暗号資産(仮想通貨)が証券に該当するかを判断するハウェイテストとは
暗号資産(仮想通貨)や関連プロジェクト、金融商品にとって、暗号資産が有価証券(セキュリティトークン)とみなされるかどうかは大きな問題です。
暗号資産に関する金融商品が有価証券とみなされるかどうかで、扱う法律や規制が大きく変わってきます。特に大きな意味を持つのは、アメリカです。
アメリカでは、SEC(米証券取引委員会)が金融商品またはその取引が有価証券であるかを判定する判断基準として「ハウェイテスト(Howey Test)」を設けています。
SECは、暗号資産という大きなくくりではなく、暗号資産の各銘柄を始めあらゆる関連商品を個別に審査しているとみられています。
この記事ではアメリカのハウェイテストについて解説します。
ハウェイテストとは?
「ハウェイテスト(Howey Test)」は、特定の取引が「投資契約」という有価証券取引の定義の一つに該当するかどうかを判定するアメリカにおけるテストの一つです。また、金融資産が有価証券に該当するかを判断する規定の一つにもなっています。
ハウェイテストは、ある取引がアメリカの「1933年証券法(Securities Act of 1933)」および「1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)」に基づく開示・登録義務のある証券とみなされるかどうかを判断するためのアメリカ最高裁判所の判例法理に基づいた判定テストです。
ハウェイテストでは、特定の取引が「他人の努力から得られる利益を合理的に期待して、共通の事業に資金を投資する」場合、それは投資契約とみなし、有価証券取引であると判定されます。
アメリカでは、金融資産が有価証券に該当する場合は、SECの規制の対象になります。
ハウェイテストの由来
ハウェイテストは、SECのW.J.Howey社に対する1946年の訴訟事件をきっかけに制定されました。
当時、W.J.Howey社は米フロリダ州にある果樹園の土地500エーカー(約200万平方メートル)を所有していました。W.J.Howey社は、追加開発資金のために土地の半分を販売しましたが、この販売方法が問題となりました。
土地の所有者となった購入者は、購入した土地をW.J.Howey社にリースバックし、W.J.Howey社は購入者に代わって果樹園の運営を行い、収穫した果物を販売。両者はその収益を分け合っていました。このリースバックが投資契約とみなされ、W.J.Howey社に差し止め命令が出されました。
W.J.Howey社において適用された1933年証券法では、州間通商の郵便物や道具を用いて土地やサービス契約の販売を行う際は、一部の例外を除いて取引の登録を義務付けています。しかし、W.J.Howey社は取引の登録を怠っていたため、SECが介入することになり訴訟問題になりました。
その際に最高裁は、ある取引が投資契約かどうかを判断するために以下の4つの基準を定めました。
1.お金の投資であること
2.投資先から収益が見込めること
3.投資先が共同事業であること
4.他者の努力によって利益が得られるものであること
W.J.Howey社に対する訴訟事件以来、これらの条件をすべて満たした場合、その取引は投資契約とみなされ、SECによる有価証券規制の対象になるという判断基準となりました。ただ、この他にも投資契約に該当するかどうかを判断するテストはあるために、ハウェイテストの結果のみが適用されるわけではありません。
ハウェイテストと暗号資産(仮想通貨)の関係性
ビットコイン(BTC)など暗号資産は、証券として分類するのが難しいことで有名な金融商品の一つです。これまで、ブロックチェーンを用いた暗号資産は非中央集権的かつグローバルなサービスであるため、多くの点で規制の対象外になっています。
しかし、SECは暗号資産に関心を持っており、常にその販売が投資契約の定義に合致する場合を明確にしようと努めています。
SECによると、ビットコインは法定通貨やその他の暗号資産と交換ができることから、暗号資産の販売はハウェイテストとして「お金の投資であること」を満たしていると同時に、「投資先が共同事業であること」も合致しているとしています。
しかし、投資契約として適格かどうかは「他者の努力から得られる利益の期待」に当てはまるかどうかが焦点となります。
たとえば暗号資産の購入者が、ブロックチェーンプロジェクトの開発と維持(特に初期段階)をプロジェクト支援者に依存している場合、これらのタスクは無関係なユーザーの分散したコミュニティによって実行されるのではなく、他者の努力に依存している可能性があります。
また、トークンの焼却(バーン)によって希少性を高めるなど、プロジェクト支援者が暗号資産の価格を支えるための措置を講じている場合も、他者の努力に依存に該当すると判断されます。
どちらも、中央集権者に近い立場のプロジェクト支援者が他者にあたり、その努力(労力)によって利益が発生する可能性があります。
ハウェイテストでは、他者の努力に依存が満たされるもう一つの判断はプロジェクト支援者が経営的な役割を果たし続ける場合です。ビットコインは非中央集権であり、経営的な役割を果たす中央集権者が主導するものではないことから、投資契約の定義に合致していないという判断のようです。
これらの条件は、SECが示したほんの一例に過ぎませんが、プロジェクトの成功が支援者の継続的な参加に依存している場合、関連する暗号資産の購入者は、他者の努力に依存している可能性が高いと判断され、そうした暗号資産は有価証券であると判断される可能性は高くなるでしょう。
テストの判断結果
SECが、対象とする暗号資産(仮想通貨)やトークンをハウェイテストによって有価証券であると判断した場合、プロジェクトに対してはSECへの登録を強制できることを意味します。
ハウェイテストの過去の適用例として、2017年にSECが、イーサリアム(ETH)と交換するDAOトークンの販売が連邦証券法に違反するという判決を下したことが挙げられます。この事例では、SECは強制執行をする代わりに、証券法がトークン販売にも適用されることを警告し、暗号資産業界に警告を発しました。
こうした中、暗号資産を有価証券とみなすかどうかで重要視される項目の一つにICO(Initial Coin Offering)があります。
ICOはハウェイテストの資金調達にあたるかどうかに注目が集まる中、今日行われるほとんどのICOは有価証券による資金調達とみなされる可能性が高くなっています。
ICOが行われた銘柄全てが有価証券に当たるとは限りませんが、2018年当時のSEC議長のジェイ・クレイトン氏は、自分が見てきたすべてのICOが有価証券に分類される可能性があると述べています。
証券と判断された暗号資産(仮想通貨)はどうなる?
2019年4月に、SECが発行したガイダンスによると、暗号資産が投資契約と分類された場合、それは有価証券とみなされ、SECに登録するか登録免除条件を満たさなければなりません。
テストが参考にしている判例は、1946年のものであり、時代にそぐわないという意見も少なくありません。しかし、SECはこのテストの結果をもとに過去にも有価証券と評価された複数のICOやETFに対して法的措置を起こした経緯があります。
有価証券になれば、米国ではSECの規制に服することになります。
しかし、SECはハウェイテストを実施する前や提訴する前に、暗号資産およびそのプロジェクトや企業に対して、ウェルズ通知(Wells Notice)により提訴の可能性を告げます。ウェルズ通知は、SECが企業・個人に対して、法的措置を講じる予定であることを通達する公式文書です。
ビットコインは証券ではないのか
2018年6月、SECの前議長であるジェイ・クレイトン氏は、ビットコインが証券ではないことを明らかにしています。
技術開発のために公的資金を求めたことのないビットコインは、SECのハウェイテストには当てはまらないといいます。
しかし、クレイトン氏の定義によれば、ICOで使用される暗号資産(仮想通貨)は資金調達が前提で発行された暗号資産であることから明らかで、それは有価証券に該当すると述べています。
2019年にSECは再び「ビットコインは有価証券でない」と見解を示しました。
ただし、こうした見解は、明確な規制や法的拘束力があるわけではありません。SECが見解を明確に示したことで、米国においてビットコインは証券ではないという意見に落ち着いていますが、それは慣例にすぎません。
暗号資産に関する法律は各国でまちまちであることから、今後、先進国で暗号資産の有価証券化の流れが加速すれば、ビットコインに関しても同様の動きが起きることも否定はできません。
関連コラム:ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)は有価証券化されるのか?
まとめ
日本の暗号資産(仮想通貨)規制は資金決済法に基づいていますが、日本でもICOやIEOを始め暗号資産関連の金融商品が有価証券であるとみなされれば、今後は規制の根拠法として金商法(金融商品取引法)の規制対象となります。
暗号資産やトークンが有価証券にあたるかどうかの判断は難しく、今後も議論の対象となるのは間違いありません。
米国の判例は、世界の暗号資産に対してなんらかの影響を及ぼしてきています。そのため、米国のハウェイテストについて詳しく知っておくことは無駄ではないでしょう。
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