IEOとは何か?ICOとの違いは。
イニシャル・エクスチェンジ・オファリング(Initial Exchange Offering:IEO)とは、暗号資産交換業者によって管理される資金調達方法です。ブロックチェーンプロジェクト自身が資金調達を行うイニシャル・コイン・オファリング(Initial Coin Offering:ICO)とは違って、ユーザーが暗号資産交換業者を通じて資金調達に参加できる仕組みです。暗号資産交換業者が介在することで、ICOに伴うリスクを軽減させ、よりユーザーが資金調達イベントに参加しやすくするものと考えられています。
2022年7月現在、国内外でIEOの事例が出てきています。資金を必要とするスタートアッププロジェクトの資金調達手段として、また、ユーザーの投資の手段として注目を浴びていくことになりそうです。
IEOとICOもどちらも暗号資産を発行することで資金調達をする方法ですが、IEOは暗号資産交換業者というプレイヤーが介入することが大きな違いです。それでは、IEOがどのような仕組みや特徴を持つのか見ていきましょう。
IEOとは
IEOについての説明を始める前に、まずICOとは何かを簡単に説明しましょう。ICOは資金調達を行おうとする企業やプロジェクトが、トークンと呼ばれるものを電子的に発行して、法定通貨や暗号資産を調達する手段のことです。投資家は発行されるトークンを購入します。この投資の対価として受け取るトークンは、開発されるプラットフォームで使うユーティリティトークンや、株式のような議決権や配当を得るタイプのものもあります。
ICOは2017年に大変なブームとなりました。発行されるトークンが暗号資産交換業者に上場することで高騰する値上がり益が莫大なものだったからです。しかし、その中にはプロジェクトがいつまで経っても完成しないもの、さらには初めからプロジェクトをローンチする気のない詐欺的なものもありました。米国を中心にICOへの取締りが強化されたこと、さらに暗号資産市場が2018年以降に冷え込んだことで、ICOは下火となっていきました。
ICOでは事業者は、開発するプロダクトについて解説したホワイトペーパーを公開し、投資家はそれを見て、投資を判断することになります。また、投資家はICOをする事業者との間で資金のやり取りを直接行います。事業者が指定するアドレスに資金を送り、トークンが配布されることになります。
あるプロジェクトがICOの投資に適しているのか、そもそも信頼性のあるものなのかどうか、これを判断するのは投資家自身となります。投資家にとっては、投資判断をするにはコストがかかり、そしてリスクがあるものといえるでしょう。
一方、IEOは、暗号資産交換業者がプロジェクトと投資家の間に入る形のものです。暗号資産交換業者が、優良なプロジェクトを選定した上で、投資家向けにトークンセールを行うことになります。暗号資産交換業者によっては、IEOを行うプロジェクトのリサーチペーパーを発行するなど、プロジェクトについてより詳しい情報を得ることができます。投資家のトークンセールへの参加も暗号資産交換業者が準備したプラットフォームを通じて行うことになります。投資家は暗号資産交換業者のアカウントがあれば、トークンセールに参加できます。
投資家にとってのIEOの利点は、暗号資産交換業者側がプロジェクトの技術力やその正当性を審査することです。たとえば海外のある暗号資産交換業者ではプロダクトの実用性やユーザーベースの大きさといった審査項目をあげています。IEOでは、暗号資産交換業者というフィルターを通じて、選抜されたプロジェクトに投資家がアクセスすることができます。もちろん、その審査を通過したことが成功を保証するものではありませんが、ある程度の信用ができるといえます。
関連コラム:
「日本におけるICOが変わる?仕組みやメリット、リスクを解説」
IEOのメリット
基本的に、IEOを行ったトークンは、その暗号資産交換業者に上場することになります。これまでのICOであれば、トークンセール後にどこにも上場しないケースや、上場したとしても流動性の少ないマイナーな暗号資産交換業者というケースもありました。IEOであれば、上場前に暗号資産交換業者などが精査した上で、IEOに関して事前の告知等がなされます。投資家が詐欺的なプロジェクトに騙される可能性はかなり低くなるでしょう。
一方で、トークンの発行者側にもメリットがあります。資金調達を目的とするプロジェクトの場合、IEOは暗号資産交換業者が持つユーザーベースを利用できます。そのため、暗号資産交換業者のユーザーの規模によっては、プロジェクトが資金調達するために行うマーケティングのプロセスやコストを減らすことができ、プロダクトの開発に集中できるようになります。加えて、IEOに参加する投資家は、暗号資産交換業者がすでに本人確認(KYC)を行ったユーザーです。暗号資産交換業者が顧客管理をすることになるため、トークン発行者側にもメリットがあるわけです。
IEOの課題
株式の上場の場合、株式市場に上場する企業を、証券取引所が厳格に上場審査をした上で上場させています。しかしながら、それでも不祥事を起こす上場企業があったり、赤字に陥る企業や上場廃止になったりする企業もあります。このことは株式市場に上場する企業が、必ずしも優良な企業ばかりであるわけではないことを示しており、投資家が自身でその企業のパフォーマンスを分析して、個人の判断で投資する必要があるということになります。
同様に、暗号資産交換業者が行うIEOであるからといって、完全に安心であるというわけではありません。
特にIEOを行うようなプロジェクトは、プロダクトを開発するという段階であったり、プロダクトがまだ初期段階であったりする場合が多いでしょう。暗号資産・ブロックチェーンという非常に変化の速い業界において、ホワイトペーパーの内容が優れていようとも、そのプロジェクトが成功するとは限りません。
少し古いデータですが、2019年12月に海外のある暗号資産交換業者がIEOを行ったプロジェクトのトークンのパフォーマンスを調べており、そのレポートによると、12のプロジェクトのうち、11のプロジェクトは、トークンの価格がIEO後に80%以上下落していました。このことからも例えIEO銘柄であっても、株式などの投資と同じようにそのプロジェクトの成長性を自身で判断する必要があります。
日本におけるIEO
日本ではIEOを行う際のガイドラインが定められています。
金融庁は事務ガイドラインの中で、「発行者に代わってトークンを販売する場合」の項目で、対象事業の適格性や実現可能性、審査を行う際の体制整備、発行者による情報開示へのアクセス、調達資金の適切な管理、利用者保護といった点を挙げています。
さらに、日本の自主規制団体である日本暗号資産取引業協会(JVCEA)は、上記の事務ガイドラインを踏まえて「新規暗号資産の販売に関する規則」を公表しています。これは新規暗号資産(仮想通貨)の発行・販売による資金調達手段であるICOや、その販売を暗号資産交換業者に委託するIEOについて定めたものです。
この自主規制規則では、日本の暗号資産交換業者がIEOをする際に審査する項目を定めています。たとえば、対象事業の事業計画の合理性や、技術的な実現可能性、成長性及び安定性などです。こういった項目を暗号資産交換業者がチェックしていき、さらにJVCEAにおいてもその内容を確認することになります。また、IEOを行う際、購入者に対して詳細な情報開示を行う必要があることも定めています。
日本ではガイドラインを踏まえて、2021年7月にIEOが国内で初めて実施されました。2022年6月現在、日本国内でIEOによって発行されたトークンの取り扱いが2つあります。
STO、IDOなどの資金調達方法との違い
トークンに関する資金調達方法にはICO、IEOのほかにセキュリティ・トークン・オファリング(Security Token Offering:STO)やイニシャル・デックス・オファリング(Initial DEX Offering:IDO)と呼ばれる方法があります。
STOは、投資的な性格を持つトークンを利用した資金調達方法です。ただ、STOでのトークンは「電子記録移転権利」と定義され、法的に暗号資産とは異なります。株式や有価証券がブロックチェーン技術を使うことでデジタル化された「デジタル証券」です。一方、ICOやIEOで発行されたトークンは有価証券ではありません。
IEOは資金決済法で規制される商品であるのに対し、STOは金融商品取引法で規制される金融商品に分類されます。
IDOとは、分散型取引所(Decentralized Exchange:DEX)によるトークン販売方法です。分散型取引所とは特定の管理者や企業が存在せず、非中央集権的に管理されている暗号資産交換業者です。企業によって運営される暗号資産交換業者は、DEXに対して中央集権型取引所(Centralized Exchange:CEX)と呼ばれることがあります。IEOとIDOではどちらの方がより信頼性が高いかは一概にはいえませんが、日本におけるIEOでは金融庁に登録された暗号資産交換業者が精査するため、一定以上の信頼性は担保されていると判断できそうです。
まとめ
IEOは、投資家にとってはICOに比べてリスクの低い投資が可能になると同時に、プロジェクトを推進する事業者側にとっても暗号資産交換業者のユーザーベースを利用できるといったメリットがあります。もちろん、個々の投資の判断においては、投資家自身がリスクを見極めることが重要であるのは、ほかの投資と変わりません。
IEOは、トークンを発行するという新しい資金調達手段を活かしていくための、暗号資産交換業者、投資家、事業者の3者による新しい試みといえるでしょう。
日本においても自主規制団体によるルール整備が進み、IEOが行われる環境が整えられてきました。国内の暗号資産交換業者においてもIEOを実施する企業も出てきており、これからIEOに向けた動きがさらに活発になると期待されます。
IEOやICOの他にSTOという資金調達方法もあります。詳しくは「新たな資金調達方法STOとは?ICOとの違いや仕組みを解説」をご覧ください。
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