ラップドトークンとは?相互運用性を解決する技術として注目
2009年にビットコインブロックチェーンが誕生してから多くのブロックチェーンが誕生し、それぞれにサービスが開発されています。しかし、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などのブロックチェーンにはそれぞれに相互運用性がないことが課題とされてきました。こうした課題に対して、ブロックチェーンに相互運用性を持たせるために考えられたのが「ラップドトークン」です。この記事ではラップドトークンが誕生した経緯や概要についてまとめていきます。
ラップドトークンとは
ラップドトークン(Wrapped Token)とは、ビットコインやイーサリアムなど暗号資産(仮想通貨)の価値と連動するように設計された暗号資産やトークンのことです。代表的な銘柄としてWBTC(ラップドビットコイン)やwETH(ラップドイーサリアム)があります。
「ラップ(包む)」することでオリジナルの暗号資産とは別のブロックチェーンで利用でき、元の暗号資産とは異なるブロックチェーンに価値を融通できます。例えばイーサリアムブロックチェーン上でビットコインをラップしたトークンを生成すれば、イーサリアムブロックチェーンでビットコインを間接的に使って価値を移転できるようになります。価値はオリジナルの暗号資産とほぼ同じ価値を持つように設計されます。
また、「アンラップ(ラップを解除)」することで、元のオリジナルの暗号資産に戻すことも可能です。
ラップドトークンは、所有する暗号資産を業者に預けて「ラップ」処理を依頼することで入手しますが、暗号資産交換業者で直接購入することもできます。
しかし、なぜわざわざ所有する暗号資産を預けてまで、異なるブロックチェーンを利用する必要があるのでしょうか。このラップドトークンが生まれた背景には、ブロックチェーンが抱える課題があります。
従来のブロックチェーンの課題
ビットコインやイーサリアムといった異なるブロックチェーン同士は、基本的に相互に通信ができません。2024年3月時点では、開発当初から相互運用性を持つように設計されたブロックチェーンも存在しますが、時価総額で1、2位を占めるビットコインやイーサリアムのブロックチェーンは異なるブロックチェーンとの相互運用性がありません。
この相互運用性がないという特徴は、あるブロックチェーンが攻撃を受けたとしても、その問題が他のブロックチェーンに広がることがなく、セキュリティを維持することに貢献しています。さらに、各ブロックチェーンがそれぞれ独自のルールやポリシーを設定し維持できるためにブロックチェーンの主権に役立っています。しかし一方で、データの相互通信ができないことは、暗号資産全体のサービスの利便性や流動性に影響を及ぼしています。例えば、ビットコインを多く保有する人がいても、イーサリアム上のサービスには運用ができないということが起きます。
特に分散型金融(DeFi)が流行をみせて以来、ラップドトークンの注目が高まりました。イーサリアムはスマートコントラクトを通じて、DeFiやNFT(ノンファンジブルトークン)など多くの金融アプリケーションを構築できます。しかし、こうしたイーサリアム基盤で作られたアプリケーションには、ビットコインをはじめとして異なるブロックチェーンの資産は持ち込むことができません。
もし、ビットコインを使ってイーサリアムブロックチェーンで構築されたDeFiを利用したいという場合には、ビットコインを売却して、イーサ(ETH)を購入しなければいけません。しかし、保有しているビットコインが含み益の状態であったり、今後上昇が見込めそうな場合だったりする際には、なかなか売ることに踏み切ることができない人も少なくないでしょう。
そのため、多くのサービスが登場するにつれて、世界で最も採用されているビットコインを利用するための取り組みとしてラップドトークンは始まりました。
裏付け資産と価値が連動するという点では、ステーブルコインと同じですが、ステーブルコインの裏付け資産は様々である一方、ラップドトークンは単一の暗号資産に限定されています。
ラップドトークンの仕組み
ラップドトークンは暗号資産の種類によって発行方法は異なりますが、代表的なラップドトークンであるWBTCでは、「ミンティング(鋳造)」と「バーニング(焼却)」というプロセスによって発行と価値の安定を図っています。
「ミンティング」では、「マーチャント」と呼ばれる販売業者がカストディアンに元の暗号資産(ラップされる前の暗号資産)を送付します。カストディアンは元の暗号資産をデジタル保管庫に預けます。そして、カストディアンは預けられた暗号資産と同量のラップドトークンを発行します。このプロセスが「ミンティング」です
カストディアンは海外の著名カストディ企業が担っています。代表的なラップドトークンであるWBTCでは、カストディアンに現物のビットコインを預けることでWBTCが「鋳造」されます。
「バーニング」はWBTCをBTCに戻す際に行われます。マーチャントがWBTCをバーン(焼却)することで流通から取り除かれ、同量のビットコインが返却されます。この過程は、「ラップ」を解くことから「アンラップ」と表現されることがあります。
DeFiに利用されるラップドトークンは、カストディアンにビットコインが預けられ、その企業も特定の企業や団体となっています。そのため、その企業を信頼して預ける必要があります。中央集権的な組織は、ビットコインを持ち逃げしないとも言い切れません。非中央集権性を重視するビットコインとは相反する性格とも言えるかもしれないでしょう。
ラップドトークンの種類
ラップドトークンにはいくつか種類がありますが、有名なものがWBTC(ラップドビットコイン)やwETH(ラップドイーサリアム)です。
ビットコインをラップしたWBTC
2019年1月に開始されたWBTCは、ビットコインの価値をイーサリアムブロックチェーン上で利用できるようにしたERC-20トークンです。2024年3月時点ではトロン(TRX)ブロックチェーンにも対応しています。
ビットコインをデジタル保管庫に預け入れることで発行され、ビットコイン価格に連動した価値を持ちます。
ERC-20トークンであるWBTCは時価総額トップのビットコインの流動性を、イーサリアムやそのほかのブロックチェーンで利用できるようにします。特にDeFiにおけるレンディングやステーキングといったサービスに利用されています。
流動性が提供できるという利点の他に、トランザクションが迅速に行われるようになることや手数料の削減が期待できます。
前述したように、あるユーザーがWBTCを発行するために、「マーチャント」と呼ばれる業者にビットコインを送付します。マーチャントはビットコインを預かる一方でユーザーの本人確認を行います。その後、その業者はカストディアンにビットコインを預け、カストディアンがイーサリアムブロックチェーン上でERC-20規格のWBTCを発行します。
WBTCをビットコインに戻す際には、マーチャントがカストディアンにバーン(焼却)のリクエストを送ります。そのリクエストに応じてカストディアンはWBTCをバーンし、ビットコインを返却します。
この仕組みによってWBTCは常にビットコインとほぼ1対1で紐づけられるようになっています。
イーサリアムをラップしたwETH
wETH(ラップドイーサリアム)はイーサリアムをERC -20規格で発行した暗号資産です。
わざわざイーサリアムをイーサリアム自身のトークン規格で発行するのは、イーサリアムはERC-20よりも前に構築されたため、ERC-20規格で扱うスマートコントラクトの仕様をイーサリアムブロックチェーン自身が備えていないことがあるためです。ERC-20規格で発行することでDeFiサービスを利用できるようになります。
ただ、実際にはwETHは、イーサリアムをラップするのではなく、スマートコントラクトを使って、同じ価値を持つ wETH というトークンとイーサリアムを交換しているようです。通常の ETH を取り戻したい場合は、それを「アンラップ」する必要があります。これはWBTCのようにバーンする訳ではなく、wETHを通常のETHと交換することになります。
ラップドトークンとブリッジの違い
ラップドトークンと同様に、異なるブロックチェーン間で資産を移動させるための技術として「クロスチェーンブリッジ」が知られています
クロスチェーンブリッジは、異なるブロックチェーンネットワーク間でトークンやデータを転送するための技術的な仕組みです。ラップドトークンは、あるブロックチェーン上のトークンを別のブロックチェーン上で利用可能にするために、クロスチェーンブリッジ技術を用いて元のトークンをロックし、別のブロックチェーン上で同等の価値を持つラップドトークンを発行します。
クロスチェーンブリッジとラップドトークンは異なる概念であり、ブロックチェーン間の資産移動を可能にするために連携して機能します。
また、クロスチェーンブリッジには中央集権的に運用される「トラステッドブリッジ」と非中央集権的に運用される「トラストレスブリッジ」の2種類があります。中央集権的なトラステッドブリッジは、特定のエンティティによって運営され、高いセキュリティと効率性を提供しますが、単一障害点のリスクがあります。一方、非中央集権的なトラストレスブリッジは、複数のノードによって運営され、高いセキュリティと信頼性を提供しますが、処理速度が遅くなる可能性があります。代表的なラップドトークンであるWBTCは、中央集権的に運用されるトラステッドブリッジを使って発行されています。
ラップドトークン以外にもポルカドット(DOT)やコスモス(ATOM)など、異なるブロックチェーンの相互運用性に注目したプロジェクトもあります。これらのプロジェクトは、独自の技術を用いて、異なるブロックチェーン間でシームレスな資産移動を実現しようとしています。
関連コラム:
「暗号資産(仮想通貨)のクロスチェーンブリッジとは?仕組みも解説」
まとめ
ラップドトークンは、特定の暗号資産(仮想通貨)をそれぞれのブロックチェーンとは異なるブロックチェーンで間接的に運用するために考案された手法の一つです。
通常は異なるブロックチェーン間での利用はできませんが、ラップドトークンを使用することで相互運用性を確保できます。さらにラップドトークンの価値は元の暗号資産と連動しています。
DeFiの勃興によって注目を集めるラップドトークンですが、今後の将来性はそのDeFiの行方に左右されるといっても過言ではないでしょう。
さらにラップドトークン以外にも相互運用性に注目したブロックチェーンプロジェクトも誕生してきています。ラップドトークンはこうした新しいプロジェクトからどのように優位性を保っていくのかが注目です。
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