暗号資産(仮想通貨)の法律改正を解説

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法律
2022-12-14 更新

2017年4月以降、日本では暗号資産(仮想通貨)が「資金決済法」という法律で定義され、規制されてきました。しかし、ビットコイン(BTC)をはじめとする暗号資産は、技術開発や新たな関連サービスの登場と普及が速く、2017年4月の法改正から状況が大きく変わっています。2019年5月には、投資家や利用者保護の観点から暗号資産などを規制する改正法案が国会で成立し、2020年5月に施行されました。さらに2022年には、ステーブルコインに関する規制や信託銀行によるカストディ業務が可能になる内閣府令が公表されました。2023年にも税制面での改正が予定されるなど、毎年のように法制度は変わってきています。そこで今回は、これまでの法改正を振り返りつつ、2022年と2023年の暗号資産に関する改正法の概要について解説していきます。

これまでの暗号資産(仮想通貨)の法改正

まずは、2021年までの法制度の変遷を振り返ります。

2017年4月に施行された「資金決済法」と「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)」の改正によって、暗号資産(仮想通貨)が法令用語として定義され、暗号資産交換業者(当時はまだ暗号資産は仮想通貨と呼称されていました)の登録制と利用者保護の枠組み、マネーロンダリング防止やテロ資金供与対策位として、登録業者に本人確認義務が課されました。

2020年5月に施行された改正資金決済法では「仮想通貨」の名称を「暗号資産」に改め、顧客資産のオフライン管理や流出リスクへの対応義務が盛り込まれました。暗号資産サービスが急速に普及する中で、投資家や利用者保護を目的に改正され、暗号資産のカストディ業務を行う場合も暗号資産交換業者としての登録が必要とされました。

同時に、暗号資産を用いた新たな取引が登場したことに対応するため、金融商品取引法(金商法)も改正され、ICOに関して投資的性格を持つものと、そうでないものが明確に分けられました。投資的性格をもつICOがSTO(Security Token Offering)として金商法のもとで規制されることになりました。STOで発行されるトークンは有価証券として発行され、投資に関する規制が適用されています。

また、金商法上の金融商品として暗号資産が追加されたことで、暗号資産に関する店頭デリバティブ取引またはその媒介、取次、代理を業務とする場合には第一種金融商品取引業者の登録が必要になりました。以前は暗号資産デリバティブ取引に関しては法規制が及んでいませんでした。規制がされていないと、市場参入がしにくく、プレイヤーが育ちにくいため、現物取引以外にも規制が及んだことは大きな進展でした。

顧客が暗号資産交換業者に対し説明義務違反に基づく損害賠償請求を行う際には、顧客側により具体的な説明義務の存在を立証する必要がありました。そこで、金融商品販売法の改正によって、顧客の負担を軽減するため明示的に販売業者に説明義務を課しました。

2022年にはロシアのウクライナ侵攻を受けて、暗号資産が経済制裁の抜け穴になることへの対応として外為法が改正されたほか、国際的にステーブルコインへの規制に関する声が高まっていることを受けて2022年6月に改正資金決済法が公布されました。

ステーブルコインに関する国際的な規制の高まりは、実際に2020年10月にG20が声明を発表し、ステーブルコインに対して監視と規制の強化が合意されています。

2017年に暗号資産自体の規制が始まり、2020年5月にはデリバティブや投資的性格を持つものとの区別がされ、そして「グレーゾーン」とされていたステーブルコインに関しても規制が及ぶなど、2022年に入って、徐々に暗号資産全体に規制が整えられてきているといえるでしょう。今後は人材の海外流出が課題となっていること等から、課税面での整備が待たれます。

施行日 改正された主な法令 主な内容
2017年4月 資金決済法、犯収法 暗号資産(当時は仮想通貨と呼称)を
法令用語として定義
暗号資産交換業者の登録制と本人確認義務
2020年5月 資金決済法
金融商品取引法
金融商品販売法
仮想通貨の名称を暗号資産に変更
暗号資産カストディに対する規制追加
顧客資産のオフライン管理
STO、暗号資産デリバティブに関する
規制の整備
顧客が損害賠償請求を行う際の、負担を軽減
2022年5月 外為法 経済制裁の抜け穴として、暗号資産
が利用されることへの対応
2022年6月法案成立
施行日未定
資金決済法 ステーブルコインに対して初めて規制

マネロンや経済制裁逃れを防ぐ法改正

次に2022年に成立したり、施行されたりした改正法について解説していきます。

2022年5月、暗号資産(仮想通貨)が経済制裁の抜け穴となることを防ぐための外国為替及び外国貿易法(外為法)の改正が施行されました。2022年2月からウクライナをめぐる国際情勢を受けて、G7の首脳会合でデジタル資産によって富の移転を行うロシアの不行為者にコストを課すことが合意されたものです。ロシアとベラルーシの個人や団体に対して経済制裁に関することを目的としています。

外為法は日本と外国間での資金の移動や物・サービスの移動などに適用され、取引の許可を与えないことで経済制裁の対象とすることができます。

改正によって、暗号資産交換業者は顧客の暗号資産の移転が経済制裁の対象でないかを確認する義務が課されました。同時に本人確認義務も課されましたが、暗号資産交換業者に関しては以前から犯罪収益移転防止法等(犯収法)で本人確認義務が課されています。

2022年6月1日からは、暗号資産交換業者は3000万円相当額をこえる暗号資産の売買・ 交換の媒介等を行った場合には、20日以内に日本銀行を経由して財政府に報告する義務が課されました。なお、当社においては、現在のところ、媒介等の取引サービスをご提供しておりませんので、お客様の取引内容や情報等について事後報告書を提出することはありません。

マネーロンダリングに関しても規制が強化されています。

2022年10月には、国際的な送金ルールである「トラベルルール」が導入されました。マネーロンダリングを防ぐため、暗号資産交換業者を対象に、顧客から預かった暗号資産を他の暗号資産交換業者に送金する際、氏名や住所といった送付依頼人情報や受取人情報を受取側に通知し、自ら保存することを義務付けるものあり、さらに同月には、銀行と同水準の規制を暗号資産にも適用するため、犯収法の改正案が提出されました。
また、マネーロンダリングに関連して、暗号資産だけでなくステーブルコインも規制対象とするため、外為法や国際テロリスト財産凍結法も改正されました。この改正案は2023年5月に施行される予定です。

ステーブルコインに初めての規制

2022年6月3日には「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律(改正資金決済法)」が成立し、同月10日に公布されました。この改正法では多くの改正点がありますが、暗号資産業界として大きなポイントは、「電子決済手段」が新設され、ステーブルコインに関して規制された初めての法律となったことです。

改正法では、「1ステーブルコイン=1円」のように、価格が法定通貨と連動する「デジタルマネー類似型」を送金や決済手段に使われる「電子決済手段」として規制しました。ステーブルコインには、法定通貨を裏付けとするもの以外にも、アルゴリズムによって価値の安定を図るステーブルコインがありますが、このアルゴリズム型ステーブルコインについては「暗号資産型」として区別されました。「暗号資産型」に関しては、「暗号資産」として規制されます。

「デジタルマネー類似型」の代表的なものとしては米ドルと連動するテザー(USDT)USDコイン(USDC)などがあります。一方で「暗号資産型」については、2022年9月時点ではトロンブロックチェーンのディセントラライズドUSD(USDD)の他に、2022年5月に価格の安定が崩壊し、再出発を図ったUSTクラシック(USTC)などが挙げられます。

「デジタルマネー類似型」のステーブルコインに関しては、発行者と仲介者を明確にわけ、発行は、銀行や資金移動業者、信託銀行に限定しました。仲介者に関しても登録制を導入し、マネーロンダリング対策やテロ資金供与対策における犯収法の規制対象とされました。

信託銀行も暗号資産(仮想通貨)カストディが可能に

2022年6月30日には、日本国内の信託銀行の管理型信託(カストディ)業務を可能にする内閣府令の改正案が公表されました。改正後には信託銀行が個別に申請して、問題がないとされれば、暗号資産(仮想通貨)を信託財産として管理できるようになります。

今回の内閣府令改正まで、暗号資産のカストディ業務を行うためには、「暗号資産交換業者」として内閣総理大臣の登録が必要でした。

6月10日公布の改正資金決済法と併せて、信託銀行は電子記録移転有価証券表示権利等(セキュリテトークン)と電子決済手段(ステーブルコイン)、暗号資産といった一通りのデジタル資産をカストディ業務として取り扱うことができるようになります。

改正によって既存の銀行グループがカストディを行えるようになることで、暗号資産を含めてデジタル資産全般の安心感が高まり、機関投資家が暗号資産に参入しやすくなることが利点として挙げられます。実際に、先行するアメリカでは信託業務を大手銀行などが行うことによって機関投資家の参入が増加し、ビットコイン価格に好影響を与えたとの指摘もあります。

税制改正要望で期末時価評価課税の見直し

2022年8月31日には、金融庁と経済産業省が共同で2023年度の税制改正要望を発表しました。暗号資産(仮想通貨)の期末時価評価課税の見直しを進める意向を明記したものです。

2022年9月現在、日本国内で暗号資産関連の事業を行う企業では、期末の時価に基づいて課税されます。そのため、自社で発行した暗号資産で実質利益が出ていなくても、発行時(取得時)よりも価値が上がり「含み益」が出ていれば課税されてしまう仕組みになっています。

この問題については、企業自身が「ガバナンストークン」として保有した場合の含み益や、そのトークンを売り出した場合に費用がかからないために、販売額がそのまま課税対象とされることが問題になっています。ガバナンストークンとは、ブロックチェーンプロジェクトの開発方針などを決める議決権が付与されるトークンです。

ガバナンストークン自体は発行した企業が保有しているために、含み益が出ていたとしても実際に現金として保有しているわけではありません。仮に利益を出すために売却してしまうと、売り圧力となって、トークンの価格が暴落する恐れもあり、事業の継続に支障が出てしまいます。また、部分的にトークンを売りに出したとしても、前述したように販売コストがかかっていないことから課税負担が大きくなってしまいます。

このため、実際の現金収入がないにも関わらず、多額の税金を払わなければならないことが問題となり、「ユニコーン」と目されるスタートアップ企業や人材の海外流出につながっていました。

こうした問題から、税制改正要望では、ガバナンストークンを含む暗号資産のうち、発行した企業が保有する暗号資産については、期末の時価評価の対象から外し、売却などで利益が生じた時点で初めて課税するという方針を示しています。

金融庁独自においても、2022事務年度(2022年7月〜2023年6月)の金融行政方針の中で、同様の内容が明記されました。

通常、税制改正要望後のスケジュールとしては、税制改正大綱の発表と、財務省の法律案公表を受けて審議され、国会による承認を経て、翌年4月1日に法律が施行されます。

まとめ

2022年だけでも多くの法改正が行われました。過去に行われてきた資金決済法や金融商品取引法などを改正する目的の多くは投資家保護と適切な市場形成にあったといえるでしょう。2022年に公表された信託銀行による暗号資産(仮想通貨)カストディ業務の認可や、ステーブルコインの規制に関しても今後の市場形成に関わる大きな動きです。

さらに2022年に出された税制改正要望は、投資家保護というよりも、暗号資産業界の発展のために欠かせないものです。変化が早い暗号資産業界にとって、法整備を進めなければ有力な企業や人材の海外流出につながってしまいます。

暗号資産業界では、法律で適切に規制することで投資家保護を図るとともに、世界と戦える企業を育てていくことが重要でしょう。

※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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