アルゼンチンの新大統領の経済政策に暗号資産(仮想通貨)採用はあるか?

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2024-03-13 更新

2023年12月10日にアルゼンチンで新大統領に就任したハビエル・ミレイ氏は、暗号資産(仮想通貨)業界から注目を集めています。

インフレが続く同国の経済対策が期待されるミレイ大統領は、法定通貨であるアルゼンチン・ペソを廃止して「通貨のドル化」を進めることや、中央銀行廃止を選挙活動中に掲げていたことから、同じくドル化した中南米のエルサルバドルのように、ビットコイン(BTC)を法定通貨に採用するのではないかとの憶測があるためです。

この記事では、ミレイ大統領によって暗号資産やビットコインにどのような影響がでるのか、エルサルバドルのようにビットコインの法定通貨採用があるのかについて考察していきます。

アルゼンチンの新大統領ハビエル・ミレイ氏とは

2023年12月時点のアルゼンチンは、スーパーに並ぶ商品の価格が数日で上昇するほど、急速にインフレが進んでいます。2023年11月には消費者物価指数が前年同月比で160.9%増となり、40%を超える貧困率に苦しんでいる状況です。

また、過去10年間で経済成長しておらず、これまでのどの政権でも経済政策が成功していない状態でした。そうした現状に不満を抱いた国民の後押しで、2023年11月19日にアルゼンチン大統領選でハビエル・ミレイ氏が勝利しました。

国民の不満の背景には、2019年時点で労働生産人口のわずか2割ほどである民間部門の労働者が、公務員の給与や手厚い社会支出と社会保障制度を納税で支えていることへの不公平感があります。

ミレイ氏は、自由競争を重視する右派のポピュリストで、経済学者というバックグラウンドを持ちます。そのため、「小さな政府、私的私有権と自由貿易の尊重」という理念を掲げ、公共支出を大幅に削減することや、国営企業の民営化を訴えてきたことが、国民の不満に合致したといえるでしょう。

選挙期間中には、チェンソーを持った過激なパフォーマンスが話題になりました。ぼさぼさ頭の風貌や過激な発言から「アルゼンチンのトランプ」とも呼ばれ、若者からの指示を集めたことも勝利につながったといえるかもしれません。

ミレイ氏が特に注目されているのは、信頼が失墜しているアルゼンチン・ペソを廃止し、通貨をより安定した米ドルにすることと、「中央銀行廃止」といった過去に例がない過激な発言や政策です。

通貨をドル化することで通貨安を抑えられる上に、輸出が円滑に進むことで貿易が活発化し、輸入物価を抑えられると主張しています。実際にアルゼンチンではドルが多く流通しており、実情にあったミレイ氏の訴えが国民に受け止められたようです。

インフレに歯止めがかからないなどの経済政策の失敗の原因が中央銀行にあるとミレイ氏は非難し、「中央銀行廃止」を主張しています。「小さな政府」は、こうしたアルゼンチンの経済状況を大きく変えようとする試みでもあるでしょう。

しかし、2023年12月末時点では、ミレイ政権での経済のドル化や中央銀行の廃止については時期や方法を検討している段階ではないかと報じられているように、実行される可能性については疑問視する声もあります。

当選後に自身の側近だけではなく、中道右派のマウリシオ・マクリ元大統領の派閥から2人の閣僚を起用したことから、ミレイ氏は極右の政策を打ち出してはいますが、やや中道よりに譲歩する可能性が伺えます。国内外の経済アナリストから指摘があるように、人口規模、外貨準備高の面からも容易にドル化や中央銀行の廃止は行えないかもしれません。

ハビエル・ミレイ氏のビットコインへの影響は?

経済のドル化や中央集権的組織である中央銀行の廃止といった急進的な経済政策から、ミレイ氏は暗号資産(仮想通貨)コミュニティの関心を集めています。実際にミレイ氏は以前、オンライン掲示板サイト「Reddit」のr/bitcoinに投稿されたビデオで、自身の立場を以下のように述べたことがあります。

「中央銀行は詐欺だということを、まず理解すべきだ。政治家がインフレ税で善良な人々を騙すメカニズムになっている。ビットコインが象徴しているのは、お金をそのオリジナルの創造者である民間部門に還元することだ」

「ビットコインは中央銀行の詐欺師に対する自然な反応であり、お金を再び市民に戻すためのものだ」

こういった発言から、ビットコインをはじめとした暗号資産コミュニティでは、ミレイ氏が暗号資産に対して友好的な政策を打ち出すのではないかと期待しているようです。実際にミレイ氏の当選後にアルゼンチンのビットコインコミュニティが、ビットコインを法定通貨としたエルサルバドルと同レベルの規制や普及にするよう要請しています。さらにアメリカの資産運用会社は、ミレイ氏が大統領になることで暗号資産が普及する可能性があると予想し、インフレ対策や金融安定性に貢献すると主張しています。

こうした動きを受けてビットコインを含めた暗号資産について、2023年12月22日にアルゼンチンの外務大臣が、「契約や支払いはビットコインやその他の暗号資産で可能だ」と発言しました。これは、実際にアルゼンチン国内で暗号資産への印象が改善されている証拠といえるかもしれません。

ミレイ氏に関する暗号資産(仮想通貨)価格への反応は?

市場の動きの面でみると、ビットコイン価格はミレイ氏の動向に反応しているようです。

2023年8月に予備選でミレイ氏が勝利したというニュースが報道されると、アルゼンチンではビットコインがペソ建てで過去最高値に達しました。また、2023年12月のミレイ大統領就任後にも再び最高値を更新しています。中央銀行廃止を掲げるミレイ氏と、ビットコインの非中央集権性との親和性が高まることへの期待感が現れた結果といえそうです。

ビットコイン価格がペソ建てで過去最高値を記録した要因として、インフレが続く中で政府や中央銀行が「価値の保存手段」としてビットコインに資産を逃避させたことが考えられます。

また、ミレイ氏の大統領就任を受けた暗号資産業界の動きとしては、ビットコインだけでなくステーブルコインにもみられます。

ミレイ氏がアルゼンチン・ペソを米ドルに切り替えることへの期待感やインフレが進むとの予測から、ステーブルコインの需要が増加しているようです。実際に、アルゼンチンの暗号資産交換業者が発行する米ドルとペッグしたステーブルコインの取引が急増し、2023年11月には1ドルにペッグされているステーブルコインが急激な需要の増加を受けて5ドルまで乖離しました。

さらに、その暗号資産交換業者では、19日の投票日に一日あたりの新規ユーザー数が前週比で2倍増となったといいます。

また、インフレが続くアルゼンチンでは、暗号資産を貯蓄手段として購入しているとの報道も出ています。2023年4月の調査ではアルゼンチンでの暗号資産の普及率は12%とメキシコやブラジルの2倍になっていることからも、暗号資産への注目度の高さが伺えるでしょう。

2023年8月には、暗号資産である「ワールドコイン」が付与される「ワールドID」の登録で1日の登録者数が新記録を達成するなど、アルゼンチン国民の暗号資産への期待は高いと考えられます。2023年7月にはラテンアメリカで初となるビットコイン先物取引が始まるなど、投資環境も周辺諸国に比べて進んでいるといえそうです。

ビットコインの法定通貨化はあるのか

先に述べた通り、ミレイ氏の大統領選出を受けて、アルゼンチンでもビットコインが法定通貨になるのではないかという議論が上がっています。

米ドルとビットコインを法定通貨として採用した中南米のエルサルバドルでは、エルサルバドルのビットコイン法定通貨化のアドバイザーを務めたサムソン・モウ氏が、ミレイ氏の大統領選勝利後にX(旧ツイッター)で「また別の国が、想像よりも早くビットコインを採用する可能がある」と発言しました。

ただ、実際にビットコインが法定通貨となる可能性は不明です。アルゼンチンのビットコイン支持者であり、メディア分析会社ビットコイン・パーセプションの創設者であるフェルナンド・ニコリッチ氏は、「ビットコインに友好的とみなされる法律を成立させることは彼の公約の一部ではないため、過度な熱狂は控えるべきだ」と暗号資産メディアに答えています。一方で、ビットコインに害を及ぼすような法律を成立させる可能性は低いと指摘しました。

一般に注目されている経済政策も、まずはドル化を進めるため、いきなり暗号資産の法定通貨化に及ぶことはないかもしれません。

一方で、ビットコインの法定通貨化については中南米を含めて世界中で声が挙がっています。

2022年4月には、中央アフリカ共和国がビットコインを法定通貨に採用。同年4月にはメキシコでビットコインを法定通貨に採用する法案が提出されました。さらには、ドイツのある議員がビットコインを法定通貨とする予備調査を開始する意向を示したように、ビットコインの法定通貨化は世界中でホットなトピックとなっています。

メキシコは、過去に通貨危機によってメキシコ・ペソが急落した経験があります。通貨が中央銀行に管理されている状態では市民が何もできないことに批判が上がり、代替資産としてビットコインが注目されています。また、ドイツの議員はビットコインを推進する理由について、中央銀行デジタル通貨(CBDC)によって決済や所有の上限が定められてしまう上に、取引内容が監視されてしまうことへの危機感を挙げています。

いずれも、中央銀行といった中央集権的な動きに反対している人々が、ビットコインの法定通貨化を支持しているといえるでしょう。こうした点からも、中央銀行を廃止することを掲げるミレイ氏に注目が集まっているようです。

しかし、国際通貨基金(IMF)は2023年2月に暗号資産を法定通貨にすることに対して明確に反対の姿勢を示す「暗号資産行動計画」を発表しており、国際機関からの風当たりは強そうです。

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エルサルバドルのビットコイン法定通貨化は、成功か失敗か

まとめ

ミレイ氏は、通貨のドル化や中央銀行の廃止といった急進的な政策を掲げて当選しました。しかし当選後は極右というよりも、やや中道の閣僚を起用していることから、すぐに暗号資産(仮想通貨)を推し進めるとは考えにくいという意見が多いようです。

暗号資産やビットコインについても過去にポジティブな発言をしていたミレイ氏ですが、ビットコインに友好的な政策を公約に入れているわけではありません。国内ではインフレが進む中で代替通貨としてのビットコインの人気が高まっていることが伺えますが、実際に法定通貨として採用されるかどうかは未知数でしょう。

一方で、エルサルバドルや中央アフリカ共和国のようにビットコインを法定通貨とした動きやドイツで予備調査の開始を希望する議員が出ているように、アルゼンチンでもビットコインの法定通貨化が今後ホットトピックとなるかもしれません。

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