盛り上がりを見せる分散型金融(DeFi)とは?仕組みも紹介
2020年頃から、中央集権的な管理者を介さずに金融サービスを提供する分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)とDeFi(ディーファイ)に関連する暗号資産(仮想通貨)が注目を集めています。DeFiは次世代のインターネットの概念である「ウェブ3(web3)」を構成する要素の一つといわれています。
本記事ではDeFiの全体像をまとめ、どのようなサービスが出ているのか確認します。また、DeFiの重要な仕組みである「イールドファーミング」と「流動性マイニング」についても併せて解説します。
そもそもDeFiとは
DeFiは「Decentralized(分散型)」という言葉の通り、中央集権的な管理者なしで金融サービスを提供する仕組みのことを指します。お金の貸し借りを例に挙げると、従来の金融システムでは間に銀行(管理者)が入り、貸す人と借りる人をつなぐサービスを提供しています。しかし、DeFiはプログラムにより、こうしたお金の貸し借りを始めとした金融サービスを、銀行などの管理者を介することなく可能にしています。銀行などの経営主体がないため、倒産等の中央集権的な理由によるリスクは少ないですが、自分自身での資産管理が必要であるほか、ハッキングや詐欺等のリスクは存在します。
一方、仲介者なしにサービスを受けられるということだけが、DeFiの目指すものではありません。DeFiという言葉の発案者の一人であり、分散型P2Pレンディングマーケットを提供するDharmaのブレンダン・ファスターCEOは、「インターネットがニュースメディアにしたことを、DeFiが金融で行う」とDeFiが目指す世界観を話しています。これはつまり、インターネットが誰もが情報発信を可能にしたように、DeFiは誰もが金融サービスを提供したり、提供されたりすることを可能にするという世界を目指していることを指しています。
ただ、DeFiは広義の概念では、イーサリアム(ETH)などのスマートコントラクトで動作する金融サービスアプリケーション全般を指すこともあるため、管理主体や団体がいるサービスでもDeFiに分類されることもあります。
なお、金融庁は2022年6月に公開した資料の中で、金融安定理事会の報告書を引用し、DeFiの定義について「分散台帳技術(一般的にはパブリックかつパーミッションレス型のブロックチェーン)に基づき、仲介者を必要としないことを企図した金融サービスや商品を提供するもの」と説明しています。
従来の金融サービスの問題
さて、「中央集権的な管理者なしで金融サービスを提供する」ことが、なぜ必要とされているのでしょうか。
日本では金融サービスにアクセスできないということは少ないですが、海外ではそもそも銀行口座を持っていなかったり、米ドルの交換レートが決まっていたりと、金融サービスが自由にならない地域が多くあります。海外では、銀行口座の開設ができないことにより、身分を怪しまれたり、融資が受けられなかったりするということが起きています。しかしDeFiではインターネットにアクセスできる環境があれば、誰でも金融サービスが利用できます。
さらに、金融サービスに管理者がいると、管理者の権限によって銀行口座が突如使えなくなったり、お金を引き出せなくなったりするという事態も発生し得るでしょう。実際に2021年1月に米国のゲームストップ社の株(GME)が乱高下する中で、スマホ証券アプリを提供するロビンフッド社が一方的に取引を停止し、個人投資家らが取引できなくなったことが問題視されました。
この他にも従来の金融サービスでは営業時間が限られていることや、送金に時間がかかることなどの問題が挙げられます。
DeFiはこうした問題を解決し、人々が金融サービスに自由なアクセスが可能になる世界を目指しています。
DeFiの種類
それではDeFiにはどのようなサービスがあるのでしょうか。
有名なものには、MakerDAOのようなステーブルコインプロジェクトがあります。前述したように、海外では銀行や金融サービスにアクセスできない人が多くいます。MakerDAOは、そうした人たちに米ドルと価値が紐づいているステーブルコインを発行し、自由にやり取りできる暗号資産のDAI(Multi Collateral DAI)を提供しています。
そのほかに暗号資産交換業者(分散型取引所「DEX」と呼ばれます)やデリバティブ、レンディングサービスが挙げられます。2024年3月時点では、「リキッドステーキング」のLidoが最もTVL(Total Value Locked)を集めています。
参考コラム:
「DeFiで重要視されるTVL(Total Value Locked)とは?」
DeFiの例 | プロジェクト名 |
---|---|
リキッドステーキング | Lido |
ステーブルコイン | MakerDAO |
分散型取引所 | Uniswap |
デリバティブ | Synthetix |
レンディング | Compound Finance |
DeFiに関するサービスをまとめているウェブサイトのDeFiprime.comによると、イーサリアムやポリゴン(MATIC)、オプティミズム(OP)などさまざまな基盤でDeFiが構築されていることがわかります。2024年3月末時点ではイーサリアム基盤が最も多く、掲載されている195プロジェクトのうち、161プロジェクトをイーサリアム基盤が占めています。
ただし、DeFiが注目されだした2020年夏ごろでは主要プロジェクトのほとんどがイーサリアム基盤で作られていましたが、人気が高まることで取引量が増え、手数料が高騰したことから、ポリゴンやソラナ(SOL)といった異なるブロックチェーンで作られることが増えてきています。2024年3月末時点では、イーサリアムに次いで、ポリゴンが63プロジェクトとなっています。
DeFiprime.comによると、DeFiのカテゴリーは、「支払い」や「保険」、「資産のトークン化」など18のサービスが分類されています。
リキッドステーキングとは
2024年3月時点で、TVLを多く集めているのがリキッドステーキングのプロジェクトです。
リキッドステーキングは、暗号資産をステーキングすると、代わりに代替資産を受け取ることができるサービスです。
イーサリアムなど、従来のステーキングサービスでは、暗号資産を預け入れると一定期間引き出すことができない「ロック期間」が設けられており、取引に用いることができません。
しかし、Lidoなどのリキッドステーキングサービスを利用すると、イーサを預け入れる際に代替資産としてstETHという「ラップドトークン」を受け取ることができ、そのほかのDeFiサービスで利用が可能となります。
関連コラム:
「ラップドトークンとは?相互運用性を解決する技術として注目」
「イールドファーミング」と「流動性マイニング」
DeFiには「イールドファーミング(Yield Farming)」と「流動性マイニング(Liquidity Mining)」という仕組みがあります。DeFiプロトコルで暗号資産を運用することで報酬を得られるために2020年にブームとなりました。
イールドファーミング
イールドとは利回りのことです。イールドファーミングとは、ビットコインやイーサリアム、テザー(USDT)などの暗号資産(仮想通貨)をプラットフォームに預けることによって流動性を提供する見返りに、利息を獲得できる(ファーミング:収穫、農業)行為のことをいいます。
例えばDeFiの一つであるコンパウンド・ファイナンス(Compound Finance)という暗号資産レンディングプラットフォームでは、貸したい人がビットコインなどの暗号資産をプールに入金し、借りたい人が賃借料を払ってプールから暗号資産を借りていく仕組みになっています。ここで借りた人が支払う金利手数料を、貸し手が利回りとして受け取ることができます。このように資産を預け入れることで利息を得ることができます。
従来の金融であれば、ここに銀行などの管理主体がいて、金利は管理側が受け取りますが、分散型金融ではこの利回りを管理者なしで受け取ることができることが新しい仕組みといえるでしょう。
流動性マイニング
「流動性マイニング」とは、DeFi利用者がプロトコルに参加する報酬として、利息の他にガバナンストークンを受け取る活動のことを指します。コンパウンドでいうと、暗号資産を貸し出している人が、利息以外にコンパウンドのガバナンストークンである「COMP」を受け取ることが「流動性マイニング」です。こうしたトークンは海外の暗号資産交換業者などが取り扱いを開始し、価格が急騰することがあります。
この仕組みによって高い年利を得る仕組みで資金が集まり、それとともにガバナンストークンの価値が上昇することを期待して、投資家が集まるようになっています。
注目のDeFiを知るにはTVLを参考にしよう
さまざまな新しいプロジェクトが立ち上がっているDeFiですが、注目プロジェクトには多くのお金が集まっています。こうした注目プロジェクトを知るための指標が、「トータル・バリュー・ロックド(TVL)」です。
TVLは「スマートコントラクトにロック」された資金の総額のことをいいます。DeFiプロジェクトはイーサリアム・ブロックチェーン上で構築されているものがほとんどを占めていますが、こうしたプロジェクトでは事前に、そのブロックチェーンに資産を入れておかなければなりません。これを「スマートコントラクトにロックする」といい、注目のプロジェクトほど、ユーザーが多くの資金を入れているのかがわかります。
ロックされている対象資産の総額は2024年3月末時点では、リキッドステーキングプロジェクトであるLidoがトップとなっており、TVLは約351億ドル(約5兆3250億円)です。上位には分散型レンディングサービスを提供するプロジェクトや分散型取引所サービスなどが入ってきています。
ただし、TVLはあくまでDeFiプロトコルに預けられた暗号資産の合計額を示しているだけであるため、DeFiトークンの価値全てを表しているわけではありません。必ずしも上位にあるから安全である、安心できるプロジェクトであるというわけではないため、市場の注目度を図る程度にしておきましょう。
CeFi、TradFi、CeDeFiなどの新たな用語
DeFiという用語の出現に伴って、CeFi(Centralized Finance:中央集権型金融)やTradFi(Traditional Finance:伝統的金融)という言葉が暗号資産(仮想通貨)業界で使われるようになりました。
CeFiはDeFiの対義語のように使われており、企業や個人などによって管理されている暗号資産サービスを指します。DMM BitcoinはCeFiとして暗号資産取引を提供しているといえるでしょう。
一方でTradFiは、暗号資産を主な提供サービスとしない、従来の銀行や証券会社を指します。日常生活で利用している銀行口座や住宅ローンといった金融サービスをイメージするといいでしょう。
DeFiは非中央集権的で分散して運用されるサービスである一方で、多くのサービスがイーサリアム・ブロックチェーンに依存しています。そのため、イーサリアム一強のような状況を崩そうと、海外の大手暗号資産交換業者の創業者が「CeDeFi(Centralized Decentralized Finance)」という概念も提唱しています。
CeDeFiに明確な定義があるわけではありませんが、CeFiとDeFiの両方の特徴を備えたものであると説明されます。主に中央集権的な組織が運営するプラットフォーム上でDeFiアプリを提供するサービスを指しているようです。
DeFiのリスクについて
DeFiにもリスク要因はあります。代表的なのが「ハッキング」と「インパーマネントロス」です。
ハッキング
DeFi はプログラムで運用されており、資金の運用額やプログラムのコードも公開されています。どのプロジェクトに資金が集まっているのか誰でも把握できる一方、ハッカー側からもコードの脆弱性が発見できてしまいます。
開発競争が激しい暗号資産・ブロックチェーン業界では、セキュリティ対策が杜撰(ずさん)なプロジェクトも少なくありません。
DeFiには法規制が及んでいないために、ハッキングで資金が失われたとしても弁済されることは少ないと考えておいた方がいいでしょう。
インパーマネントロス(Impermanent Loss)
インパーマネントロスとは、DeFiサービスでの流動性プールで発生する損失のことです。流動性マイニングで流動性を提供するためにトークンペアをプールに入金した時点から、トークンペアの価格の比率が変動することにより発生します。
インパーマネントロスはトークンの価格変動が大きいと損失の割合も大きくなってしまいます。
「キムチ」に「芋」、「ホットドッグ」...価格が一気に暴落するプロジェクトも
DeFiは、必ずしも全てのプロジェクトが上手くいっているわけではありません。プロジェクトの中にはわずか数週間で暴落するトークンもあるため、注意が必要です。
暴落する原因の一つとして、開発に数週間しかかけずに、市場に出回るものが多いことが挙げられます。こうしたプロジェクトはセキュリティ監査を受けていないものが多く、問題が指摘されています。そのため、システムにバグが発見されることが相次いでおり、トークン価格がわずか5分で4000ドルから1ドルまで暴落するという事例も起きました。
DEXの一つであるIDEXのアレックス・ウェアンCEOは、「分散型金融についていえば、私はこの分野全体にいくらかのリスクがあると考える。定評あるプロジェクトだったとしても、比較的新しいものがあるため、そこに何のバグも含まれていないと確信することはできない」と話すなど、脆弱性があるとの指摘が業界関係者からも出ています。
さらに問題なのは、DeFiの中でもユーザー数が多い著名プロジェクトにもリスクがあることです。
2024年3月時点でDEXプロジェクトとしてTVLを最も集めているユニスワップでも過去に資金が流出する被害が出ています。
DeFiサービスを利用する際には、人気が高く、ユーザーが集まっているプロジェクトでもリスクがあることは把握しておきましょう。
まとめ
分散型金融は管理者がいない非中央集権的な仕組みで金融サービスを提供します。
2024年3月時点では、リキッドステーキングサービスが人気を集めています。さらにイールドファーミングと流動性マイニングという仕組みによって金利やトークン収入が得られることで参加者が増加しました。
ただ、バグの発見や市場の影響によって、価値が一気に失われるプロジェクトも出ているほか、まだまだ日本語の情報は多くありません。また、資産を自分自身で管理する必要があり、操作ミスによって資産を失ってしまう可能性もあります。ハッキングによるリスクも存在します。そのため、サービスに参加するには十分な情報収集と注意が必要でしょう。
なお、DeFiの多くはイーサリアムのスマートコントラクト上で提供されています。DeFiの発展にとって欠かせない要素とされるイーサリアムについては「「合意レイヤー(旧称イーサリアム2.0)」とは 「マージ」後の開発段階も解説」をご覧ください。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
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