暗号資産(仮想通貨)のアノマリーとは?投資の経験則を紹介
投資では、具体的な根拠の説明が難しい経験則や仮説が用いられる「アノマリー」という言葉があります。
市場は必ずしも過去と同じように動くわけではありませんが、どのように相場が動いていたかを知ることは、投資戦略を立てる上でも有益になるでしょう。株式や為替など幅広く存在するアノマリーですが、暗号資産(仮想通貨)にもアノマリーを使った分析があります。
この記事では、そもそもアノマリーとはどういうものか、そして暗号資産に特有のアノマリーについて紹介します。

アノマリーとは

アノマリーとは、合理的な説明が難しいものの、経験的に観測できるマーケットの規則性のことです。ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析に当てはまらない分析手法で、実際に投資戦略で取り入れている投資家も多くいるとされます。
アノマリーには主に時期・季節の動きによるものがあります。例えば「2月に高値をつけやすく、3月に安値になりやすい」といったものです。
こうした季節性アノマリーの値動き自体に明確な根拠はない、もしくは薄いものの、投資家の間で広く知られるようになることで、値動きを利用する投資家が出てくるために規則性が生まれているとの指摘もあります。
そのため、アノマリーを知っておくことで、モメンタムの変化を捉えやすくなるかもしれません。アノマリーは主に株式や為替などで用いられてきました。暗号資産(仮想通貨)も同様のアノマリーで分析されます。株式と同様にリスク資産と認識される暗号資産は、株式の動きと連動することがあるからです。しかし、ブロックチェーンなど独自の技術で発行される暗号資産は、特有の価格サイクルを持つため、独自のアノマリーもあります。
なお、アノマリーの中には需給関係で説明が可能なものもあるため、全てが具体的な説明が不可能なものばかりではありません。
投資で有名なアノマリー

暗号資産(仮想通貨)でも、従来の株式などで使われてきたアノマリーが用いられることが多くあります。リスク資産との相関性が度々取り沙汰される暗号資産では、株式市場にアノマリーが参考にされるためです。ここでは主に株式や為替などで代表的なアノマリーを紹介します。
1月効果
「1月効果」とは、1月の収益率が他の月よりも高い現象のことです。投資家は、休暇に向けて保有比率を低くする傾向があることや、年末に税金対策としての売りを行いやすい状況となる上、年明けに投資資金が流入しやすいことが理由として挙げられます。
節分天井・彼岸底
「節分天井・彼岸底」とは、2月上旬の節分前後に高値をつけてから、3月中旬の彼岸の頃に安値をつけるというアノマリーです。
新春に期待が先行して株高となりやすい状況から、2月に入って天井を支えた後に3月にかけて調整局面が続く現象のことを指します。年初は機関投資家が買いで動くことや中国の春節に重なることで上昇し、3月期には決算に備えて機関投資家の売りが進むためとされています。
Sell in May
「Sell in May」は米株の有名なアノマリーの一つで、正確には「Sell in May, and go away. Don’t come back until St Leger day.」という格言です。「Don’t come back until St Leger day.」のところは「But remember to come back in September」と言われることもあります。これはいずれも5月に売却し、そのまま9月の第2土曜日のセント・レジャー・デーの時まで相場に戻って来ないほうが良いという意味です。セント・レジャー・デーとは英国の大きな競馬レースが開催される日のことです。
米株では、1月〜5月に上昇した後に6月以降に下落する傾向があるために一旦5月に売却し、底を迎える9月に相場に戻ってくるのが良いという意味です。一般的に5月からヘッジファンドの決算が集中し、季節的にアメリカの経済指標が弱く出やすいこと、後述の「夏枯れ相場」のように、夏場に休暇を取る投資家が多くいるとされることが、5月に一度売却し、9月に再び戻ってくるのが良いという理由として挙げられます。
夏枯れ相場
夏枯れ相場とは、夏に値動きが小さくなる相場のことを意味します。夏枯れ相場中の底値を「夏底」と呼ぶことがあります。国内外で長期休暇をとる人が増えることで、市場参加者が減り、取引が減少することが要因とされています。

(参考コラム:「米国株式市場から紐解く、BTC(ビットコイン)の「夏枯れ相場」の展望」から引用)
上図はナスダックの月別騰落率です。9月だけが平均騰落率がマイナスとなっているのがわかります。
アメリカでは新年度が始まる9月の第一月曜日に夏季シーズンの終了を象徴する祝日があるため、これを節目と見て売買代金が膨らむ傾向があります。
ハロウィン効果
10月末に株式を購入して、翌年の4月末に売却することでリターンが挙げられるというアノマリーです。10月31日にハロウィンのお祭りが行われるためにハロウィン効果と呼ばれます。過去の数値から10月末ごろに株式市場が下落することが知られています。古くは1929年の「ブラック・サーズデー」や、1987年の世界的な株価大暴落が起こったブラック・マンデーが10月に起こっており、2008年9月に起こったリーマンショックも翌月の10月に株式市場が急落しています。
10月末ごろから下落するという理由としては、日が短くなり、人々の気持ちが落ち込みやすいといった原因が挙げられることがありますが、明確な根拠は不明です。
サンタクロースラリー
サンタクロースラリーとは年末の5営業日と翌1月頭の2営業日に米国株が上昇しやすいというアノマリーです。暗号資産市場でも2017年12月には80%の上昇、2020年は47%上昇と大きな変動を記録することがあります。ただし、2022年の暗号資産市場ではほとんど変動がなかったこともあり、必ずボラティリティが大きくなるというわけではないようです。
サンタクロースラリーが起こる理由としては、1月に株高となりやすいために、投資家が先回りして買いを進める動きが見られることが理由として考えられるでしょう。
米中間選挙
月毎のものとは異なるアノマリーで有名なものに「米中間選挙」のアノマリーがあります。「米中間選挙」とは、2年毎にアメリカで行われる選挙で、上院議員の3分の1と下院議員の全員を新たに選ぶ選挙です。この中間選挙の翌年に株価が上昇するとされています。
明確な根拠はありませんが、選挙によって、国民の希望が実施されるという期待感から株価が上昇すると言われます。
時期 | アノマリー | 内容 |
---|---|---|
1月 | 1月効果 | 1月の収益率が他の月よりも高くなること |
2月 | 節分天井 | 年初に機関投資家が買いで動くことや 中国の春節などによって上昇相場となること |
3月 | 彼岸底 | 企業決算に備えて、機関投資家の売りが進んで 安値をつけること |
5月 | Sell in May | ヘッジファンドなどの決算が集中し、売りが進むこと |
8月 | 夏枯れ相場 | 夏に値動きが小さくなる相場のこと |
10月 | ハロウィン効果 | 10月末に株式を購入して、翌年の4月末に売却することで リターンが挙げられること |
12月 | サンタクロースラリー | 年末の5営業日と翌1月頭の2営業日に 米国株が上昇しやすいこと |
2年毎 | 米中間選挙 | 中間選挙の翌年に株価が上昇すること |
以上のように、アノマリーは夏枯れ相場のように需給関係で説明できるものもありますが、具体的な根拠が見つけにくい格言も多くあるため、参考程度に考えておくのがいいでしょう。
暗号資産(仮想通貨)で有名なアノマリー

暗号資産(仮想通貨)市場でも株式相場と同様のアノマリーが用いられることが一般的ですが、暗号資産特有のアノマリーがあります。
半減期に関するアノマリー
ビットコインは4年に一度、半減期が訪れることが影響しているというアノマリーがあります。
半減期とは、主にプルーフ・オブ・ワーク(PoW:Proof of Work)を採用する暗号資産に組み込まれているマイニング(採掘)というシステムに由来するものです。マイニングは取引の検証を中央管理者なしで実現するものですが、その取引の検証をマイナー(採掘者)と呼ばれる人々が分散的に行っており、取引を検証した見返りに、報酬として暗号資産が得られます。この報酬がビットコインでは約4年ごとに半分になることが「半減期」と呼ばれています。
半減期が訪れると、市場に出回る暗号資産の供給量のスピードが減少するため、インフレ圧力になり、ビットコインの価格上昇に寄与すると考えられています。
この半減期に関連したアノマリーとして知られているのは、「半減期後の翌年の第4四半期」が、4年間のサイクルで最もパフォーマンスが良くなるというものです。実際に、2012年11月にあった半減期では2013年11月に過去最高値を記録。2016年7月にあった半減期では翌年の2017年12月に過去最高値を更新し、2020年5月にあった半減期では翌年の2021年11月に最高値を更新しています。ただ、半減期自体がまだ3回しか起きていないために、今後も同様のアノマリーとなるとは言えないかもしれません。

一方で、株式のアノマリーと同様に、月別の騰落率で見た場合に歴史的に低調なのは9月です。2023年2月現在で、9月はマイナス成長が多く、2012年の22%増を除けば6%以上上昇したことはありません。
また、半減期のサイクルに着目すると、年間のビットコイン騰落率が4年ごとにマイナスとなっていることがわかります。

(参考コラム:「BTC(ビットコイン)、2022年は受難の年?気になるアノマリーとテクニカル」から引用)
上記では、年間のマイナス成長となったのは、2014年と2018年のみで、その他の年次はプラスとなっています。
ただし、半減期というよりも、4年ごとに大規模な不正流出や、大規模プロジェクトの破綻が起きたことで暗号資産市場全体の信頼感が薄れ、下落したとも考えられるでしょう。
月曜日のアノマリー
1週間という短期的な周期で見ると、月曜日が最もリターンが高いという調査結果があります。一般的に株式市場では、悪材料が週末の休日に出やすいとされ、それによって、月曜日に株式市場が下落する傾向が強い「週末効果」と呼ばれるものがありますが、これとは対照的です。
調査では2013年4月から2020年1月を対象期間として、1週間に1日だけ暗号資産投資をする場合に、月曜日を選択することで最も良いパフォーマンスが得られることが示されています。

(特定の曜日での投資による累積リターン:2013年4月~2020年1月)
Cointelegraph :New Analysis Finds That Mondays Are the Best Days to Buy Bitcoinから引用
SwellでのXRPのアノマリー
ビットコイン以外にもアノマリーはあります。2023年2月時点で時価総額6位(コインマーケットキャップ調べ)のXRPには毎年10月〜11月ごろに開催される、リップル社が主催する年次の大型イベントSwellがあります。
XRPでは、「Swell開催前に価格が上がり、開催中に下がり続ける」というアノマリーが知られています。根拠としては開催前には「何か大きな発表があるかもしれない」という期待感から値上がりし、開催期間中に期待ほどではなかった場合に売りにつながるとされています。「噂で買って、ニュースで売る」という相場の格言に近い動きと言えるかもしれません。
実際に、2017年10月16日〜18日にかけて開催されたSwellでは、開催直後に1XRP=30円近くまで上昇し、終了時には24円まで下落しました。

(XRP/JPYチャート 2017年10月1日〜2017年11月1日)
その後の2018年、2019年、2020年、2021年も同様の動きを見せ、2022年は下落こそ免れたものの、横ばいで推移することとなっています。
関連コラム:「リップルの国際会議Swellとは?XRP価格との関係も解説」
まとめ

アノマリーとは、具体的な根拠はないものの、経験則から同様の現象として起こりやすい事象を捉えるためのものです。
ビットコインのアノマリーは、半減期に関連して、四年ごとに過去最高値を更新するもののほかに、リスク資産という観点から、従来の株式で採用されているアノマリーで読み解くものがみられます。
アノマリーは実際に需給関係から説明できるものもありますが、いずれのアノマリーも確実に起こるとは言えません。
アノマリーだけでなく、テクニカル分析やファンダメンタル分析など、その他の手法と組み合わせて投資戦略を組み立てるのがいいでしょう。
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