暗号資産(仮想通貨)業界でも年々増加するロビー活動とは?米大統領戦で活発化
アメリカでは暗号資産(仮想通貨)に関するロビー活動(ロビイング)が活発に行われています。2023年から2024年にかけては、米大統領選前に報道も多くなりました。特に暗号資産業界は比較的新しいこともあり、頻繁にロビー活動に関するニュースが登場しているのでしょう。規制整備にも影響の大きいロビー活動は、動向によって価格への影響も考えられるため、投資家にとって重要な要素です。この記事では、ロビー活動とはどのようなものなのか、暗号資産業界でのロビー活動の動向も含めて解説します。
ロビー活動はなぜ必要?
ロビー活動(ロビイング)は、政策決定に影響を与えるために特定の団体や個人が政治家や政府機関に対して行う働きかけを指します。このプロセスは、企業、業界団体、非政府組織(NGO)、個人など、様々なステークホルダーによって行われます。特に、技術革新が急速に進む現代において、ロビー活動は新しい製品やサービスが社会に受け入れられるための重要なステップとなっています。
中でも暗号資産(仮想通貨)やブロックチェーン技術のような、新しい産業が出現する際には、従来の法的枠組みには当てはまらない事例が出てくることがあります。これらの技術がもたらす潜在的な利益を最大限に引き出し、同時に消費者を保護するためには、新しい法律や規制の策定が必要です。この過程で、関連する企業や団体が政治家に対してロビー活動を行うことで、業界のニーズや懸念が政策決定プロセスに反映されることが期待されます。
実際に日本でも、2023年に電動キックボードのシェアリングサービスを事例として、ロビー活動によって法改正に結びついた事例があります。
アメリカではロビー活動が活発であり、多額の資金がこの目的のために使われています。
ロビー活動における多額の資金提供は、政策立案者や意思決定者に対する直接的なアクセスを可能にし、特定の業界の利益や立場を政策形成プロセスに反映させる機会を増やせるといわれています。
2023年の米調査サイトOpenSecretsのデータによると、暗号資産交換業者であるコインベースは、伝統的な金融機関も含めた「証券&投資」部門のロビー活動における支出額ランキングで、大手証券会社を上回る286万ドルを支出し9位にランクインしました。また、業界団体である米ブロックチェーン協会も196万ドルを支出して16位に位置しています。
このように、暗号資産企業は伝統的な金融業界の団体と同じく政策形成に関与しようと積極的に資金を投じ、業界に有利な環境を作り出そうとしています。
ロビー活動の定義は?政治献金との違いは?
日本において、ロビー活動と政治献金、寄付などは定義が明確化されていないことから、しばしば混同されることがあります。
一方でアメリカでは、ロビー活動に関してさまざまな法令や規則があります。特に主要な法令として「ロビイング開示法(Lobbying Disclosure Act: LDA)」が知られています。このLDAによると、ロビー活動は「対象となる行政機関職員、または対象となる立法機関職員への口頭または書面による接触行為(電子通信を含む)」と明文化されています。
さらにLDAでは、ロビー活動を行う個人または集団である「ロビイスト」は登録が必須であり、活動内容や支出に関する報告が義務付けられています。これにより、ロビー活動の透明性が高められ、公共の利益に反するような不正な影響力の行使が抑制されることを狙っています。違反者には罰則も設けられているほどです。
ロビー活動の中でも、自らの都合がいいように規制を設定することで利権を得ようとする動きについては「レントシーキング」と呼ばれ、経済的にも悪影響を及ぼす行為として知られています。法律で明文化することで、こうした悪影響を及ぼすものなのか、ルールの改善によって健全なビジネス環境を目指すものなのかが把握することができるのです。
ロビー活動の透明性を高めるために、アメリカではインターネット上にロビー活動に関する情報が公開されています。これにより、一般の人々もどのような活動が行われているのか、どの法案が業界にとって重要視されているのかを理解することが可能になります。このような情報の公開は、政策決定プロセスの透明性を高め、公衆の監視を可能にする重要な手段となっています。
他国でも、カナダや台湾をはじめとする国々でロビー活動に関する法律が制定されています。これらの国々では、ロビー活動を法的に規制することにより、政策決定プロセスの透明性を確保し、政治とビジネスの健全な関係を維持することを目指しています。資金の使途についても透明化が進められ、企業はIR資料などを通じてロビー活動に関する支出を公開することが求められています。
日本では法律で定義されているわけではないため、ロビー活動が拡大しているのかはデータからはわかりません。経済団体などの政治献金がニュースになることはありますが、具体的な金額や使途については透明化されていません。そのため、日本でもロビー活動の透明化を促す声も出ています。
暗号資産(仮想通貨)でのロビー活動
暗号資産(仮想通貨)に関して、ロビー活動は拡大を続けています。米調査サイトのOpenSecretsによると、2022年には暗号資産業界はロビー活動に2155万ドル(約32億3000万円)を支出しました。これは、2021年の830万ドル(約12億4500万円)の倍以上の金額です。
実際に企業に雇われ、登録されたロビイストの数も急増しています。
2014年にはわずか8人だったロビイストは、2022年には283人と35倍に増加しました。特に2020年ごろから急増しており、雇われているロビイストも元議員や規制機関といったいわゆる「revolving door(回転ドア、日本でいう天下りのような概念)」による採用者が3分の2を占めているとのことです。
OpenSecretsのデータを引用したロイター通信によると、2023年のアメリカの暗号資産関連企業によるロビー活動費が第3四半期までで1896万ドルと、2022年を20%ほど上回るペースで推移しました。そのうち、米暗号資産交換業者のコインベースが286万ドルと最大の支出額になっています。
実際に企業のロビー活動も活発化しています。暗号資産やweb3企業への多数の投資で知られる大手ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツが2023年12月、共同創業者がロビー活動で有力政治家を「初めて」支持すると公式ブログで表明しました。なお、ブログではロビー活動で政治に関わるのは「初めて」とされていますが、フォーブスによると2022年10月にニューヨーク議員にロビー活動で支出しているとされています。
このブログでは、「より良い世界を実現するためのテクノロジー」としてブロックチェーンとAIを挙げています。同社は、大手テック企業が行っているロビー活動が「独占を維持するため」であると批判し、暗号資産やブロックチェーンへのロビー活動が「公平で包摂的な経済を創出する」ことにつながると期待しているようです。
アメリカでは暗号資産業界関係者から、規制の整備が世界各国に比べて遅れているという指摘が度々出ています。そのため、ロビー活動を通じて業界として適切な規制を呼びかける動きが活発になっているのかもしれません。
一方の日本でも、暗号資産に関する法改正で、暗号資産業界団体がロビー活動を行うことでルール整備を行ってきているとの報告もあります。政府も暗号資産やブロックチェーンに関するプロジェクトチームを立ち上げており、日本国だけでなく、海外に拠点を置く日本人とも積極的に意見交換をしています。
大統領選前に活発に
アメリカでは、ロビー活動が2024年の大統領選を前に盛んになっています。リップルやコインベース、アンドリーセン・ホロウィッツなどは、2023年12月に暗号資産(仮想通貨)やブロックチェーン関連の候補者を支援するため、「スーパーPAC」のフェアシェイクに総額で7800万ドル(約11億6520万円)を支出しました。
PAC(Political Action Committee=政治活動委員会)は、個人や企業などからから広く活動資金を募り、政治家への献金や広告などへ支出するロビー活動団体で、その中でも献金額の上限がないのが「スーパーPAC」です。スーパーPACは、候補者から独立した組織で、政府の連邦選挙委員会(FEC)に登録しています。候補者への献金や有権者への投票呼びかけができませんが、対立候補を批判するテレビ・ネット広告に使うことでロビー活動を展開します。
例えばフェアシェイクは「次世代のインターネットを構築するイノベーターの本拠地として米国を守ることにコミットした候補者」を支持すると表明しており、暗号資産に反対する議員候補者を非難する広告キャンペーンを展開しています。
2024年に入ると、暗号資産に反対する上院議員候補に対して、積極的にネガティブキャンペーンを繰り広げています。
一方で、暗号資産業界がこれまで支援した議員には、下院金融サービス委員会委員長のパトリック・マクヘンリー氏や暗号資産の規制明確化に関する法案を提出したロー・カンナ議員などがいます。
マクヘンリー議員は米ステーブルコイン法案の共同提案者でもあります。米ステーブルコイン発行企業のCEOは、2024年中にステーブルコイン法が可決する可能性が高いと発言しており、今後も積極的にロビー活動が行われることも予想されます。ロビー活動によって法案整備に影響がある可能性もあるでしょう。
関連コラム:
「アメリカ政治と暗号資産(仮想通貨)、大統領選とどう関係する?」
まとめ
ロビー活動は、政策決定に影響を与えるために特定の団体や個人が政治家や政府機関に対して行う働きかけのことです。
日本では明確な定義はありませんが、アメリカでは法律が整備されており、資金の使途の透明化などが図られているほか、企業も積極的に資金を拠出しています。2024年の米大統領戦を前にロビー団体への寄付が報じられることも増えました。法整備に関わる内容は、暗号資産(仮想通貨)の価格動向にも関わるため、ロビー活動の動きを注視していくといいでしょう。
アメリカではNFT業界でもロビー活動が2022年から始まっています。2023年には初めて米証券取引委員会(SEC)がNFTを未登録の証券販売にあたるとして執行措置が行われたこともあり、NFT企業によるロビー活動も今後、活発化するかもしれません。
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