DAO(自律分散型組織)とは?
ブロックチェーンを活用した次世代インターネットである「web3(ウェブスリー)」の代表的なサービスとしてDAO(自律分散型組織)があります。DAOは国内外を始めとして様々なプロジェクトが立ち上がっています。
次世代の組織や株式会社の形として、注目が集まるDAOとは一体どのようなものなのか。特徴や実際の事例などを解説します。

DAO(自律分散型組織)とは

DAOは「ダオ」とも「ディーエーオー」とも呼ばれます。「Decentralized Autonomous Organization」の略称で、日本語では「自律分散型組織」もしくは「分散型自律組織」といいます。DAOについては、イーサリアム(ETH)の共同創業者であるヴィタリック・ブテリン氏が2014年5月にイーサリアム財団のブログで紹介しました。中央管理者がおらず、あるビジョンや目的に沿って集まった、管理者も国境もない非中央集権型の組織です。イーサリアム財団のウェブページではDAOを「志を同じくする世界中の人々と協力するための効果的で安全な方法」と説明しています。
web3がGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)といったプラットフォーマーによる中央集権的なインターネット体制に反することから生まれたように、DAOもヒエラルキーのある現在の資本主義社会やその仕組みに取って代わるものとして期待されています。
ビットコイン(BTC)は最初に始まったDAOとされています。初めこそサトシ・ナカモトという匿名の人物(本名かどうかも含めて正体は不明です)がいたものの、サトシ・ナカモトはすでにコミュニティから離れ、開発者やマイナー(採掘者)、ビットコインの保有者で運営されており、改善案なども投票で決定されています。
DAOの仕組み

DAOは「株式会社の新しい形」であると評されることがあります。この「新しい形」とははプロジェクト参加者間での立場に上下がないことを指します。株式会社のように社長や幹部から部下に命令が降りていくというような構造ではなく、目的やビジョンに賛同して集まった人々に対して対等であるからです。
公平性を可能にしているのが、各DAOが独自で発行する、議決権付きのガバナンストークンです。誰か一人の決定によって組織が動くのではなく、提案と投票によって変更が決まっていきます。ガバナンストークンは、プロジェクトでの意思決定の投票権としての機能を持つ他に、ガバナンストークン自体を売却することでキャピタルゲインを得られます。これはつまり、株式会社の自社株やスタートアップのストックオプションのようなものといえるでしょう。ただ、日本国内の暗号資産交換業者で取扱いのないトークンは現金化することは難しいでしょう。
上場企業であれば、議決権を行使するのは年に一度の株主総会に限られますが、DAOではプロジェクトの提案やアップデートが常時可能です。
基本的にはスマートコントラクトによって、こうした提案が実行され、ブロックチェーン上に記録されていきます。ブロックチェーンの「誰でもコードを閲覧可能」という点で透明性が高いという点も通常の企業の意思決定構造とも大きく違う点です。スマートコントラクトのコードは一旦実行されると、提案や承認なしで修正できません。そのためDAOは決められたルールのもとで動いていきます。
さらには、DAOによってはガバナンストークンを、ユーザーに対してエアドロップ(無料配布)されることがあります。これはプロジェクト主体側だけでなく、その顧客側もプロジェクトに主体的に関われるということです。顧客側も自身が参加するプロジェクトの価値が高まれば利益が得られるため、一般的なビジネスのように販売する側とその顧客という仕組みを超えて、コミュニティ全体でプロジェクトを大きくしていこうという気運が生まれやすい構造だとされています。
DAOのメリット

DAOには、次のようなメリットがあります。
- 誰でも参加できる
- プロジェクトの立ち上げが迅速
- 働き方が多様
誰でも参加できる
上下関係がなく、国境がないことから分かるように、DAOには誰でも参加できます。通常の株式などでは国境を超えた取引は難しいのが現状です。なぜならば、株式などは中央集権的に管理されているため、国によって規制が異なるからです。しかし、上下関係がなく、国境がないDAOでは独自トークンを手に入られれば誰でも参加が可能です。
プロジェクトの立ち上げが迅速
事業の立ち上げに関しては、通常の会社では弁護士を雇ったり、資本金を準備し、登記をしたりといったことのたびに膨大な書類が必要になります。DAOは、アプリケーションによって、こうした様々な機能を構築でき、ブロックチェーン上で全て行われるために書類作業に追われることがありません。必要な独自トークンも、ウォレットなどを持っていれば、発行プラットフォームなどを使うことによって数分で可能です。ただ、立ち上げが迅速にできるといっても必ずしも成功するとは限りません。プロジェクトの明確な目的やガバナンストークンのインセンティブ設計など、考慮すべき点は多くあります。ある調査では、DAOのうち60%は、設立以来3件以下の提案しかないというものもあるように、順調にプロジェクトを稼働させるための仕組みづくりが必要でしょう。
働き方が多様
働き方が多様になるという点もDAOのメリットです。DAOは「来るものは拒まず」という思想であり誰でも参加が可能で、意見も自由なフラットな組織です。ガバナンストークンがコミュニティの投票権になっており、組織の上下関係なく、提案が可能です。特に雇用契約を結んでいるわけでもないため、複数のDAOに同時に参加して、報酬を得るという働き方にもつながるでしょう。
DAOのデメリット

DAOに関しては、次のような課題やリスクがあります。
- ハッキングや詐欺のリスク
- 規制が未整備
- 立ち上げ費用が高額になる可能性
ハッキングや詐欺のリスク
2016年に「The DAO」というDAOがハッキングを受け、約360万ETH(当時のレートで約65億円)が盗まれました。The DAOはドイツのSlock itという会社が設立した「自律分散型投資ファンド」の名称です。このファンドがイーサリアムのトークンを発行していました。
The DAOのプログラム上にあった脆弱性を突いたハッカーが360万ETHを盗みました。これにより、イーサリアムがハードフォークし、イーサクラシック(ETC)を産むことになりました。
上記のようにDAOにもハッキングのリスクはあると考えておいた方がいいでしょう。
関連コラム:「イーサリアム分裂の歴史」
規制が未整備
アメリカのワイオミング州ではDAOを法人として認める法律が制定されていますが、2022年6月時点の日本ではまだ法的な立ち位置は未整備です。特にDAOで資金調達のために発行されるガバナンストークンは、日本では重い税金が課されます。このために、日本では海外に法人を作るスタートアップが続出しています。現状では換金せずにコミュニティ内で流通させるトークンの発行しか現実的ではないでしょう。
立ち上げ費用が高額になる可能性
DAOを立ち上げる際には一定の暗号資産(仮想通貨)を準備しておかなければなりません。イーサリアム基盤で作る場合に、ガス代(手数料)が高騰していたりすると、運用に高額な費用がかかってしまうことがあります。これには現在、より安価なソリューションが開発されています。
DAOの事例

DAOは既に数多く生まれています。あるDAO作成プラットフォームのネットワーク上には、既に2000ほどあるとしており、他の作成プラットフォームでも同様の数があるようです(2022年6月現在)。アートに関するものやビジネス、チャリティー、投資に政治などD AOには様々な種類があります。いくつか代表的なものを紹介します。
ステーブルコインを発行するDAO
DAOという言葉が誕生した当初から、ステーブルコインを発行する「メーカーダオ(MakerDAO)」というプロジェクトがあります。メーカーダオは、ステーブルコイン「DAI(ダイ)」の発行・管理や、レンディングプラットフォーム「DSR(Dai Savings Rate)」などを提供しています。当初は非営利団体のメーカー財団が開発を進めていましたが、メーカー財団は2021年7月に解散することを発表しました。MKRというガバナンストークンを発行し、保有量が多いほどプロジェクトのロードマップ策定に参加できます。
チャリティーに関するDAO
ウクライナへの支援を表明して設立されたDAOがあります。ウクライナの国旗をNFTにして販売することで資金を集めました。チャリティー自体がスマートコントラクトによって管理されており、どこかに持ち逃げなどされることなく用途が透明化されています。
フリーランスと雇用主をつなぐDAO
フリーランサーが仕事を探す際に利用するマッチングサービスで仲介者を排除することで、企業と直接つなぐプロジェクトがあります。マッチングサービスでは案件獲得のために安い案件に過度に集中してしまい、適正な価格競争になっていないという問題に対処するものです。このDAOでは、発注側と受注側の双方が運営することで手数料や価格設定をどうするべきかなどを話し合うことで公平なマーケットを目指しています。トークンを保有することで、ガバナンスへの議決権があります。
まとめ

新しい組織の形として、DAOは2022年に入って急速に注目されています。ただ、注目が集まり、資金が集中することで問題も起きています。
2022年6月にはレンディングのDAOで「Solend」というプロジェクトが大きく物議を醸しました。暗号資産(仮想通貨)市場が大きく落ち込んだ2022年6月に、Solendが大きなリスクに直面し、資産を大量に預けているウォレットを乗っ取ることで問題解決を図ろうとする提案が行われたことが報道されました。「分散化」しているはずのDAOが、あるウォレットを乗っ取るとなると、中央集権的なサービスと変わりません。
一時、乗っ取ろうとする投票が可決されましたが、コミュニティ上で反論が起こされたことで、最終的には乗っ取りを行わないことが再度投票で可決されました。この時の投票でも、ある一人のユーザーが110万の賛成票のうち、100万票を保有していたとされています。ここで、DAOという分散的プロジェクトでも、ある一人のユーザーに投票権が集中してしまっていると、中央集権的な体制になってしまう可能性は残っていることが問題になりました。
新しい概念や仕組みでは法規制がまだ整っていないことも課題です。米ワイオミング州では「DAO法」としてDAOを法人とする法律が制定されていますが、こうした仕組みは2022年6月末時点で、まだ他に例が出てきていません。今後は日本でも様々な規制が整えられていくと考えられます。DAOに参加してみたいと思っている方は、今後の動向を把握しておくと良いでしょう。
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