FTX破綻の余波拡大、暗号資産(仮想通貨)に及ぼした影響

FTX破綻
影響
2023-05-31 更新

世界最大手の暗号資産交換業者の一つのであるFTXが2022年11月、突如、経営破綻を引き起こし、暗号資産(仮想通貨)業界に激震が走りました。

FTXの経営破綻は、そもそもずさんな経営状態が招いたものであることが明らかになりましたが、世論は業界全体に共通する問題、リスクと捉えており、信頼回復には時間がかかりそうです。

この記事では、なぜFTXは破綻したのかその理由について解説します。また今後、暗号資産業界はどう信頼を回復していくのかについて詳しく説明します。

FTXはなぜ経営破綻したのか?

2022年11月上旬、海外最大手の一つである暗号資産交換業者FTXとその姉妹会社の投資会社Alameda Research(アラメダ・リサーチ)が経営崩壊の末、突如破綻するという事件が起きました。

飛ぶ鳥を落とす勢いで世界に事業を拡大中だったFTXは、誰の目にも順風満帆に成長を続けている企業と映っていただけにFTX破綻の衝撃は大きく、暗号資産市場全体に対しても多大なる影響を及ぼしました。

事の発端は、アメリカの暗号資産メディアが報じた2022年11月2日の記事が公開されたことでした。

記事は、当該メディアが独自に入手した非公開のアラメダ・リサーチの貸借対照表(6月30日時点)から、アラメダ・リサーチの財務状況には疑問を感じるという内容でした。アラメダはFTXが発行するネイティブ暗号資産FTXトークン(FTT)を大量に保有していたことが問題視されました。

アラメダ・リサーチは、姉妹会社であるFTXでFTTを発行し、買い上げなどを通して利益を増やし、その利益で借り入れを行うことで現金を調達するという脆弱性の高い運用体制をとっていました。自社でいくらでも発行できる資産ばかりでは、実際に保有する資産の価値が不透明です。最終的に支払能力や顧客資産管理方法の問題へと発展し、その結果、報道からわずか10日間で経営破綻へとつながりました。

2022年11月11日、FTXは米国で連邦破産法第11条(Chapter11)の適用を申請しました。Chapter11は米国における代表的な再建型の倒産法制で、日本の民事再生法に相当します。それは事実上の倒産を意味しますが、会社は存続し裁判所の認可を得て経営の立て直しを目指すことになります。

FTXとは

FTXは2019年4月に設立された、本社をバハマに置く海外の暗号資産交換業者でした。トレーダーによるトレーダーのための暗号資産デリバティブ取引所として創業したFTXは、マサチューセッツ工科大学(MIT)出身のサム・バンクマン=フリード氏とゲイリー・ワン氏によって設立されました。

まだ、一般的な取引所が現物取引やレバレッジ取引を提供していた中で、FTXは業界初となるデリバティブ、オプション、レバレッジトークンなど暗号資産による金融派生商品を提供し、設立後2年足らずで世界最大規模の取引所の一つに急成長し話題になりました。

CEOのサム・バンクマン=フリード氏は、FTX設立前は金融サービス会社ジェーン・ストリート・キャピタルにて国際的なETF(上場投資信託)の取引を行っていました。また、CTOのゲイリー・ワン氏は、Googleのソフトウェアエンジニアを務め、その後ソフトウェアエンジニアのインターンとしてFacebookにも参加していたエンジニアです。

ふたりは、先にデジタル資産調査会社であり投資会社であるアラメダ・リサーチを設立し、そのインキュベーションプロジェクトとしてFTXを創業しています。

アラメダ・リサーチ時代にサム・バンクマン=フリード氏は、多くの暗号資産が大暴落した2018年の時期に、廃業へと追い込まれつつあった暗号資産マイニング業者(マイナー)らに対して「(暗号資産の)一部を現金に変えることが生き残るには重要」であると忠告したことにより、マイナーがデリバティブに注目するきっかけを作っています。FTXは、その投資の受け口としてマッチしたともみられています。

また、ソラナ・ブロックチェーンの開発者のひとりでもあるサム・バンクマン=フリード氏は、すべての事業において成功を収め、当時29歳にして115億ドル(1兆6000億円相当)の資産を保有する、近代において誰よりも早くビリオネアとなった人物のひとりに数えられ、世界中の注目を浴びる業界人になりました。

FTX破綻までの経緯

破綻のきっかけとなる貸借対照表に書かれていた内容について詳しくみていきましょう。

アラメダ・リサーチの貸借対照表には、資産は2022年6月30日時点で146億ドル(2兆400億円相当)と記載されています。資産内訳で最大の資産はFTTが36億6000万ドル(5100億円相当)、21億6000万ドル(3000億円相当)がレバレッジポジションのFTT担保だったことが見て取れます。

また、80億ドル(1兆1100億円相当)ある負債は、大部分の74億ドル(1兆400億円相当)がローンであり、2億9200万ドル(410億円相当)分のロックされた(出金等、動かすことができない)FTTも含まれていました。

貸借対照表からアラメダ・リサーチの大半の資産は、FTXで独自にFTTを発行し、FTTの買い上げなどを通して利益を増やし、その利益で借り入れを行って現金等を調達する手法が見て取れます。その他の資産にも、サム・バンクマン=フリード氏が関わっている他のプロジェクトによる暗号資産も含まれていたこともわかっています。

報道から破綻に至るまでのタイムスケジュールは以下の通りです。

日時 内容
2022年11月2日 米暗号資産メディアが貸借対照表をスクープ。
FTXの運用体制が疑問視される。
11月6日 トレーダーがFTT売却。海外の大手暗号資産交換業者が保有していた
FTTの5億ドル分(70億円相当)を精算すると発表。
11月8日 FTT/USD現物の価格が暴落。
11月9日 海外大手暗号資産交換業者がFTX買収を発表も、
顧客資産の出金が相次ぎ、ビットコイン価格も年初来安値を割り込む。
アラメダ・リサーチが大量保有していたSOLが売られるなど、
市場全体に影響が及ぶ。
11月10日 海外大手暗号資産交換業者が買収断念を発表。
バハマ当局がFTXの資産を凍結。
11月11日 米国で連邦破産法第11条(Chapter11)の適用を申請。
サム・バンクマン=フリード氏がCEO辞任。

FTX破綻による業界への影響

FTX破綻後、裁判所への提出書類で上位50位の大口債権者のリストが提出され、大口債権者の債権総額は、約31億ドル(4400億円相当)にのぼることが明らかになります。

その時点では債権者の名前などは明らかにされませんでしたが、100万人と推定されているFTXの債権者の中で、最大の債権者の債権額は2億2600万ドル(318億円相当)だということがわかりました。

その後、全体の債権者リストが公開されると、債権者の中には大手テック企業を始め、銀行やベンチャーキャピタル、報道、政府機関など無数の企業がその破綻に巻き込まれていることが明らかになります。

2022年11月には、FTXから金融支援を受けていた暗号資産(仮想通貨)レンディング大手のブロックファイが破綻しました。さらに2023年に入ってからは、アメリカ拠点のジェネシス・グローバル・トレーディングの融資部門ジェネシス・グローバル・キャピタルの親会社・グループ会社合わせて3社が破綻。1月19日に米国の裁判所に連邦破産法第11条(Chapter11)の適用を申請しました。

ジェネシス・グローバル・キャピタルは、FTX経営破綻直後に資金の引き出しを停止していました。同社の経営破綻はFTXの破綻によって引き起こされた暗号資産業界の流動性の問題が背景にあると説明しています。

さらにFTXと取引があった暗号資産に特化した銀行であるシルバーゲート・キャピタルの預金が急減しました。資金捻出のための費用が膨らみ、2022年10〜12月期は最終赤字となっています。

預金の急減による流動性リスクが高まることを懸念して、米連邦準備理事会(FRB)、米通貨監督庁(OCC)、米連邦預金保険公社(FDIC)は2023年1月に、前例のない共同声明を発表し、米国の銀行組織に対して暗号資産リスクに関する警告を行いました。

共同声明には、2022年に暗号資産分野における大きな変動と脆弱性の露呈という出来事があったことが報告され、銀行に対しては暗号資産関連の顧客にサービスを提供するなら危険を覚悟で行わなければならないと警告するなど、政府側も監視を強化する姿勢を示しているようです。

今後、債権者への返済に向けて

新たにFTXのCEOに就任したジョン・レイ3世は1月19日、FTXの事業再生の可能性を検討していることを報道陣に語っています。

FTXの代理人弁護士によると、FTXは、現金と暗号資産(仮想通貨)で約50億ドル(7000億円相当)を回収したことを、2023年1月11日に破産裁判所で行われた審理で判事に報告しています。ちなみに、回収した50億ドル(7000億円相当)にはバハマ証券委員会が押収した資産は含まれていません。

FTXの破産手続きを監督する米国の裁判所は、経営難に陥っているFTXに対し、債権者への返済を支援するために資産の一部売却を承認しました。裁判所の文書によると、デリバティブプラットフォームLedgerX、株式取引プラットフォームEmbed、地域子会社を含むFTX主要子会社の4つの売却を承認したようです。

ただし、法務チームが正確な内部記録の作成に取り組んでいますが、FTXの実際の顧客の損失額は不明です。CFTC(米商品先物取引委員会)によれば、FTXの実際の損失額は80億ドル(1兆1100億円相当)以上と推計されています。

一方、FTXの創設者であるサム・バンクマン=フリード氏は、アラメダ・リサーチで発生した債務の支払いのためにFTXの顧客から数十億ドルを盗んだとして告発されていますが、詐欺罪について無罪を主張しています。サム・バンクマン=フリード氏は、2023年10月に裁判を受ける予定になっています。

こうした裁判も含めて、FTX経営破綻による社会への影響は、まだしばらく続きそうです。

まとめ

FTXの破綻は暗号資産(仮想通貨)市場だけでなく、業界全体にも広がっています。FTXと取引のあった複数企業が相次いで破綻し、アメリカ政府は銀行にも流動性リスクに関する警告を発しました。

今後、暗号資産業界が信頼を回復させるには、二度とFTXのような問題を引き起こさぬように自らを正し、安心安全に取引が行える環境を構築するために、業界全体で取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。

※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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