世界中で本格化!中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは?

CBDC
2023-03-29 更新

世界中の中央銀行が調査や研究を進めている中央銀行デジタル通貨(CBDC)。日本でも中央銀行である日本銀行が、2023年春から民間銀行と協力して実証実験の第3段階を始めるなど動きが注目されています。

暗号資産(仮想通貨)とも、電子マネーとも異なるCBDCは、なぜ今話題となっているのでしょうか。また、消費者である私たちはいつ頃、中央銀行発行のデジタル通貨が使えるようになるのでしょうか?

CBDCの議論が高まっている理由やCBDCの役割、今後の動きについて解説します。

CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは

CBDC(Central Bank Digital Currency)とは、中央銀行が発行する電子的なお金です。現在、中央銀行はお札である銀行券を現金として発行しています。CBDCは現金とは異なり、電子的に発行されるものです。日本銀行はCBDCの定義として、次の3点を満たすこととしています。

  • デジタル化されていること
  • 円などの法定通貨建てであること
  • 中央銀行の債務として発行されること

現金と比べると、CBDCは発行コストを抑えられる上、運搬や使用、保管にかかるコストも少なくなります。デジタル技術を活用することで、利用者に対してさまざまな機能やサービスを追加できるでしょう。

お金には金融機関など、大口取引のために用いられる「ホールセール型」と個人や企業といった広く使われる「一般利用型」があります。CBDCにもこの分類が当てはまります。それぞれについては詳しく後述します。

国際決済銀行(BIS)が2022年5月に発表した調査によると、過去1年間で何らかの形でCBDCに取り組んでいる中央銀行の割合は90%に達したとしています。前年度調査と比較すると、CBDCを開発中または試験運用中の中央銀行の割合は14%から26%へとほぼ倍増しました。世界中でCBDCへの取り組みが加速しています。

CBDCの発行を促したのは2つの脅威

先進国を含めた世界各国がCBDCに取り組み始めたきっかけは、フェイスブックと中国の動きを脅威と感じたことと関連しているとされます。まずはCBDCが注目された経緯からみてみましょう。

フェイスブックのリブラ(現ディエム)

CBDCは2019年夏ごろから急速に議論が高まりました。その背景には、フェイスブック(現メタ)が2019年6月に発表した暗号資産(仮想通貨)リブラの存在がありました。全世界で27億の月間ユーザー(2020年第2四半期決算資料)を抱えるフェイスブックが世界中で使える暗号資産を開発すると発表され、全世界の金融当局は一斉に懸念を表明しました。

これまで、通貨は金融当局が独占的に発行し、流通量や価格を調整してきました。それを銀行でもないフェイスブックという巨大企業がいきなり発行すると発表したことで、世界の金融当局の通貨主権が脅かされる恐れが出たことが、各国当局の動きを加速させることに繋がったのです。

2020年7月に金融庁長官に就任した氷見野良三氏は、2019年9月に金融庁が開催した暗号資産の監督ラウンドテーブルでリブラの登場について、「リブラの目覚ましは規制当局や中央銀行の目を開かせ、彼らが直面する問題に対峙させようとしている」と発言するなど、リブラの発表が各国中銀に対応を迫ったことについて言及しています。

ただ、リブラはマネーロンダリングに利用されやすいという懸念や世界各国の金融当局が通貨主権を脅かされることの危機感、さらには個人情報の漏洩へのリスクといった指摘が相次ぎました。そして2020年12月に経営体制の強化と共にそれまでの複数通貨バスケット連動の「グローバル・ステーブルコイン」から、米ドルなど単一通貨裏付けのステーブルコインとして発行する形に変更を発表。リブラの名称を「ディエム(Diem)」へと改称しました。

しかし、そうした路線変更も身を結ぶことはなく、2022年2月には知的財産を含めた、グループ全体の資産を米国のシルバーゲート銀行に売却して、フェイスブックはプロジェクトを終了しています。

中国デジタル人民元

もう一つの脅威は中国のデジタル人民元です。リブラ発表と同時期に中国人民銀行の高官が「デジタル人民元の発行はまもなくだ」と発言し、世界を驚かせました。世界経済の中で大きな存在感を示す中国が、デジタル通貨でも主導権を握るかもしれないこととなり、世界中の中央銀行がデジタル通貨の研究を加速させました。

後述する一般利用型CBDCとされるデジタル人民元は、2020年4月に中国4都市でトライアルが開始されるなど、世界に先駆けて動いています。2022年の北京オリンピックにも導入され、中国の大手企業も続々と実証プロジェクトなどへの参加を表明しています。

もし中国が先進国に先駆けてCBDCを発行すると、日本をはじめ世界各国での取引に使われるようになるかもしれません。そうなると、世界中の取引情報が一国に集中する恐れが出てきます。そのため、各国中央銀行は中国に遅れまいと、調査研究をスピードアップしたのです。

CBDCの種類:ホールセールと一般利用(リテール)

中央銀行が発行するお金は金融機関間の大口決済に使われる「当座預金」と、一般消費者である私たちが使うお金である小口決済の「銀行券」の二つがあります。CBDCも中央銀行が発行するもののため、この当座預金と銀行券に相当する種類が存在します。当座預金については「ホールセール型CBDC」と呼ばれ、銀行券の役割を担うCBDCについては「一般利用型CBDC」とされています。「一般利用型」はリテール型と表記されることもあります。

2022年12月現在、日本銀行が検討しているのは、一般利用型のCBDCです。次項では、デジタル通貨でホールセール型と一般利用型はどのように異なるのかを解説します。

ホールセールCBDCの種類

ホールセールとは金融機関が保有する「当座預金」を対象としたものです。銀行などはこの当座預金を使ってインターバンク(銀行間)決済を行います。このホールセールで使う中銀当座預金はすでに電子化されており、「ホールセール型CBDC」は既存のシステムにブロックチェーンを使って再度デジタル化する試みといえます。すでに電子化されているシステムをブロックチェーンで置き換えるということから、法整備など様々な課題がある一般利用型と比べ、ホールセール型の方が整備しやすいといえるでしょう。

ホールセール型は資金取引だけでなく、証券決済との相互運用性も想定されています。証券のトークン化が進むことで、ブロックチェーンを使ったDVP決済の必要性が出てくるため、ホールセール型CBDCが必要となります。DVP決済とは証券の引き渡し(Delivery)と代金の支払い(Payment)の相互に条件をつけ、一方が行われない限り、もう一方も行われないようにすることです。証券の引き渡しと代金の交換にはタイムラグが発生し、お金を払ったけれども証券がもらえなかったということが起きる可能性があります。こうしたリスクを防ぐ仕組みがDVP決済ですが、証券とお金の両方がブロックチェーンに対応していなければ、取引の仕組みが非常に煩雑になってしまいます。そのため、証券のデジタル化が進めばホールセールでのCBDCも必要になってくるのです。

一般利用型CBDC

「一般利用型(リテール)」とは、前述したように私たちが使うお金である「銀行券」を使った小口決済を対象にしたもののことをいいます。これが実現すれば、私たちが使うお金がデジタル化され、大きな変化があると想定されます。BISの調査では先進国よりも、新興国の方が一般利用型でCBDCを発行する意欲が高いとされています。これは新興国には銀行口座を持たない「アンバンクト(Unbanked)」の人々がいるからでしょう。銀行口座に比べてスマートフォンが普及している国ではデジタル通貨を発行することで「金融包摂(金融サービスをすべての人々に普及させること)」を実現しやすいからです。

国際決済銀行(BIS)は一般利用型CBDCについて、いくつかの類型を説明しています。一つは中央銀行が消費者に直接発行する「直接型」。もう一つは民間銀行が仲介機関としてCBDCを消費者に流通させる「間接型(合成型とも呼ばれます)」です。現在の紙幣や通貨の流通形態はこの間接型になっています。

直接型は便利そうですが、国によっては何億人もいる国民の情報を中央銀行が一元管理できるか疑問です。実際にBISのワーキングペーパーでは、直接型を検討している国や地域はごく少数であると指摘されています。さらに間接型は中銀を通すことで信頼性と効率性が担保できますが、民間銀行と中銀が提携する必要があり、相互運用性や決済システムの安定性に課題があります。

こうした一般利用型のCBDCについては、すでに発行している国があります。米シンクタンクの大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)によると、2022年12月時点で、11カ国がCBDCを導入しています。この11カ国はすべて一般利用型CBDCです。

BISの調査によると、2022年12月現在は一般利用型CBDCへの関心が高まっており、一般利用型だけに焦点を絞った国もあります。一方でホールセール型だけに焦点を当てた中央銀行はないとのことです。

プライバシーはどうなるのか

CBDCの発行で一番問題になるのが、プライバシーの問題です。デジタルで管理できるということは誰がどこで何を買ったのか、誰に渡したのか、ということが全て把握できるようになります。マネーロンダリングやテロ資金対策になるという利点はあるものの、ユーザーからすると、使途が全て把握されてしまうのは気持ちのいいものではありません。

日本銀行も2022年5月に発表した「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会」のレポートで、「CBDC は現金と異なり、個人情報や取引状況の把握が容易であることから、それらを幅広く利活用していく可能性が広がる一方で、情報管理に関する配慮も必要になる」というコメントを紹介しています。ただ、暗号資産(仮想通貨)に匿名技術を使ったものがあるように、一部の情報を隠すということも技術的には可能です。こうした対応については今後議論が深められていくことでしょう。

日本で検討始まる

日本銀行は2021年4月、CBDCである「デジタル円」の導入を見据えた3段階の実証実験を始めました。第1段階は発行や送金といった「基本機能」を検証。2022年4月から始まった第2段階では基本機能に支払い予約といった「周辺機能」を付加した上で実現可能性や処理能力を検証します。第3段階は2023年4月にも始まるとされ、民間企業や消費者を交えた上で実際の決済に使えるかを調べる「パイロット実験」を行うとされます。このパイロット実験の期間は2年ほどかかるということです。

日銀の黒田東彦総裁は、デジタル円の発行については「2026年までに判断できる」としています。

まとめ

世界ではホールセール、一般利用型ともに開発が進んでいます。中国は2022年9月に中国人民銀行の範一飛副総裁が「段階的に全省に拡大させていく」と語るなど、正式発行に向けて着々と動いています。アメリカでもニューヨーク連銀が民間銀行と実証実験を発表したほか、バイデン大統領も研究を加速させることを指示しました。

世界中で調査・研究が進むCBDCですが、日本でも研究が本格化しています。実際に導入するかどうかは黒田総裁が「2026年には判断できる」と発言しているようにもう少し時間がかかりそうです。

導入されれば、購買行動などが実質的にデータで管理できるようになります。プライバシーをどう守るかなど課題はまだ多くあるため、今後も議論を深めていく必要があるでしょう。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)と、ステーブルコインとの違いが気になった方は「ステーブルコインとは?特徴や仕組みを解説!」をご覧ください。

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