ついに始まったイーサリアム2.0とは 今後のスケジュールも解説
代表的な暗号資産(仮想通貨)の一つであるイーサリアム(ETH)は2020年、分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)の人気の高まりによって、再び注目が高まっています。様々なアプリケーションを構築できる演算機能を持っていることからも「ワールドコンピューター」と称されるイーサリアムは、ゲームなどのDapps(分散型アプリケーション)や暗号資産、さらには暗号資産交換所の構築まで幅広い用途に応用されています。今後もますます多様な使い方を期待されているイーサリアムですが、現在のコンセンサスアルゴリズムでは処理能力に限界があることがわかっています。
現在、その限界を克服するために行われているアップデートが「イーサリアム2.0」です。2020年12月1日には、ついにイーサリアム2.0が実装されました。
イーサリアム2.0とはどのような機能を持ったものなのでしょうか。特に2020年から大きな注目を集めるDeFiの発展にとって、イーサリアム2.0は欠かせない要素とされています。またアップデートでこれまでの「イーサリアム1.x」から何が変わるのか。その内容について解説します。

イーサリアムの課題

トランザクションの処理が追いつかない
2020年は、DeFiが「ブーム」とも呼べる状況になっています。中央管理者不在のまま、レンディングやデリバティブなど様々な金融サービスを提供できるDeFiですが、サービスを利用するには、事前に暗号資産をシステムに送付しておく必要があります。DeFi全体にどれだけ暗号資産が送付されたかのデータを提供するDeFiPulseによると、送付された金額は2020年11月24日に約143億ドル(約1兆4900億円)となりました。この金額は5月と比べると半年で約10倍上昇しています。半年間で猛烈な勢いでDeFiの人気が高まったことがわかります。
DeFiではイーサリアムのスマートコントラクトを利用した金融サービスが多く使われることから、DeFiサービスを使うには大量のイーサリアムのトランザクションが行われます。
そのため、DeFi人気の高まりで取引が膨大になるにつれて、ネットワークが混雑し、トランザクションの遅延が起きる「スケーラビリティ問題」が発生します。実際に、2020年半ばから、イーサリアムのトランザクションを実行するための手数料が高騰する問題が起きています。
イーサリアムを使いたくても、ただ送付するだけで手数料が大きくかかってしまうのは問題です。しかし、今後もDeFiでは様々なサービスが構築されることが想定され、イーサリアムネットワークの手数料高騰は続きそうです。イーサリアムネットワークを快適に、より多くの人に使ってもらうために処理能力向上が欠かせなくなっています。
コンセンサスアルゴリズムの変更とシャーディングの実装
上記のような処理能力の課題を解決することを大きな目標として、イーサリアム2.0で進められているのが、コンセンサスアルゴリズムの変更です。コンセンサスアルゴリズムとはブロックチェーンのブロック生成における合意形成の仕組みです。
現行の「イーサリアム1.x」のコンセンサスアルゴリズムはビットコインと同じ「プルーフ・オブ・ワーク」(Proof of Work、「PoW」と略されます)が用いられています。PoWは大量の計算が必要とされるため、処理能力に限界があるスケーラビリティ問題がついて回ります。
イーサリアム2.0ではスケーラビリティ問題解決のために、コンセンサスアルゴリズムを現在のPoWから「プルーフ・オブ・ステーク」(Proof of Stake、「PoS」と略されます)に変更しようとしています。
PoSではイーサリアムの保有量に応じて、バリデーターと呼ばれる人々が抽選で選ばれ、トランザクションを承認します。PoWとは異なりトランザクションの検証作業に複雑な計算競争がなくなるため、ブロック生成のためのエネルギーが小さくてすみます。
さらに、重要なのが「シャーディング」の実装です。シャーディングではトランザクションやデータ処理を「シャードチェーン」と呼ばれるいくつかのブロックチェーンに分散させることで、取引の承認における負荷を軽減します。
イーサリアム2.0になれば、PoSへの変更とシャーディングの実装という2つの大きな変更によって、事実上無制限に近い処理能力が備わるとされています。検証作業が終わり、「混雑」が解消されれば、手数料が下がることが期待されます。
イーサリアム2.0に向けた開発段階

4つの開発段階
始まったばかりのイーサリアム2.0は、どのように開発されてきたのでしょうか。
イーサリアムは2015年7月のイーサリアム1.xローンチ当初からPoSへの移行が前提で開発が進められてきました。しかし、このコンセンサスアルゴリズムの変更というのはブロックチェーンの最も基本的な要素のため、急激な変更はリスクがあります。そのため、イーサリアム2.0への移行はこれまでに段階的に行われてきました。
主なアップデートは4段階で、「フロンティア」「ホームステッド」「メトロポリス」「セレニティ」というコードネームがつけられています。2020年12月1日には、最終段階であるセレニティが開始し、イーサリアム2.0が始まりました。
<イーサリアム2.0に向けた開発段階>
コードネーム | 開始時期 |
---|---|
フロンティア | 2015年7月30日 |
ホームステッド | 2016年3月14日 |
メトロポリス | 2017年9月 |
セレニティ(イーサリアム2.0) | 2020年12月 |
そしてイーサリアム2.0が始まった後もアップデートが計画されています。イーサリアム財団が8月に公開したイーサリアム2.0の特設ページによると、「フェーズ0」、「フェーズ1」、「フェーズ1.5」「フェーズ2」の全4段階に分けて行われる予定です。
現在はこの「フェーズ0」の段階です。
課題が多かった、イーサリアム2.0の移行
ついに始まったイーサリアム2.0ですが、過去には多くの問題が起きました。2020年8月にはエンドユーザー向けテストネットである「Medalla」が始まりました。ネットワークの安定性と健全性を確かめるため、初めてのエンドユーザー向けのテストネットとして注目されましたが、テスト開始後10日で深刻なトラブルが発生、ブロックチェーンを止めるという事態に発展しました。
当初、イーサリアム2.0の初期段階である「フェーズ0」は2020年1月に開始される予定でした。しかしそれから、第2四半期、第3四半期と度々後ろ倒しになり、12月まで延期されました。今後の開発も順調に進むかは未知数と言えるでしょう。
2.0になった後はどうなる?

前述したように、イーサリアム2.0は「フェーズ0」から「フェーズ1」、「フェーズ1.5」、「フェーズ2」の4段階で開発が進められます。「フェーズ0」の段階ではETH(イーサ)のステーキング機能が実装されるのが主な変更点で、いきなりPoWからPoSに変更というわけではありません。また「フェーズ0」では送付やスマートコントラクトも行えないとされます。PoWは2021年に実装が予定されている「フェーズ1.5」まで稼働を続けることがイーサリアム財団のWebページで明記されています。
そのため、イーサリアム2.0になったからといって、現行のイーサリアム1.xがなくなるわけではなく、共存して稼働していきます。
DeFiやDappsもイーサリアム2.0に移行するわけではなく、当面は現状のイーサリアム1.xで使い続けられる予定です。
<イーサリアム2.0後の開発段階>
フェーズ0:2020年12月1日に開始 | ビーコンチェーン実装 |
---|---|
フェーズ1:2021年に開始予定 | シャードチェーン開始 |
フェーズ1.5:2021年に開始予定 | メインネットをシャードチェーン移行 |
フェーズ2.0:2021年以降開始予定 | シャードチェーンが全て稼働 |
フェーズ0のビーコンチェーンとは、PoSでブロック生成を担うバリデーターの管理を行うブロックチェーンです。フェーズ1.5まではPoWが使われるため、フェーズ0ではバリデーターの登録機能のみが実装される予定です。
スケーラビリティ問題解決に向けたその他の開発も
それでは、イーサリアムネットワークのスケーラビリティ問題は続くのでしょうか。
現行のイーサリアム1.xでも、スケーラビリティ問題改善のために開発が進められています。その一つが「レイヤー2(セカンドレイヤー)ソリューション」です。レイヤー2ソリューションはイーサリアムの基盤となるブロックチェーン(レイヤー1)以外で処理をする技術の総称で、ビットコインではライトニングネットワークが有名です。
このレイヤー2ソリューションを使うことでスケーラビリティ問題は解決するのですが、DeFiの分散型交換所やレンディングといった分散型サービスでは、ブロックチェーンの技術上の問題で使えないという新たな課題が出てきてしまいます。
そのため、現在ではこの技術的問題を解決したオプティミスティック・ロールアップ(Optimistic Rollup)という技術が注目されています。これはレイヤー2の仕様を最小にすることで、イーサリアム1.xのままで高速化を実現し、スケーラビリティ問題を解決しようとするものです。
現在のイーサリアムの処理速度は毎秒で15取引ほどとされていますが、このオプティミスティック・ロールアップを導入することで毎秒500取引まで増加するとされています。さらに問題となっている手数料もデモ実験では50分の1近く減少したと報告されています。
オプティミスティック・ロールアップは2020年9月からテストネットが開始されました。
まとめ

DeFi人気の高まりによって、イーサリアムの手数料高騰の解決に期待されているイーサリアム2.0。現状のコンセンサスアルゴリズムであるPoWのスケーラビリティ問題を改善することを目的として開発が進められています。
もし計画が完了すれば、事実上無制限に近い処理能力を備えるとされ、DeFiやDappsなど、イーサリアムを使った様々なサービスの改善が期待できそうです。
ただ、イーサリアム2.0が始まったといっても、すぐに全ての機能が使えるようになったわけではありません。PoWからPoSへの移行も現在では2021年と想定されています。
前述したように、イーサリアム2.0の開発を待たずして、現状のイーサリアム1.xを高速化する技術も出てきています。
「ワールドコンピューター」を目指すイーサリアムでは、こうした開発状況によって、様々なサービスの進捗状況にも影響があるため、今後の動向に注目しましょう。
イーサリアムのこれまでのアップデートについて詳しく知りたい方は、「アップデート直後のイーサリアム、2020年や今後の動向は?」もご覧ください。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
関連記事
-
暗号資産(仮想通貨)のミームコインとは?変動が大きい理由も解説
最近特に話題になっているものの一つに「ミームコイン」と呼ばれる暗号資産があります。ミームコインとは具体的にどのような暗号資産なのでしょうか。この記事では、ミームコインの現状と将来性について詳しく解説します。
-
ビットコインETFとは?その仕組みは?実現されると何が変わる?
ビットコインETFの実現は、ビットコインの価格に好影響を与えるといわれており、長らく投資家から期待されています。今回はその概要や過去に申請を行った団体と否認された理由について解説していきます。
-
暗号資産(仮想通貨)アルゴランド(ALGO)とは?将来性や特徴を解説
ALGO(アルゴ/アルゴランド)は、従来のブロックチェーンが持つ課題を解消する暗号資産プロジェクトとして注目されているブロックチェーンの一つです。この記事では、アルゴランドはどのような暗号資産なのかその特徴や将来性について詳しく解説します。
-
暗号資産(仮想通貨)サンドボックス(SAND)とは?The Sandboxの特徴や将来性も解説
仮想空間であるメタバースが話題になるにつれて、注目が高まっているのが暗号資産(仮想通貨) SAND(サンド/サンドボックス)です。この記事では暗号資産SANDとともにThe Sandboxの特徴や将来性について解説します。
-
暗号資産(仮想通貨)アクシーインフィニティ(AXS)とは?将来性や特徴を解説
「Axie Infinity(アクシーインフィニティ)」は、遊ぶことで収益が得られるPlay-to-Earnというジャンルを確立したブロックチェーンゲームです。この記事では、暗号資産AXSやアクシーインフィニティについて、ゲームの内容やその将来性も含めて詳しく解説します。
-
暗号資産(仮想通貨)のホワイトペーパーとは?書かれている内容について解説
暗号資産(仮想通貨)を買ってみたい、投資してみたいと思ったときに、どの暗号資産を選べばよいかわからないということはないでしょうか。そのようなときに参考になるのが、プロジェクトの事業計画書的な役割をはたす「ホワイトペーパー」の存在です。この記事では、ホワイトペーパーとはどういうものなのか、投資家にとってどのような役に立つのかを詳しく解説します。
-
暗号資産(仮想通貨)エンジンコイン(ENJ)とは?将来性や今後を解説
エンジンコイン(Enjin Coin/ENJ)は、シンガポールのブロックチェーンエコシステムを開発するEnjin社により、イーサリアムブロックチェーンで発行された、ERC-20規格の暗号資産(仮想通貨)です。本記事ではENJの特徴やその将来性、今後の展開について解説します。
-
暗号資産(仮想通貨)ニッポンアイドルトークン(NIDT)とは?将来性や今後を解説
ニッポンアイドルトークン(Nippon Idol Token /NIDT)は、『IDOL3.0 PROJECT』を推進するオーバース社主導のもと、イーサリアムブロックチェーンで発行された、ERC-20規格の暗号資産(仮想通貨)です。本記事ではNIDTの特徴やその将来性、今後の展開について解説します。
今、仮想通貨を始めるなら
DMMビットコイン