アービトラム (Arbitrum)とは?将来性や今後を解説

イーサリアム(ETH)ブロックチェーンは、人気の上昇と需要の過多によって取引処理の遅延や手数料の高騰が起こる「スケーラビリティ問題」が度々発生しています。
アービトラム(Arbitrum)は、イーサリアムのスケーラビリティ問題を軽減させるために開発されたレイヤー2に分類されるブロックチェーンです。
イーサリアムのレイヤー2ブロックチェーンには、すでに様々な技術がありますが、アービトラムは誕生以来その人気は高く、常に注目されています。
この記事では、アービトラムを詳しく解説し、そのメリットや将来性についても紹介していきます。
アービトラム (Arbitrum)とは?

アービトラムは、米プリンストン大学の研究チームが率いるOffchain Labsが開発する、イーサリアムのスケーラビリティ問題を解決するレイヤー2ソリューションの一つです。
レイヤー2とは、ブロックチェーンの「外」でトランザクション(取引)を処理する手法です。本来ブロックチェーン上でおこなわれるトランザクションの一部を引き受けることにより、ブロックチェーンの負荷軽減や処理速度向上に寄与します。
イーサリアムは人気が高まり需要が増すと、トランザクションの処理が追いつかずに送金遅延やガス代(取引手数料)の高騰により様々な支障をきたす「スケーラビリティ問題」が発生します。
2020年10月にテストネットをローンチしたアービトラムは、そうしたイーサリアムの問題を解決することができるブロックチェーンプロジェクトとして開発がスタートしました。Web3アプリやDApps(分散型アプリ)の開発や実行など、イーサリアムで実行可能なすべてのことを行うことができます。
関連コラム:「暗号資産(仮想通貨)のセカンドレイヤー(レイヤー2)とは」
アービトラム (Arbitrum)が持つ二つのメインネット
アービトラムは、2021年5月にアービトラムのメインネット「アービトラム・ワン(Arbitrum One)」ベータ版が開発者のみに公開され、その後8月31日に正式版をローンチし一般向けに公開されました。アービトラム・ワンは誰でもバリデーターになれるパブリック型のブロックチェーンです。
その後2022年7月12日、一部の選ばれたバリデーターのみが参加可能な新しいブロックチェーン「アービトラム・ノヴァ(Arbitrum Nova)」を開発者向けにローンチしました。
こうしてアービトラムは、アービトラム・ワンとアービトラム・ノヴァの2種類のメインチェーンが稼働するという珍しい形をしています。
先にローンチされたアービトラム・ワンはDeFi(分散型金融)やNFT(非代替性トークン)向けなのに対し、一方のアービトラム・ノヴァはブロックチェーンゲームやソーシャルアプリ向けに設計されています。
アービトラムは、アービトラム・ワンのベータ版の公開から正式版のローンチまでの3ヵ月間で、イーサリアム上で人気のDEX(分散型取引所)であるUniswapのv3がすぐにアービトラム・ワン上に展開されるなど、350超のプロジェクトがアービトラム・ワンに対応することが発表されました。このことから、従来のプロジェクトや技術者のアービトラムへの注目度が高いことがわかり、世間でも一気にアービトラムは話題になりました。
アービトラム (Arbitrum)で使われている技術

2021年8月にメインネットが正式に稼働したアービトラムは、日々新しい技術が開発されています。特にイーサリアムのスケーラビリティ問題解決に向けたアービトラム・ニトロ(Arbitrum Nitro)やアービトラム・ブリッジ(Arbitrum Bridge)といった技術があります。
アービトラム・ニトロ(Arbitrum Nitro)
高スループット(処理できるデータ量が多いこと)で低コストのスマートコントラクト環境を提供するアービトラムでは、パフォーマンスの向上が常に進められています。2022年8月にはOffchain Labsが独自開発をするブロックチェーンネットワークのテクノロジースタック「アービトラム・ニトロ(Arbitrum Nitro)」が発表されました。
テクノロジースタックとは、基本的にプログラミング言語、フレームワーク、ライブラリ、ツールの組み合わせで、開発者がより速く、より効率的にソフトウェアを構築することを可能にするソフトウェアです。
アービトラムの2種類のブロックチェーンであるアービトラム・ワンとアービトラム・ノヴァで、アービトラム・ニトロが使用されており、さらに安価な手数料やイーサリアムとの互換性が得られるようになりました。
さらに、アービトラム・ニトロは次世代アーキテクチャであるアービトラム・ロールアップ(Arbitrum Rollup)とゲームやソーシャルアプリ向けに設計されたアービトラム・エニートラスト(Arbitrum AnyTrust)を実装しています。
アービトラム・ロールアップ
イーサリアムの課題を解決するために生まれたアービトラムは、「ロールアップ」というレイヤー2技術を応用した「オプティミスティック・ロールアップ(Optimistic Rollups)」プロトコルを取り入れることで高い処理能力と安価な手数料を実現しています。この技術は「アービトラム・ロールアップ」と呼ばれています。
レイヤー2技術によってスケーラビリティ問題を解決するロールアップは、そのほかのレイヤー2技術とは異なり、レイヤー1のセキュリティと堅牢性をそのまま利用できるのが特徴です。また、アービトラム・ロールアップはEVMのような仮想マシンの実装が可能なため、イーサリアムのDAppsの移植やイーサリアムを基盤とする暗号資産(仮想通貨)間の取引を容易に行うことができるほか、スマートコントラクトにも対応できます。
さらに、ブロックチェーンのスマートコントラクトの計算およびストレージを切り離してレイヤー2上で処理してブロックチェーンに返すことで、イーサリアムのセキュリティを犠牲にすることなくイーサリアムの7倍の高スループットと低コスト(手数料)を実現します。
つまりユーザーは、アービトラムを利用することで安心安全に送金スピードの向上と手数料の削減が可能になります。
アービトラム・ロールアップでは、ロールアップチェーンに投入されるデータ(ユーザーの取引データ)がイーサリアムのブロックチェーン上に直接記録されるため、イーサリアム自体が安全に稼働している限り、誰でもアービトラム上で行われていることを可視化でき、不正を検出し証明する能力を持ちます。
他のレイヤー2ソリューションでもこれらの機能の一部と同等なものを提供するものはありますが、Offchain Labsは同じコストで同じ機能をすべて提供するシステムはアービトラムの他にはないと述べています。
関連コラム:「イーサリアムで導入が検討されているロールアップ(Rollups)とは?応用技術についても解説」
アービトラム・エニートラスト
アービトラム・エニートラストは、高いセキュリティを保ちながらトランザクションのコストを大幅に削減することに最適化された技術です。
エニートラストは、ロールアップのような分散化/トラストレス/パーミッションレスのセキュリティ保証がないため、より低い手数料環境を提供できるといいます。
ロールアップとエニートラストは多くの点で似ていますが、大きな違いが一つあります。
ロールアップではすべてのデータがレイヤー1に記録されるのに対し、エニートラストではデータがレイヤー2で管理されます。
ブロックチェーンゲームやソーシャルアプリのようなロールアップが提供する完全な分散化を必要としないアプリケーションの場合は、エニートラストを使用しコストを削減します。
ただし、エニートラストで不正が発生した場合は、エニートラストはただちにロールアップモードに切り替わり、高度なセキュリティ環境へと移行することができます。
アービトラム・ブリッジ
アービトラム・ブリッジ(Arbitrum Bridge)は、アービトラムのクロスチェーンブリッジです。イーサリアムからアービトラムのブロックチェーンに互換性を持たせ、イーサリアム(ETH)などイーサリアムで発行された暗号資産の移動を可能にします。
アービトラム (Arbitrum)の今後と将来性は?

アービトラムには、すでに多くのDeFi、NFT、Web3プロジェクトが参加しており、ロックされた資産の総額は21億ドルを超えています。
メインネット公開後、ほぼ即座にAAVE、CurveといったDeFi分野の有名サービスがアービトラムの採用を決定しました。また、SushiSwap、Balancer、Band Protocol、UniSwapなど著名なプロジェクトはすでにアービトラムを採用し、手数料の低減やトランザクションの高速化を実現しています。
ガバナンストークンの発行
アービトラムはこれまでOffchain Labsによって開発やその運営が行われてきましたが、2023年3月23日には、2022年12月31日までにアービトラムのレイヤー2ブロックチェーンを利用したユーザーや開発者などを対象に、DAOのプロジェクトの運営や意思決定に関わる投票に参加できるガバナンストークン「ARB」をエアドロップ(無料配布)しており、プロジェクトのDAO(分散型自律組織)による分散化(非中央集権化)が進められています。
イーサリアムの堅牢なセキュリティの利用とスマートコントラクトやDAppsの互換性を保つアービトラムは、イーサリアムのスケーラビリティ問題を容易に解決します。こうしたアービトラムの強力なブロックチェーンの利用を今後さらに促進することができれば、アービトラムのDAOによる分散化の促進とともに、イーサリアムのユーザーベースを増加させることにもつながります。
また、アービトラムは2023年中に多言語対応のプログラミング環境「Stylus」が実装される計画があります。Stylusが実装されることで、C言語を始めポピュラーなプログラミング言語を使ってEVMの互換性を保ったままDAppsの開発が行えるようになります。それによりエンジニアの参入障壁も下がるなど、アービトラムのコミュニティは拡大していくことも考えられます。
アービトラムの発展は、開発者にとっても大きなチャンスとなり、暗号資産(仮想通貨)によるイノベーションはさらに拡大されることが予想されるでしょう。
まとめ

イーサリアムのスケーラビリティ問題を解決するレイヤー2ソリューションは、アービトラム以外にも様々な技術が公開されています。また、イーサリアム自身もアップデートを繰り返しています。
そうした中で、アービトラムは運営主体がOffchain LabsからDAOへと移行したり、ガバナンストークンであるARBが発行されたりなど、注目すべきトピックが多く話題にこと欠きません。
DAOによる民主的な運営が、必ずしも良い方向性を導き出すとは限りませんが、今後のイーサリアムやDeFiの発展に寄与する、あるいは影響を及ぼす技術であることは間違いありません。その他の技術とともに、アービトラムは要注目の技術の一つではないでしょうか。
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