ウォーレン・バフェット氏は暗号資産(仮想通貨)に懐疑的?
「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏は、同氏が投資することがわかると「バフェット効果」という言葉が生まれ、株価に影響を与えるほどの人物です。しかしバフェット氏は暗号資産(仮想通貨)に懐疑的な姿勢で知られています。バフェット氏はなぜ暗号資産に懐疑的なのでしょうか。その姿勢はこれまでも変わっていないのか、そして今後変わる可能性はあるのか。バフェット氏の暗号資産への姿勢について解説します。
ウォーレン・バフェット氏はどんな人物?
2023年5月現在ですでに90歳を超えているバフェット氏は、長期間に渡って高い運用実績を持っていることで「投資の神様」との異名を持つ人物です。アメリカのネブラスカ州オマハに住んでおり「オマハの賢人」とも呼ばれています。
1964~2022年の58年間で同氏が会長を務める投資会社バークシャー・ハザウェイの収益率は年平均19.8%増加しています。これはS&P500の年平均9.9%を大きく上回っていることからも、投資で高い運用実績を残しており、投資家が注目するのがわかるでしょう。
こうしたバフェット氏の実績は幼い頃からビジネスに触れて育ってきたことで培われてきました。6歳の頃には購入したチューインガムをより高値で売ることで利益を上乗せするなどビジネスを経験。そうしたビジネスをもとに11歳の時にはすでに120ドル(現在の日本円で約24万円)の貯金をしていました。この経験から得た資金をもとに11歳で株式投資を始めるなど、子供の時から投資に触れていたことが知られています。
バフェット氏が会長を務めるバークシャー・ハザウェイは毎年5月に年次株主総会を開き、世界中から株主が訪れることでも知られます。同社はもともと繊維会社でしたが、バフェット氏が1965年に買収し、現在の世界有数の投資会社へと成長させました。
バフェット氏自身も資産家であり、世界の長者番付の常連です。フォーブス誌が発表した2023年の世界長者番付によると、約14兆円の資産を持ち、第5位に位置付けられています。
高い運用成績をもつ偉大な投資家であり資産家でもあるバフェット氏が投資することで、株価が上昇する「バフェット効果」という言葉が生まれるほど、同氏が購入する株式には注目が集まっています。
ウォーレン・バフェット氏の投資手法
バフェット氏の投資スタイルは大きく分けて「割安株を買うこと」と「長期的に業績が良いことが予想される株に投資する」という2点が挙げられます。
「割安株を買う」という手法は「バリュー投資」と呼ばれます。本来の価値より安く市場に出ている割安株を購入し、本来の価値まで上昇したら売却する手法です。
バフェット氏はこの「バリュー投資の父」と呼ばれるベンジャミン・グレアム氏を師と仰いでいます。しかしバフェット氏はグレアム氏のバリュー投資だけを判断基準としているわけではありません。
それが「長期的に業績が良いことが予想される株に投資する」という点です。この視点は「成長株投資の父」と呼ばれるフィリップ・フィッシャー氏から学びました。
バフェット氏はフィッシャー氏の手法から長期的に業績が良いことが予想される株式に投資しており、バフェット氏自身も「私の85%はグレアムから、残りの15%はフィッシャーからできているといっても過言ではない」と語るように大きな影響を受けています。
この2点の他にバフェット氏自身が「事業の内容を理解できる」という点や「経営者に能力がある」ということを大切にしています。
また、バフェット氏が株式を購入する時には売却を前提にしていません。「経営者が有能かつ誠実で、さらにマーケットがその企業を過大評価しないかぎり、私たちは喜んで無期限に持ち続けます。(ローレンス・A・カニンガム著『バフェットからの手紙【第8版】』より引用)」と発言するように、バフェット氏は利益を最大化するために、短期的ではなくより長期的に持ち続けることを重要視しています。
実際にどのような銘柄に投資しているのか
バフェット氏の投資銘柄にも注目が集まります。バフェット氏が投資する銘柄には長期的に成長することが予想されるためです。
2022年12月末に米国証券取引委員会に提出された資料によると、保有割合は米アップル株を39%、バンク・オブ・アメリカを11%、シェブロンに10%となっています。そのほかにもコカコーラやアメリカン・エキスプレス、クラフト・ハインツといった強いブランド力を持った企業が並びます。消費者の心を掴み、他社が真似をしにくい企業への投資を好んでいることがわかります。こうした企業は一時的なブームに左右されにくいと評価しているためでしょう。
バフェット氏は2000年ごろの「ドットコムバブル」の際にIT企業株には投資していなかったことで知られています。しかしバブルが弾けてから10年近く経った2011年にIBM株を購入し、2016年にはアップル社の株も購入しました。
この際は「IT企業」だから購入したのではなく、他社にない高いブランド力や事業性に魅力を感じたとされています。短期的なブームではなく、自分自身の評価軸に沿った投資を行っているのでしょう。
一方で2020年8月には日本の5大商社の株式を5%ずつ取得したことが明らかになりました。報道などによると、バフェット氏は日本の商社の「長期的な持続性」を評価していたとのことです。
ウォーレン・バフェット氏の暗号資産(仮想通貨)への姿勢
このように、企業の「長期的な持続性」に注目するバフェット氏は暗号資産(仮想通貨)に対してはどのように発言しているのでしょうか。
2023年5月末時点では、バフェット氏は暗号資産に関しては懐疑的なスタンスです。
これまでに「目にみえる価値を生んでいない」「10年後や20年後に存在しなくても驚かない」とビットコイン(BTC)を否定する発言を繰り返しています。バフェット氏が否定する根拠としては、「アパートは家賃を生み出し、農場は食料を生み出す」ので投資する価値はあるけれど、ビットコインにはその価値がないためだ」と発言しました。「ビットコインは実世界でのユースケースを生んでいない」という判断をしています。
さらに、バフェット氏の「右腕」でバークシャー・ハザウェイの副会長であるチャーリー・マンガー氏も「ビットコインは殺鼠剤」と言い放っています。これに便乗したバフェット氏もその後「殺鼠剤の二乗」とマンガー氏の発言を強調し同様の態度を示しました。
発言時期 | ビットコインに関する主な発言内容 |
---|---|
2014年3月 | 「10年後や20年後にビットコインが存在しなくても驚かない」 |
2018年1月 | 「おそらく殺鼠剤の二乗」 |
2020年2月 | 「暗号資産を保有することは一生ない」 |
2022年5月 | 「世界中のビットコインを集めても25ドルの価値にも満たない」 |
2023年4月 | 「ビットコインはギャンブルみたいなもの」 |
こうした発言について、暗号資産業界の著名人からは、ビットコインのみに言及しており、イーサリアム(ETH)やその他のアルトコインが実際に金融サービスを生み出していることを考慮していないために、バフェット氏の理解が深まれば投資に動くのではないかとの憶測も出ています。
過去には、自身が事業内容を理解し、今後の成長が見込めると判断すれば、投資することもありました。前述のように、IT企業株をITバブルがはじけてから数年後に購入したことがあります。さらに2020年にはこれまでベンチャー企業に投資をしてこなかったバフェット氏が、データサービス企業に7000万ドルを投じました。これは安定性を重視するバフェット氏にとって、今後の成長性がより魅力的に映ったためだと言えそうです。
バフェット氏の暗号資産(仮想通貨)関連の投資は?
暗号資産(仮想通貨)に否定的な発言を繰り返しているバフェット氏ですが、実は全く関係を持っていないわけではありません。暗号資産(仮想通貨)そのものには投資していませんが、暗号資産に関する事業を行なっている企業に投資を始めているためです。
2021年6月にはブラジルのデジタルバンクにバークシャー・ハザウェイが約550億円出資したことが報じられました。このデジタルバンクは実店舗を持たないネット銀行で、銀行口座を持たない消費者向けサービスで急成長しています。さらにビットコインの上場投資信託(ETF)を提供する取引プラットフォームを買収し、暗号資産事業に取り組んでいます。
バフェット氏は暗号資産への懐疑的な心情よりも、顧客数がネット銀行としては世界最大規模とされている、このデジタルバンクの成長性に期待を込めているとみられます。その後、バフェット氏は増資するなど、さらに資金を投下しました。
前述したように、バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイはこれまで投資してこなかったベンチャー企業に出資するなど、今後の成長性を重視しています。
バフェット氏はこれまでにフィンテック分野への投資には慎重な姿勢で知られていましたが、2022年にはVISAやマスターカードなど既存のクレジットカード企業の株式の売却を進めており、クレジット企業から新興のフィンテック分野に注目し始めているようです。こちらも成長性を見込んで投資を進めているといっていいかもしれません。
このほかにもU.S.バンコープなど暗号資産カストディサービスを開始している企業をポートフォリオに加えていました。ただし、U Sバンコープ株は2023年3月末時点の保有銘柄リストで全て売却していることがわかっています。
上記のように、バフェットはすでに暗号資産に間接的に投資しており、完全に無視しているわけではないように見えます。こうした動きは暗号資産への注目を高めることになるのではないかと指摘する声も出ているほどです。
ただ、バフェット氏の行動や発言に関しては、暗号資産やビットコイン価格へ影響は限定的です。過去には金(ゴールド)嫌いで知られるバフェット氏が金採掘企業株を購入し、同じく避難資産と主張されることもあるビットコインの上昇に関連したという指摘が出たことがありますが、この相関性は明確には示されませんでした。なお、バフェット氏はこの企業の株はわずか半年で売却しています。
まとめ
「投資の神様」であるウォーレン・バフェット氏の動きは、世界中の企業や投資家が注目しています。
そのバフェット氏は現在までのところ、暗号資産(仮想通貨)に関して否定的な言動が続いているのが事実です。
しかし、ビットコイン上場投資信託を扱う企業に投資をしたり、これまで投資してこなかったベンチャー企業に投資したりするなど、成長性を見込んだ出資を始めています。IT企業に投資した際のように、今後の動き次第では同氏の暗号資産への態度がどのように変わるかは分かりません。今後の言動に注目です。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
関連記事
-
暗号資産(仮想通貨)とエネルギー問題、ビットコイン価格への影響は?
暗号資産(仮想通貨)は、発行する際に、エネルギー、特に電力を大量に消費することが度々問題になっています。この記事ではビットコインに関するエネルギー問題について価格への影響とともに解説します。
-
主要国の政治経済が暗号資産(仮想通貨)に及ぼす影響
ブロックチェーンに参加している人たちが集団で管理している非中央集権型の暗号資産(仮想通貨)は、特定の国もしくはグローバルな政治経済の影響をあまり受けないような印象を抱くかもしれません。しかし、実際のところはどうなのでしょうか?本記事では、過去を振り返りながら、政治経済と暗号資産との関係性について探ってみます。
-
暗号資産(仮想通貨)の詐欺に注意!その手口を見抜くには?
2016年以降に「国民生活センター」へ報告されている暗号資産(仮想通貨)関連の詐欺やトラブルの事例を踏まえ、詐欺に遭わないための基礎知識や対策を紹介していきます。
-
暗号資産(仮想通貨)業界でも年々増加するロビー活動とは?米大統領戦で活発化
アメリカでは暗号資産(仮想通貨)に関するロビー活動(ロビイング)が活発に行われています。2023年から2024年にかけては、米大統領選前に報道も多くなりました。この記事では、ロビー活動とはどのようなものなのか、暗号資産業界でのロビー活動の動向も含めて解説します。
-
暗号資産(仮想通貨)取引に関わるリスク、サイバー攻撃について解説
暗号資産(仮想通貨)取引には様々なリスクが存在します。特に予期せぬ大規模なサイバー攻撃は大きなリスクになっています。この記事では、サイバー攻撃について詳しく解説します。
-
暗号資産(仮想通貨)で利益が出た場合の税金対策!納税額はどのように決まるのか
暗号資産(仮想通貨)を通じて得る利益に対して、どのような仕組みで税が課せられるのかをしっかり理解しておくことが重要です。今回は、ビットコインおよび仮想通貨の取引において税金が発生するタイミングや税額の計算方法、そして節税対策などについて解説します。
-
ビットコインなど暗号資産(仮想通貨)の確定申告方法を解説
ビットコイン(BTC)などの暗号資産(仮想通貨)を売買して利益が発生した場合には、翌年の一定期間内に自分で利益額を計算して確定申告し、納税する必要があります。ここでは、2023年10月現在の税制で仮想通貨の取引において、利益が発生した際に確定申告する所得の扱いや違反した時の罰則についてご紹介します。
-
19歳でイーサリアムを開発したヴィタリック・ブテリンとは
2023年9月現在で時価総額2位であるイーサリアムは発表当時、弱冠19歳だったヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏が開発を主導しました。この記事では、今後のイーサリアムの行方を占うためにも最重要人物であるヴィタリック・ブテリン氏について解説します。
今、仮想通貨を始めるなら
DMMビットコイン