暗号資産(仮想通貨)の法律を解説!規制整備の流れを把握しよう
ビットコイン(BTC)を筆頭とする暗号資産(仮想通貨)は、急速に普及したことや次々と新しい技術が生まれていることから、2023年7月現在も法整備が進められている最中です。1年も経てば状況が変わっており、暗号資産を規制する資金決済法は2017年から2023年7月までに3度の改正案で重要な規制が発表されています。
また、法改正の中にはレバレッジ倍率に関わるものやセキュリティに関わるものなど、投資家にとっても動向を把握しておくべき項目が盛り込まれています。
健全な環境整備は暗号資産の普及にとって必要不可欠です。この記事では、暗号資産に関する法律をまとめていきます。
2017年の法改正で暗号資産(仮想通貨)に法的根拠
2017年4月1日に、「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」が成立・施行しました。その中に含まれている「資金決済に関する法律(資金決済法)」において、「第三章の二 仮想通貨」という箇所が付け加えられたのが、暗号資産(仮想通貨)に関する法律の始まりです。
そもそも「資金決済法」とは、商品券や電子マネーについて定義づけていた法律で、この改正によって暗号資産(当時は仮想通貨と呼称)に関した内容が盛り込まれました。これに伴い、日本は世界で初めて暗号資産を合法的な決済手段として認めた国家となったのです。
それまで暗号資産には法的な根拠が特に存在せず、取引などに関する規制も設けられていませんでした。もっと具体的にいえば、暗号資産交換事業者が経営破たんした場合に利用者を保護する仕組みや、マネーロンダリング(資金洗浄)・テロの資金源などに用いられることへの対策などが未整備だったわけです。こうした状態のままでは安心して暗号資産を取引できず、悪意のある個人や集団に悪用されて深刻な社会問題に発展しかねません。そこで、日本は他国に先駆けて法整備に乗り出し、暗号資産交換業者についても登録制とし、登録業社に本人確認義務が課されました。
この改正法施行によって、ビットコインをはじめとする暗号資産は支払手段の一つとして定義されるとともに、法定通貨とは明確に区別されました。ただし、暗号資産は金融商品には該当せず、会計処理上では資産として扱われることになっています。
この改正法施行によって暗号資産の売買はそれまで消費税が課されていましたが、2017年7月1日より非課税となりました。
暗号資産(仮想通貨)の法律における定義とは
「資金決済法」では、暗号資産(仮想通貨)を「1号暗号資産」と「2号暗号資産」の2種類に分類したうえで、それぞれの定義を明文化しています。共通しているのは「ブロックチェーン技術が使われていること」と「財産的価値があり、電子情報処理組織を用いて移転できる」ことです。なお、セキュリティトークンに関しては金融商品取引法で定義されているために暗号資産の定義からは除外されています。
「1号暗号資産」とは
「1号暗号資産」とはビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)を想定しています。不特定の人に対して法定通貨と交換できるものを指します。これには以下のような4つの定義があります
1. モノやサービスの代金を支払う際に、不特定の相手に対して使用できること(不特定性)
⇒要するに、相手を特定せず、広く一般的にモノやサービスの代金支払いに用いられる
2. 不特定の相手に購入・売却でき、財産的価値がある(財産的価値)
⇒要するに、相手を特定せず、購入や売却に用いることができ、その財産的価値が認められている
3. 電子機器やその他の物にデジタルデータとして記録され、電子情報処理組織を通じて移転できる(電子的記録)
⇒要するに、インターネットを通じてやりとりできるデジタルデータである
4. 日本通貨・外国通貨、通貨建資産でない(非法定通貨)
⇒要するに、法定通貨や法定通貨を基準にその価値が提示されている資産ではない
以上の4つをすべて満たすものが「1号暗号資産」で、モノやサービスの決済に使用できる一方、多くの人がその財産的価値を認め、日本円やドルなどの法定通貨とも交換できるデジタルデータということになります。ビットコインやイーサリアムはこれらの条件を満たしているわけです。
これに対し、特定のコミュニティ内やゲーム内など、使える範囲や店舗が制限されている場合は「1号暗号資産」とみなされません。また、「1号暗号資産」を用いたサービスを提供するためには、「暗号資産交換業」としての登録が義務づけられることになりました。
「2号暗号資産」とは
一方、「2号暗号資産」については、以下の2つの定義が示されています。
1. 不特定の人を相手に、「1号暗号資産」と交換できる財産的価値を持つもの
2. 電子情報処理組織を用いて移転できるもの(電子的記録)
⇒要するに、インターネットを通じたデジタルデータのやりとりである
「1号暗号資産」と共通しているのは、財産的価値のあるデジタルデータの暗号資産であることです。一方で異なるのは、「2号暗号資産=1号暗号資産と交換できるもの」と定められています。
例えば特定のゲーム内でゲーム内通貨として流通している暗号資産があるとして、それ自体は取引所で法定通貨への換金はできないものの、他の利用者との間で1号暗号資産であるビットコインやイーサリアムとは交換(売買)が可能な場合は、これが2号暗号資産に該当します。
ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)と電子マネーとの区別は?
同じようなデジタルデータのやりとりであっても、法律上ではビットコインのような暗号資産(仮想通貨)と電子マネーは明確に区別されています。電子マネーはプリペイド(前払い)方式で、通貨建資産(日本円やドルなどの法定通貨で価値が提示されるもの)に該当するので、法律上の暗号資産の定義から外れるのです。
もっと平たくいえば、その国・地域で用いられている法定通貨での決済をデジタル化してより便利にしたものが電子マネーで、暗号資産とは明らかに性格が異なっているということです。電子マネーはその発行者が特定している加盟店でしか使用できず、利用範囲が限定されているため、「不特定の者に対して使用できること」という暗号資産の定義を満たしていません。また、電子マネーにも財産的価値はあるものの、不特定多数の相手とそれを売買できるわけではないのも事実です。
これに対し、デジタル決済という点は共通していても、ビットコインなどの暗号資産は、日本円やドルなどの法定通貨をビットコインに交換するという手続きを行わないと、決済に用いることができない場面が多いです。このように、両者は似て非なるものなのです。
暗号資産交換業者の規制は?
日本において、暗号資産交換業には簡単に参入できるものではありません。
資金決済法では暗号資産交換業を営む際には内閣総理大臣の登録を受けることが義務づけられています。暗号資産交換業とは、①暗号資産の売買または他の暗号資産との交換、②暗号資産の売買または交換の仲介、取り次ぎ、代理、③①及び②に関して利用者の金銭を管理すること④他人のために暗号資産の管理をすることのいずれかに該当するものです。
資金決済法63条の5では、暗号資産交換業の登録申請が拒否される場合についても明記されています。登録に必要とされる主要な要件として主なものは以下です。
● 株式会社または外国暗号資産交換業者(国内に営業所が必要)であること
● 外国暗号資産交換業者は、国内における代表者がいること
● 暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行するために必要と認められる内閣府令で定める基準に適合する財産的基礎を有する法人であること
● 暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていること
● 法令遵守のために必要な体制の整備が行われていること
● 他に行う事業が公益に反しないこと
● 取締役、監査役もしくは執行役または会計参与等が破産や刑に処せられた等の欠格事由がないこと
要は、システムの構築やセキュリティへの配慮などにきちんと初期投資を行えるだけの資本力があって、財務面も不健全でない事業者が登録の対象です。
また、暗号資産交換業を営むに当たっては、利用者に対する正確な情報の提供や取引上のリスクなどに対する説明も義務づけられています。加えて、これも極めて重要なことですが、暗号資産交換業者は自らの財産と顧客の財産を分別して管理する義務も明確化され、利用者ごとの残高を帳簿上で確認できることが求められています。暗号資産には、銀行のペイオフのような預金保険制度はありませんが、こうした法整備によって顧客資産の保全に関する法整備は進んでいます。
なお、金融庁は登録を受けている暗号資産交換業者の一覧リストを公表しており、DMM Bitcoinもその中の1社です。
関連記事:「暗号資産(仮想通貨)に保証はあるか?知っておきたい日本の法律」
2020年5月施行の改正資金決済法
2017年4月施行の改正資金決済法は暗号資産交換業者の登録制度や利用者保護の整備がなされました。その後、詐欺的なICO(Initial Coin Offering)などが頻発したこともあり、2020年5月施行の改正資金決済法では、より厳格な資産の保全や投資的性格を持つICOをSTO(Security Token Offering)として金融商品取引法で規制することを盛り込みました。
2020年5月施行の改正資金決済法による主な整備は以下の項目です。
・国際的な情報を鑑み、「仮想通貨」という呼称を「暗号資産」に変更
・暗号資産をコールドウォレットで管理することの義務化
・暗号資産カストディの規制強化
・投資的性格を持つICOトークンをセキュリティトークンとして金商法で規制
・預かり資産のうち、95%をコールドウォレットに保管すること
また、これとは別に暗号資産デリバティブに関する整備も進められました。暗号資産(仮想通貨)に関する店頭デリバティブ取引またはその媒介、取次、代理を業務とする場合には、第一種金融商品取引業者の登録が必要になったほか、暗号資産の証拠金取引の倍率を上限2倍とすることなどが含まれました。
ボラティリティが大きい暗号資産市場に関して、投資家が安全に取引できる環境が整備されたといえるでしょう。
2023年6月1日施行の改正資金決済法
2023年6月1日に改正資金決済法が施行されました。
この改正法で、注目されたのは「電子決済手段」が新設されたことです。それまで、規制としてはグレーゾーンとなっていたステーブルコインに関する規制が盛り込まれました。
改正法では、「1ステーブルコイン=1円」のように法定通貨の価値と連動する「デジタルマネー類似型」を、送金や決済手段に使われる「電子決済手段」として規制します。これによって、法定通貨を裏付け資産とする「デジタルマネー類似型」のステーブルコインを日本で発行できるようになり、企業間決済の効率化が進むと期待されています。
ステーブルコインには、法定通貨を裏付けとするもの以外に、アルゴリズムによって価値の安定を図るステーブルコインがありますが、これについては「暗号資産型」として区別し暗号資産として規制されることが決定しました。
「デジタルマネー類似型」のステーブルコインに関しては、発行者と仲介者を明確にわけ、発行は銀行や資金移動業者、信託銀行に限定しました。仲介者に関しても登録制を導入し、マネーロンダリング対策やテロ資金供与対策における犯収法の規制対象となりました。
世界の暗号資産(仮想通貨)に関する法律
日本だけでなく、世界中で暗号資産(仮想通貨)に関する法律は整備が進められています。
ヨーロッパ
欧州連合(EU)では暗号資産市場規制法(MiCA)が2024年12月30日から施行されます。
MiCAでは暗号資産交換業者や発行主体、ウォレット事業者の登録が必要になります。セキュリティやリスク対策が必要になるほか、不正行為やインサイダー取引を防止するための取り組みが含まれ、欧州での適正な市場環境が形成されることが期待されています。
アメリカ
アメリカでは、2023年7月現在、いくつかの暗号資産に関する法案が提出されています。最近では2023年6月に暗号資産規制に関する法律の草案が共和党幹部によって発表されました。アメリカでは暗号資産に関して証券に該当するのか、それとも商品なのかの線引きをめぐって見解が統一されていないことが課題となっています。
そのため、草案ではこの線引きの明確化が目指されています。
アメリカでは証券取引委員会(SEC)が「有価証券」に関する規制権限を持つ一方、商品先物取引員会が「商品」に関してデリバティブ取引などを規制しています。
前述したように、これらの線引きが曖昧で、規制当局間の縄張り争いから、明確な規制制定に至っていません。
まとめ
日本は世界で初めて暗号資産(仮想通貨)を合法的な決済手段として認め、「1号暗号資産」、「2号暗号資産」と定義づけて、電子マネーとも明確に区別されています。
また、詐欺的なICOやステーブルコインの普及に合わせて、法律も整備されてきているように、利用者にとっても安心して取引できるような環境が出来上がりつつあるでしょう。
暗号資産に関する法整備は毎年のように改正されています。投資する際にも知っておくべき内容もあるため、しっかりと把握しておくようにしましょう。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
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