ビットコインはインフレヘッジになるのか 株や金とも比較
投資を行う上で、リスクを分散させることは非常に重要です。中でもインフレーション(インフレ)の際には、保有資産の価値が変動して損失を出すこともあるでしょう。2022年6月には、米国の過去40年間で最高レベルのインフレが起きました。こうしたインフレ時には、ヘッジ手段(リスクを軽減する手段)を持つことが重要です。一般的には金(ゴールド)などの安全資産が避難先として選択されますが、ビットコイン(BTC)もインフレヘッジ手段の一つとなると主張されることがあります。しかし、他資産と比べてボラティリティが大きいビットコインはヘッジ手段になりうるのでしょうか。
この記事ではビットコインのインフレヘッジ手段について解説します。
インフレヘッジとは
物価が持続的に上昇するインフレ時には、物価に対して、お金の価値が一定期間低下します。例えば、100円で買えた牛乳が数日後には150円払わないと購入できない、といったような状況です。しかし、インフレ時に現金の資産価値が下がったとしても、金や債券といった資産は現金と同じスピードで価値が下がる訳ではなく、反対に上がることもあります。「インフレヘッジ」というのは、このようにインフレ時に価格が上昇、もしくは下落幅が小さいその他の資産に乗り換えることを指します。
特に、金(ゴールド)は歴史的にインフレヘッジのための安全資産・価値の保存手段と見られてきました。希少性が高く、供給量も簡単には増やせないため価値が希薄化することが少ないと考えられているためです。実際、過去の景気後退時にパフォーマンスが高かったことが知られています。
一般的に原油や鉄といった原材料を供給する国で地政学的リスクが高まると、原料価格が高騰するために、需要と供給の関係が変わりインフレが発生することがあります。さらには国家が紙幣を大量に配布することも影響します。2022年はロシアのウクライナ侵攻や、新型コロナウイルスの経済対策として行われた金融緩和の影響で、アメリカで40年来のインフレが起こりました。2022年6月のアメリカにおけるCPI(消費者物価指数)は9%を上回り、日本でも2022年9月に発表されたCPIは30年11ヶ月ぶりの上昇率でした。こうした局面では、ヘッジ手段として金(ゴールド)を推奨する声が高まります。
金(ゴールド)の他には、株式や物価連動国債、不動産などがインフレヘッジになるとされます。これらに加え、ビットコインの性質や普及が進むにつれて、資産価値が上昇しており、インフレヘッジになるとの主張がされるようになりました。
ビットコインはインフレヘッジになるのか
ビットコインがインフレヘッジ手段として注目が集まったのは、ジンバブエやベネズエラをハイパーインフレが襲った際などです。ジンバブエでは、政府が大量の紙幣を印刷したことでインフレに繋がり、同時にビットコインが買われたことがありました。当時は1BTC=40万〜50万円ほどだったのに対し、ジンバブエでは80万円ほど、ベネズエラでも65万円ほどまで上昇しました。
ここで重要だとされたのが、ビットコインが国や政府などから独立しているという点です。預金封鎖などで押収されたり、紙幣を大量に発行することによる資産価値の減少につながったりしないからです。特に2013年のキプロス危機の時には、政府の預金封鎖によってビットコインが避難先として選ばれました。日本では法定通貨よりも暗号資産(仮想通貨)の方が信用できるという感覚は想像し難いですが、海外では自国通貨よりも暗号資産の方が信頼できるということが起きています。
安全資産としてのビットコインの性質
金(ゴールド)及びビットコインに投資する理由として共通しているのは、双方ともに経済的に不安定な状況の中でも価値を保ってきていることが多くみられたためです。ビットコインはそのため、インフレヘッジの資産である金(ゴールド)のデジタル版として、「デジタルゴールド」と呼ばれることがあります。
デジタルゴールドと呼ばれる一つの理由は発行上限です。ビットコインは発行枚数が2100万BTCと上限が決められており、発行量も「半減期」によって徐々に緩やかになるように設計されています。供給上限については、金(ゴールド)も埋蔵量が数万トンとされており、希少性が高くなっていることが共通の性質とされます。
発行上限が決まっていないと、価値が希薄化し、インフレにつながってしまいます。ビットコインは中央管理者がおらず、政策によって供給などを変更することもできません。
一方で、金(ゴールド)を凌ぐ性質として、ビットコインはデジタル上の資産であるために現物を持ち運ぶ必要がない点が挙げられます。全世界どこでも取引が容易であるため、金(ゴールド)の時価総額をいずれ追い抜くのではないかと期待する声もあります。
インフレヘッジとして捉えられていることは、投資家の動きにも見られます。2020年4月や同年5月にはアメリカ政府の金融緩和が将来的に引き締められることを見越して、大手ヘッジファンドやポール・チューダー・ジョーンズといった大物投資家がビットコインをポートフォリオに加えたことが報道されました。
さらには、2020年秋頃から、ビットコインのボラティリティが高いため資金効率が良いことに注目が集まり、モルガン・スタンレーやテスラといった企業のビットコイン市場参入につながりました。これらに動きは、ビットコインがヘッジ手段の一つとして捉えられていることを示すものでした。実際に2021年はインフレ予想相場から、インフレに強い株や石油と共にビットコインが上昇し、さらに長期債が売られ長期金利が上昇しました。
しかしその後、2022年3月からアメリカがインフレ抑制のためにテーパリング(量的緩和の縮小)や利上げを実施したことよってビットコインは下落。他の資産も同様に下落している中でも、ボラティリティの大きいビットコインの下落幅は膨らみました。
2022年の大幅下落に関しては、インフレに関するものというだけでなく、アルゴリズム型ステーブルコイン「テラUSD」の崩壊や、それに伴う大手企業の倒産に起因するとの指摘もありますが、世界的にインフレが進む中でビットコインが大きく売られたのは事実でしょう。
関連コラム:
「ビットコインはデジタルゴールドとなる可能性はあるか」
インフレヘッジとして有用なのは金かビットコインか?
実際に安全資産とされる金(ゴールド)とビットコインの値動きについても見てみましょう。インフレ対策として有用なのはどちらなのでしょうか。
金(ゴールド)はこれまでの歴史で、優れた価値の保存手段として機能してきました。しかし、金の価値が全く順調であったというわけではありません。
例えば2011年9月から2020年7月ごろまでは、金(ゴールド)には長期の停滞期間がありました。2011年9月にもし金(ゴールド)を購入していたとすると、2020年7月まで待たなければ利益が出ない状態が続きました。一方のビットコインは、過去最高値を記録した後に急落するという価格行動を繰り返してきたものの、最高値を更新するのに4年以上かかったことはありません。(2022年9月末現在)
金がインフレ対策として注目されてきたのは、物価の上昇に応じて、金(ゴールド)価格も上昇してきたためです。一方でビットコインと金を比較すると、2022年9月から直近2年間で金(ゴールド)は約12%の下落であるのに対し、ビットコインは75%ほど上昇しています。
長期的に見ると、ビットコインは金(ゴールド)よりも早いペースで価値が上昇していることがわかります。2022年だけで見るとビットコインはリスク資産としての振る舞いをみせ、下落幅は大きいものです。ただ、長期的な展望を持った場合には、現在のところ金(ゴールド)よりも優れている傾向があるといえるかもしれません。
ただ、ビットコインはボラティリティが大きいために、投機的な資産であることは否めません。投機的なリスク資産は、不確実性が増すと売られることがあります。2022年の状況はまさにビットコインがインフレヘッジというよりも、リスク資産の代表格として捉えられました。さらに、2022年はインフレ以外の不安要素が続出した年でもあります。インフレヘッジとなるかはまだ今後の展開を待つ必要があるでしょう。
ビットコイン以外の暗号資産(仮想通貨)はヘッジ手段になるのか
暗号資産(仮想通貨)の中でインフレヘッジの代表格はビットコインですが、大きな時価総額を持つイーサリアム(ETH)もインフレヘッジになると主張されることがあります。さらには金価格との連動を目指す暗号資産も生まれています。
イーサリアムは2022年9月末時点で時価総額2位の規模を持つ暗号資産です。2022年9月にコンセンサスアルゴリズムをプルーフ・オブ・ステーク(PoS:Proof of Stake)に移行し、今後、取引手数料の低減や環境負荷がビットコインと比べて少なくなることが期待されるためなどから、5年以内にビットコインを上回る時価総額になると期待する声もあります。分散型金融(DeFi)やNFT(ノンファンジブルトークン)のプラットフォームとしてユーザーが広がっていることも期待を押し上げている要因でしょう。
2021年には、オーストラリアの研究者が「ビットコインよりも優れたインフレヘッジ手段になる可能性」を指摘しました。報告書の中では、供給量がビットコインよりも緩やかであることや、アルゴリズムによってバーン(焼却:供給量を減少させること)されることでトークン生成量を下回り、希少性が担保されていることがビットコインよりもインフレヘッジとして優れた資産になる可能性に繋がると主張しています。
さらにDMM Bitcoinでは安全資産である金(ゴールド)価格との連動を目指すZPG(ジパングコイン)を取り扱っています。1ZPGの価格が現物の金(ゴールド)1グラムの価格にほぼ連動するように設定されているために、インフレヘッジ手段の一つとして検討するのも良いかもしれません。
まとめ
ビットコインは金(ゴールド)と似たような性質から「デジタルゴールド」と呼ばれることがあります。実際に過去には、ハイパーインフレの際に資産の避難先として大きく買われたことがありました。
しかし、2022年ごろから続くインフレによって、リスク資産と似たような値動きをしていることからも、投機的な側面もあることは事実でしょう。ただし、2022年の急激なインフレに対して、米国の大幅な金利引き上げが継続していることで利子収入が減少することを警戒され、「安全資産」であるはずの米国債も買いにくい状況が起きました。
どの資産に投資するかは状況によって、刻一刻と変化していきます。投資はリスクを分散させることが重要なことは冒頭で申し上げた通りです。ビットコインに関してもインフレヘッジ手段の一つとして捉えておくのも良いでしょう。
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