取引所トークンとは?暗号資産(仮想通貨)との違いを解説
ここ数年、暗号資産交換業者が独自に発行する取引所トークンという暗号資産(仮想通貨)が注目されています。
自ら取引所トークンを発行することによって、経済圏(エコシステム)を構築する例が見られるようになり、様々な話題を呼んでいます。
この記事では、注目度が高まる取引所トークンについて詳しく解説していきます。
取引所トークンとは?
取引所トークンが形成する経済圏、いわゆるエコシステム設計は暗号資産交換業者ごとに異なり、取引所トークンごとに特徴や価値を持っています。
取引所トークンが登場した当初は、ICO(Initial Coin Offering )的役割を担ったトークンが多く、暗号資産交換業者自身の資金調達のために発行されました。
その後の取引所トークンは、資金調達のみならず、暗号資産交換業者の取引の出来高に応じたトークン配布モデルの設計を進めました。取引所トークン保有者は手数料の割引を受けることができたり、また保有量に応じて報酬を受け取ることができたりするなど、取引所トークンのエコシステムによる様々な恩恵をこうむることができるものへと発展していきました。こうした取引所トークンの仕組みは、一般的にトレードマイニングと呼ばれています。
取引所トークンの特徴
一般的に取引所トークンは、ビットコイン(BTC)など既存のパブリックな暗号資産(仮想通貨)とは異なり、暗号資産交換業者という中央集権的な発行体が発行をするトークンであり、発行者や管理者が存在する暗号資産です。
現在の多くの取引所トークンは、基本的には暗号資産交換業者のサービスを継続して利用してもらうためのインセンティブとして発行されます。
取引所トークンの保有者は、取引手数料の割引、報酬、特別なサービス等にアクセスする権利などを獲得できますが、具体的なサービスは暗号資産交換業者によってまちまちです。
暗号資産交換業者によっては、将来的には暗号資産交換業者の経営ガバナンスに対する議決権・投票権を持つことを宣言している取引所トークンも存在しますが、あくまでも予定であり、2023年1月現在、これらを実現できている取引所トークンはまだありません。
また、暗号資産交換業者によっては、将来的に上場してほしい新規上場暗号資産に投票する権利が得られるものもあり、自分が期待する暗号資産、上場してほしい暗号資産に自分の意思で投票することができるものもあります。
しかし、取引所トークンを保有するメリットとして最も大きいのはトークンの保有量や取引所の収益に応じて受け取ることができる、トレードマイニングによる報酬でしょう。
その仕組みもまた暗号資産交換業者によって異なりますが、暗号資産交換業者が運営する取引所の収入源に当たる取引手数料の一部をトークン保有者に還元する取り組みもあり、暗号資産の新たな収益方法として注目されています。
暗号資産交換業者で異なる様々なインセンティブ
トレードマイニングは様々な方向へと発展しており、取引所ユーザー間で取引所トークンによる送金が可能な暗号資産交換業者も存在します。また、取引所トークンと既存の他の暗号資産による取引ペアで取引が可能な取引所も存在します。最近では、取引所トークンを利用した決済サービスの提供を予定している暗号資産交換業者も出てきました。
取引所トークンは、使用用途や価値そのものが不明であるユーティリティートークンとは異なり、多くは暗号資産交換業者のキャッシュフロー、いわゆる取引所の収益価値に紐づくものに近いことから、広義の意味での証券トークンにも近いといわれている面もあります。しかし、取引所トークンはオフショア取引所が株式市場へのアクセスなしで資金を調達する方法であり、実際の株式とは明確に異なります。
取引所トークンの役割とその将来性
世界各国で暗号資産交換業者が乱立して市場は競争が激化し、暗号資産交換業者による顧客の争奪戦に発展したこともあり、取引所トークンは暗号資産交換業者にとって顧客を獲得するための重要な機能になりつつあります。
暗号資産交換業者にとって取引所トークンは、顧客へのサービスの向上と事業の持続性等を両立させることを可能にする機能であることは間違いありません。暗号資産交換業者にとっては、既存の暗号資産(仮想通貨)とは異なる、より安定した暗号資産を顧客に提供できる機会でもあります。
また、より良い取引所トークンを設計することで、暗号資産交換業者は顧客に対するインセンティブを拡充し、取引ボリュームの増加を促すことで、その結果、取引所の収益増加へと繋げることも可能です。取引トークンの価値が高まれば、さらに成長投資を行うことも可能になり、サービスの拡充や事業の拡大も可能になります。
取引所トークンについては、規制された地域や法律的にグレーな地域では、規制の観点から導入されていない国々も多々ありますが、グローバル市場における主要暗号資産交換業者の多くはすでに取引所トークンを導入しており、現在導入検討中の暗号資産交換業者も少なくありません。
ただし、取引所トークンは発行するだけでビジネスが成功するわけではありません。基本として良いサービスがあって、良いトークンモデルがある暗号資産交換業者の業績は伸びるでしょう。しかし、サービスが悪ければ失敗することもあり得ます。
逆にいえば、ユーザーにとっては価値ある取引所トークンの見極めが必要になります。派手なサービスや無謀な報酬をうたう取引所トークンがあっても、現実に取引所の収益が上がらなければ取引所トークンの価値はおろか、暗号資産交換業者の存続すら不可能になりかねません。取引所トークンの発行によって瞬間的に取引高が増えたものの、その後大きな失速をしてエコシステムがまわらなくなる事例もあります。
取引所トークンに関する注意点
取引所トークンを購入する場合は、取引所トークンを発行する暗号資産交換業者そのものの経営状況を見極めることが最も大切です。
現に、取引所トークンFTTを発行していた世界最大手の一つである暗号資産交換業者FTXは、2022年11月に経営破綻しました。
近年、飛ぶ鳥を落とす勢いで事業をグローバル拡大していったFTXですが、FTXと姉妹企業であるアラメダ・リサーチは、経営状況が実は危ういのではないかという噂になりました。
経営破綻の発端となったのは、暗号資産関連メディアのコインデスクが入手したというアラメダ・リサーチの貸借対照表を公表した記事でした。
報道によると、アラメダ・リサーチはFTXで取引所トークンFTTを発行し、買い上げなどを通して利益を上げ、さらにそれで借り入れを行って現金等を調達するという脆弱性の高い運用体制をとっているのではないかという疑惑の記事でした。
報道に対してアラメダ・リサーチ共同CEOのCaroline Ellison氏は、自身のツイッターで、報道にあった貸借対照表は完全なものではないなどと弁明しました。しかし、記事によってFTXの財務の健全性に疑問をもった投資家らは大きく動きました。
過去にFTXに出資していた海外の大手暗号資産交換業者は2022年11月7日未明、同社が2021年にFTXへの投資から撤退した際に得たFTT残額(5億ドル相当)をすべて清算することを発表しました。
この発表に対しCaroline Ellison氏はすぐに返信し、この大手暗号資産交換業者が売却予定のFTTを「アラメダが喜んで1FTTを22ドルで買い取ります」と発言するも、結果としてFTTを買い支えることができずFTTは大暴落しました。
その後、FTXがユーザーへの事前連絡なしに出金停止をするなどといったニュースが追い討ちをかけ、暗号資産市場全体が暴落し、結果FTXが破綻するといった事件につながりました。
FTXの事件は、FTT自体のエコシステムが崩壊というよりは、FTXのずさんな経営体制に問題があったという事件でしたが、取引所トークンの価値を見極めるには暗号資産交換業者の財務状況は重要な要素の一つであるという、教訓になった事件でした。
まとめ
取引所トークンは、暗号資産交換業者にとって重要な機能になりつつあります。
暗号資産交換業者にとって取引所トークンは、顧客へのサービスの向上と事業の持続性等を両立させることを可能にします。取引所トークンのエコシステムがうまく機能すれば、暗号資産交換業者と顧客が共に利点を享受できる可能性を持つ仕組みとなるでしょう。しかし、そこには健全な経営が必須であり、暗号資産交換業者が保有する資産の価値や経営状況の透明化は必要不可欠です。
取引所トークンを購入したり、保有したりする場合は、自己責任において取引所トークンの将来性や発行体となる暗号資産交換業者の信用度を見極めることが大切です。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
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