2020年の暗号資産(仮想通貨)業界、今年の出来事まとめ
2020年は新型コロナウイルスによって、世界経済が大混乱し、暗号資産(仮想通貨)も3月に「ブラック・サーズデー(暗黒の木曜日)」と呼ばれるような大暴落が起きました。5月には4年に一度のビットコイン半減期やその後の分散型金融(DeFi)の台頭、米大統領選や、イーサリアム2.0の進捗など、話題に事欠かない一年でした。2021年は2020年のような大きなイベントは予定されていませんが、新型コロナウイルスや、半減期の価格への影響が想定されます。一度2020年の出来事を振り返っておくことで、2021年の相場の動きや暗号資産の理解に繋がるでしょう。
この記事では今年あった暗号資産の主な話題をまとめていきます。
ビットコインのまとめ
まず、2020年のビットコイン、そして暗号資産業界全体に関する最初の大きな話題は、新型コロナウイルスによる経済混乱に起因する価格急落でしょう。3月12日の木曜日(日本時間では13日の金曜日)にわずか1日でビットコイン価格が50%ほど下落しました。新型コロナウイルスによって株価や金などすべての資産が暴落し、保有する資産をとにかく現金化しようとした投資家の動きによって、売り圧力が高まったことが要因とされています。
5月にはビットコインが4年に一度の半減期を迎えました。半減期とはブロック作成のマイナーに対する報酬が半分になることです。今回の半減期でこれまでの12.5BTCから6.25BTCになりました。ビットコインはこの半減期によって、価格に上昇圧力がかかるとされています。過去2回起きた半減期の傾向から、上昇するのは半減期後12〜15ヶ月後に起こっています。もし半減期を要因として価格が上昇するとすれば、2021年の5月ごろから起きると予想されています。
半減期を過ぎて、ビットコインは3月の暴落から順調に価格を回復し、7月27日に年初来高値を超えました。また複数年のレジスタンスとされていた10500ドル(約110万円)を上抜けると、8月半ばには120万円を超えて推移。安全資産である金(ゴールド)価格の急騰、アルトコインの利食い売り、ステーブルコインのテザー(USDT)大量発行などのほか、新型コロナウイルスによる経済低迷に対するアメリカの追加経済対策などが好感されました。
順調に価格を推移していたビットコインですが、10月には価格下落につながる大きな出来事が立て続けに起こりました。1つは、未登録でトレーディング事業を行なって不当に利益を上げたことや、アンチ・マネーロンダリングへの取り組みや本人確認(KYC)が弱いことが銀行秘密法(BSA)違反だとして、アメリカの商品先物取引委員会(CFTC)が、海外の暗号資産交換業者であるビットメックスのアーサー・ヘイズCEO(最高経営責任者)を訴追したことです。ビットメックスは一時、ビットコインの先物取引高ランキングで1位になったこともあり、レバレッジ倍率を最大100倍もかけられることで、世界中で人気があります。この事件を受けてか、ビットコイン価格は急落しました。
2つ目としては、ビットメックスの直後にドナルド・トランプ大統領にコロナウイルスの陽性反応が出たというニュースです。トランプ大統領がツイッターで陽性反応が出たことを明かすと、株式市場が下落し、ビットコインも同様に落ち込みました。しかし大きな値崩れはなく、下値の強さが証明されました。
その後、決済大手のペイパルが暗号資産に対応するとの発表ののち、ビットコインは急騰。それまで強固なレジスタンスとして機能していた125万円付近を突破し、10月下旬には昨年7月以来の130万円まで到達し、さらには140万円を超えました。
月日 | ビットコインの出来事 |
---|---|
3月13日 | 新型コロナウイルスによって1日で50%もビットコイン価格が下落。 |
5月12日 | ビットコインが3回目の半減期を迎える。 |
7月〜8月 | 年初来高値や複数年のレジスタンスを破る |
10月 | 海外の暗号資産交換業者CEOが米CFTCから訴追される トランプ大統領が新型コロナウイルス陽性反応 |
10月21日 | 決済大手ペイパルが暗号資産対応発表 |
分散型金融(DeFi)の台頭
2020年に、最も注目を浴びたのは分散型金融(DeFi)でしょう。DeFi自体は2019年からすでに話題になっていましたが、2020年夏頃から一部のDeFiトークン価格が急騰し、一気にブームとなりました。
最初に注目を集めたのはチェインリンク(LINK)です。チェインリンクはインターネット上の外部データをブロックチェーンに適用できるようにする「オラクル」と呼ばれる技術の開発と提供を手がけています。6月には中国政府が主導する「ブロックチェーン・サービス・ネットワーク(BSN)」に利用されることがわかり価格が高騰。8月には一時ビットコインキャッシュ(BCH)を抜いて時価総額5位にまで上り詰めました。
同じく6月には海外の暗号資産交換業者で分散型貸付サービスである「コンパウンド」のガバナンストークン「COMP」が複数の海外交換業者に上場し、価格が急騰しました。その後、9月には分散型交換所(DEX)であるユニスワップの独自トークンであるUNIなども発表され、ブームに拍車をかけました。
ただ、人気が高まるプロジェクトがある一方で、価格急騰後に一気に急落するリスクが高いプロジェクトも多く出ました。そうしたプロジェクトの多くは、「Sushi」、「Kimuchi」、「Hotdog」など食の名前を冠したトークンが多くあり、コード監査を受けておらず、その後バグが見つかることで暴落するという事例が出ました。
10月にはユニスワップの一日の取引量が、世界最大の中央集権型暗号資産交換業者を超えたことが報じられました。いくつものDeFiプロジェクトが注目され、中央集権型の交換所では扱われないトークンがユニスワップで扱われたことや、UNIが発売されたことで、ユニスワップのプラットフォーム上で、取引熱が高まったことが理由として挙げられるでしょう。
一方で、こうした熱狂のために、来年以降は規制当局も動き出すことが予想されます。分散型交換所(DEX)では最小限の本人確認(KYC)やわずかなマネーロンダリング対策しか行っていません。9月にはボストンコンサルティンググループが共同レポートで、DeFiが規制当局の監視下に置かれる可能性を指摘しています。
月日 | DeFiの出来事 |
---|---|
6月〜8月 | LINK高騰。8月には一時時価総額5位に |
6月 | 海外の暗号資産交換業者でCOMPが上場し、価格が高騰 |
8〜9月 | 一部のDeFiトークン暴落が相次ぐ |
9月 | DeFiプロジェクトトークンの「UNI」が発表される |
10月 | 分散型交換所が中央集権型交換業者の取引高を上回る |
イーサリアム2.0と価格高騰
2020年が始まった当時はわずか1万3,000円ほどだったイーサリアム(ETH)ですが、6月ごろから始まったDeFiブームからスマートコントラクトへの需要が高まり、ETH価格がイーサリアム5周年直前の7月下旬に高騰しました。
7月25日頃には心理的節目となる300ドル(約3万800円)を突破。8月に入ってもそのまま上昇を続け、9月1日には年初来高値である4万9,000円に到達しました。7月末にはイーサリアムのアクティブアドレス数が年初来で2倍に増加するなど、イーサリアム保有ユーザーが急増したことが示されました。
しかし、イーサリアム価格の上昇はいいことばかりではありませんでした。問題となったのが、イーサリアムの取引手数料も高騰したこと。9月2日に平均手数料が一時15.2ドルと過去最高となりました。これは分散型金融によってイーサリアム・ネットワークの利用と需要が増加したことで起こったものでした。
そして大きな話題はなんといってもイーサリアム2.0の開発状況でした。2020年はこのイーサリアム2.0に向けた複数のテストネットが稼働しました。最も注目だったのは8月にあったエンドユーザー向けテストネットの「Medalla」です。ネットワークの安定性と健全性を確かめるため、初めてのエンドユーザー向けのテストネットとして注目されました。
2015年にメインネットが始まった現行のイーサリアム1.x開発当初から、移行が進められてきたイーサリアム2.0は、2020年11月、「フェーズ0」がついに始まりました。
イーサリアム2.0は、コンセンサスアルゴリズムを現在のプルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work、「PoW」と略されます)からプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake、「PoS」と略されます)に変更することで、スケーラビリティ問題を解決し、DeFiの隆盛によって起きている手数料問題にも貢献することが期待されます。
月日 | イーサリアムの出来事 |
---|---|
2月 | 2019年7月以来の高値。DeFi用のロックアップ資金が10億ドル超える |
5月4日 | 1000万ブロック突破 |
7月30日 | メインネット立ち上げから5周年迎える |
8月4日 | イーサリアム2.0に向けた公開テストネットのMedalla開始 |
9月1日 | 年初来高値の4万9,000円に到達 |
9月2日 | 平均手数料が過去最高に |
12月 | イーサリアム2.0開始 |
中央銀行デジタル通貨の動き
2019年6月にフェイスブックが独自暗号資産であるLibra(リブラ)を発表して以来、世界中で中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発が加速しました。2020年はこのCBDCについて、各国中央銀行が動きを見せ、G20やG7といった主要国会議でも議論が活発化しました。
日本でも7月に閣議決定した経済財政の基本方針(骨太の方針)にCBDCについて「各国と連携しつつ検討を行う」と盛り込まれました。さらに日本銀行の決済機構局内にはデジタル通貨グループを新設。欧州中央銀行(ECB)やイギリスの中央銀行と共同研究を本格化しました。
CBDCで世界をリードするのが中国です。10月には広東省の深セン市で、合計1000万元(約1億5700万円)分のCBDCであるデジタル人民元を試験配布。実際に95%が実際に使用されたと報道されました。中国では深センの他に、香港やマカオ、広州など9都市でパイロットプロジェクトが進められており、スターバックスやマクドナルド、サブウェイ、eコマース大手の京東集団(JDドットコム)子会社など多くの企業が試験プロジェクトに参加しています。
欧州でも「デジタル・ユーロ」の調査研究が進められています。10月にECBが発表したレポートによると、2021年までに本格的な検討・調査を開始する可能性があることがわかりました。このレポートまでにはECBのラガルド総裁などが「利益やリスクなど運営上の課題」を検討していると述べていたものの、明確なスケジュールが盛り込まれたのは初めてでした。
そのほかにも世界中でCBDCは話題に上がりました。エストニアの中央銀行であるエスティ・バンクも10月に研究プログラムの開始を発表。バハマでもCBDCである「サンド・ダラー」を10月に全国展開を開始しました。またブラジルの中央銀行総裁は2023年までにCBDCが導入される条件が整うとの予測を示すなど、来年にはますますCBDCに関する動きは活発化するでしょう。
月日 | 国名 | CBDCの出来事 |
---|---|---|
2月20日 | スウェーデン | 技術面でのパイロットプロジェクト開始 |
5月20日 | フランス | デジタル・ユーロのテストに成功と発表 |
6月8日 | ガーナ | 第一副総裁が試験運用に取り組んでいると発言 |
7月16日 | タイ | 複数の企業との金融取引にCBDCを利用と報道 |
7月17日 | ジャマイカ | デジタル通貨開発の方針示す |
7月9日 | リトアニア | コレクター目的でCBDC発売 |
7月13日 | シンガポール | 商業用準備整ったと発表 |
7月17日 | 日本 | 骨太の方針に「各国と連携しつつ検討を行う」と盛り込む |
9月2日 | ブラジル | 中銀総裁が2022年に準備整うと発言 |
10月 | 中国 | 深センでデジタル人民元を試験配布 |
10月2日 | 欧州 | 2021年にECBが本格調査開始とのレポート発表 |
10月7日 | 韓国 | 中銀が2021年にも試験流通と報道 |
10月20日 | バハマ | 「サンドダラー」の全国展開開始 |
規制面の動き
規制面については、5月1日に改正資金決済法、改正金融商品取引法が施行されました。これに伴い、自主規制団体である「日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)は「日本暗号資産取引業協会」に名称を変更しました。
また、STO(Security Token Offering)が改正金融商品取引法で規制されることになり、一般社団法人日本STO協会が認定自主規制団体(「認定金融商品取引業協会」)、として金融庁に指定されました。
6月には金融活動作業部会(FATF)の総会が開かれ、「トラベル・ルール」が議題になりました。トラベル・ルールとは、マネーロンダリングやテロ資金供与を防ぐためのものです。暗号資産交換業者で高額送金があった際、送信者と受信者の顧客情報を交換業者間で共有することを求めています。6月の総会ではトラベル・ルールの各国の対応状況を検証した結果が報告されました。こうしたことを受けて、各国でも続々と規制の中にトラベル・ルールを遵守する項目が追記されています。
8月に金融庁が発表した令和2年度の新たな金融行政方針「コロナと戦い、コロナ後の新しい社会を築く」では、「マネロン・テロ資金供与対策に関する国際的な議論の中では、暗号資産やステーブルコインが論点となっている。金融庁が共同議長を務めるFATFコンタクト・グループにおける、暗号資産に係る新たな基準の実施、暗号資産・ステーブルコインについてのルールの追加等において主導的な役割を果たす。」と記載されており、今後一掃の規制整備に積極的な姿勢を示しました。
人事面でも暗号資産業界にとって大きな動きがありました。7月には暗号資産について見識が広い氷見野良三氏が金融庁長官に就任。8月の金融庁主催のイベントでは「サトシ・ナカモトの夢は今こそより意義を持つ」など、ビットコイン発明者が構築したPoWの信頼構築の仕組みに言及しました。
この他にもイギリスで個人投資家への暗号資産のデリバティブ禁止が正式決定され、EUでは2024年までに包括的な暗号資産規制を実施すると報じられました。アメリカでもデリバティブに関して顧客資産の取扱指針が発表されています。
課税についてもOECDが初の暗号資産課税に関する提案書を公開。2021年にG 20に枠組みを示すことを発表しています。
月日 | 規制面での出来事 |
---|---|
5月1日 | 改正資金決済法、改正金融商品取引法が施行 |
6月24日 | FATFの年次総会開催 |
7月20日 | 金融庁長官に氷見野良三氏 |
8月31日 | 金融庁が行政方針「コロナと戦い、コロナ後の新しい社会を築く」発表 |
10月6日 | イギリスで暗号資産デリバティブの個人投資家への提供禁止が決定 |
10月12日 | OECDが課税に関する初の報告書 |
10月22日 | アメリカで暗号資産デリバティブにおける顧客資産の取扱指針が決定 |
まとめ
2020年はビットコインの半減期やイーサリアム2.0、さらにはDeFiまで、暗号資産業界が目まぐるしく動いた年でした。
さらには新興国だけでなく先進国政府もCBDCへの調査検討を本格化するなど、暗号資産に関しては一般企業だけでなく、政府の動きも注目を集めるでしょう。
また、規制が整備されることで市場に安心感が広がり、新規参入者が増えることも期待されます。2021年に入っても暗号資産の話題は尽きないでしょう。
ビットコインにフォーカスしたコラム「ビットコインの今後を予想!2025年の価格はどうなる?」もご参照ください。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
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