暗号資産(仮想通貨)に影響与えるSEC(米国証券取引委員会)とは?

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SEC
2023-08-16 更新

暗号資産(仮想通貨)の価格や取引に大きな影響を与えるとして、頻繁にニュースに登場するのがSEC(米国証券取引委員会)です。2020年12月には米リップル社に対してXRP発行が違法であるとして訴訟を起こし、その直後にXRP価格は急落しました。

暗号資産は株式や商品市場と比べて歴史が浅いため、規制整備が進んでおらず、SECによる規制の動きは重要なファンダメンタルズの要因となります。

この記事では、暗号資産市場を規制するSECとはどのような組織なのか、そして暗号資産価格に影響を与える理由について解説します。

SEC(米国証券取引委員会)とは

SEC(Securities and Exchange Commission)は日本語で「米国証券取引委員会」と訳されます。1934年に設立され、アメリカでの投資家保護を目的に、ディスクロージャー(企業の情報開示)の透明性確保と公平な市場の実現を目指す公的機関です。

SECは連邦証券取引法に関して、行政、立法、司法の全ての権限を持っています。具体的には行政手続きを通じて差し止め命令や罰金を科すことができます。インサイダー取引や相場操縦といった取引を行なったものを処分する権限を持ち、度々、違反したとされる企業を訴えています。原告として民事訴訟を起こすことも、刑事事件を法務省に付託することもできます。

SECは証券業者、ブローカーディーラー、投資アドバイザー、レーティング機関、ミューチュアルファンドなど、証券市場を構成する多くの参加者の規制を行います。

SECは大統領が任命し、上院で承認された4名の委員と1名の委員長によって構成され、任期は5年です。2023年5月現在は、ゲーリー・ゲンスラー氏が委員長を務めています。ゲンスラー委員長はゴールドマン・サックス出身で、MITスローン経営大学院でブロックチェーンの研究を行なった経歴をもち、ブロックチェーン技術にも明るい人物として知られています。組織としては弁護士や会計士、ITなどさまざまな専門家で構成され、日本での「証券取引等監視委員会」及び「公認会計士・監査審査会」を併せ持つ組織に該当します。

また、法的な効力はありませんが、SECが発行する「ノーアクションレター」に関しても投資家は重要視します。ノーアクションレターとは特定の案件や内容について法に触れているかの判断基準になるものです。

暗号資産(仮想通貨)とSECの関係

2023年5月末時点において、暗号資産(仮想通貨)とSECの関係で主な焦点は「暗号資産が有価証券に該当するか」と「ビットコイン現物ETFの上場許可」の2点だと言えるでしょう。

暗号資産(仮想通貨)が有価証券に該当するか

アメリカでは暗号資産が有価証券に該当するのか、それともコモディティ(商品)にあたるかの線引きについて議論が続いています。有価証券とコモディティでは監督する規制当局が異なります。有価証券であればSECが監督し、コモディティであれば商品先物取引委員会(CFTC)が担当します。規制当局間の勢力争いもあり、どちらの規制対象になるかは決まっていません。

しかし、SECはXRPなど多くの暗号資産が有価証券に該当するとして、事業者を次々に摘発しています。そこで問題になってくるのは、暗号資産にどのような性質があれば有価証券に該当するかの明確な基準やガイドラインをSECが示していないことです。(2023年5月現在)

そのため、摘発されてから初めて事業者側は違反しているかどうかがわかる状況になっており、「執行に基づいたアプローチ」として暗号資産業界からは度々批判の声が上がることがあります。明確な規制が提示されていないため、アメリカから暗号資産企業が海外に流出することを懸念する声も出ています。

実際に罰金が課されることが伝わると不安要因が高まり、該当プロジェクトの暗号資産の価格が突如下落するといった影響も過去にありました。

もしも、ある暗号資産が有価証券であると判断された場合、監督権限を有するSECからの監視が、今まで以上に強化されることになります。暗号資産企業にとっては煩雑な登録・報告義務が課されます。

さらに、これまでSECの承認を得ずにトークンを発行してきた企業やプロジェクトに対して、突如罰金が課されるケースが増えるかもしれません。

一方で、ポジティブな面としては取引の健全性や安全性が高まり、これまでと比べれば価格変動も落ち着く可能性もあるため、投資家保護の観点からも非常に有意義と考えられます。

2022年11月に海外の大手暗号資産交換業者FTXトレーディングが破綻して以来、SECは取り締まりを強化しています。2023年に入ってからは、特に暗号資産レンディングサービスを提供している事業者をSECは摘発しています。SECは事前に訴訟の可能性を警告するウェルズノーティスという通知書を送付するのが一般的です。

関連記事:「ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)は有価証券化されるのか?

ビットコイン現物ETFの上場許可

次にSECと暗号資産の動きとして注目されるのが「ビットコイン現物ETFの上場許可」です。

ビットコインETFとはビットコインの価格に連動したETF(上場投資信託)のことです。ETFはある特定の指数に連動するように設計されており、証券取引所で売買される投資信託です。具体的な仕組みは上場申請されるビットコインETFの商品設計に依存しますが、金(ゴールド)ETFと同様に、ビットコインの現物価格や先物価格に連動する商品です。

ビットコインETFに関しては、アメリカではすでにビットコインの先物ETFが上場しています。しかし、現物ETFは2023年5月現在で上場が認可されていません。現物ETFが上場すれば機関投資家の資金が流入するとして、流動性が高まり、売買しやすくなります。ビットコインへの投資額も増え、価格にも影響が出るでしょう。

このETFをアメリカの証券取引所に上場させる許可をするのがSECです。SECが許可していない理由は、ビットコイン市場での詐欺的な行為や既存の金融市場に比べて市場規模が小さいことから、相場操縦の恐れがあることが解決されていないためと発表されています。

関連記事:「ビットコインETFとは?その仕組みは?実現されると何が変わるか?

SECによる過去の規制の動き

SECの規制の動きがあると暗号資産(仮想通貨)価格にも影響します。具体的にどのような規制があったのかを整理しておきましょう。

日時 SECによる主な暗号資産規制
2017年7月 ICOが証券提供とみなされるという見解を初めて公式に発表
2018年11月 詐欺ではないICOプロジェクトに対して、民事制裁金を初めて科す
2020年12月 リップル社を提訴
2022年8月 ヘッジファンドや未公開株向けファンドに暗号資産の投資を含む
詳細な報告を求める規制強化案を公表
2022年9月 ゲンスラー委員長が「PoSを採用する暗号資産は証券の可能性」と
発言。ステーキング銘柄の証券性が問題に
2023年1月 レンディングサービスを提供するアメリカの暗号資産企業を提訴。
利息がついた事業を未登録で提供するのは証券法違反だとした
2023年2月 カストディの新規制案
2023年4月 暗号資産交換業者ビットトレックスのアメリカ法人を訴追し、その
後、アメリカ法人が破綻に追い込まれた。同社は過去にアメリカで
トップクラスの取引額を誇っていたこともある

まず、初めて暗号資産が有価証券に該当するとの公式見解をSECが出したのは2017年7月です。これは2016年6月に起きた「The DAO事件」が要因とされます。この事件では、イーサリアム上の分散型投資ファンド「The DAO」のICOを通じて集めた資金の3分1が、サイバー攻撃によって流出しました。この時の調査報告書でSECはThe DAOが行ったトークンの発行は連邦証券法に該当する有価証券の投資契約に該当すると判断しました。これによってアメリカではICOによる資金調達を行う場合には連邦証券法の規定に従う必要性が示されました。これはスタートアップの資金調達が難しくなった反面、規制環境が整備されたとも言えるでしょう。

これ以降、SECは暗号資産に関して取り締まりを強化し、2018年11月には詐欺と断定されていない2つのICOプロジェクトに対して初めて民事制裁金を科す厳しい姿勢を示しました。この訴訟ではその後、制裁金を支払い、和解が成立しています。

SECが暗号資産への取り締まりの姿勢を最も強く打ち出したのが2020年12月のリップル社に対する提訴です。リップル社の創業者らが違法に証券募集を行ったとして、調達資金の没収や民事制裁金を求める訴訟を起こしました。

そして、2022年に入って証券論争を再燃させたのはSECのゲンスラー委員長の発言です。同委員長は2022年9月にアメリカの上院公聴会でプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake:PoS)を採用する暗号資産は証券の可能性が高いと指摘しました。PoSを採用する暗号資産ではステーキングサービスが提供されることがあります。これが融資に該当するとの認識を示したためです。PoSを採用している暗号資産には時価総額2位のイーサリアム(ETH)があります。もしイーサリアムが有価証券とみなされればNFTやDeFi(分散型金融)への影響も出てきそうです。

ただ、2023年5月末時点では明確な発表はなされておらず、今後の動向が注視されています。

SECとリップルの証券論争

前述したように、2020年12月にSECはリップル社の創業者らが違法に証券募集を行ったとして提訴しました。

SECはリップル社が発行したXRPが、有価証券の該当性を判断する「ハウェイテスト(HoweyTest、ハウィーテスト/HowyTestと表記されることもあります)」の要件を満たしていることを根拠として挙げています。そのため、リップルがSECへの登録なしで違法に証券募集を行ったと判断しているようです。

一方でリップル側は「投資契約に当たらない」と強く反論しています。特にXRPの時価総額が大きいことからもリップル社のガーリングハウスCEOは「暗号資産業界に対する全面攻撃を受けた」と発言するなど対立姿勢を強めました。

さらに過去にSEC高官が「十分に分散化された暗号資産は有価証券に該当しない」と発言した記録の開示が注目を集めました。リップル側はこの発言が有価証券の該当性に関してSECの姿勢を示す重要な証拠であるとし、この発言を記録した文書の開示を求めましたが、SEC側は文書の公開を拒否しています。

2023年5月末時点で訴訟は続いています。2020年12月当時、SECの訴追が報道された際はXRP価格が大きく下げたことから、裁判の結果がわかると、XRP価格にも影響が出るでしょう。

まとめ

アメリカの証券規制を監督するSECの動向は暗号資産(仮想通貨)業界や暗号資産価格そのものに影響を与えてきました。投資家にとっては重要なファンダメンタルズといえそうです。

特に有価証券に該当すると判断されれば、企業側は対応に迫られます。

今後の暗号資産市場にとって、ビットコイン現物ETFの認可も大きな話題となるでしょう。

2023年5月末現在では上場が認可された例は出ていませんが、もし認可されるとなれば機関投資家が流入することで流動性が増し、投資額が増えることで価格にも影響が出るかもしれません。

今後もSECの動向には注目です。

※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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