暗号資産(仮想通貨)規制の動向は?各国政府の動きを解説

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2023-04-26 更新

2022年11月、海外の大手暗号資産交換業者FTX(FTX Trading Ltd)が経営破綻し、負債総額が数兆円に上りました。同年5月にはアルゴリズム型ステーブルコインのテラUSD(現テラクラシックUSD)が暴落し、暗号資産(仮想通貨)相場もつられて急落したことで大手暗号資産企業が連鎖的に倒産しました。

元々ボラティリティが大きいとされていた暗号資産ですが、さらにリスクが高いことが懸念され、暗号資産業界への規制強化を求める声が高まっています。

この記事では暗号資産の投資家保護につながる、日本国内、国外の規制の状況に関してまとめていきます。

日本の暗号資産(仮想通貨)規制

日本は厳しい暗号資産(仮想通貨)の規制体制が取られています。

その背景には、2014年に当時、世界最大の暗号資産交換業者であったマウントゴックス(Mt.Gox)社が経営破綻したことで、利用者保護が注目されたことがあります。

さらにマネーロンダリング対策を審査する国際組織「金融活動作業部会(FATF)」のガイダンスなどを踏まえ、2017年4月に「資金決済法・犯罪収益移転防止法等の改正」が施行されました。ここで暗号資産交換業者に登録制度が導入されたほか、口座開設時の本人確認義務付け、顧客資産の分別管理などの規制整備が進みました。

その後2018年にかけて、ICO(Initial Coin Offering)に便乗した詐欺被害が相次いだことや国内暗号資産交換業者から巨額の流出事件の発生、暗号資産交換業者の体制不備が指摘されたことなどを踏まえ、2020年5月に資金決済法・金融商品取引法等の改正が施行されました。

この時に国際的な動向を踏まえて、それまでの「仮想通貨」という呼称が「暗号資産」に変更されています。

2020年に施行された改正法による規制強化は、日本の暗号資産業界にとって大きな変化を意味していました。

ホットウォレットで管理していた暗号資産が流出する事件が複数発生したことで、顧客資産を「業務の遂行に必要な量」を除き、コールドウォレットで管理することを義務付けました。さらに、カストディ業務が暗号資産交換業者の登録が必要な業務に追加され、本人確認義務や分別管理などに対応できずにサービス継続を断念するカストディ業者が出ました。

顧客保護の観点から、暗号資産関連企業が倒産したとしても、顧客の暗号資産を優先的に弁済する規制を整備することに踏み切りました。

そのほかにも、暗号資産を原資産とするデリバティブ取引を金商法の規制対象に追加し、第一種金融商品取引業の登録が必要となりました。また、証拠金の上限倍率の上限が2倍と規定され、リスクを抑える規制が実施されています。

ステーブルコインや企業の暗号資産課税の規制について

暗号資産に一定の規制を整備してきた日本ですが、2022年ごろから次世代インターネットである「Web3(ウェブ3)」が注目されると、それに活用が見込まれるステーブルコインへの規制も始まっています。

法定通貨との価値の連動を目指しているステーブルコインはビットコインといった暗号資産よりも一般的にボラティリティが低く、価値の交換手段として期待されています。

これまで規制面においては「グレーゾーン」とされていたステーブルコインですが、ウェブ3への活用を見込み、2022年6月に「電子決済手段」として、日本で初めて規制されました。発行者と仲介者を明確にわけ、発行は、銀行や資金移動業者、信託銀行に限定しました。仲介者に関しても登録制を導入し、マネーロンダリング対策やテロ資金供与対策における犯収法の規制対象とされています。

さらに2023年春施行の改正資金決済法によって、「ステーブルコイン」の流通が日本国内で解禁されます。国内発行のステーブルコインに対しては発行者に発行額と同額の資産を保有するように義務づけられます。

一方で、海外発行のステーブルコインは、日本国内で取引を行う流通業者に資産保全が義務付けられます。海外発行のステーブルコインは1回あたりの送金上限を100万円としました。

また、企業への暗号資産課税についても見直されます。

2022年に、日本では暗号資産関連事業を行う企業については期末の時価に基づいて課税されることが問題視される報道が相次ぎました。自社で発行した暗号資産で、実質的に利益が出ていなくても、価値が上がり「含み益」が出ていれば課税されてしまう仕組みになっていたために、有望なスタートアップが海外に流出してしまうこともあります。

有望な暗号資産・ブロックチェーン企業の事業成長のために、税制が改正され、2023年度からは自社で保有する分に関しては課税の対象外になりました。

そのほか、2023年1月までに多く規制が改正されています。

例えば、2022年には信託銀行が暗号資産を株式や債券と同様に信託財産として預かることが可能になりました。この規制の目的には、投資家保護を強化する狙いがあります。アメリカではすでに2019年ごろから大手金融機関がカストディ業務に参入し、安心感が高まったことで機関投資家の参入に繋がりました。

マネーロンダリングへの取り組みも行われています。2022年12月に日本でもマネーロンダリングに関連する6つの改正法が成立しました。暗号資産交換業者間での顧客情報の共有を義務付けることで、資金の動きを把握する狙いです。

他国政府の暗号資産(仮想通貨)規制や見解は?

2022年にあった海外の大手暗号資産交換業者FTXの経営破綻をきっかけに、世界各国でも暗号資産(仮想通貨)に対する規制が強化されるとの声が高まっています。焦点は、企業の登録制度のほかに顧客資産の分別管理を求める動きです。シンガポールでは暗号資産交換業者に顧客資産の分別管理を求めているほか、香港では全ての暗号資産企業にライセンス取得を義務付けています。

アメリカの動き

FTX破綻の動きを受けて、アメリカでは商品先物取引委員会(CFTC)のロスティン・ベーナム委員長が暗号資産交換業者を監督する規制当局の明確化や投資家保護の仕組みを強化する必要性を指摘しました。

アメリカでは、暗号資産が有価証券かコモディティ(商品)にあたるのかの線引きについて議論が続いています。証券とコモディティとで監督する規制当局が異なり、それぞれの規制当局が連携できていません。そのために、規制を進めようにも、根拠となる法律が定まっていないことが問題視されています。

ベーナム委員長は、2022年12月に行われた公聴会で、破綻したFTXでは顧客資産の分別管理がされていなかったことで不正流用に繋がったことを指摘しました。今後は規制当局の役割を明確にして、顧客資産の保護を進める動きになるでしょう。

欧州の動き

欧州でも「暗号資産規制法案(MiCA:マイカ)」の2024年施行に向けて動いています。MiCAはEU(欧州連合)加盟27カ国間で暗号資産に関する一貫した規制の枠組みを構築することを目的としています。暗号資産の発行企業に関する情報を提出することや、ステーブルコインに関して発行者に流通する時価総額の数%にあたる自己資本を保有することを義務付けるほか、金利を付与することを禁止するものです。

EU加盟国であるフランスでは、MiCAに対応するための18ヶ月の猶予期間が設けられており、実際の施行は2026年になる計画です。投資家保護が遅れてしまう可能性が出てくるため、企業の登録ライセンスを2023年10月までに取得するよう義務付ける改正案が提出されています。

ただし、MiCAについては、FTX破綻を受けて、さらに規制を拡大する必要性も検討されています。欧州中央銀行のクリスティーヌ・ラガルド総裁は2022年に暗号資産レンディング企業のセルシウスやFTX破綻から暗号資産へのリスクを懸念し、「MiCA 2」が必要と発言しました。

ラガルド総裁はMiCA 2について、ステーキングとレンディングや、分散型金融(DeFi)、発行者が不明の暗号資産に対する規制、従来の金融機関が暗号資産を取り扱う際のリスクに関する対応について提案しています。MiCA 2については、まだラガルド総裁が提案として発言しているものですが、DeFiの規制はアメリカでも言及されていることから、今後整備が進むかもしれません。

国際的な規制の状況

国家を横断する国際的な規制の状況も進んでいます。

銀行監督当局と中央銀行で構成されるバーゼル銀行監督委員会(BCBS)は2022年12月、各国銀行の暗号資産(仮想通貨)保有比率を制限する国際規制をまとめました。裏付け資産がないビットコイン(BTC)などの暗号資産については、保有額と同額の資本を積むことを義務づけます。

例えば、10億円分のビットコインを保有するには10億円の増資を行う必要があります。

価格変動が大きい暗号資産の保有を制限することで、銀行側のリスクを低減させようという狙いがあります。ただし、法定通貨に裏付けされるステーブルコインに関しては規制の対象外にしています。テラUSDのようなアルゴリズム型ステーブルコインは暗号資産と同様の扱いになります。

日本ではすでに同様の規制を2022年10月に導入しました。

国際的な規制枠組みでは「トラベル・ルール」も重要です。トラベル・ルールは、FATFが勧告している規制で、暗号資産交換業者が顧客の暗号資産を別のプラットフォームや業者に送金する際に氏名や住所といった顧客情報を共有するように義務付けるものです。日本に先駆けてアメリカやシンガポールで法制化されていましたが、前述したように2022年12月に日本でも6つの改正法の成立とともに、違反した場合に行政指導や是正命令、これに従わなかった場合に刑事罰の対象となりました。

まとめ

規制は暗号資産(仮想通貨)を締め出すものではなく、暗号資産の存在を肯定しながら、投資家保護のために整備が進められています。

毎年のように、暗号資産(仮想通貨)関連では大きな事件が起こり、リスクの高まりが懸念されますが、その度に規制の見直しが行われてきました。

国境を越えて流通する暗号資産は、多国間で協調して、規制する動きも出てきています。マネーロンダリングに関する取り組みは特に顕著でしょう。2023年からはウェブ3に関して規制の整備が進みそうです。

ビットコインのマネーロンダリング対策について詳しく知りたい方は「ビットコインとマネーロンダリング対策の関係は?」もご参照ください。

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