暗号資産(仮想通貨)分析でのボリンジャーバンドを実例とともに解説
ビットコインを始め、暗号資産(仮想通貨)の価格分析には、伝統的な株や債券市場での常識が通用しないと言われています。暗号資産マーケットは、わずかな時間で10%、20%も急騰したと思ったら、数カ月間も横ばい状態が続くことが歴史的に繰り返されてきました。価値の裏付けがなく、理論価格がないと言われる暗号資産の相場を動かす材料を見つけるのは一苦労です。
そんな時に投資家の味方になってくれるのが、テクニカル分析です(チャート分析とも言います)。テクニカル分析は、一言で言えば「過去は繰り返す」という人間の心理に基づいています。過去に起きたパターンを分析して、未来を予想する手法です。
ファンダメンタルズ分析(金融政策や経済状況、経済指標を基に分析を行うこと)が難しいと言われるビットコインでは、テクニカル分析が盛んに行われています。ビットコインのチャートの歴史は十数年ほどと、決して長くはありませんが、それでもチャーチスト達は過去に生じたパターンから新たな資産クラスの先行きを予想しようと試みています。今回ご紹介するのは、テクニカル分析の中でも「トレンド系」に属するボリンジャーバンドです。
ボリンジャーバンドの由来
テクニカル分析に使われる指標には、株価の方向感を定めるために使う「トレンド系」と売買タイミングや相場の勢いを測るために使う「オシレーター系」、そしてその両方に使える系統の3つが存在しています。
「トレンド系」のテクニカル指標であるボリンジャーバンドは、1980年代に米国人トレーダーで金融アナリストのジョン・ボリンジャー氏が考案。「ボリンジャー」という名前から「ボリンジャーバンド」という名称が付けられました。
ボリンジャー氏は、ツイッターで、ビットコインも含めて様々な資産のボリンジャーバンド分析を日々配信しています。
ボリンジャーバンドは、5本の線を利用します。
中央にあるのが移動平均線で、上下にそれぞれある2本は、+2σ・+1σ(アッパーバンド)、-1σ・-2σ(ロウワーバンド)と呼ばれます。株価の場合、一般的には、25日移動平均線が使われます。
ボリンジャーバンドでは、データのばらつきを示すσ(シグマ、標準偏差)が使われています。移動平均線は、与えられた複数のデータポイントの平均値ですが、σはそれぞれのデータポイントが平均値からどのくらい離れているかを表します。σの値が小さいとばらつきが少なく、σの値が大きいとばらつきが大きいことになります。
ボリンジャーバンドの計算式は、以下のようになっています。
±1σ = n日の移動平均 ± n日の標準偏差
±2σ = n日の移動平均 ± n日の標準偏差 × 2
この統計学的な原理をテクニカル分析に利用したのが、ボリンジャーバンドです。
考案者であるボリンジャー氏は、株価が±1σに収まる確率が68%、±2σに収まる確率は95%であることに注目し、株価の方向感を測ることはできないかと考えました。基本的には、+2σに近づいたら価格が比較的高いことを示しており売りのサイン、逆に-2σに近づいたら価格が比較的低いことを示すため買いのタイミングになると考えます。
ボリンジャーバンドの使い方
ボリンジャーバンドを使った分析では、5本の線が狭まっている時と広まっている時の違い、つまり「ボリンジャーバンドの幅」に注目します。幅が大きい時は、相場のボラティリティ(変動幅)が大きいことを示します。一方、幅が小さい時は、相場が膠着状態になっていることを示しており、大きな動きの前兆である可能性であると考えられます。
ボリンジャーバンドの幅が広がっている時は、専門用語で「エクスパンション」と呼び、逆に狭まっている時は「スクイーズ」と呼びます。例えばスクイーズの時は、近い将来新たなトレンドが発生する可能性が考えられるため、持っているポジションと逆の動きをしたら利益確定の売りやロスカット(損切り)をすることが推奨されます。
ボリンジャーバンドの各用語
また、スクイーズからエクスパンションに移行する際、急落(急騰)すると見せかけて急騰(急落)するパターンがあります。これは「ヘッドフェイク」と呼ばれています。
テクニカル指標としてのボリンジャーバンドは、先述の通りトレンドを測るもので、ボリンジャーバンドの幅の収縮をもとに買いのタイミングを測る目的で使用されます。対照的に、天井や大底など、ピンポイントでの売買タイミングを測る目的では使いづらいのがデメリットとなります。
ボリンジャーバンドのパターン
Wボトム
「Wボトム(ダブルボトムと読みます)」とは、最初の安値(普通はロウワーバンドの下に突き抜ける)が2回目の安値(普通はロウワーバンド内にある)より低い値にあるWの文字に似たパターンを指します。最初の安値の取引高の方が大きいのが一般的です。
Wボトムが形成されたら、一般的には価格の上昇を見込めるため、ロング(買い)ポジションの仕込み時と考えられます。
Mトップ
「Mトップ(ダブルトップと読みます)」は、上昇、調整、そして前回上昇した際のレジスタンスで構成されるパターンです。Wボトムとは真逆のパターンで、下降トレンドの開始を意味します。最初の上昇はアッパーバンドの外に突き抜けますが、2回目の上昇はバンド内に収まるのが特徴です。最初の高値の取引高の方が大きいのが一般的です。
ビットコイン相場でボリンジャーバンドを実践
実際にビットコインの値動きをボリンジャーバンドで分析したらどうなるのでしょうか。株式分析とは異なり、暗号資産の分析ではボリンジャーバンドは、移動平均線とアッパーバンド、ロウワーバンドの3本の線を使うのが一般的です。また、移動平均線は20日間の単純移動平均線(SMA)が広く用いられています。
こちらは、ボリンジャー氏自らが2020年11月のビットコイン相場分析した際に用いたチャートです。
出典:ジョン・ボリンジャー/トレーディングビュー
ビットコインが1万5500ドル付近で推移していた2020年11月10日、ボリンジャー氏はボリンジャーバンドを使って「短期で調整がある」と予想しました。
「上部のボリンジャーバンドが短期で上抜けていくパターンは、最近の上昇分の調整もしくは保ち合い相場が始まることを示している」
しかし、約1週間後にビットコインは急騰。一気に1万8000ドル付近まで上昇しました。
ボリンジャー氏もツイッターを更新し、「私の調整予想は間違っていたようだ」とし、「保ち合いの期間も少しの間だけだった」と述べました。
その上で、「このように壊れたセットアップは逆に(ビットコインの)強さの証であり、最もレジスタンスが少ない道は、現在では、上だ」と改めて予想。2020年末のビットコインの強さは、セオリー通りに動かない強さだったことを認めました。
ボリンジャー氏の言うようにビットコインの特異性には注意を払うべきですが、そもそもボリンジャーバンドは単体で使うテクニカル指標ではないと言うこともできるかもしれません。例えば、デメリットを補うために売買タイミングや相場の勢いを測るために使う「オシレーター系」との併用が大事になりそうです。
まとめ
ボリンジャーバンドは、トレンド系のテクニカル指標です。元々は株価の分析のために開発されましたが、現在は暗号資産の分析にも広く活用されています。ピンポイントの売買タイミングを測る手段としては適していませんが、大きな動きの前兆など相場の方向感を見るために便利です。
考案者のジョン・ボリンジャー氏は、しばしばボリンジャーバンドをビットコイン分析で自ら実践しています。同氏は、ビットコインがボリンジャーバンドのセオリー通りに動かないことからビットコインの力強さを認めています。
分析手法について詳しく知りたい方は「暗号資産(仮想通貨)のファンダメンタルズ分析、テクニカル分析とは?」もご参照ください。
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