モジュラーブロックチェーンとは?スケーラビリティ問題を解決する注目の手法

モジュラーブロックチェーン
2024-05-25 更新

既存のブロックチェーンに関する諸問題を解決する新たな方法として、ブロックチェーンの構成要素を分業で行う「モジュラーブロックチェーン」という手法が話題になっています。

モジュラーブロックチェーンは、構成要素を分業させることで機能的な役割分担の効率性を高め、ブロックチェーンのスケーラビリティ問題に柔軟に対応できます。

この記事では、モジュラーブロックチェーンの概要、特徴、将来性などについて解説します。

モジュラーブロックチェーンとは?

従来のブロックチェーンの諸問題を解決する新たな技術の一つとして、モジュラーブロックチェーンという手法が注目を浴びています。モジュラーブロックチェーンのモジュラーとは機能単位、交換可能な構成部分などを意味するモジュールのことを指します。

モジュラーブロックチェーンでは、ブロックチェーンの中核となる各機能をコンポーネントとしてモジュール化し、それらのモジュールを組み合わせることで、柔軟でスケーラブルなブロックチェーンの提供を可能にします。

モジュラーブロックチェーンの誕生の経緯

ビットコイン(BTC)やイーサ(ETH)のように、実行、決済、合意形成、データの可用性などブロックチェーンの中核機能を1つにまとめた従来のブロックチェーンを「モノリシックブロックチェーン」といいます。それに対して、ブロックチェーンの各機能をモジュール化し、個別のレイヤーに分離させ、モジュール単位で開発・拡張ができる新しいタイプのブロックチェーンアーキテクチャを採用したブロックチェーンを「モジュラーブロックチェーン」と呼んでいます。

モノリシックブロックチェーンは、ブロックチェーンの仕組みによる制約により、取引量が増えることでトランザクション(取引)処理能力に限界が生じてしまうスケーラビリティ問題や手数料(ガス代)が高騰してしまう課題を抱えていました。

こうした従来のブロックチェーンの問題を解決するために、レイヤー2(セカンドレイヤー)技術が誕生しました。レイヤー2は、メインブロックチェーンであるレイヤー1のスケーラビリティ問題や手数料高騰などの課題を解決する機能を提供する技術です。

レイヤー2は、レイヤー1ブロックチェーンの機能の一部として動作するのが特徴で、メインブロックチェーン上で処理を行わないため、ブロックチェーン本体のシステム処理に負荷をかけずに高速な処理が可能になります。こうしたレイヤー2技術の登場により、ブロックチェーンは単一のブロックチェーンですべてを行う必要がないという考え方が広まり、ブロックチェーンの各機能を個別のレイヤーに分離させ、モジュール単位で開発・拡張するというコンセプトが誕生しました。

こうしたコンセプトを発展させた考えが、モジュラーブロックチェーンです。

モジュラーブロックチェーンの仕組み

モジュラーブロックチェーンは、従来のブロックチェーンの中核機能である実行、決済、合意形成、データの可用性のいずれか(または複数)を個別のレイヤーに分離し、モジュール化しています。ちなみに実行、決済、合意形成、データの可用性とは以下の機能を意味します。

  • 実行(Execution):トランザクションの状態変更の処理

    実行は、トランザクション処理に関連するモジュール。ユーザーが提出したトランザクションを処理し、その結果を出します。

  • 決済(Settlement):取引が変更不可能になるプロセス

    決済はトランザクションの宛先を保護し、承認または決済された取引を最終的なものとします。

  • 合意形成(Consensus):安全性と整合性を保つファイナリティのプロセス

    合意形成においては、トランザクションの順序を決定し、ルールに基づいて処理するバリデータを選択します。

  • データ可用性(Data Availability):有効性の検証に必要なデータの保存と公開

    データ可用性では、トランザクションデータのストレージを扱い、トランザクション履歴を再作成し、現在の状態を確認するために必要なすべてのデータを提供することで、ブロックチェーンの透明性を実現し、トランザクションを正当化します。

こうしたモジュール化のアプローチにより、各モジュールが特定の機能を個別に処理するため、モジュラーブロックチェーンではスケーラビリティや効率が向上します。

また、モジュラーブロックチェーンでは、ブロックチェーンに必要な各機能に特化したモジュールを組み合わせることで、スケーラブルでカスタマイズ可能なシステムが構築可能になります。

こうしたシステムを構築することによって期待されているのが「トリレンマ」の解決です。

トリレンマの解決

一般的に、パブリックブロックチェーンには「スケーラビリティ」「セキュリティ」「非中央集権・分散性」の「ブロックチェーンのトリレンマ」が存在するといわれています。

トリレンマとは、3つの要素を同時には実現できない事象を表す言葉です。

パブリックブロックチェーンにとって、スケーラビリティ、セキュリティ、非中央集権・分散化の3つの要素は欠かせないものですが、これらの要素はどれか2つを満足させると残りの1つはその犠牲となり、すべての要素を同時に満たすのは難しいとされてきました。

たとえば、セキュリティとスケーラビリティを優先するブロックチェーンでは、分散性が犠牲になり中央集権的なネットワークになりやすくなるという課題が生じます。

こうした状況を、イーサリアムの創設者の一人であるヴィタリック・ブテリン氏は「ブロックチェーンのトリレンマ」と指摘し、これまでブロックチェーンの課題として認識されてきました。

モジュラーブロックチェーンでは、各モジュールが担当する作業に集中し開発を行っていくことで、それぞれが特化した処理能力を上げていくことから、こうしたトリレンマを解決できるのではないかとも期待されています。

代表的なモジュラーブロックチェーン

モジュラーブロックチェーンは、実行、決済、合意形成、データ可用性のいずれかの機能または複数の機能を請け負うように設計されています。
具体的には以下のような代表的なモジュラーブロックチェーンがあります。

  • コスモス(ATOM
  • アイゲンレイヤー(Eigenlayer)
  • セレスティア(Celestia)

たとえばコスモスは、ブロックチェーンの課題の一つであるインターオペラビリティ(相互運用性)問題を解決するために誕生したモジュラーブロックチェーンプロジェクトです。

コスモスのネットワークは、異なるブロックチェーン同士を結びつけるために、ネットワーク内のブロックチェーン間でトークンやデータを転送することができるプロトコル「IBC」(Inter-Blockchain Communication)など、いくつかのモジュラーアーキテクチャの仕組みを持ちます。

コスモスのIBCは、2つの異なるブロックチェーンを直接接続することで各ブロックチェーンが相互にトークンを転送できるように機能します。

また、イーサリアムのブロックチェーン上に構築された再ステーキングのためのプロトコルとして開発されたアイゲンレイヤー(Eigenlayer)にはEigenDAというデータ可用性のモジュールがあります。

セレスティア(Celestia)もまた、合意形成とデータ可用性に特化したモジュラーブロックチェーンです。

これらのモジュラーブロックチェーンは、他のブロックチェーンに合意形成やデータ可用性のモジュールとして採用され、組み込まれ始めています。

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モジュラーブロックチェーンのメリット

モジュラーブロックチェーンには、「拡張性の向上」や「相互運用性の向上」、「バリデータの確保」、「開発の迅速化」といった大きなメリットがあります。

リソースを大量に消費するタスクを別のモジュールに処理を分散させることで、分散化のコストをかけずに全体のスループットを向上させ、拡張性を向上させることができます。この高いスループットは、ネットワークの混雑時にトランザクション手数料が高騰しやすいイーサリアムベースのソリューションで特に有効となります。

また、モジュールの多くは、柔軟性が高く、EVM(イーサリアム仮想マシン)互換など他のチェーンとの相互運用性を促進するように設計されていることから、おのずとブロックチェーン全体の相互運用性が高まり、ユーザーの全体的な摩擦が軽減されることにもつながっていきます。

一般的なモノリシックブロックチェーンは、ブロックチェーンごとに独自のバリデータ(検証者)を複数人(複数ノード)確保する必要があります。なぜならば、モノリシックブロックチェーンがバリデータ群を十分に確保できない場合、ブロックチェーンの安定性やセキュリティに大きな影響を与える可能性があるからです。

こうしたバリデータを確保しなければならない問題を解決することができるのもモジュラーブロックチェーンです。

合意形成モジュールであるセレスティア(Celestia)はその選択肢の1つです。各ブロックチェーンはセレスティアを採用することで、バリデータを初めから用意する必要がなくなるというメリットがあります。

また、モジュラーブロックチェーンを採用するブロックチェーンは、モジュールが担う機能を開発する手間が省けることから、コストが削減され、新しいブロックチェーンの開発と立ち上げが迅速化されるというメリットも生じます。

安定したモジュラーブロックチェーンの採用は、開発者がブロックチェーン・コンポーネントを独立して評価およびテストできるため、システムのセキュリティの確保も容易になります。
モジュラーブロックチェーンは、さまざまな要素を追加、削除、または交換することで、いつでもブロックチェーンの機能を変更することができます。これにより、より高い柔軟性が可能になるわけです。

モジュラーブロックチェーンの課題

モジュラーブロックチェーンは、さまざまなモジュールを交換またはカスタマイズできることから、システム全体が過度に複雑になる可能性は否めません。複雑化すれば、ユーザーにとってもモジュラーブロックチェーンの技術を理解することは難しくなります。

モジュラーブロックチェーンはモノリシックブロックチェーンとは異なり、複数のレイヤーに分かれて構成されています。このため、各レイヤーが正しく動作し、全体として安全性を保つためには、広範囲なテストが必要となります。

また、モジュラーブロックチェーンのセキュリティは基礎となるレイヤーに依存するため、開発者は慎重に作業を進める必要があります。1 つのモジュールに障害が発生すると、モジュラーのみならずシステム全体に影響を及ぼす可能性も少なくありません。こうしたこともモジュラーブロックチェーンの大きな課題でしょう。

まとめ

進化し続けるブロックチェーン技術において、増大する需要に応えるにはその拡張性は必要不可欠です。

また開発面においても、より素早くそして安全にブロックチェーンの構築を行えることは、ブロックチェーンの将来を担う重要な要素です。モジュラーブロックチェーンの採用は、ブロックチェーン技術がアプリケーションとしてさらなる実用性を高め、よりよいサービスを迅速に提供していく上で、とても重要な役割を果たすことは想像に難くないのではないでしょうか。

※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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