MEV(最大抽出可能価値)とは?イーサリアムの重要用語

イーサリアム
MEV
2024-05-25 更新

ブロックチェーン技術の応用範囲がDeFi(分散型金融)、NFT(ノンファンジブルトークン)、DAO(自律分散型組織)などに広がる中、暗号資産(仮想通貨)の取引、特にイーサリアム(ETH)との関わりにおいて「MEV(最大抽出可能価値)」が注目を集めています。MEVは取引の最適化を通じて追加の利益を生み出す戦略を指し、市場効率の向上に寄与するメリットがありますが、一方で問題視される場面もあります。

この記事では、MEVの影響とブロックチェーン技術の進化におけるその役割を探ります。

MEV(最大抽出可能価値)とは?

MEV(最大抽出可能価値)について、イーサリアム財団のウェブページでは「特定のブロックにおけるトランザクションの追加、削除、または順序変更により、ブロックの生成時において標準的なブロック報酬やガス代を超過して抽出できる最大の価値」と紹介されています。

つまり、マイナー(採掘者)やバリデータといったブロック生産者が、自身の利益を最大化するための戦略です。その戦略とは、ブロック内のトランザクションを並べ替えたり、除外したりすることです。これによってプロトコルに定められたブロック報酬を超えた利益を得ることができます。

MEVが話題になるのは、取引の公平性やネットワークの安全性、さらにはユーザーエクスペリエンスに悪影響を及ぼすとされているためです。特に、ユーザーから巧妙に資金を吸い上げる「見えない税金」という表現が使われるようにネガティブな意味で使われることが多くなっています。

特に標的となるのが、取引内容が非中央集権的に管理され、透明化されているDEXのトランザクションやブロックです。DEXがイーサリアム基盤で作られているものが多いことから、イーサリアムに関する用語としてMEVは話題となっているのでしょう。

なお、「採掘可能価値(Miner Extractable Value)」と呼ばれることもありますが、2024年3月時点では「最大抽出可能価値」として表記されることが一般的になっています。「採掘」は過去にイーサリアムがプルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work:PoW)マイニング(採掘)を行っていたことに由来していますが、現在はプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake:PoS )に移行したことや、その他のコンセンサスアルゴリズムにもMEVは可能であるため、現在は「最大抽出価値」が使われるようになったようです。

MEVの手法

MEVの仕組みの理解のために、まずはブロックチェーンにおけるトランザクションとその承認について簡単に説明します。

ビットコインやイーサリアムのブロックチェーンでは、送金が行われると「トランザクション」という命令データとなって、トランザクションが「mempool」というデータの待機場所に送られます。

このmempoolはマイナーやバリデータであれば誰でもみられるようになっています。トランザクションの承認作業を行うマイナーはmempoolからトランザクションを選び、ブロックを生成してマイニングを行います。

マイニングでは、ブロック手数料がマイナーの報酬の一部になるため、マイナーには手数料が高いブロックから順番に承認作業に取り掛かるインセンティブが働きます。

そのため、ユーザー側にとっても、高い手数料を設定することで優先的にトランザクションを承認してもらえることになります。反対に低い手数料ではトランザクションの承認が遅れてしまいます。

さらにトランザクション自体にも順番があります。ブロック内には複数のトランザクションが格納されていますが、このトランザクションもマイナーの利益を最大化するために手数料の順に並べられます。

こうした仕組みによって、マイナーが意図的にトランザクションを並べ替えたりすることで利益を最大化できることが2019年4月に「Flash Boys 2.0」という論文で指摘されました。この論文では、MEVが分散型取引所ですでに行われており、ユーザーに大きな影響を与えていることが説明されています。なおMEVという言葉自体は論文で初めて登場しましたが、その概念自体は以前からありました。

MEVで吸い上げられた合計額は2023年5月までにイーサリアム上で6億8600万ドルを超えているという統計や13億8000万ドルを吸い取ったとの調査も出ています。

MEVの種類

MEVの代表的な事例として「フロントランニング」、「バックランニング」、「サンドイッチ攻撃」が挙げられます。

フロントランニングとは、ある取引より高い手数料を支払うことで先に注文を入れる手法です。フロントランニングを行うことによって取引価格が変動し、ユーザーはより悪い(不利な)価格で取引を行うことになります。

バックランニングは、特定のトランザクションの後に自身のトランザクションを意図的に配置し、そのトランザクションによって予想される市場の動きや価格変動から利益を得る戦略です。たとえば、大きな取引が価格に影響を与えることが分かっている場合、その取引の後に自分の取引を配置して、価格変動から恩恵を受けるようにします。この戦略の一つとしてアービトラージ(裁定取引)があります。

バックランニングは、市場の価格のズレを是正し、より公平な価格形成に貢献する「Benign (温和な)MEV」としてポジティブな効果を持つとの意見もあります。しかし、この戦略が原因で取引手数料が高騰し、市場の流動性に悪影響を及ぼすこともありえるでしょう。

そしてサンドイッチ攻撃は、フロントランニングとバックランニングを合わせた手法です。
取引が透明化されている分散型取引所でボットによるサンドイッチ攻撃が行われています。

サンドイッチ攻撃は、ある取引の直前に買い注文を行い、取引直後に売り注文を出す手法です。この手法によって価格を操作し、利益を得ます。

例えば、サンドイッチ攻撃は以下のように行われます。(価格変動は事例説明のためにおおよその数字として設定しています)

  • Aさんは50万サンドイッチコイン(仮のトークンです)を1ETHで購入しようとします。この時、サンドイッチコインの現在価格は1ETH=50万サンドイッチコインです。
  • ボットはAさんの注文をmempoolで発見し、Aさんの注文の直前に同じ量のサンドイッチコインを購入するために、わずかに高い手数料を設定して取引を送信します。ボットは1ETHで50万サンドイッチコインを購入します。 ボットの注文が先に処理されたため、サンドイッチコインの価格は上昇し、新しい価格は1ETH=49万サンドイッチコインとなります。
  • Aさんの注文が次に実行されますが、市場価格が変動し、1ETHで購入できるサンドイッチコインの量は49万サンドイッチコインに減少しています。Aさんは、1ETHで49万サンドイッチコインを購入します。
  • Aさんが購入したことで、1ETH=48万サンドイッチコインに変動します。
  • 最後に、ボットは先ほど購入したサンドイッチコインを新しい市場価格で売却します。ボットは50万サンドイッチコインを1.04ETHで売却することができ、約0.04ETHの利益を得ます。

一度に得られる利益としては大きい金額ではないことが多いサンドイッチ攻撃ですが、ボットは大量に取引を繰り返すことで多額の利益を得ます。サンドイッチ攻撃によってユーザーはより悪い価格で取引をさせられることにつながるため、一般的に非難されるMEVはこのサンドイッチ攻撃が問題視されています。

MEVの対策方法

MEVは、一部の人々による寡占化も指摘されています。こうした問題を解決するために、さまざまな対策が提案されていますが、イーサリアムブロックチェーンで期待されているのがPBS(Proposer Builder Separation:プロポーザーとビルダーの分離)の実装です。PBSの実装はサンドイッチ攻撃などにも効果があるとされています。

PBSの実装

MEVを行って利益を得るには、高度な技術ノウハウと通常のブロック生産に追加するカスタムソフトウェアが必要となるため、バリデータの寡占が進む要因になります。個人よりも組織的なバリデータや資金力があるバリデータが有利になるためです。

そこで対策として、PBSの開発が行われています。

PBSはブロックを生産する「ビルダー」とブロックをブロックチェーンに書き込む「プロポーザー」に分ける取り組みです。2024年3月時点では、バリデータがビルダーとプロポーザーの両方の役割を担っていますが、PBSによってブロック作成を外部に委託する形になります。

役割を分けることによって、バリデータは知識や高価な機材がなくてもMEVの利益を受けられるようになり、MEVの寡占化が和らぎます。さらに、ビルダーとプロポーザーが分かれることによって、ブロック生産者によるトランザクションの順序の操作を制限できます。

現在はイーサリアムの一連のアップグレードロードマップである「The Scourge」で導入される予定ですが、開発が複雑になっていることもあり、導入時期は未定です。

しかしMEVの悪影響は続いているため、解決策として、現在はフラッシュボットという研究機関が開発したMEV-Boostが普及し始めています。MEV-Boostはイーサリアムの外部(オフチェーン)でPBSを実装するサービスです。

MEV-Boost以外にも、以下のようなさまざまな対策やサービスが提供されています。

  • MEVの可視化:MEVの発生状況をユーザーが把握できるようにすることで、ユーザーはMEVの影響を受けやすい取引を避けることができる。
  • 公平なトランザクション順序付け:トランザクションの順序を公平に決定する仕組みを導入することで、MEVの機会を減少させることができる。

しかし、これらの対策はまだ開発段階のものあり、2024年3月時点ではMEVの問題を完全に解決できてはいないようです。

MEVのメリット

一般的にMEVはネガティブに捉えられますが、メリットもあります。

価格差の解消や流動性向上

例えば、アービトラージを行うMEVは、ネットワーク内の流動性を向上させることで市場の効率化を図ることができます。さらに異なる取引所間での価格差を縮小できるため、ユーザーにとっても使い勝手の良い環境を提供できることにつながるでしょう。

迅速な清算

DeFiプラットフォームでは、借り手が担保として提供した資産の価値が市場の変動により低下し、借入金に対する担保の価値比率が設定基準を下回った場合、貸し手は即座に担保を売却して損失を防ぐことができます。MEVの利用により、このような清算が必要なトランザクションを素早く識別し処理することが可能になり、市場の安定性を保ちつつ、価格変動のリスクから貸し手を守ります。

また、MEVを獲得するためにマイナーやバリデータが競争することでブロックチェーンネットワークのセキュリティを高めると主張する人もいます。しかし、一部のブロック生産者に集中することもあるためにセキュリティに関しては悪影響を指摘する声もあります。

まとめ

MEVはマイナーやバリデータなどのブロック生産者が、利益を最大化する試みです。2024年3月時点ではユーザーが不当な価格で取引を行う環境に結びつくとしてさまざまな対策が取られています。MEVはイーサリアムだけでなく、ソラナ(SOL)やコスモス(ATOM)など様々なブロックチェーンで起きており、ブロックチェーン全体の問題と言っても過言ではないでしょう。

大手ベンチャーキャピタルのパラダイム社は「MEVの未来は暗号資産の未来」というほど、MEVへの対策は重要視されています。

イーサリアムの開発ロードマップでもMEVに関わる問題については取り組まれていますが、具体的な開発時期については明らかになっていません。ただし、長期的には対策が進んでいくことで、MEVによる問題は軽減していくと考えられるでしょう。

※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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