BRC-20とは?ビットコインブロックチェーンのトークン規格について解説
2023年4〜5月に、ビットコイン(BTC)ブロックチェーンの新たなトークン規格として「BRC-20」トークンの注目が高まりました。
BRC-20トークンで使われている技術は、ビットコインブロックチェーンを利用したNFT発行も可能にしました。NFTやトークン発行規格といえばイーサリアム(ETH)の「ERC」規格がほとんどでしたが、時価総額1位(2023年6月現在)のビットコインネットワーク上でNFTが作成できるということで一気に話題になったのです。
BRC-20トークンの発行とビットコインNFTによってビットコインブロックチェーン上の取引が活発化したことで、一時ビットコインの手数料が高騰する「スケーラビリティ問題」が起こりました。そのため、「BRC-20」という規格への批判的な意見もビットコイン支持者から集まりました。
このように大きな話題となっているBRC-20とはどのような技術なのか、そして批判も巻き起こる理由や将来性について解説します。
BRC-20とは
BRC-20は、ビットコインブロックチェーン上で流通する新たなトークン規格です。2023年3月に、Twitterユーザーのドモ氏が開発しました。
開発者のドモ氏によると、BRC-20という名称はイーサリアムのファンジブルトークンの発行規格である「ERC-20」に倣って名付けられた名称とのことです。ただ、ERC-20に比べて非常に単純な仕組みになっており、BRC-20トークンを設計する際に組み込めるのは「デプロイ」「発行」「転送」に関してだけです。
また、BRC-20トークンはERC規格のようにスマートコントラクト機能があるわけではなく、分散型金融(DeFi)と互換性もありません。そのため、2023年6月時点ではユースケースが広がるかは不透明です。
ドモ氏が開発内容を示した文書の冒頭には「いずれ無価値になる。自己責任で使うように」と記載があり、大量に発行されたBRC-20トークンのほとんどは価値がついていません。ドモ氏も、発行当初の2023年3月には「既存の取引所で安全に取引できるようになる可能性は低い」と述べていたほどです。
ただ、2023年6月時点で、BRC-20トークンをサポートする海外の大手暗号資産交換業者が出てきています。さらに、BRC-20トークンは34000種類を超え、全トークンの時価総額は1億5200万ドルに上っています(2023年6月現在)。一時10億ドルをこえる規模にまで成長したことに比べるとブームはやや落ち着いてきた印象はありますが、新たな開発も進んでいます。
オーディナルズとビットコインNFT(インスクリプション)とは
BRC-20は、ビットコインコアの開発者であるCasey Rodarmor氏が提案した「オーディナルズ(Ordinals)」と「インスクリプション(Inscription)」という手法によってトークンを発行する規格として設計されました。特にインスクリプションは「ビットコインNFT」とも呼ばれ、BRC-20トークンが話題になる前からビットコインでNFTの発行が可能になるとして注目を集めていました。
オーディナルズとは
「オーディナルズ」は、2023年1月に公表されたプロトコルです。
オーディナルズの日本語訳が「順序」や「序数」という意味を示すように、ビットコインの最小単位である「サトシ(satoshi)」に個別の番号を割り振り、それぞれに画像や動画、テキストといった特定の情報を関連づけることで、後述するインスクリプションを生成するというプロトコルとなっています。オーディナルズによって、サトシに割り振られた特定の番号の追跡と移転を可能にしています。
BRC-20トークンは、オーディナルズの特別なルールに従うことで通常のビットコインと同じように送付したり、ビットコインアドレスに保管したりできます。
インスクリプションとは
開発者のRodarmor氏によると、インスクリプションは「ビットコインブロックチェーン上に生成されるデジタル資産」と定義されます。オーディナルズによってサトシに割り振られた番号に画像や動画、テキストといったコンテンツを紐づけることで、インスクリプションを作成します。サトシごとに作成されたインスクリプションがイーサリアムのNFTと同様の非代替性を持ったことで、「ビットコインNFT」と呼ばれています。
BRC-20トークンとはオーディナルズによって割り振られた番号にJSON(JavaScript Object Notation)形式で書かれたテキストファイルを紐付けたインスクリプションです。テキストファイルでトークン規格を設計することで、BRC-20トークンというファンジブルトークンを作り出しました。
ビットコインNFTの大きな特徴として、イーサリアムやポリゴンのNFTなどとは異なりフルオンチェーンで保存されていることが挙げられます。
フルオンチェーンとは、証明書であるNFTや画像データなど全てがブロックチェーン上に記録されていることです。イーサリアム基盤で作成されたNFTは、大きなデータ容量をブロックチェーンに書き込むことができず、実際には情報と紐づいたデータのURLがブロックチェーンに記録されているものがほとんどです。画像といったデータ自体は分散型のファイルストレージに保存されています。しかし、分散型のファイルストレージにあるといっても、データが失われてしまうリスクは残っています。
データが全てブロックチェーンに記録されるフルオンチェーンにすることで、インターネットやブロックチェーン自体が消えることがない限りNFTが消えてしまうことはありません。
BRC-20トークンの課題
BRC-20トークンでは次のような課題が指摘されています。
・スマートコントラクトに対応していない
・ビットコイン手数料の高騰につながる
スマートコントラクトに対応していない
前述したように、BRC-20トークンにはデプロイと発行、転送というシンプルな機能しかないため、ERC-20規格のように、あるプログラムを自動で実行するスマートコントラクト機能はありません。
ERC-20ではスマートコントラクトが実装されていることで複雑な機能を実行でき、分散型金融(DeFi)や分散型アプリ(DApps)といったユースケースが広がっています。しかしBRC-20にはスマートコントラクト機能がないため、スマートコントラクトが行う作業をツールやウォレット側で処理する必要があります。
また、ERC-20規格のようにユースケースの広がりやエコシステムがないために、資産価値について疑問を呈する人々も出ています。
海外の暗号資産交換業者やウォレットではBRC-20トークンへの対応が進められているものの、今後、スマートコントラクトのような技術が導入されるかはわかりません。
ビットコイン手数料の高騰につながる
BRC-20トークンはビットコインブロックチェーンを利用するため、取引が膨大になるとスケーラビリティ問題に繋がり、手数料の高騰や送付遅延が起きてしまいます。実際にビットコインブロックチェーンのトランザクションでBRC-20を含むオーディナルに関するトランザクションの割合は2023年5月に60%に達し、平均手数料も10倍に高騰しました。こうした影響で海外の大手暗号資産交換業者では一時的にビットコインの出金が停止される状況にも繋がりました。
従来のビットコイン支持者からは、ビットコインブロックチェーンに悪影響を及ぼしているとして非難の声も上がっています。そのためにビットコイン開発者からはBRC-20トークンをビットコインブロックチェーンから削除することも提案されています。2023年6月現在は議論の段階ですが、もし提案が合意されれば、BRC-20トークンに大きな影響を与えるでしょう。
関連コラム:
「ERC-20とは?トークン発行で注目のイーサリアム規格」
「盛り上がりを見せる分散型金融(DeFi)とは?仕組みも紹介」
BRC-20、ビットコインNFTの将来性は?
BRC-20トークンよりも前に注目を集めたのは「ビットコインNFT」でした。2023年2月に、人気NFTコレクションを手掛ける「ユガラボ(Yuga Labs)」という企業がビットコインNFTを販売したためです。それまでイーサリアムでしかNFTを発行したことがなかったユガラボが、ビットコインを使ったNFT発行に初めて参入したとして話題になりました。
しかし、BRC-20トークンやビットコインNFTにはユースケースの広がりが期待できないことが話題となっているためか、2023年6月現在はユガラボの後にビットコインNFTに取り組む事例は乏しいのが現状です。
一方で、そうした課題解決のために新規格「ORC-20」や「BRC-21」、「BRC-721E」などの開発が進められています。
ORC-20は、拡張性やセキュリティを向上させながら応用性を向上させることを目的とした新たな規格です。また、BRC-21ではビットコイン以外のブロックチェーンのトークンをビットコインブロックチェーン上で発行可能にする仕組みとして提案されています。
2023年5月にローンチされたBRC-721Eはイーサリアムブロックチェーン上で流通するNFTをビットコインブロックチェーン上に移行するためのプロトコルです。BRC-721Eによってゲームやアート作品といった、大きなデータにも対応可能になるために、ビットコインNFTの将来性に大きな影響を与えると期待されています。
これらの技術が導入されることでビットコインNFTの市場価値が高まれば、BRC-20トークンの利用も増えてくるかもしれません。
ただし、これまでBRC-20トークンには投機的な動きもみられます。BRC-20トークンの中には17日間で7000%も価格が上昇した銘柄があるものの、この上昇は一時的な話題に投資家が殺到したことによるもので、急騰した後に3週間後には時価総額が3分の1ほどに急落しました。
まとめ
BRC-20トークンはERC-20を模した、ビットコインブロックチェーンにおける新しいトークン規格です。
暗号資産(仮想通貨)だけでなく、ビットコインブロックチェーン上でのNFTの発行も行われており、注目を集めています。デジタル資産投資会社Galaxy Digitalは「ビットコインNFT」市場が2025年までに45億ドルに達する可能性があると見ているほどです。
BRC-20のように暗号資産業界では次々の新しい技術やサービス、銘柄が生まれていますが、投機的な動きがあることにも注意しておきましょう。
また、BRC-20を開発したドモ氏自身も「BRC-20トークンが既存のマーケットプレイスで安全に取引できるようになる可能性は低い」と発言するように、取引には注意が必要です。
なお、日本の暗号資産交換業者では2023年6月末現在でBRC-20トークンの取り扱いはありません。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
関連記事
-
ビットコインアドレスの仕組みとは?利用時に注意すべきポイント
ビットコイン(BTC)を受け取ったり送ったりするためには、「ビットコインアドレス」を通じたデータのやりとりが必要になります。今回は、ビットコインアドレスを取得して、ビットコインを送受信する方法やその際の注意点などを詳しく解説していきます。
-
暗号資産を安全管理!ウォレットにはどのような種類がある?
ビットコイン(BTC)を購入後の保管の仕方は大きく分けて2通りあります。暗号資産交換業者のウォレットに預けておく方法と、自分で用意したウォレットを利用する方法です。本記事では、初心者にとって使いやすいウォレットを解説します。
-
レイヤー0ブロックチェーンとは?レイヤー1、レイヤー2との違いを解説
ブロックチェーン技術のアーキテクチャー(構造・構成)について語るときに、レイヤー1、レイヤー2という用語が使われます。近年では、さらに重要な概念としてレイヤー0(Layer0)という用語使われるようになりました。この記事ではレイヤー0について、レイヤー1やレイヤー2との違いも含めて詳しく解説していきます。
-
暗号資産(仮想通貨)の基幹技術である分散型台帳技術(DLT)とは?
分散型台帳技術(DLT)は暗号資産(仮想通貨)の基幹技術です。当記事では、DLTはどのような仕組みなのか、暗号資産とDLTの関係も含めて、詳しくご紹介します。
-
コンセンサスアルゴリズムとは?ブロックチェーンで使われる代表的な種類を解説
コンセンサスアルゴリズムは、暗号資産(仮想通貨)の基盤技術となるブロックチェーンがブロックを追加する際のルールとなるコンセンサス(合意)形成を行うアルゴリズム(方法)のことを指します。本記事では、代表的なコンセンサスアルゴリズムの種類や仕組みについて詳しく解説します。
-
イーサリアムとビットコインの違いは?特徴や仕組みから解説
イーサリアム(ETH)はビットコイン(BTC)と目的や用途が大きく違なり、プラットフォームとしての利用が想定されています。イーサリアム独自の特徴を理解して、情報収集を進めていきましょう。
-
ビットコインの仕組みについて初心者にもわかりやすく解説!
取引を始めるには、最初に仮想通貨の仕組みについて知っておくことが大切です。今回は「最初の仮想通貨」と呼ばれるビットコインを例にして、仮想通貨の基礎となっている「ブロックチェーン技術」や具体的な取引方法などを解説します。
-
ブロックチェーンのトリレンマとは?DAOでの新たな問題も解説
革新的な可能性を秘めているブロックチェーン技術は、「分散性」「セキュリティ」「スケーラビリティ」の3つの要素から成り立っているとされています。この記事では、ブロックチェーンやDAOのトリレンマについて詳しく解説します。
今、仮想通貨を始めるなら
DMMビットコイン