トラベル・ルールとは?暗号資産(仮想通貨)の送金で必須の知識

トラベル・ルール
2024-03-30 更新

暗号資産(仮想通貨)は、取引における匿名性が大きな特徴ですが、この匿名性がマネーロンダリング(マネー・ローンダリング)やテロ資金供与など、犯罪行為に利用される恐れもあります。この問題に対処するため、世界中で「トラベル・ルール」という対策が導入されています。日本の暗号資産交換業者もこのルールを適用しており、利用者にも関わる重要な内容です。トラベル・ルールの理解を深め、安全な取引を心掛けましょう。

トラベル・ルールとは

トラベル・ルールとは暗号資産交換業者が暗号資産(仮想通貨)の出金時において送付人及び受取人に関する情報を取得し、出金先の暗号資産交換業者に「通知事項」を送付することが求められる規制のことです。

通知事項とは、以下の内容です。
(金融庁資料より抜粋)

自然人(個人) 法人
送付人情報
  • ① 氏名
  • ② 住居or顧客識別番号等
  • ③ ブロックチェーンアドレスor
    当該アドレスを特定できる番号
  • ① 名称
  • ② 本店または主たる事務所の所在地
    or 顧客識別番号等
  • ③ ブロックチェーンアドレスor
    当該アドレスを特定できる番号
受取人情報
  • ④ 氏名
  • ⑤ ブロックチェーンアドレスor
    当該アドレスを特定できる番号
  • ④ 名称
  • ⑤ ブロックチェーンアドレスor
    当該アドレスを特定できる番号

トラベル・ルールは、アンチ・マネーロンダリング(AML)やテロ資金供与対策(CFT)として、暗号資産の国境を跨いだ犯罪に関する送金に対応するために策定されました。

策定したのは、マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策に関する国際基準を定める国際組織であるFATF(金融活動作業部会)です。このFATFが、2019年6月に公表したFATF勧告No.15の解釈ノートの中で「トラベル・ルール」を各国に遵守することを求めています。

トラベル・ルールの背景

トラベル・ルールが必要となった背景には、犯罪に使われる暗号資産が依然として高水準で推移していることがあります。

日本経済新聞が暗号資産分析を手掛けるエリプティック社と共同で実施した調査によると、2023年11月末時点の報道で、年間で2500億円もの暗号資産が北朝鮮やロシアといった制裁対象国に流入していると指摘しています。

調査によると、アメリカの制裁対象となっている国のウォレットに多額の資金が流れ込んでいるとのことです。特に流入量が上位の暗号資産交換業者は、身代金要求型ウイルスに関連したマネーロンダリングを行ったり、取引の追跡を困難にする「ミキシング」を提供したりしている組織が並んでいます。

2023年には海外の暗号資産交換業者がマネーロンダリング対策を講じていなかったとして、企業としては過去最高額の6400億円の罰金が課されました。資金がイスラム組織ハマスの軍事部門に流れたことが指摘されており、過去最高額の罰金が課されるほど、国際的に暗号資産を使ったマネーロンダリングには厳しい目が向けられているのです。

こうした流れを受けて、欧州諸国でもトラベル・ルールを導入する動きが加速しており、英国でも2023年9月から暗号資産の移転に伴う情報を「収集・確認・共有」することを求めています。

2023年5月にあったG7財務相・中央銀行総裁会合でもトラベル・ルールが議題に上がりました。共同声明によると、中央管理者が存在しない分散型金融(DeFi)での取引においてもリスクがあるとして世界中で取り組みを加速することを求めています。

日本のトラベル・ルールに関する法律・整備状況

日本では、2022年12月に成立した「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)」の改正案にトラベル・ルールが盛り込まれました。同改正案が2023年6月に施行したことで、暗号資産交換業者同士の顧客情報の共有が義務付けられています。

これに伴い、日本の各暗号資産交換業者は主に、「Sygna」と「Travel Rule Universal Solution Technology(TRUST)」どちらかの通知システムを導入しました。

TRUSTは米国の暗号資産交換業者であるコインベースが開発しており、Sygnaは台湾のブロックチェーンセキュリティ企業CoolBitXが設計したシステムです。

2024年1月現在では、この技術は相互に互換性がなく、TRUSTとSygnaという異なるシステムを導入している暗号資産交換業者間では送受金の注文が受け付けられないことに注意が必要です。

なお、DMM BitcoinではSygnaのAPIインターフェイスであるSygna Bridgeを採用しています。DMM Bitcoinにおいて、Sygna Bridgeで通知事項を通知することができない暗号資産交換業者への暗号資産の出金申請につきましては、承ることができません。当社から暗号資産の出金が可能な暗号資産交換業者は、暗号資産出金先アドレス登録画面の「出金先取引所・販売所」に表示される暗号資産交換業者のみとなります。

Sygnaを採用していない暗号資産交換業者からの入金については、Sygna Bridgeで通知事項を受領できないため、お客様に入金元の情報をヒアリングさせていただくために、入金反映にお時間を要する可能性があります。

暗号資産交換業者以外の個人所有のウォレットなどは、トラベル・ルールの対象外となるために、入出金が可能です。

Sygna Bridge対応
暗号資産交換業者
Sygna Bridge対応
暗号資産交換業者
暗号資産交換業者以外
入金
出金 ×

ユーザーが準備しておくこと

前述したように、トラベル・ルールによって異なるシステムを導入している暗号資産交換業者同士では送金ができません。それ以外にもいくつかユーザーが準備・気をつけておくべき事項があります。

まずは、トラベル・ルールは送金時にユーザー自身が送金元や受取元の情報を確認する必要があります。ただし、ユーザー自身の入金元・出金先アドレスや顧客識別番号などを登録しておけば、多くの暗号資産交換業者では送金のたびに入力を求められることはなくなります。

送金先を自身以外の他人とする場合、送付人氏名と送付人住所に関する情報を入力する必要があるため、事前に把握しておきましょう。

Sygnaの場合では、公式ページに「技術的には全てのタイプをサポートできます」と書かれているように、プライバシートークンを除いて4000を超えるトークンを対応しています。前述したように、DMM BitcoinではSygnaのAPIインターフェイスであるSygna Bridgeを採用しています。

異なるシステム同士で送金する方法として、後述するアンホステッド・ウォレットを介することで可能となりますが、「交換業者→ウォレット→交換業者」と送金回数が増えるために手数料が通常よりも多くかかってしまう可能性があるでしょう。

関連ページ:
暗号資産の入出金アドレス登録について

海外や個人所有ウォレットのトラベル・ルールは?

マネーロンダリングやテロ資金供与対策として導入が進んでいるトラベル・ルールですが、導入している国はまだわずかです。

FATFによると、2023年4月段階で調査対象国135カ国中、35カ国で暗号資産交換業者向けにトラベル・ルールを導入する法案が可決されているとのことです。そのため、海外ではトラベル・ルールが法制化されていない国がまだ多くあり、通知義務がない国の暗号資産交換業者を利用する場合はトラベル・ルールの適用外となります。

前述したように、トラベル・ルールが導入されている国であっても、利用者個人が管理するウォレットや規制当局の未登録業者は適用外です。これら個人や未登録業者のウォレットは「アンホステッド・ウォレット」と呼ばれます。

ただし、アンホステッド・ウォレットなどのトラベル・ルール対象外の取引でも規制当局に登録している暗号資産交換業者は相手方の所有者情報を記録・収集し、属性を調査・分析し、犯罪による収益の移転可能性を評価することが求められています。

しかし、アンホステッド・ウォレット同士の取引に関しては取引情報を追跡することは難しい状況です。いずれもトラベル・ルールの対象外であれば、取引の把握は困難なためです。今後、FATFなどでも対応が議論されていくでしょう。

トラベル・ルールの対象国

2024年1月時点で、日本の犯収法では20カ国がトラベル・ルールの通知対象国となっています。対象国はアメリカ合衆国、 アルバニア、 イスラエル、 カナダ、 ケイマン諸島、 ジブラルタル、 シンガポール、スイス、 セルビア、 大韓民国、 ドイツ、 バハマ、 バミューダ諸島、 フィリピン、 ベネズエラ、 香港、マレーシア、 モーリシャス、 リヒテンシュタイン、 ルクセンブルクです。

対象国は徐々に拡大しており、2024年内には8法域(アラブ首長国連邦、インド、インドネシア、英国、エストニア、ナイジェリア、バーレーン、ポルトガル)が追加される予定です。

まとめ

トラベル・ルールは、マネーロンダリングやテロ資金供与といった犯罪を防ぐための国際的な規制枠組みです。G7といった重要な国際会議でも議題に上がっており、世界的な注目を集めています。

日本でも2023年6月に施行した改正犯収法に盛り込まれ、暗号資産交換業者同士の顧客情報の共有が義務付けられています。トラベル・ルールに準拠した通知システムで、日本の暗号資産交換業者はTRUSTかSygnaのどちらかを導入しています。

犯罪を防ぐためのトラベル・ルールですが、一方では、相互運用性の問題が生じています。異なる通知システム間では出金申請が承れないため、ご自身が利用している暗号資産交換業者がどちらを導入しているかを把握しておきましょう。ちなみにDMM BitcoinではSygnaのAPIインターフェイスであるSygna Bridgeを採用しています。

なお、トラベル・ルールは暗号資産だけでなく、「電子決済手段」として規制されているステーブルコインにも適用されています。

関連ページ:
暗号資産入出金時のトラベル・ルールについて

※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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