web3(ウェブ3)とは?
暗号資産(仮想通貨)やメタバース、NFT(ノンファンジブルトークン)など、インターネットの新しい技術やトレンドを包含する言葉である「web3(ウェブ3)」という言葉が注目を集めています。スマートフォンやSNS以上の大きなインターネットの革新であるという声もあるほどです。
本記事ではこの新しい言葉であるweb3について、言葉が生まれた背景やサービスの種類、日本の動向などについて解説します。
web3(ウェブ3)とは
2024年2月現在、web3の定義は定まっていませんが、イーサリアム(ETH)の共同創業者であるギャビン・ウッド氏が提唱したのが始まりであると捉えられています。イーサリアム財団のウェブページでは、次の4点をweb3の構成要素としています。
- 分散型:インターネットの大部分が中央集権的な組織によって管理・所有されている現状とは異なり、所有権はweb3を構築する人々や利用者たちに分散される。
- パーミッションレス:誰でも平等にweb3に参加でき、排除されることはない。
- ネイティブな決済:銀行や決済処理業者の時代遅れなインフラに頼らず、暗号資産を使用してオンラインで支払い可能。
- トラストレス:信頼できる第三者ではなく、インセンティブや経済メカニズムを使って動作する。
上記のような要素を支える技術基盤としてブロックチェーンがあり、トークンやメタバース、NFT、DAO(自律分散型組織)、DeFi(分散型金融)といったサービスや技術がweb3の構成要素として捉えられています。
「web3」、「Web3」、「Web3.0」の違い
「web3」は「Web3(Wが大文字)」もしくは「Web3.0」のように表記されることがあります。厳密にはweb3とWeb3、Web3.0は異なるニュアンスや経緯を持ちます。どのような言説があるのかを整理しておきましょう。
ティム・バーナーズ・リー氏の「Web3.0」
元々、Web3.0は、「ウェブの父」として知られ、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の概念を考案したティム・バーナーズ・リー氏が2006年ごろから提唱していました。同氏によると、当時一般的であったHTML上に書かれたウェブページ上の文章構造を読み取ることではなく、個々の単語やデータの意味を読み取るセマンティックウェブのことをWeb3.0と呼んでいました。2022年ごろから話題となっているweb3とはやや異なる意味合いです。
ギャビン・ウッド氏の「Web3.0」
2022年から話題になっている「web3」は、暗号資産(仮想通貨)やブロックチェーンの意味合いが強い言葉で、イーサリアムの共同創業者であるギャビン・ウッド氏が2014年に公開したブログで注目が高まりました。ウッド氏のブログでは「Web3.0」と表記されていますが、その後、暗号資産界隈では「web3」と記述されることが多くなります。暗号資産界隈のボトムアップ的な動きを支持する人々からはあえて「w」と小文字で表記されることがあり、本記事でもその考えを踏襲して、同じ表記を用いています。
ウッド氏は2021年にアメリカのメディアで「Less trust, more truth(信頼は控えめに、もっと真実を)」をweb3の定義だとも発言しているように、トラストレスであることを重要視しているようです。
アンドリーセン・ホロウィッツの「Web3」
ベンチャーキャピタル大手のアンドリーセン・ホロウィッツは2021年10月、「Why Web3 Matters(なぜWeb3が重要なのか)」と題したブログ記事で「Web3 is the internet owned by the builders and users, orchestrated with tokens(Web3は、トークンで統合された、開発者とユーザーが所有するインターネットである。)」と定義しています。
内容としてはイーサリアム財団の定義と共通している一方、Web3以前のWeb2.0が一部の巨大IT企業に支配されていたことを暗に非難しました。
日本政府の「Web3.0」
日本政府は2022年の「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」の中で、「Web3.0」について「次世代インターネットとして注目される概念。巨大なプラットフォーマーの支配を脱し、分散化されて個と個がつながった世界。電子メールとウェブサイトを中心としたWeb1.0、スマートフォンとSNSに特徴付けられるWeb2.0に続くもの。」という注釈を加えています。この内容は、前述したイーサリアム財団の要素やアンドリーセン・ホロウィッツの巨大I T企業への非難が統合されている文章といえるでしょう。
ただ厳密な定義について、内閣官房デジタル市場競争本部は「厳密な定義については様々な見解があり、定義は定まっていないと考えられる」としています。
このように、「web3」は新しい言葉であるために、正確な共通の定義がある訳ではありませんが、主にブロックチェーンを使って、非中央集権的・分散的なサービスといった次世代インターネットを実現する考えやサービスのことであるといえるでしょう。
アンドリーセン・ホロウィッツが指摘するように「web3」は、Web2.0時代にグーグルやフェイスブック(現メタ)などのプラットフォーマーに集約されてしまった富やデータを個人に取り戻すという思想を持っていることから、web3の非中央集権的な性格を強調した意味合いで「デジタル民主主義」と同様に語られることもあります。
ビットコイン(BTC)などの暗号資産(仮想通貨)やNFT、次世代の組織形態の形とされるDAO(自律分散型組織)などがweb3の主要なサービスです。
web3という言葉が生まれた経緯
「web3」という言葉は、それまでのインターネットの歴史を「Web2.0」と「Web1.0」と分類した上で、web3が1.0や2.0の問題を乗り越えるものと位置付けられています。
Web1.0はインターネットが普及した初期段階で、ポータルサイトなど、情報を検索し閲覧するだけの一方通行な情報交換が主なサービスでした。こうした特徴から「トークン・エコノミー」の著者シャーミン・ヴォシュムギア氏は、主にWebページのコンテンツを読むことだけが可能であるとして、Web1.0を「Read(読む)」と表現しました。年代の定義としては、大体1995〜2005年ごろを指すとされています。EコマースもWeb1.0時代の特徴的なサービスの一つです。
Web2.0は、個人が情報発信できるようになった「Write(書く)」の時代とされます。ブログやSNSが広まり、誰でも編集可能なオンライン百科事典のウィキペディアなども生まれました。年代としては、2005〜2020年ごろとされます。しかし、この時代では市場がGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)といった大手テック企業による寡占状態となってしまったことで問題も生じました。
代表的な問題が、英国の政治コンサルティング企業がフェイスブックを通じて個人情報を不適切な方法で収集したことです。このデータが2016年のアメリカ大統領選挙で利用されたことで、個人のデータは中央集権的な大手企業に集約されるべきものではなく、自分自身で守るものとする風潮がアメリカを中心に起き始めます。
web3はインターネット上のプライバシーや「データは自分自身のもの」であるという「データ主権」の意識のもとに生まれました。このことから、データや資産などは自分自身が「Own(所有)」することがweb3時代の特徴だと主張されます。
いずれにしても、所有や参加、真実をもたらすために必要なのが「分散化・非中央集権化」であり、これがブロックチェーンによって可能になりました。サービスに管理者がおらず分散化・非中央集権化されることで、一部企業の寡占を防げると期待されています。さらに、これまでは個人のデータやデジタル資産はプラットフォームを跨いで利用することが不可能でしたが、ブロックチェーン上に管理されることで、一つのプラットフォームに縛られずにどこにでも持ち出すことができることも、個人にデータを取り戻すweb3の実現を可能にしたと考えられています。
Web1.0 | Web2.0 | Web3 | |
---|---|---|---|
特徴 | Read(読む) | Write(書く) | Own(所有する) |
サービス | 検索サイトやeコマース | SNS | 暗号資産、NFT、メタバース、DAOなど |
web3時代のサービス
web3時代のサービスは、中央集権的な管理から非中央集権的になり、個人での所有が可能になったことが特徴です。たとえば暗号資産(仮想通貨)は、政府や銀行などが管理していた資産を個人で管理できる、web3時代の代表的な技術でもあります。
そのほかにも、分散型金融(DeFi)では融資やトレーディングといった、従来の銀行などが担っていたものを管理者なしで可能にする仕組みも生まれました。
NFTはデジタル資産の所有権を管理することで、収益をクリエイターに還元しやすくする仕組みを持ち、仲介者なしでデジタル資産のやり取りを可能にします。ただ、現状は中央管理者が存在するプラットフォームが主流になっています。
さらに、DAO(自律分散型組織)は、従来のように社長や幹部から下への命令系統で動くような組織ではなく、ある主旨やビジョンに賛同した参加者が、自律的に働くコミュニティであり、新時代の社会を構成する仕組みとして注目されています。
DAOでは、スマートコントラクトを使うことでルールが自動で執行されるようにし、DAOに参加するメンバーには報酬(給料)として独自トークンが支払われます。
例えば、従来のスタートアップなどではストックオプションなどがインセンティブの一つとしてありましたが、これはサービスを提供する会社の従業員にしか権利がありませんでした。DAOは顧客にもトークンを配布することで、サービスを利用する側にもキャピタルゲインを得られる機会が生まれます。そのため、サービスの開発者だけでなく、サービスに参加するコミュニティ全体でプロジェクトを盛り上げていこうという気運が生まれやすくなることが、これまでとは大きく異なる点でしょう。こうした仕組みによって、従来の資本家と労働者という枠を超えた新しい組織になると期待されています。
そしてメタバースもまた、web3が生み出す新たな領域です。
これまでのバーチャル空間のサービスでは、プラットフォームを跨いで資産の移転ということはできませんでした。しかし、暗号資産(仮想通貨)やトークンが加わることによって、バーチャル空間の中でユーザー自身が自由にコンテンツを持ち込むことが可能になり、独自の経済圏が生まれてきています。NFTなど、デジタル資産の所有が個々人にわたるようになれば、誰もが等しく参加が可能になり、非中央集権的な世界が実現できるのではないかと期待されています。
日本の動向
日本もweb3の波に乗り遅れまいと、官民ともに動いています。日本政府は2022年6月に発表した「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」で、web3を含むブロックチェーン業界の環境整備を進めていくことを盛り込みました。「ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(非代替性トークン)やDAO(自律分散型組織)の利用等のweb3の推進に向けた環境整備の検討を進める」と積極的な姿勢を示したのです。
特に日本では、web3における人材や企業の海外流出が深刻化しています。2021年にはユニコーン企業になる可能性がある日本企業がシンガポールに拠点を移し、日本法人を精算しました。このような結果となってしまった経緯には、web3の資金調達方法であるトークンの発行や、トークンを保有することに対し、国内では重い税負担があることが理由とされています。
競争や変化が激しく、成功するプロジェクトは一握りであるweb3業界で、重税を課されると事業に影響も大きい上に、そうした不安要素がある国の事業に海外投資家も資金を出そうとはしないでしょう。そのために、優秀な起業家や企業が次々に国外に移転するという事態が発生しています。
こうした事態を受けて、2023年度、2024年度と続けて税制改正大綱にトークンの課税体系を見直す内容が盛り込まれました。
2023年度の税制改正大綱では、自社で発行するトークンについて、一定の条件を満たすことで期末時価評価課税の対象外となりました。
さらに2024年度の税制改正大綱では、他社が発行するトークンでも短期売買の目的でなければ時価評価課税の対象外となることが盛り込まれました。
暗号資産業界からは、時価評価課税を見直しただけでは、一度流出した企業や人材は戻ってこないという厳しい声も聞かれますが、国内でweb3プロジェクトを推進できる環境へと一歩ずつ近づいていることは確かでしょう。
まとめ
web3の背景には、プラットフォーマーに独占されてきた資産やデータを、ブロックチェーン技術によって個人に取り戻そうとする動きがあります。代表的なサービスとしてトークンやメタバース、NFT、DAOなどが挙げられます。今後、続々と新しいサービスが展開されていくことも期待できるでしょう。
ただ、web3自体も、既に先行企業によって独占的になりつつあるという指摘も行われています。ツイッター(現X)を創業したジャック・ドーシー氏は「web3の中心にいるのは我々ではなく、ベンチャーキャピタルとその出資者だ」として、既に中央集権的な性格を持ち始めてしまっていると批判しています。こうした問題意識から、同氏は2022年6月にDID(分散型ID)を活用した「web5」を提唱しました。
web3は新しい概念であるために、分散化や非中央集権化が実際に定着するかは未知数ともいえるかもしれません。それでも今後の重要な概念であることには変わらないため、しっかりと情報収集を続けると良いでしょう。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
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