「第3世代」の分散型台帳、ヘデラ・ハッシュグラフ(HBAR)とは

ヘデラハッシュグラフ
将来性
2023-12-13 更新

GoogleやIBMといったグローバル企業が参画している分散型台帳(DLT)技術に「へデラ・ハッシュグラフ」があります。へデラ・ハッシュグラフは自身を「第3世代の分散型台帳」と位置付けるように、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)にはない特徴を強調しています。

この記事では、世界の名だたる企業が参画するDLT技術「へデラ・ハッシュグラフ」について解説していきます。

ヘデラ/ヘデラ・ハッシュグラフ(HBAR)とは

ヘデラ・ハッシュグラフ(Hedera Hashgraph)は、分散型アプリケーションの構築とデプロイのための分散型台帳技術(DLT)です。発表当初からGoogleやIBMといったテック企業に加えてボーイング、日本の野村ホールディングスなどさまざまな大企業が参加していることもあり主にエンタープライズ向けのDLTとされていますが、個人やスタートアップなど誰でも簡単にアプリを構築できるようになっています。

ヘデラ・ハッシュグラフのネイティブトークンがHBAR(ヘデラ)です。ヘデラ・ハッシュグラフでトランザクションを実行する際のガス代(手数料)として機能します。

「第3世代の分散型台帳」

プロジェクトの公式ページではヘデラ・ハッシュグラフを「第3世代の分散型台帳」と呼んでいます。第1世代はブロックチェーンの最初の暗号資産であるビットコインで、第2世代はプログラマビリティを備えたイーサリアムと位置付けています。

「第3世代」というように、これまでビットコインやイーサリアムが抱えていた課題を解決できるように設計されているのが特徴です。

ビットコインは分散型のネットワークとして運用されていますが、高いセキュリティを保つために電力消費が激しく、トランザクションの処理にも時間がかかるように設計されています。イーサリアムもたびたび手数料が高騰していることが課題でしょう。

一方でヘデラ・ハッシュグラフは2023年9月現在、中央集権型で管理されており、1秒間の処理能力が1万以上、平均手数料が0.001ドル、トランザクションの承認時間は3〜7秒としています。下の表にあるように、ビットコインやイーサリアムを大きく上回っています。特に手数料が固定されているのもほかのブロックチェーンプロジェクトと大きな違いといえます。

ビットコイン イーサリアム ヘデラ・ハッシュグラフ
1秒あたり処理能力
(TPS)
3TPS以上 12TPS以上 1万TPS以上
平均手数料 2.16ドル(変動あり) 5.2ドル(変動あり) 0.001ドル(固定)
承認時間 10〜60分 10〜20秒 3〜7秒

(平均手数料は2022年9月26日から2023年9月26日までを集計)

ヘデラ・ハッシュグラフは、高速処理を可能にし、エネルギー効率に優れ、高いセキュリティを持っていることで企業が安心して利用でき、トークン発行や監査可能な様々なアプリケーションを構築できます。これらの利点を実現しているのが、ハッシュグラフというコンセンサスアルゴリズムです。

ブロックチェーンと異なる技術の「ハッシュグラフ」とは

ハッシュグラフはヘデラ・ハッシュグラフの共同設立者兼チーフ・サイエンティストであるリーモン・ベアード博士が発明したオープンソースの分散型コンセンサスアルゴリズムです。「ゴシッププロトコル」と「仮想投票」という仕組みのほかに、非同期ビザンチン障害耐性(Asynchronous Byzantine Fault Tolerance:aBFT)を持つことが特徴です。

aBFTには、ハッキングやネットワーク攻撃への耐性が非常に高いという特性があります。

一方で、ハッシュグラフは分散型台帳とはいっても、ブロックチェーンとはやや異なる技術です。ブロックチェーンは下図左側に示すように、ブロックが一本の鎖(チェーン)に繋がれたようなデータ構造になっており、同時にブロックが生成されると分岐(フォーク)が発生します。ただし有効なチェーンは最も長い一つだけです。しかしハッシュグラフ(下図右側)では全てが順序づけられて処理されるために分岐が発生しません。

へデラハッシュグラフのホワイトペーパー(https://hedera.com/hh_whitepaper_v2.1-20200815.pdf)から引用

分岐が発生しないことでネットワークの安定性を高く保てるため、企業にとっても採用しやすい技術となります。ハッシュグラフのデータ構造は有向非巡回グラフ(DAG:Directed Acyclic Graph)と呼ばれています。

ゴシッププロトコル

このような、分岐が発生しないネットワークは「ゴシッププロトコル」と「仮想投票」という仕組みを採用していることで実現しています。

ゴシッププロトコルは参加者間で繰り返し情報を交換する手法です。例えばAさんが情報を伝える時にランダムでBさんを選びます。そしてAさんは知っている情報全てをBさんに伝えます。Aさんは別の人に同様の作業を繰り返します。

一方でFさんもAさんのようにランダムに誰かを選び、知っている情報を全て伝えます。ほかのメンバーも同じことを繰り返します。この方法によって誰かが新しい情報を得た際に、コミュニティ内で素早く広がり、情報が共有される方法が「ゴシッププロトコル」です。「ゴシップ」というようにある情報が瞬時に広がっていくようなイメージです。

ハッシュグラフでは、このゴシッププロトコルを使ってタイムスタンプやトランザクション、ハッシュ値といった情報がまとまった「イベント」が作成され、伝播します。

このイベントが全て処理されるため、ブロックチェーンのように分岐が発生しません。またPoWのようにマイナーが存在しないために消費エネルギーも少なくて済みます。

仮想投票

ただ、ゴシッププロトコルを使い、全ての情報を行き来させ「投票(承認)」すると大量の情報量になってしまいます。そのために「仮想投票」によってネットワーク全体で投票をする必要がない手法を採用しています。

仮想投票は、投票情報を交換せずに各ノードが「持っていると予測できる」投票を推測・計算することでデータ量を削減するシステムです。さらに仮想投票のルールに基づいて計算することで不正投票が難しくなるほかに、各ノードが自分が持っているイベントと他のノードが持っている投票情報を実際に送受信することがないために処理速度が向上できます。

ヘデラ・ハッシュグラフの特徴

ヘデラ・ハッシュグラフは、開発者が3つの主要サービスを使用して分散型アプリケーションを構築することを可能にします。

3つのサービスとは、へデラスマートコントラクトサービス(HSCS)、ヘデラコンセンサスサービス(HCS)、ヘデラトークンサービス(HTS)です。この3つの主要サービスを利用し、使いやすいAPIと公式サポートとコミュニティにサポートされたSDKを通じて、分散型アプリケーションを構築できます。

HSCSでは、へデラ・ハッシュグラフ上においてSolidityで書かれたスマートコントラクトを展開できます。イーサリアム仮想マシン(EVM)との互換性があり、Solidityを変更せずに実行できます。

HCSは不変で検証可能なタイムスタンプ付きのイベントデータを記録する監査可能なログを作成するサービスです。サプライチェーン全体の出所の追跡やブロックチェーンのネットワーク間の転送の記録、DAO(分散型自律組織)での投票のカウント、IoT デバイスの監視などさまざまなアプリケーションを構築できます。企業が利用する従来のプライベートチェーンやコンソーシアムチェーンでは、ネットワーク障害や少数の関係者による共謀リスクがあります。

HCSは検証可能なログや順序付けを行うことで改ざんされていないかを証明できます。

企業はプライバシーを確保しつつ、必要な箇所だけパブリックにするなど、自由度が高い設計が可能です。

3つ目のHTSはファンジブルトークン(FT)やノンファンジブルトークン(NFT)を発行・管理できるサービスです。へデラ・ハッシュグラフの安価な手数料やネットワークの安定性を享受したトークン設計が可能になります。

グローバル企業が参画するヘデラ運営審議会

ヘデラ・ハッシュグラフは、ヘデラ運営審議会によって運営されています。

この審議会は、最大で39の主要なグローバル組織が参加する専門家審議会です。2023年9月現在では11の異なる業界と幅広い地域にまたがり、29の企業が参加しています。
参加企業にはGoogleやIBM、ボーイング、野村ホールディングスといったグローバルの大手企業の他にチェーンリンク・ラボといった暗号資産業界からも参画しています。

運営審議会は完全に分権化されており、ソフトウェアのアップグレードやネットワークの価格設定、財務管理などに関して、すべてのメンバーが同等の投票権を持ちます。またヘデラ・ハッシュグラフから利益を受け取ることはないとされています。ヘデラ運営審議会は、ネットワークの長期的な利益のために、完全に分散化された、賢明で安定したガバナンスというヘデラのビジョンを実現するように構成されています。

運営審議会のメンバーは任期制で、3年の任期を最大で2任期まで延長できます。
また、ヘデラ運営審議会の議事録は、メンバーの過半数によって受理された後、遅くとも30日以内に一般に公開されるように、透明性を持って運用されます。

上記のように、ヘデラ・ハッシュグラフは運営審議会によって中央集権的に運営されていますが、これは世界的な大企業が入ることで世界中のどのような規制に対しても準拠できるように運営されることを意図したものです。

ヘデラ・ハッシュグラフのユースケース

ヘデラ・ハッシュグラフのユースケースは決済や分散型金融(DeFi)、NFT、分散型IDなど多岐にわたります。

2022年1月には英ロンドンの航空技術会社と協力して、複数の機体が長距離の飛行中でも安全に運航できるようにするための試験に利用されました。

ここではヘデラコンセンサスサービス(HCS)を利用して、ドローンデータを収集、保存、順序付に使われました。フライトで得られた数百万のデータが生成され、それらをログに記録し、順序付けるために高速で安定したヘデラ・ハッシュグラフが選ばれたようです。

そのほかに安価な手数料という特徴を利用して、トークン化されたカーボンクレジットを発行するプロジェクトやデータの透明性と信頼性を担保するためにヘデラ・ハッシュグラフを利用したクーポンの発行などに使われています。

HBAR(ヘデラ/ヘデラハッシュグラフ)の今後

ヘデラ・ハッシュグラフは現在「パーミッション型パブリックネットワーク」と自身を位置付けています。これは招待を受けないとノードになれない状態のことを指しています。

今後はビットコインやイーサリアムと同様の仕組みである完全な分散型ネットワークの「パーミッションレス型パブリックネットワーク」に移行を計画しています。

この分散型ネットワークに向けて、ヘデラ・ハッシュグラフは3つのフェーズを設けています。

  • フェーズ1:運営審議会のメンバーのみがノードを立ち上げ

    ノードはヘデラ運営審議会メンバーが管理。審議会メンバーが管理するノードに対してヘデラ・ハッシュグラフの「プロキシステーキング(ノードを実行しないアカウント所有者のトークンを他のノードを通じて間接的にステーキングすること)」が行われる。

  • フェーズ2:多数のパーミッション型ノードの立ち上げ

    ヘデラ運営審議会メンバーに加えて、メンバーにパートナー組織である第三者もノードの立ち上げが可能。メンバー以外の第三者にもプロキシステーキングができる

  • フェーズ3:ノードが分散化

    運営審議会のメンバーが39に達し、誰でもノードになれる段階。運営審議会とは独立したステーキング市場が生まれ、トークンが広く分散される。

2023年9月現在はフェーズ2の段階で、フェーズ3に向けて開発が進められています。

まとめ

へデラ・ハッシュグラフは、主に企業向けに開発された分散型台帳技術(DLT)です。ブロックチェーンとは異なるデータ構造や独自のコンセンサスアルゴリズムによって高速処理や安定したセキュリティ、安価な手数料を実現しています。

運用主体であるヘデラ運営審議会にはGoogleやIBM、ボーイング、野村ホールディングスなどの世界の名だたる大企業が名を連ねていることからも、世界中の規制に準拠しながら運用されていくことでしょう。

2023年9月現在は中央集権的に運用されていますが、今後は分散型に移行していくことが計画されており、最終的に誰でもノードになることができます。ビットコインやイーサリアムのように分散的でありながら企業にとっても使いやすい技術として運用されることが可能になるかもしれません。

※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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