アメリカ政治と暗号資産(仮想通貨)

米国と暗号資産
2020-12-09 更新

暗号資産(仮想通貨)の行く末を占う上でアメリカの動向が注目されます。

金融の中心地ニューヨークやGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)を生んだシリコンバレー、シアトルなどを持つアメリカ。暗号資産やブロックチェーン技術でも世界の最先端を進んでいます。2020年6月時点でアメリカにおける1日のビットコイン取引高は世界全体の半数近くにあたる5億3900万ドル(約560億円)。最近では著名投資家や上場企業、全国的な経済番組の名物キャスターがビットコイン投資を相次いで表明しています。

ただ、アメリカは暗号資産に対して明確な政治的な意思を表明しているとは言えません。大統領選挙や米議会では政党レベルというより個人レベルでの散発的な賛否表明にとどまっている印象であり、州レベルの規制もバラバラです。現在では総じて敵か味方か分からない状態と言えるでしょう。

暗号資産業界の発展において影響を与えるアメリカ政治。本コラムでは暗号資産をめぐるアメリカ政治の現状を整理します。

暗号資産(仮想通貨)に党派色はある?

暗号資産支持は右派?左派?

暗号資産の支持者は右派が多いのか?それとも左派が多いのか?

アメリカ政治といえば、リベラル系と保守系で諸問題に対して真っ向対立する構図があげられます。経済格差問題や人種問題、環境問題などをめぐり最近はアメリカの分断が一層進んでいると言われています。

しかし暗号資産に関しては今のところ党派やイデオロギーは関係ないようです。

かつてトランプ大統領の最側近で極右ニュースサイト「ブレイトバート」幹部だったスティーブ・バノン氏は、暗号資産が時代を変えるという持論を展開しました。「SNSで組織される中道右派のポピュリスト/ナショナリスト」、「暗号資産とブロックチェーン」、「デジタル主権(自分のデータは自分が管理するという権利)」という3つの流れが合流すると予言。2018年6月のニューヨーク・タイムズとのインタビューでは、自身の投資会社「バノン&カンパニー」を通してICO(Initial Coin Offering)をする計画を明かしました。

一方、2020年に暗号資産に友好的な発言を繰り返したのは、トランプ大統領の対抗馬を選ぶ民主党の予備選に出馬したアンドリュー・ヤン氏でした。

すでに大統領選は撤退したヤン氏ですが、2019年にはビットコインのライトニングネットワークを使った政治献金の受付を開始。「真の民主主義」のためにブロックチェーンを使った不正のない投票システムの構築を訴えました。

この他、民主党にはビットコインによる政治献金を初めて受け入れた政治家の1人であるカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事などがいます。

そして何よりトランプ大統領自身が2019年6月に突如「ビットコインのファンではない」とツイート。昨年解任されたボルトン前大統領補佐官が回顧録でトランプ大統領が「ビットコインを追跡しろ」と指示していたことを暴露しました。

バノン氏が予想するように「中道右派のポピュリズム」と暗号資産の親和性が確認されていないのが現状です。

「米議会最強の批判者」

一方、米議会の方ではブラッド・シャーマン下院議員が「米議会最強の批判者」として恐れられています。シャーマン議員は民主党所属です。

2019年7月、シャーマン議員は、同年6月にホワイトペーパーを出したばかりのフェイスブックのリブラについて「ザック紙幣」と揶揄し、「ザッカーバーグCEOは、独裁者、麻薬の売人、人身販売業者、テロリストに友達リクエストを送っている」と全否定しました。同僚議員で暗号資産推進派として知られる共和党のウォーレン・デービットソン議員は、シャーマン議員が「暗号資産に関すること全てを嫌悪している」と苦言を呈しました。

ブロックチェーン分析企業メサーリ共同創業者のライアン・セルキス氏は、シャーマン議員を「米議会最強の批判者」とし、2019年12月時点で同議員を「2020年に注目すべき仮想通貨人トップ10」に入れました。

ご覧のようにアメリカでは暗号資産に対するスタンスが決まっているわけではありません。「共和党=保守系だから暗号資産支持」や「民主党=リベラル系だから暗号資産支持」といった構図は見られないのが現状です。逆に言えば、暗号資産が争点として扱われるほど存在感があるわけではないということなのかもしれません。

暗号資産(仮想通貨)と州の規制

アメリカの暗号資産規制は、州ごとで特色が異なり足並みが揃っているわけではありません。本コラムでは、とりわけ独自色の強いと見られるニューヨーク州、オハイオ州、ワイオミング州にフォーカスを当てます。

「ビットライセンス」ニューヨーク州

アメリカの中で特に暗号資産に対する規制が厳しい州がニューヨーク州です。アメリカの暗号資産交換業者が新たに暗号資産を上場させる時、「ニューヨーク州以外で」や「ニューヨーク州は後日」といった断りがよく入ることからもニューヨークの突出した規制の厳しさが分かります。

逆にニューヨーク州の規制を通ることで、ウォール街からのマネー流入など大きなインパクトを期待できます。例えば2019年5月にアメリカの暗号資産交換業者が「ニューヨーカーもXRPの取引が可能になる」と発表した際は、ビッグニュースとして報じられました。

ニューヨークで暗号資産の送付や売買、保管などのビジネスをするためには、ニューヨーク州金融サービス局(DFS)が発行するビットライセンスの取得が必要です。ニューヨーク州がライセンス制度を導入したのは2015年6月。あまりにも厳しくてニューヨークを離れた暗号資産交換業者もあったほどで「ビット・エクソダス」と呼ばれました。

ビットコイン納税 オハイオ州

中西部のオハイオ州は2018年11月にビットコインで納税を受け入れる初めての州になる準備を進めていると報じられました。まずは法人を対象に登録を開始し、担当者は暗号資産に融和的な州の立ち位置を明確にしたいという狙いを語りました。

2019年2月には2社がビットコイン納税を実施しましたが、オハイオ州は同年10月にビットコイン納税サービスOhioCrypto.Comを一時停止すると突如発表しました。州の担当者は合法かどうかの確認が必要と話しました。

現時点でサービス再開の目処は立っていないようです。

暗号資産銀行 ワイオミング州

アメリカ西部の山岳地帯にあるワイオミング州は、ブロックチェーン技術発展のための規制サンドボックス計画やトークンの有価証券判定を避けるための定義づけなど、暗号資産への友好的な姿勢で注目を集めています。

とりわけ最近は、「暗号資産の銀行」設立の地として話題となりました。暗号資産の関連企業がワイオミング州から銀行の設立許可書を取得。暗号資産と伝統的な法定通貨の円滑な取引を促す狙いが明かされました。例えば、暗号資産での請求書支払いや暗号資産での給料受け取りができるようになるといいます。

ビットコインETFとSEC(米証券取引委員会)

ビットコインETFへの見解 

「SEC(米証券取引委員会)が再びビットコインETFを拒否」

2018年と2019年の暗号資産マーケット関係者は上記のようなヘッドラインに一喜一憂しました。

ETFとは、Exchange Traded Fundの略。日本語では上場投資信託で、株や債券、通貨、商品などの指数と連動する投資信託のことを指します。ビットコインETFの場合は連動する資産がビットコインとなります。

ETFは機関投資家にとって馴染みのあるものであり、ビットコインETFが認可されれば多額のマネーが暗号資産市場に流れるのではないかと考えられています。

これまでビットコインETFを申請してきたのは、主に米資産運用会社ヴァンエックやビットワイズ、プロシェアーズ、ディレクシオン、グラナイトシェアーズ、そして起業家のウィンクルボス兄弟。これら申請は、すべてSECによって拒否されました。

SECが拒否の理由として主張しているのは、暗号資産市場での詐欺や価格操作に関する懸念が払拭できないことです。

例えば2019年10月にSECがビットワイズのビットコインETF申請を拒否した際に出した文書では、以下のような文言が書かれています。

「今回の拒否判断は、ビットコインもしくは一般論としてのブロックチェーン技術のイノベーションや投資商品としての価値や実用性を根拠にしたものではない。むしろ、委員会は今回のルール変更の提案に反対している理由は、(中略)証券法第6条(b)項5、とりわけアメリカの証券取引所は『詐欺行為と価格操作に関する行動を防ぐようにデザインされる』という要求を満たしていないことにある」

この決定文書を受けてアメリカの暗号資産専門の弁護士からは「現在の委員長であるジェイ・クレイトン氏の任期が終わるまでビットコインETFが承認されることはないだろう」というあきらめの声が漏れました。

ちなみに日本では2019年1月時点で金融庁が暗号資産ETFを検討しているという報道を否定しました。

次の委員長?「クリプト・ママ」とは

しかし、ビットコインETF「冬の時代」は意外な形で終わるかもしれません。

2020年6月、アメリカの司法省がトランプ大統領の意向として、7月3日付のクレイトンSEC委員長の米ニューヨーク州南部地区の連邦検事就任を発表しました。SEC委員長の交代を意味することになり、暗号資産業界でも突然の発表が話題になりました。

2020年9月末の執筆時点では、クレイトン委員長交代に関する新たな発表はされていません。ただ、トランプ大統領の意向で話が進む可能性が明らかになったことは大きく、11月の大統領選挙でトランプ大統領が再選すれば、引き続き注意が必要になりそうです。

6月の司法省の発表時にSEC委員長後任として注目されたのがSEC委員のヘスター・ピアース氏です。ヘスター氏は、SECのビットコインETF拒否に公然と異議を唱えるなど、暗号資産業界では「クリプト・ママ」の愛称で親しまれています。

ピアース氏は、SECの過度な規制が暗号資産業界の成長やイノベーションを阻害していると度々懸念を表明しています。例えば、2019年5月にカリフォルニア州で行った講演では以下のように話しました。

「規制当局はクリエイティブな分野を任されていない。我々はイノベーションをガイドするべきではなく、イノベーションを止められないことに気付いてイノベーションがもたらすポジティブな変化の可能性を受け入れるべきだ」

2020年8月、ピアース氏のSECの任期は2025年まで延長されました。

まとめ

アメリカの暗号資産に対する姿勢は方向感が定まっていないのが現状です。共和党・民主党内でも統一見解は出ておらず、選挙で争点になる時代はまだ先になりそうです。2020年大統領選挙の民主党予備選におけるアンドリュー ・ヤン氏の登場は一定のインパクトはありましたが、全国レベルに波及したとは言い難い状況です。

同様に州レベルの規制もまちまちである他、オハイオ州のビットコイン納税のように先進的な取り組みが突然停止になるなど、不透明感が強いのが現状です。SECの厳格なスタンスに対してはクリプト・ママが異論を唱え続ける構図は存在し続けると考えられますし、クリプト・ママがSECの委員長になる可能性もあります。

ただ、やると決めたら行動スピードが早いのがアメリカでもあります。一寸先は光にも闇にもなるかもしれません。

本文内でご紹介したビットコインETFについて詳しく知りたい方は「ビットコインETFとは?その仕組みは?実現されると何が変わる?」もご覧ください。

※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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