暗号資産(仮想通貨)にも影響を与える米消費者物価指数(CPI)とは
暗号資産(仮想通貨)価格に影響を与える指標のひとつとして、世界各国の中央銀行が発表する「消費者物価指数(CPI)」があります。特に世界最大の経済大国であるアメリカのCPIに投資家は注目しています。
CPIはその国のインフレやデフレの度合いを測る重要指標として知られていますが、暗号資産価格にどのように影響するのでしょうか。この記事ではCPIと暗号資産市場との関係を解説します。
消費者物価指数(CPI)とは
CPIは「Consumer Price Index」の略称です。日本語では「消費者物価指数」と呼ばれます。
CPIはインフレーション(インフレ)やデフレーション(デフレ)の度合いを図る経済指標で、全国の消費者が購入する商品やサービスの価格などを総合した物価変動を時系列的に測定した数値です。純粋に価格の変化の測定を目的としており、生活様式や嗜好の変化に起因する商品購入や数量の変化に伴う変動を測定するものではありません。
つまり、過去のある時点で消費者が商品を購入した場合と比較して、同等のものを購入した際に必要な費用がどのように変化したのかを数値で表しています。CPIの上昇が続くとインフレ、下落が続くとデフレとなります。インフレとは物価が上昇して通貨の価値が下がることで、デフレは物価が下落し、通貨の価値が上がることです。
需要に対して供給が足りない場合に、継続的に物価が上昇すると、インフレは発生しやすくなります。反対に需要よりも供給が過剰になると、物価が下がり、デフレが発生しやすくなります。
CPIは各国の中央銀行が金融政策を決定するための重要指標であり、アメリカや日本、欧州など世界各国で毎月発表されています。中央銀行にとっては物価の安定を図ることが最重要課題です。そのためCPIが上昇しインフレが続くと捉えられると、金利の引き上げや量的緩和の縮小などの金融引き締めを行い、反対にデフレが続くとされると金利の引き下げや量的緩和などの金融緩和によって市場に資金を供給します。
CPIを計測するための指標となっている商品やサービスには、食料品や住宅、ガソリンのほかに衣料品や医療などさまざまなものが含まれています。これらの価格が「ある地点」から上昇しているのか下落しているのかが数値で示されます。なお、CPIの作成方法は国際労働機関(ILO)が国際基準を設定しており、日本も主要国と同様にこの基準に沿って作成しています。
アメリカでは2022年以降、CPIが前年同月比で7〜8%と急速な上昇を示しています。特に2022年6月のCPIは9.1%と、40年ぶりの伸びとなり、強烈なインフレを記録しました。日本やアメリカなど、主要国は2%のインフレを目標にしていることを考慮すると、インフレが進みすぎているといえます。
そのため、アメリカの中央銀行と呼ばれる連邦準備制度理事会(FRB)は、記録的な利上げを実施し、インフレを和らげようとしています。
日本とアメリカのCPIの違い
CPIで重要視されるのは前年同月比ですが、「基準年」や算出する対象など、数値の基準は国によってわずかに異なります。例えばアメリカと日本では「基準年」が異なります。
アメリカの基準年は1982年がベースとなっています。
一方で、日本の基準年は過去に16回改定されており、2023年2月時点では2020年が基準年とされています。2020年の物価水準を100とすると、1970年の物価指数は30.9となり、これは物価水準が約3倍になっていることを意味します。1970年に1万円で購入できたものが2020年には約3万円するということです。
さらに、各国のCPIの内容は発表時期などを含めて若干異なっています。日本のCPIは総合指数以外に、食品を除いた「コアCPI」、食品とエネルギーを除いた「コアコアCPI」が用いられます。コアCPIは、天候に価格が左右されやすい生鮮食品を対象から除くことで、物価変動をより正確に捉えやすくするとされています。コアコアCPIは生鮮食品に加えて、外的要因に価格が左右されやすいエネルギーも対象から除くことで、さらに変動を正確に把握できるとされています。
なお、これは日本での呼び方であり、アメリカなどの海外諸国ではコアコアCPIをコアCPIと呼んでいます。
日本とアメリカの違いを整理すると以下のようになります。
日本 | アメリカ | |
---|---|---|
発表元 | 総務省統計局 | 労働省労働統計局 |
発表時期 | 毎月19日を含む週の金曜日 | 毎月15日前後 |
総合CPI | 全対象品目 | 全対象品目 |
コアCPI | 生鮮食品を除く | 生鮮食品およびエネルギーを除く |
コアコアCPI | 生鮮食品およびエネルギーを除く | ― |
投資家がCPIに注目する理由
CPIの発表に投資家が注目するのは、CPIが中央銀行の金融政策に影響を与えるためです。
インフレを2%程度に抑え物価の安定を図ろうとする各国の中央銀行は、インフレとデフレをコントロールする金融政策のためにCPIを参考にしています。
前述したようにCPIの上昇が続くと、過度なインフレを抑えるために中央銀行は金融の引き締めを行います。金融引き締めが行われると、経済成長に悪影響を及ぼすため、リスク資産である株式の価格が上がりにくくなります。
反対にデフレが続けば、中央銀行は金融緩和によって市中に資金を供給します。これによって国民は投資などにお金を回せるようになり、リスク資産である株式の価格が上昇する流れが起きやすいとされています。
特に、世界最大の経済大国であるアメリカの動き(政策)は世界経済に大きく影響するため、CPIの注目度も高くなります。
投資家はCPIの発表を受けて、こうした金融政策を先回りして投資戦略を立てます。投資家の予測が株価に反映されるというわけです。
例えば、CPIの上昇が発表された場合、投資家は大まかに次のように今後の経済の動きを捉えます。
- 物価(CPI)が上昇する
- 中央銀行が金利を引き上げる
- 利上げによって預金の魅力が高まり、お金が流通しにくくなる
- 消費の落ち込みや投資が減る
- 株価が下落する
インフレが続く今後の状況は
2023年2月時点では世界的に物価が上昇するインフレが起きており、各国の中央銀行はインフレを抑えるために金利を引き上げています。
2023年2月にあったアメリカのCPIの発表では、6.4%と7ヶ月連続でインフレの上昇率は鈍化したものの、市場予測を上回り、インフレ圧力が続いていることが示されました。アメリカでは徐々に金利の上げ幅が縮小していましたが、再び利上げを継続する発言がダラス連銀総裁から出ています。
過去の流れでは、発表されたCPIが市場予測を上回った場合は、株は大きく売られていました。インフレ圧力が高まると株価は下落基調となるはずですが、2023年2月のCPI公表後の米株相場は、一旦は売りが優勢になったものの、値を戻し、ハイテク株で構成されるナスダック総合指数に至っては上昇しました。将来的な景気の見通しに対する悲観論が弱まっていることや、株式市場の地合の強さが影響したのかもしれません。一時的にCPIが市場予測よりも高い値を示したものの、景気の減速はないと投資家が予想したことなども背景にありそうです。
このように例外もあるため、CPIの値は大きく投資家の行動に影響するものの、CPIの数値の上下だけで判断はしない方が良いでしょう。
暗号資産(仮想通貨)と米消費者物価指数(CPI)との関係
リスク資産とされる暗号資産(仮想通貨)では、同じくリスク資産である株式市場と同様の影響が見られると基本的には考えられます。
CPI総合指数は、2022年6月のピーク時から減少しており、利上げペースを減速する思惑から暗号資産市場は下げ止まりました。利上げペースが減速すると企業もお金を借りて、投資に回しやすくなるため、投資家は今後経済活動が活発になると見越して買い注文に動いていると見られます。2023年1月には米CPIは6ヶ月連続で減速しています。高インフレが続いていたアメリカでのピークが過ぎたと見られ、株高とともにビットコイン(BTC)を始めとした暗号資産も上昇基調になりました。
なお、CPIの発表時には株価のボラティリティが上昇するとされていますが、暗号資産も同様に、CPI発表時にビットコインのボラティリティが高くなる傾向があることがわかっています。これもリスク資産としての動きであるといえそうです。
ただし、ビットコインがリスク資産だとはいっても、株式と異なる大きな変動が起こることがあります。
前述したように、2023年2月のCPI発表時には事前予想を上回るCPIとなり、インフレ圧力が高まったことが示されました。通常であれば、下図の2022年7月のように、リスク資産であるビットコインの価格は下落するでしょう。
(参考コラム:「ビットコイン、インフレヘッジ資産としての真価を発揮か?」)から引用
しかし、2023年2月のCPI発表では、ビットコインの価格は大きく上昇しました。これは、2023年内に利下げが開始されるのではないかという楽観論に対して、インフレは簡単には収めることができないと投資家が考え、「インフレヘッジ」としてビットコインを選んだことの表れかもしれません。
2023年2月にビットコインが上昇したことで、インフレヘッジ資産としての真価を試されているとも言えそうです。
ただし、これらはあくまで一つの事例であって、今後も同じような動きをするとは限らないことには注意が必要です。
まとめ
CPIはインフレやデフレといった、各国の物価の変動を把握するための経済指標です。
CPIの数値によって利上げや量的緩和といった各国中央銀行の金融政策に影響します。特に世界一の経済大国であるアメリカのCPIは暗号資産(仮想通貨)市場にも大きな影響力を持っています。
CPIの発表前後にはボラティリティが大きくなることにも注意が必要です。
一方で、相場に影響する経済指標はCPIだけではありません。雇用統計やインフレを図るPCE(個人消費支出)といった数値もあります。2023年2月時点では、新型コロナウイルスに起因するサプライチェーンの影響やロシアのウクライナ侵攻による影響から食品価格やエネルギー価格を加えた総合指数であるCIE(共通インフレ期待指数)も重要視されています。
暗号資産は株式といった他のリスク資産とは異なる挙動をすることもあります。一つだけの指標にとらわれず、複数の数値を把握しながら投資を行う必要があるでしょう。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
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