アメリカ政治と暗号資産(仮想通貨)、大統領選とどう関係する?
暗号資産(仮想通貨)の今後がどうなるか、アメリカの動向が注目されています。
金融の中心地ニューヨークや、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック(現メタ)、アップル)を生んだシリコンバレー、シアトルなどを持つアメリカは、暗号資産やブロックチェーン技術でも世界の最先端を進んでいます。2023年時点でアメリカにおけるビットコイン保有者数は世界トップの約4600万人。著名投資家や上場企業、全国的な経済番組の名物キャスターからスポーツ選手まで、相次いでビットコインへの投資を表明しています。
ただ、アメリカは暗号資産に対して、明確で政治的な意思を表明しているとはいえません。米議会では政党レベルというより個人レベルでの散発的な賛否表明にとどまっている印象で、州レベルの規制もバラバラです。現時点では総じて暗号資産の敵か味方かは分からない状態といえるでしょう。一方で、2024年の大統領選挙に向けて、候補者が続々と暗号資産への賛否を表明しており、大きな話題となっています。
暗号資産業界の発展において影響を与えるアメリカ。本コラムでは、暗号資産をめぐるアメリカ政治や2024年の大統領選に向けた動向を整理します。
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暗号資産(仮想通貨)に党派色はあるのか
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暗号資産(仮想通貨)の支持者は右派が多いのか?それとも左派が多いのか?
アメリカ政治といえば、諸問題についてリベラル系と保守系が真っ向対立する構図となる傾向があります。最近は経済格差問題や人種問題、環境問題などをめぐり、アメリカの分断が一層進んでいるといわれています。
しかし暗号資産に関しては今のところ党派やイデオロギーは関係ないようです。
かつてトランプ元大統領の最側近であり、極右ニュースサイト「ブレイトバート」の幹部だったスティーブ・バノン氏は、暗号資産が時代を変えるという持論を展開しました。「SNSで組織される中道右派のポピュリスト/ナショナリスト」、「暗号資産とブロックチェーン」、「デジタル主権(自分のデータは自分が管理するという権利)」という3つの流れが合流すると予言。2018年6月のニューヨーク・タイムズとのインタビューでは、自身の投資会社「バノン&カンパニー」を通してICO(Initial Coin Offering)をする計画を明かしました。
一方、2020年に暗号資産に友好的な発言を繰り返したのは、トランプ大統領の対抗馬を選ぶ民主党の予備選に出馬したアンドリュー・ヤン氏でした。
ヤン氏は、2019年にビットコインのライトニングネットワークを使った政治献金の受付を開始。「真の民主主義」のために、ブロックチェーンを使った不正のない投票システムの構築を訴えました。
共和党所属のトランプ元大統領自身は2019年6月に突如「ビットコインのファンではない」とツイート。大統領補佐官が回顧録で、過去にトランプ大統領が「ビットコインを追跡しろ」と指示していたと暴露したこともあります。
一方、2023年8月時点でアメリカ大統領である民主党所属のジョー・バイデン氏についても、規制を厳しくしようとしており「ビットコインを目の敵にしている」という批判があります。前述したように党派間での共通した認識というのはありません。
「米議会最強の批判者」
一方、米議会の方ではブラッド・シャーマン下院議員が暗号資産に対する「米議会最強の批判者」として恐れられています。シャーマン議員は民主党所属です。
2021年6月にシャーマン議員は、「非常に不安定」であることを理由に暗号資産を完全に廃止することを呼びかけました。シャーマン議員は、暗号資産よりも株式や宝くじの方が理にかなっていると述べ、批判を続けています。同僚議員で暗号資産推進派として知られる共和党のウォーレン・デービットソン議員は、シャーマン議員が「暗号資産に関すること全てを嫌悪している」と苦言を呈しました。
以上のようにアメリカでは暗号資産に対するスタンスが決まっているわけではありません。「共和党=保守系だから暗号資産支持」や「民主党=リベラル系だから暗号資産支持」といった構図は見られないのが現状です。ただ、2024年の米大統領選に至っては暗号資産が新たな争点として浮上してきています。
2024年大統領選は暗号資産(仮想通貨)も焦点に
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前述したように、選挙戦においてはこれまで、ビットコインやブロックチェーンに関しては一部の議員が言及するだけでした。しかし2024年の大統領選に向けて複数の候補が暗号資産やCBDC(中央銀行デジタル通貨)に関して肯定的・否定的な態度を表明しています。
特に2024年の大統領選ではお金への意識が高く、政府機関に不満を抱える若者からの票が影響力をもつとの指摘があります。そうした中でアメリカの大手資産運用会社が公表したレポートではビットコインの理念が若者の思想や価値観と一致していると指摘しています。
そのため、各候補者が暗号資産やCBDCに関する考えを公表しているのかもしれません。
例えば、民主党候補のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、ビットコインを使った二つの改革公約が話題になっています。一つはビットコインから米ドルへの交換でキャピタルゲイン税(売却益に課せられる税金)を免除するというものです。もう一つはビットコインを含む金や銀といった資産で米ドルを裏付けるというものです。
インフレがアメリカ国民の生活を苦しめているという認識のもと、短期国債にビットコインで裏付けすることで金利上昇を抑え、銀行の貸し渋りを抑えることができると主張しました。
また、「ビットコイン市長」として知られるフロリダ州マイアミのフランシス・スアレス市長も共和党候補者として大統領選に立候補したことで話題となりました。ただし、スアレス市長は2023年8月末に選挙戦を辞退すると発表しています。そのほかの候補者でも、選挙活動資金を集めるために暗号資産での寄付を受け付けるといった動きが出ています。
ただし、ジョー・バイデン大統領はビットコインのマイニングに30%の課税を行うといった規制を進める意向を示しており、トランプ元大統領も「ビットコインは詐欺」と否定しています。両党派の最有力候補である両氏がビットコインに対して否定的な態度をしているのに対して、そのほかの候補者が肯定的な態度をとっていることから、海外の大手暗号資産メディアでは「ビットコインが政争の具」になっていると指摘されています。
CBDCも肯定と否定の両意見
ビットコインと同様に、CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関しても肯定と否定の両方の意見が出ています。
共和党の大統領候補として有力視されるロン・デサンティス氏は、自身が当選した場合には「CBDCを禁止する」と表明しています。同氏は「中央集権化された銀行デジタル通貨は、監視とコントロールのためのもの」と批判。さらに暗号資産に関しては肯定的なヴィヴェク・ラマスワミ氏も、CBDCに関しては「中国のような社会監視システムを作ることになる」と否定的な態度を示しています。
一方で、バイデン大統領とトランプ元大統領は両者ともにCBDCに肯定的な態度を見せています。
大統領候補者の暗号資産に対する態度は重要です。それは暗号資産の規制機関である米証券取引委員会(SEC)や米商品先物取引委員会(CFTC)の委員長は、大統領が指名するためです。
現在のアメリカ政府について、アメリカの暗号資産業界からは不満の声が挙がっています。そうしたことからも、大統領が暗号資産にどのようなスタンスを持つかは重要事項となりそうです。
暗号資産(仮想通貨)と州の規制
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アメリカの暗号資産規制は、州や市ごとで特色が異なり足並みが揃っている状況ではありません。本コラムでは、とりわけ独自色の強いと見られるニューヨーク州、フロリダ州マイアミ、ワイオミング州にフォーカスを当てます。
「ビットライセンス」ニューヨーク州
アメリカの中で特に暗号資産に対する規制が厳しい州がニューヨーク州です。アメリカの暗号資産交換業者が新たに暗号資産を上場させる際、「ニューヨーク州以外で」や「ニューヨーク州は後日」といった断りがよく入ることからも、ニューヨークの突出した規制の厳しさが分かります。
逆に、ニューヨーク州の規制を通過することで、ウォール街からの資金流入などの大きなインパクトが期待できます。例えば2019年5月にアメリカの暗号資産交換業者が「ニューヨーカーもXRPの取引が可能になる」と発表した際は、ビッグニュースとして報じられました。
ニューヨークで暗号資産の送付や売買、保管などのビジネスをするためには、ニューヨーク州金融サービス局(DFS)が発行するビットライセンスの取得が必要です。2015年6月にニューヨーク州がライセンス制度を導入した際には、あまりにも取得が厳しいためにニューヨークを離れた暗号資産交換業者もあり、これは「ビット・エクソダス(Bit-Exodus)」とも呼ばれました。
給与の受け取り フロリダ州マイアミ
フロリダ州マイアミの市長を務めるフランシス・スアレス氏は熱狂的なビットコイン支持者として知られています。そのため、マイアミではさまざまなビットコインに関する取り組みが進んでいます。
2021年には、希望者の給与をビットコインで支払うことを可能にしたことが注目されました。スアレス市長自身も自身の給与を「100%全額をビットコインで受け取る」と発言しています。
暗号資産銀行 ワイオミング州
アメリカ西部の山岳地帯にあるワイオミング州は、ブロックチェーン技術発展のための規制サンドボックス計画(実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しに繋げる制度)や、トークンの有価証券判定を避けるための定義づけなど、暗号資産への友好的な姿勢で注目を集めています。
とりわけ最近は、「暗号資産の銀行」設立の地として話題となりました。暗号資産の関連企業がワイオミング州から銀行の設立許可書を取得。暗号資産と伝統的な法定通貨の円滑な取引を促す狙いが明かされました。例えば、暗号資産での請求書支払いや暗号資産での給料受け取りができるようになるとされています。
ビットコインETFとSEC(米証券取引委員会)
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2023年8月現在、アメリカで注目を集めているのが、ビットコイン現物ETFの承認についてです。ETFとは、Exchange Traded Fundの略。日本語では上場投資信託で、株や債券、通貨、商品などの指数と連動する投資信託のことを指します。ビットコインETFの場合は連動する資産がビットコインとなります。
ETFは機関投資家にとって馴染みのあるものであり、ビットコイン現物ETFが認可されれば多額のマネーが暗号資産市場に流れるのではないかと考えられています。アメリカではすでに「先物型」のビットコインETFが承認されており、2021年10月に承認された当時は1BTC=6万ドルを超えて、11月には史上最高値を更新しました。
これまでビットコイン現物ETFは数々の大手資産運用会社や暗号資産関連企業から申請されてきましたが、2023年8月現在、これら申請はすべてSECによって拒否されています。
SECが拒否の理由として主張しているのは、暗号資産市場での詐欺や価格操作に関する懸念が払拭できないことです。
例えば2019年10月にSECがビットワイズのビットコインETF申請を拒否した際に出した文書では、以下のように書かれています。
「今回の拒否判断は、ビットコインもしくは一般論としてのブロックチェーン技術のイノベーションや投資商品としての価値や実用性を根拠にしたものではない。むしろ、委員会は今回のルール変更の提案に反対している理由は、(中略)証券法第6条(b)項5、とりわけアメリカの証券取引所は『詐欺行為と価格操作に関する行動を防ぐようにデザインされる』という要求を満たしていないことにある」
しかし、2023年6月に世界有数の資産運用会社であるブラックロックがビットコイン現物ETFの申請をしたことで、「ついには承認されるのではないか」との噂もあります。
SEC内の暗号資産(仮想通貨)擁護派「クリプト・ママ」
しかし、ビットコイン現物ETFを拒否しているSECの中にも暗号資産擁護派といわれる人物がいます。
SEC委員長候補として注目されているSEC委員のヘスター・ピアース氏です。ピアース氏は、SECのビットコインETF拒否に公然と異議を唱えており、暗号資産業界では「クリプト・ママ」の愛称で親しまれています。
ピアース氏は、SECの過度な規制が暗号資産業界の成長やイノベーションを阻害しているとして度々懸念を表明しています。例えば、2019年5月にカリフォルニア州で行った講演では以下のように話しました。
「規制当局はクリエイティブな分野を任されていない。我々はイノベーションをガイドするべきではなく、イノベーションを止められないことに気付いてイノベーションがもたらすポジティブな変化の可能性を受け入れるべきだ」
2020年8月、ピアース氏のSECの任期は2025年まで延長されました。
まとめ
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アメリカの暗号資産(仮想通貨)に対する姿勢は方向感が定まっていないのが現状です。ただし、2024年の米大統領選では、各候補者がビットコインやCBDCに関する態度を表明するなど、焦点の一つとなってきています。
また、若者のお金への意識や中央集権的な政府への不信感からビットコインや暗号資産への注目が高まっているのも確かなようです。
一方で州レベルの規制がまちまちである他、SECはビットコイン現物ETFを承認していないことが普及の妨げになっていることも確かです。
ただ、やると決めたら行動スピードが早いのがアメリカでもあります。一寸先は光にも闇にもなるかもしれません。
本文内でご紹介したビットコインETFについて詳しく知りたい方は「ビットコインETFとは?その仕組みは?実現されると何が変わるか?」もご覧ください。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
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