RWA(Real World Asset)とは?「現物資産のトークン化」について解説
日進月歩のブロックチェーン技術は、暗号資産(仮想通貨)以外にも実用化が進められています。その中の一つが「RWA(Real World Asset:現物資産)のトークン化」です。
現実世界には様々な形の資産がありますが、そうしたRWA(現物資産)のトークン化が近年は資産運用の新たなトレンドとして注目されています。
この記事ではRWAのトークン化とは何か、なぜ注目されているのか、その特徴や今後の将来性について詳しく解説します。
RWA(Real World Asset)とは?
RWA(Real World Asset)とは、現実世界に存在する資産を指す言葉です。円やドルなどの法定通貨、株式や債券、家や土地などの不動産、アート作品等々、現実世界ある様々な形の資産を総称してRWAと呼んでいます。
RWAのトークン化とは、株式や債券、不動産、アート作品などの実際の資産や権利をブロックチェーン上で表現したものを意味し、現実世界の資産に紐づけられたトークンやスマートコントラクトを使用してブロックチェーン上に構築することを指します。法定通貨を裏付けとしてトークン化したステーブルコインもRWAの一種といえるでしょう。
これらのトークンは暗号資産と同様にブロックチェーン技術を通じて取引可能になります。
ブロックチェーン技術の最初のユーティリティ(ユースケース)は暗号資産(仮想通貨)でしたが、ブロックチェーン技術が進化・発達するにつれて、次のトレンドは現実世界に存在する資産、すなわちRWAのトークン化であるといわれてきました。しかし、実際には法律の整備や技術の関係からその実現は難しく、RWAのトークン化は見送られてきました。
潮目が変わってきたのが2023年半ばからです。
2023年9月7日(米国東部標準時)、米国にて暗号資産業界の主要企業は、トークン化推進の新団体「Tokenized Asset Coalition(TAC:トークン化資産連合)」を設立しました。
設立メンバーは、暗号資産交換業者のCoinbase、ステーブルコイン発行者のCircle、レイヤー2ネットワークのBase、DeFiレンディング・プラットフォームのAAVE Companies(現Avara)、Centrifuge、Credix、Goldfinch、RWAデータ・プラットフォームのRWA.xyzです。
そして2024年1月16日、新たなメンバーとしてPolygon Labsなど15の団体が加盟したことが発表されました。
新団体のTACは、互いに協力し合い、現実世界の資産のトークン化、教育、権利擁護を通じて数兆ドルの資産をオンチェーンに導入することを目指すといいます。
さらに、日本では2023年6月に資金決済法が施行され、日本国内にてステーブルコインの発行が可能となりました。
こうした世界的な動きを受けて、投資家の関心は一気にRWAのトークン化に集まり、暗号資産業界の新たなトレンドとなるなど、その広がりを見せています。
ボストン・コンサルティング・グループのレポートでは、「トークン化資産市場は2030年までに16兆ドル(約2300兆円、1ドル145円換算)にまで拡大する可能性がある」と報告しています。
RWAのトークン化の特徴
RWAのトークン化の特徴は「仲介者不要の取引」と「透明性の高い取引」の二つが挙げられます。
仲介者不要の取引
RWAはトークン化することで、仲介業者を媒介せずに直接相手と取引することができるようになります。従来の現実世界の資産取引は、多くの場合は仲介業者を通して書類等による複雑な手続き経て、売買が行われてきました。
例えば、個人間での土地や家の売買では、多くの場合は不動産業者が仲介し手続きを行ってきました。株式や債券などでは金融商品仲介業者が取り次ぐことで取引が成立します。
しかし、RWAに関する技術が今後発展し、誰もが簡単に契約内容をスマートコントラクトに落とし込むことができるようになれば、仲介業者を介さずとも低コストでの個人間取引が行えるようになるのではないかと期待されています。
透明性の高い取引
RWAをトークン化することは透明性の高い取引の実現に繋がります。
現実資産の取引は、仲介業者に支払う各種手数料などが分かりにくい場合がありました。中には悪徳業者に仲介を依頼してしまい、高額な手数料を請求されるといったリスクが生じることもあります。
ブロックチェーン上に構築されたRWAの取引は、誰にでも取引が見えるようになるため、不正な取引も発生しにくく、より透明性の高い取引ができるようになります。それにより取引コストの削減も実現するといったメリットが出てくるでしょう。
もちろん、スマートコントラクトの知識がある人と、スマートコントラクトの知識が乏しい人同士でRWAをトークン化する場合、前者が後者に気づかないように不公平な契約条件を作成してしまう可能性はあります。とはいえ、少なくとも悪意のある契約が結ばれたという証拠がブロックチェーンに残るという点からも、リスクが減少していると考えられます。
市場拡大の可能性
RWAのトークン化は伝統的市場の拡大に貢献することが期待されます。
RWAのトークン化により、物理的な取引が主流であった伝統的な金融サービスがブロックチェーン技術に融合され、オンチェーン上で取引することが可能になるほか、資産の流動性を高める効果も期待できるからです。
例えば不動産や非上場株式など、高額なRWAの流動性はそれほど高くないのが一般的です。しかし、これらのRWAをトークン化することで最小取引額の小口化が可能となり、少額投資が容易になります。
RWAのトークン化は、より多くの人に投資の機会をもたらし、手軽に売買できる環境も整えやすくなるなどで、流動性が高まります。流動性が向上すれば、価格の安定性や約定率の向上、市場の信頼度も高まるといったメリットが見込めるでしょう。
企業側にも利点
企業や個人事業主の視点で考えると、RWAのトークン化はトークンによるエコシステムを活用することで、資金調達が従来よりも容易になる可能性も秘めています。
伝統的な金融市場においては、企業や事業主が資金を調達するには複数の法的手続や審査の通過が必要になります。こうしたプロセスは時間やコストがかかるため、小規模事業者が資金調達を行うことは容易ではありません。
しかし、非上場株式等のRWAをトークン化することで、投資家から直接出資を受けることが可能になります。伝統的な金融市場である証券会社等を通じた資金調達よりも容易な資金調達につながることも見込めるでしょう。
RWAのトークン化によって、管理手数料や仲介料などの各種コストを大幅に削減できるようになるかもしれません。
また、ブロックチェーンによって構築された仲介者不要の市場は24時間365日、迅速かつ効率的に世界中から取引を行うことができるのも大きなメリットといえるでしょう。
トークン化が期待されているRWAの種類
今後、様々なRWAがトークン化され、ブロックチェーン上で取引が行われると期待されています。2024年1月時点では、以下のケースでRWAのトークン化が存在しています。
- 不動産
- 株式・社債
- 国債
- コモディティ
- 収集品(コレクタブル)
不動産
RWAでトークン化されている代表例の一つが不動産です。
不動産においては、今後、法律等が整備されることで、現実の土地や建物を裏付けとしたトークンを発行し、取引する流れが加速すると考えられています。
不動産のトークン化は、小口化して販売することも可能であり、少額から投資が可能になります。また、従来の不動産取引の煩雑な手続きを回避できるため、流動性が向上する可能性が期待できます。
株式・社債
ブロックチェーンの技術によって、企業の株式や社債をトークン化する動きが進んでいます。
これらは、いわゆるセキュリティトークンの一種類に分類され、RWAのトークン化の代表的な事例の一つになっています。
セキュリティトークンはすでに日本でも発行されており、セキュリティトークンを使った資金調達であるSTOなどが実際に行われています。
国債
2024年1月現在、トークン化された米国債に対しても、すでに需要が高まっています。需要の高まりの要因は、DeFiの利回りが低下している一方で、米国FRB(連邦準備制度理事会)が政策金利を歴史的水準まで上げていることが考えられます。
米国の短期国債と要求払預金を裏付けとして発行される「USDY」など、国債のトークン化はいくつかの事例がすでに登場しています。
コモディティ
商品先物市場で取引されている原油やガソリンなどのエネルギー、穀物、金やプラチナなどいわゆるコモディティもまたトークン化される動きがあります。
すでにジパングコイン(ZPG)やテザーゴールドなど、ゴールドを裏付けとしたステーブルコインが発行され、市場で取引されています。
関連コラム:
「暗号資産(仮想通貨)ジパングコインとは? 特徴と将来性を解説」
コレクション
絵画、高級時計、ワイン、その他アート作品など、収集品のトークン化も注目の分野です。特にアート作品はNFT化されて、専用のマーケットプレイスにて取引が行われています。
また、ウイスキーやワインなどをNFT化して取引できるマーケットプレイスも登場しています。
日本国内でもブロックチェーンゲーム等のキャラクターやカードなどがNFT化され、これらもすでに取引が行われています。
RWAトークン化での課題
RWAのトークン化における課題は「法整備」、「仲介者が介在する必要性」「税制」が挙げられます。
RWAのトークン化においては、法定通貨のトークン化であるいわゆるステーブルコインやCBDC(中央銀行デジタル通貨)が、早くから世界中で実現性について議論されてきました。
前述したように、日本では2023年6月に資金決済法が施行され、国内にて法定通貨を裏付けとしたステーブルコインの発行が可能となりました。こうしたきっかけから、将来的に日本国内でも法定通貨を裏付けとしたステーブルコインの普及の可能性はゼロではなくなりました。しかし、国外に目を向けると、法整備が整っていない国がほとんどです。
現実世界の資産、伝統的な金融市場が仲介者の信頼があって成り立っていることも無視できません。RWAのトークン化は現実世界の資産の実際の価値を担保に裏付けされていますが、仮に担保資産に問題が発生して無価値になり償還ができなくなった場合、トークンもまた無価値になります。こうしたリスクは、伝統的な金融市場では第三者である仲介者の信頼によって成り立っていました。
RWAのトークン化では、場合によっては第三者への信頼が必要な場合もあり、これらは大きな課題の一つになっています。
RWAのトークン化が市場で広く普及するには、税制面の改善も課題です。たとえばゴールドがトークン化された金融商品では、現在の日本の法律では暗号資産の税制が適用されるため、利益額が大きくなると、税制面で現物のゴールドを取引するよりも不利になる可能性があります。
これらは他のコモディティや不動産においてもその可能性があります。日本国内でRWAのトークン化が本格的に普及するためには、こうした税制面の法律の変更も必要になるでしょう。
まとめ
RWAのトークン化は、無形・有形の現実世界の資産をブロックチェーン上に持ち込めるため、従来の市場で行われていた取引に流動性がもたらされ、金融市場全体に対しても大きなインパクトとなるでしょう。
しかし、さまざまなRWAがトークン化できる反面、そのトークンが本当に現実資産に裏付けされているのかについては、プロジェクトの運営元やトークンの発行体の信頼性など、しっかりとした見極めも必要になります。
また、プロジェクト規模の小さいブロックチェーンにおいては、そのものが永久に維持される保証はありません。
トークンは、何に対するどのような権利を保証しているトークンなのか、トークンを取引した際にその権利が確実に移転されるか、サービス提供者(トークン発行者)が倒産した場合のリスクなど、トークンの権利については理解しておかなければなりません。
いずれにしてもトークン化によるメリットとそのリスクについては、常に把握し理解しておくことが大切です。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
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