世界中で本格化! 中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは?
最近、世界中の中央銀行が調査や研究を進めている中央銀行デジタル通貨(CBDC)。日本でも中央銀行である日本銀行が研究チームや決済機構局内に「デジタル通貨グループ」を作るなど、動きが本格化しています。
暗号資産とも、電子マネーとも異なるCBDCは、なぜ今話題となっているのでしょうか。また、消費者である私たちはいつ頃、中央銀行発行のデジタル通貨が使えるようになるのでしょうか?
なぜCBDCの議論が高まっているのか、CBDCの役割や今後の動きについて解説します。

CBDC発行促す2つの脅威

フェイスブックのリブラ
CBDCが2019年夏ごろから急速に議論が高まったのにはフェイスブックが2019年6月に発表した暗号資産リブラの存在があります。全世界で27億の月間ユーザー(2020年第二四半期決算資料)を抱えるフェイスブックが世界中で使える暗号資産を開発すると発表され、全世界の金融当局は一斉に懸念を表明しました。
これまで、通貨は金融当局が独占的に発行し、流通量や価格を調整してきました。それを銀行でもないフェイスブックという巨大企業がいきなり発行すると発表したことで、世界の金融当局の通貨主権が脅かされる恐れが出たことが、各国当局の動きを加速させることに繋がったのです。
2020年7月に金融庁長官に就任した氷見野良三氏は、2019年9月に金融庁が開催した暗号資産の監督ラウンドテーブルでリブラの登場について、「リブラの目覚ましは規制当局や中央銀行の目を開かせ、彼らが直面する問題に対峙させようとしている。」と発言するなど、リブラの発表が各国中銀に対応を迫ったことについて言及しています。
中国デジタル人民元
もう一つの脅威は中国のデジタル人民元です。フェイスブックのリブラ発表と同時期に中国人民銀行の高官が「デジタル人民元の発行はまもなくだ」と発言し、世界を驚かせました。世界経済の中で大きな存在感を示す中国が、デジタル通貨でも主導権を握るかもしれないこととなり、世界中の中央銀行がデジタル通貨の研究を加速させました。
後述するリテール型CBDCとされるデジタル人民元は、2020年4月にも中国4都市でトライアルが開始されたことが報じられるなど、世界に先駆けて動いています。2022年の北京オリンピックに導入されるとの報道もあり、中国の大手企業も続々と実証プロジェクトなどへの参加を表明しています。
もし中国が世界で最初にCBDCを発行すると、日本をはじめ世界各国での取引に使われるようになるかもしれません。そうなると、世界中の取引情報が一国に集中する恐れが出てきます。そのため、各国中央銀行は中国に遅れまいと、調査研究をスピードアップしたのです。
参考:https://twitter.com/cz_binance/status/1250234759076147200
CBDCの種類:ホールセールとリテール

中央銀行が発行するお金は金融機関間の大口決済に使われる「当座預金」と、一般消費者である私たちが使うお金である小口決済の「銀行券」の二つがあります。CBDCも中央銀行が発行するもののため、この2種類が存在します。当座預金については「ホールセールCBDC」と呼ばれ、銀行券の役割を担うCBDCについては「リテールCBDC」とされています。
現在、先進国で検証されているのは多くがホールセール向けです。日本でもCBDCの発行はまず、ホールセール部門が進められることでしょう。ではデジタル通貨でホールセールとリテールはどのように異なるのかを解説します。
ホールセールCBDCの種類
ホールセールとは金融機関が保有する「当座預金」を対象としたものです。銀行などはこの当座預金を使ってインターバンク(銀行間)決済を行います。このホールセールで使う中銀当座預金はすでに電子化されており、「ホールセールCBDC」は既存のシステムにブロックチェーンを使って再度デジタル化する試みと言えます。すでに電子化されているシステムをブロックチェーンで置き換えるということから、法整備など様々な課題があるリテール部門と比べ、ホールセールの方が整備しやすいと言えるでしょう。
ホールセールは資金取引だけでなく、証券決済との相互運用性も想定されています。証券のトークン化が進むことで、ブロックチェーンを使ったDVP決済の必要性が出てくるため、ホールセールCBDCが必要となります。DVP決済とは証券の引き渡し(Delivery)と代金の支払い(Payment)の相互に条件をつけ、一方が行われない限り、もう一方も行われないようにすることです。証券の引き渡しと代金の交換にはタイムラグが発生し、お金を払ったけれども証券がもらえなかったということが起きる可能性があります。こうしたリスクを防ぐ仕組みがDVP決済ですが、証券とお金の両方がブロックチェーンに対応していなければ、取引の仕組みが非常に煩雑になってしまいます。そのため、証券のデジタル化が進めばホールセールでのCBDCも必要になってくるのです。
世界各国では実証実験をはじめ、様々な取り組みが行われています。以下が現在実際にホールセールに取り組んでいる国です。
国名 | ホールセールCBDCのプロジェクト |
---|---|
フランス | デジタルユーロ:アクセンチュア、HSBC、ソシエテ・ジェネラルなど8社 |
カナダ | プロジェクト・ジャスパー |
シンガポール | プロジェクト・ウビン |
日本 | プロジェクト・ステラ |
香港 | プロジェクト・ライオンロック |
タイ | プロジェクト・インタノン |
タイ・香港 | インタノンーライオンロック |
スイス | スイス国立銀行がスイス証券取引所のプラットフォームSDXと提携 |
オーストラリア | イーサリアムベースのCBDCを実験 |
リテールCBDC:ハイブリッド型が増加
「リテール」とは前述したように私たちが使うお金である「銀行券」を使った小口決済を対象にしたもののことを言います。国際決済銀行(BIS)のレポートでは「General Purpose(一般目的)」と表現されています。これが実現すれば、私たちが使うお金がデジタル化され、大きな変化があると想定されます。BISの調査では先進国よりも、新興国の方がリテール目的でCBDCを発行する意欲が高いとされています。これは新興国には銀行口座を持たない「アンバンクト(Unbanked)」の人々がいるからでしょう。銀行口座に比べてスマートフォンが普及している国ではデジタル通貨を発行することで「金融包摂(金融サービスをすべての人々に普及させること)」を実現できるからです。
国際決済銀行(BIS)はリテールCBDCについて、いくつかの類型を説明しています。一つは中央銀行が消費者に直接発行する「直接型」。もう一つは民間銀行が中銀に裏付けされたステーブルコインを発行して、それを消費者に流通させる「間接型(合成型とも呼ばれます)」です。現在の紙幣や通貨の流通形態はこの間接発行型になっています。
直接発行型は便利に見えそうですが、国によっては何億人もいる国民の情報を中銀が管理できるか疑問です。実際に8月に発表されたBISのワーキングペーパーでは、直接型を検討している国や地域はごく少数であると指摘されています。さらに間接型は中銀を通すことで信頼性と効率性が担保できますが、民間銀行と中銀が提携する必要があり、相互運用性や決済システムの安定性に課題があるとされています。ワーキングペーパーでは現在のところ間接型を支持している中銀はないと指摘されています。
その代わりに増加しているのが「ハイブリッド型」とされるタイプです。「ハイブリッド型」とは中央銀行がCBDCを発行するものの、民間機関がリテール決済を促進するという直接型と間接型を合わせたものです。
こうしたリテール型のCBDCについては、すでにいくつかの中銀では、2020年中には本格導入するとの報道もあります。カンボジアでは2019年7月から本格的に実施し、すでに国内でも14行が参加し、数万人が使用していると報道されています。今後数年でホールセールよりもリテールCBDCは世界中で大きく普及しているかもしれません。現在リテールCBDCを検討している中銀を以下の表でまとめました。
国名 | リテールCBDCのプロジェクト |
---|---|
カンボジア | プロジェクト・バコン:日本のソラミツ社が協力 |
バハマ | サンド・ドル |
スウェーデン | eクローナ |
中国 | デジタル人民元 |
トルコ | デジタル・リラ |
マーシャル諸島 | マーシャルソブリン |
チュニジア | eディナール |
イギリス | ディスカッションペーパーを公開 |
東カリブ諸国機構 | デジタル東カリブ・ドル |
ウルグアイ | eペソ |
プライバシーはどうなるのか

CBDCの発行で一番問題になるのが、プライバシーの問題です。デジタルで管理できるということは誰がどこで何を買ったのか、誰に渡したのか、ということが全て把握することが可能になります。マネーロンダリングやテロ資金対策になるという利点はあるものの、ユーザーからすると、使途が全て把握されてしまうのは気持ちのいいものではありません。
中国などでは国家が完全に監視する方向で進んでいます。一方、日本ではまだそこまで議論はされていません。暗号資産に匿名技術を使ったものがあるように、一部の情報を隠すということも技術的には可能です。こうした対応については今後議論が深められていくことでしょう。
日本で検討始まる

日本ではこれまで、日銀と欧州中銀が協力した「プロジェクト・ステラ」が進められてきました。
プロジェクト・ステラは2020年2月に第4フェーズの報告書が出されるなど継続的に調査が進められていますが、日銀はこのプロジェクトを「中央銀行の既存の決済システムを置き換えたり、補完したりすることを意図したものではない」としており、実験的なものであることを強調しています。
これまでは日銀の黒田東彦総裁などの「調査する」との発言に止まっていましたが、2020年7月の「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)」では中央銀行デジタル通貨について「各国と連携しつつ検討を行う」と盛り込まれるなど、政府として本腰を入れて研究を進める意向が明らかとなっています。
さらに7月20日には決済機構局内に「デジタル通貨グループ」を設置。実証実験などを進め、CBDCの機能特性や技術面からの実現可能性について理解を深めていく予定です。
しかし、ホールセールであっても、日本で運用するには「超高速スケジュール」で2〜3年かかると言われています。私たちが使えるリテール向けのCBDC実現は更に先になるでしょう。
まとめ

世界ではホールセール、リテールともに開発が進み、リテール向けでは中国がリードしている状況で、最近では試験都市を広げ、中央部の貧しい地域でも一定の条件を満たせば、実験を行うこととするなど、ますます勢いを強めています。
世界中で調査・研究が進む中央銀行デジタル通貨ですが、2020年10月に米ワシントンで開催されるG20では現金に変わる決済手段として、デジタル通貨を容認する方向で議論がされる予定です。デジタル通貨が世界中で使われる日も遠くないかもしれません。
一方、日本でも研究は本格化しています。しかし、一般消費者が使うようになるにはまだまだ時間がかかりそうです。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)と、ステーブルコインとの違いが気になった方は「ステーブルコインはデジタル版ドルや円?特徴や仕組みを解説!」をご覧ください。
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