暗号資産(仮想通貨)のオフチェーンとは?データ量を削減する重要技術
ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)など人気の暗号資産(仮想通貨)では、トランザクションが通常より多く発生すると、送金遅延や手数料が高騰するといった問題が発生することがあります。そうした問題の解決策として期待されているのが「オフチェーン」という技術・手法です。
オフチェーンは手数料高騰といった問題の他にも、投げ銭といったマイクロペイメントにも応用されます。この記事では暗号資産のユースケースの広がりを支えるオフチェーンについて解説します。
データ量を削減する「オフチェーン」
ブロックチェーンはトランザクションデータの塊である「ブロック」を、インターネット上に鎖のように連ねて管理しています。オフチェーンは、このブロックチェーンの「外」でトランザクションデータの処理を行う技術を表す言葉です。
わざわざ「外」でデータを処理するのは、ビットコインといったブロックチェーン上での処理スピードが決まっていることが理由です。
ブロックチェーンは人気が高まったり、話題になったりすることで突如取引が増加することがあります。そうした際には大量のトランザクションデータが送られることで処理スピード以上のデータ量がブロックチェーンに寄せられ、データ処理が追いつかなくなります。これは「スケーラビリティ問題」と呼ばれます。
ただし、トランザクションデータの中には、途中の取引を省略しても問題ないと考えられるものがあります。例えばAさんとBさんの二者間で以下のように取引が行われたとしましょう。
【取引前の保有暗号資産:Aさん10BTC:Bさん0BTC】
・AさんがBさんに10BTCを送金(Aさん0BTC:Bさん10BTC)
↓
・BさんがAさんに8BTCを送金(Aさん8BTC:Bさん2BTC)
↓
・AさんがBさんに5BTCを送金(Aさん3BTC:Bさん7BTC)
↓
・BさんがAさんに3BTCを送金(Aさん6BTC:Bさん4BTC)
こうした際の取引記録では、中間の処理がなくても最初(Aさん10BTC:Bさん0BTC)と最後(Aさん6BTC:Bさん4BTC)のデータだけをブロックチェーンに記録したとしても問題ありません。
オフチェーンでは、このように中間の処理をブロックチェーンの「外」で処理し、一定期間の取引の最初と最後の結果だけをブロックチェーンに記録します。そうすることで、膨大なトランザクションをすべて処理することなく、データ量を削減できるという考え方です。
ブロックチェーンの「外」で処理するため、すぐにブロックチェーンにトランザクションといったデータが送られず、データ処理も高速化できます。
ただし、オフチェーンの技術自体はブロックチェーンではなく、ブロックチェーンを作ることもありません。そのため、ブロックチェーンの特徴の一つである高度なセキュリティに関しては、外部のブロックチェーンに頼る必要があります。
ちなみに、オフチェーンで暗号資産の処理を行う技術の総称をレイヤー2、またはセカンドレイヤーと呼びます。この場合にブロックチェーン自体のことはレイヤー1、またはオンチェーンと呼ばれます。
関連記事:「暗号資産(仮想通貨)のセカンドレイヤー(レイヤー2)とは」
ブロックチェーン上で処理する「オンチェーン」
前述したように、ブロックチェーン(レイヤー1)上での処理のことは「オンチェーン」と呼ばれます。
オフチェーンと異なり、オンチェーンではブロックチェーンにリアルタイムでトランザクションが記録されていきます。
ただし、オンチェーンではデータが膨大になるために送金遅延や手数料高騰といった「スケーラビリティ問題」が発生します。オフチェーンはこのスケーラビリティ問題を解決するために生まれました。
ちなみに、ブロックチェーンはトランザクションが公開されているために、この「オンチェーン」を使った価格分析があることも特徴の一つでしょう。なお「オフチェーン分析」という手法はありません。
関連記事:「ビットコインのオンチェーン分析とは」
スケーラビリティ問題とは
ビットコインブロックチェーンでは、1ブロックの承認に10分かかり、1ブロックに書き込めるデータ量もビットコインでは1MBに制限されているため、1秒あたりに可能な決済回数は7〜10件程度です。
そのため、ビットコインネットワークに多くのトランザクションデータが送られると、処理が追いつかなくなり、送金遅延が起きます。また、マイナー(採掘者)はより高い手数料が設定されたブロックから承認作業を行うインセンティブが働くために、手数料が高騰してしまいます。このように、処理が追いつかなくなることで送金遅延と手数料高騰が起こることが「スケーラビリティ問題」と呼ばれています。
スケーラビリティ問題は、ビットコインやイーサリアムなどで度々発生しています。
最初に広く知られるようになったのは、2017年12月に暗号資産(仮想通貨)バブルが起きたときでしょう。投機的な盛り上がりやブロックチェーンへの期待感から新規参入者が増加したことで、トランザクションが処理しきれなくなり、ビットコインやイーサリアムの手数料が高騰しました。
イーサリアムでは2020年の夏、DeFi(分散型金融)の人気が高まった「DeFiの夏」で手数料が当時過去最高を更新しました。DeFiがイーサリアム基盤で構築されたことでイーサリアムのトランザクションが急増してスケーラビリティ問題が起こりました。暗号資産特有の新技術への期待感が引き起こした現象です。
ビットコインも2023年4月に再びスケーラビリティ問題が発生しています。原因はビットコインブロックチェーンで構築される「BRC-20」トークンに注目が集まったことでした。BRC-20トークンと同様の技術で「ビットコインNFT」が作成されたことも話題となり、ビットコインブロックチェーンを使ったトランザクションが急増し、海外の大手暗号資産交換業者では一時ビットコインの出金が停止する事態まで発生したほどです。
暗号資産に関する技術が日々開発される中で、常にスケーラビリティ問題は発生しています。
オフチェーンを用いることで、これらのスケーラビリティ問題が解決されることが期待されています。
オフチェーンの種類
実際に、オフチェーンを使ったさまざまなレイヤー2技術があります。代表的なものをご紹介しましょう。
ライトニングネットワーク
ライトニングネットワークは、オフチェーンを使うことで、取引を高速かつ安価に実現します。ビットコインやライトコインに導入されています。
ユーザー同士が支払いをピアツーピア(P2P)で行うことで、トランザクションをその都度ブロックチェーンに送る必要がありません。ユーザーは最初の読み込みトランザクションと最後の決済トランザクションのみをブロックチェーンに送ります。途中のトランザクションがブロックチェーンに書き込まれないために、ユーザー側にとってはプライバシーが高まり、安価な手数料で取引を行うことができます。
方法としては、オフチェーンで送受金者間に取引経路(チャネル)を設けます。取引する二者は、チャネルにあらかじめビットコインを入金しておき、チャネルを通じて取引を行います。
二者は入金額の上限の範囲内で自由に送受金が行うことができます。
一方で、ライトニングネットワークには、取引する両者がオンラインでなければいけなかったり、高額取引に向いていなかったりするという課題があります。
また、運用が複雑なために導入が進んでいないという指摘もあります。
ロールアップ
ロールアップは、主にイーサリアムのオフチェーンを使って開発されているレイヤー2技術です。オフチェーンで処理されたトランザクションのデータを、ひとまとめにして巻き上げるようにブロックチェーンに戻す様子から「ロールアップ」と呼ばれています。
元々ロールアップの技術は、イーサリアムのスケーラビリティ問題を解決するためにイーサリアムの考案者であるヴィタリック・ブテリン氏とライトニングネットワークの開発者ジョセフ・プーン氏によって考案されたPlasma(プラズマ)という技術から派生しています。
技術の元になったプラズマは、データをレイヤー2で処理することを目指して開発されてきましたが、ロールアップはプラズマとは異なりデータ処理の一部をレイヤー2で行い、レイヤー1(オンチェーン)にも処理の一部を残してトランザクションの証明をレイヤー1で行うことが大きな違いです。そのため、ロールアップはハイブリッドなレイヤー2技術ともいわれています。
ロールアップの強みは、レイヤー1のセキュリティと堅牢性をそのまま利用できることと、スマートコントラクトに対応していることです。
仕組みとしては、オフチェーンでトランザクションを実行し、そのデータを抽出、圧縮します。その圧縮されたデータがレイヤー1に送られます。
レイヤー2から提出されたデータは、レイヤー1に構築されているスマートコントラクトによって、トランザクションデータの真正性(正当性)が検証されます。検証後、データが正当なものであればそのままレイヤー1のブロックに取り込まれます。
オンチェーンを使うといっても、トランザクションの大部分はオフチェーンで実行されており、オンチェーンでは資金の移動と正当性の検証のみを行うために、トランザクションを個別に処理する必要はありません。
ロールアップにはオプティミスティック・ロールアップ(Optimistic Rollups)やZKロールアップ(ZK-Rollups)といった応用技術が開発されています。
関連記事:
「イーサリアムで導入が検討されているロールアップ(Rollups)とは?応用技術についても解説」
まとめ
オフチェーンとは、ブロックチェーンの「外」でトランザクションを処理する技術です。
ビットコインやイーサリアムなどで大量の取引がブロックチェーンに送られることで発生するスケーラビリティ問題を解決する技術として期待が集まっています。
オフチェーンを利用したレイヤー2技術としては、ライトニングネットワークやロールアップなどが知られています。ただ、それぞれの技術は開発中のものもあり、それぞれに課題もあります。
しかし、スケーラビリティ問題が起きるたびにオフチェーンへの注目が高まっていることからも、徐々に普及が進んでいきそうです。
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