「合意レイヤー(旧称イーサリアム2.0)」とは 「マージ」後の開発段階も解説
イーサリアム(ETH)はこれまで、「合意レイヤー(旧称イーサリアム2.0)」や「マージ」といった様々な大型アップグレードを行ってきました。
※「イーサリアム2.0(Eth2)」という名称は、新旧のETHが異なるものであるという誤解、不正なトークン交換を促す詐欺に繋がることや、詐欺に関連しなくてもEth2という名称によってユーザーを混乱させる懸念があるため、「合意(コンセンサス)レイヤー」に改称されました。
多様なアプリケーションを構築できる演算機能を持っていることからも「ワールドコンピューター」と称されるイーサリアムは、ゲームなどのDApps(分散型アプリケーション)やトークン生成、さらには暗号資産取引所の構築まで幅広い用途に応用されています。用途が拡大するイーサリアムの理解のために、大型アップグレードの知識は欠かせません。この記事では「合意レイヤー(旧称イーサリアム2.0)」や「マージ」といったアップグレードがなぜ行われたのか、また、今後の重要アップグレードについても紹介します。
イーサリアムの課題
まずは、イーサリアムが抱えている課題について説明しましょう。アップグレードが行われる大きな理由は、トランザクションの処理が追いついていないことと、それに伴う「スケーラビリティ問題」です。
トランザクション処理の問題
2020年夏に「DeFi(分散型金融)サマー」と呼ばれた分散型金融の「ブーム」が起こりました。
中央管理者不在のままレンディングやデリバティブなど様々な金融サービスを提供できるDeFiですが、サービスを利用するには、事前に暗号資産(仮想通貨)をシステムに送付しておく必要があります。DeFi全体の暗号資産送付データを提供するDeFi Pulseによると、送付された金額は2020年11月24日に約143億ドル(約1兆4900億円)となりました。この金額は、同年5月と比べると半年で約10倍に上昇しており、猛烈な勢いでDeFiの人気が高まったことがわかります。
DeFiでは、イーサリアムのスマートコントラクトを利用した金融サービスが多く利用されることから、DeFiサービスの使用増加に伴い、大量にイーサリアムのトランザクションが発生します。
そのため、取引が膨大になるにつれてネットワークが混雑し、トランザクションの遅延が起きる「スケーラビリティ問題」が発生しました。実際に、2020年半ばからイーサリアムのトランザクションを実行するための手数料が高騰する問題がたびたび起きています。
イーサリアムの高度な技術を使用するならともかく、ただ普通に送付するだけで大きな手数料がかかってしまうのは問題です。イーサリアムネットワークを快適に、より多くの人に使ってもらうためには処理能力の向上が欠かせません。
コンセンサスアルゴリズムの変更とシャーディング、ロールアップの実装
上記のような処理能力の課題を解決するために進められたのが、コンセンサスアルゴリズムの変更と、シャーディング、ロールアップの実装です。
コンセンサスアルゴリズムとはブロックチェーンのブロック生成における合意形成の仕組みです。
過去に使われていたイーサリアムのコンセンサスアルゴリズムは、ビットコインと同じ「プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work:PoW)」です。これはセキュリティを保つために膨大なコンピュータリソースを必要とする一方、処理能力には限界があることでスケーラビリティ問題につながっていました。
このスケーラビリティ問題解決のため、イーサリアムは2022年の「マージ」という大規模アップデートで、「プルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake:PoS)」というコンセンサスアルゴリズムに移行しました。
PoSではイーサリアムの保有量に応じて、バリデータと呼ばれる人々が抽選で選ばれ、トランザクションを承認します。PoWとは異なりトランザクションの検証作業に複雑な計算競争がなくなるため、ブロック生成のためのエネルギーをはるかに減らせます。
さらに、イーサリアムは今後、「シャーディング」と「ロールアップ」を導入し、処理速度とネットワーク容量の拡大することを目指しています。
「シャーディング」とは、ネットワークを小さな単位に分割し、各セクションが独立して取引を扱うことで全体の負荷を減らす技術です。
「ロールアップ」は、複数の取引を一つにまとめてから、それをネットワークに送信する方法で、これも効率化に貢献しています。これらのアップグレードが実装された場合、イーサリアムはさらに多くのトランザクションを迅速かつ安価に処理できるようになるでしょう。
関連コラム:
「暗号資産(仮想通貨)におけるシャーディング(シャードチェーン) 技術とは?」
「イーサリアムで導入が検討されているロールアップ(Rollups)とは?応用技術についても解説」
「マージ(The Merge)」とは何か
イーサリアムをPoSに移行するため、2020年12月からスタートしたのが「合意レイヤー(旧称イーサリアム2.0:Eth2)」の実装です。合意レイヤーは、PoSでブロック生成を担うバリデータを管理する「ビーコンチェーン」を実装するアップグレードとして始まりました。
2020年12月時点では、コンセンサスアルゴリズム をPoSに移行する準備段階であり、アップグレード以前のイーサリアムブロックチェーンである「実行レイヤー(旧称Eth1)」と、ビーコンチェーンを実装した「合意レイヤー」が別々に存在しました。この二つのチェーンを「統合」するために、2022年9月に「マージ(日本語で「統合」の意味)」が実行されます。この「マージ」によってイーサリアムのコンセンサスアルゴリズムではマイニング(採掘)が廃止され、PoSに移行しました。
なお、冒頭でも解説した通り、かつては「イーサリアム2.0(Eth2)」と呼ばれていた合意レイヤーですが、新旧のイーサリアムが異なるものであるという誤解や不正なトークン交換を促す詐欺に繋がるため、「イーサリアム2.0(Eth2)」という用語は徐々に廃止されました。
現在、イーサリアムネットワークは進化を遂げ、かつてのイーサリアムネットワークよりもサステナブルで効率的なシステムとして機能しています。
マージ後のアップグレード
2023年12月現在、イーサリアム財団のWebページにイーサリアムの共同創業者であるヴィタリック・ブテリン氏が発表した新たなロードマップが掲載されています。
そのロードマップが「マージ(The Merge)」を含めた「サージ(The Surge)」、「スカージ(The Scourge)」「バージ(The Verge)」、「パージ(The Purge)」「スプラージ(The Splurge)」の6つです。
2023年12月時点では「サージ」が注力されています。現在のイーサリアムの処理速度は毎秒で15トランザクションほどとされていますが、ロールアップとシャーディングにより、毎秒10万トランザクションを達成することを目標にしています。
アップグレード名 | 内容 |
---|---|
マージ(The Merge) | プルーフ・オブ・ワークからプルーフ・オブ・ステークへの移行に関連するアップグレード |
サージ(The Surge) | ロールアップとデータシャーディングによるスケーラビリティ向上に関連するアップグレード |
スカージ(The Scourge) | MEV からの検閲耐性、分散化、プロトコルのリスクに関連するアップグレード |
バージ(The Verge) | ブロックの検証をより簡単にするアップグレード |
パージ(The Purge) | ノード実行における計算コストの削減とプロトコルの簡素化に関連するアップグレード |
スプラージ(The Splurge) | これまでのカテゴリに分類できないその他のアップグレード |
上述したロードマップは、ブテリン氏が2023年12月に更新し「スカージ」が追加されました。ただし、これらアップグレードの名称が「ユーザー中心ではない」という理由から、イーサリアム財団のウェブページではロードマップが紹介されているものの、用語は使用しないことが明言されています。ただし、開発ヴィジョンについてはブテリン氏が示したロードマップと同じであるとのことです。
イーサリアムの過去の開発段階
イーサリアムは、マージによってPoSに移行するまでにも、いくつかの大型アップグレードが行われてきました。簡単に流れを振り返っておきましょう。
4つの開発段階
イーサリアムは2015年7月のローンチ当初からPoSへの移行が前提で開発が進められてきました。しかし、このコンセンサスアルゴリズムの変更というのはブロックチェーンの最も基本的な要素のため、急激な変更はリスクが伴います。そのため、マージに至る間にPoSへの移行が段階的に行われてきました。
マージ以前の主なアップグレードは4段階で、「フロンティア」「ホームステッド」「メトロポリス」「セレニティ(合意レイヤー)」というコードネームがつけられています。2020年12月1日には、最終段階であるセレニティが開始し、合意レイヤーが始まりました。
<イーサリアム2.0に向けた開発段階>
コードネーム | 開始時期 |
---|---|
フロンティア | 2015年7月30日 |
ホームステッド | 2016年3月14日 |
メトロポリス | 2017年9月 |
セレニティ(合意レイヤー) | 2020年12月 |
課題が多かった、マージまでの道のり
合意レイヤーが始まり、マージによってPoSに移行したイーサリアムですが、過去には多くの問題が起きました。例えば、2020年8月に立ち上げられたテストネット「Medalla」において重大事故が発生しました。これはバリデータがブロックを正しく生成できなくなり、ネットワークの停止に至るほどのものでした。原因はノードのタイムスタンプが一致しなくなったことで、ネットワークの時間調整機能が麻痺したことです。
当初、合意レイヤーの初期段階である「フェーズ0」は2020年1月に開始される予定でしたが、第2四半期、第3四半期と度々後ろ倒しになり、12月まで延期されました。今後の開発も順調に進むかは未知数といえるでしょう。
まとめ
DeFiの人気上昇に伴い、イーサリアムはその手数料の高騰とスケーラビリティ問題を改善するためのアップグレードを進めています。また、セキュリティの強化と環境への負担軽減も重要な課題として取り組まれています。重要な転換点となったのは、イーサリアムがマイニングを必要とする「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」から「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」へ移行した「マージ」です。
アップグレードに成功し、高い処理能力が備われば、DeFi市場をはじめとするイーサリアムベースのDAppsやサービスの品質が飛躍的に向上することでしょう。
しかしながら、開発プロセスは予測できない要因に左右されることもあり、技術的な障害や社会経済的な変化が予定に影響を及ぼす可能性も常に存在します。
「ワールドコンピューター」を目指すイーサリアムでは、こうした開発状況によって、様々なサービスの進捗状況にも影響があるため、今後の動向に注目しましょう。
イーサリアムについてより詳しくお知りになりたい方は「イーサリアムとは?特徴や将来性をわかりやすく解説」をご参照ください。
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