が組み込まれています。

緊急時シャットダウン機能で、メイカープロトコルのシステムが大幅にアップデートされる場合にも計画的に緊急時シャットダウンを行い、作業をする場合もあります。

緊急時シャットダウンは、緊急時にダイの保有者が受け取るべき資産価値を確実に受け取ることを確認するプロセスであり、その間、メイカープロトコルを確実かつ適切に停止させる機能です。

緊急時シャットダウンの実行後は、ダイ保有者に対して担保の返還が行われ、余剰の担保はダイを借り入れたユーザーへと返還されます。

ちなみにメイカープロトコルの緊急時シャットダウンの開始プロセスもまた分散化されています。緊急時シャットダウンは、メイカーのガバナンストークンであるメイカー(MKR)保有者(投票者)によって開始されます。

具体的には、緊急であると危機を感じたメイカー(MKR)保有者は、ガバナンストークンを緊急時シャットダウンモジュール(ESM)に預け入れることでその意思を伝えることができ、預けられたガバナンストークンが一定の数に達すると引きおこされます。

まとめ

ダイをはじめとするステーブルコインは、他の暗号資産(仮想通貨)と同様に国境なく、プログラム可能かつ低コストで簡単に送金・決済が可能です。

価値が安定しているステーブルコインは、利用者にとっては日常で慣れ親しんでいる法定通貨と同じような感覚で暗号資産を各ブロックチェーン上で使用できる利点があります。通常の暗号資産に比べて価格変動が少ないステーブルコインは、従来の銀行機関に代わる貴重な代替品として利用されることが期待されています。

ダイは、そうしたステーブルコインの中でも最も人気のある銘柄の一つです。様々な暗号資産が登場する中で、より実用性を高めるために設計されたのがステーブルコインであり、そのうちの一つがダイです。今後、さらにステーブルコインの利用者が増えることで利用シーンの広がりも拡大されていくのではないでしょうか。

※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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