新たな資金調達方法STOとは?ICOとの違いや仕組みを解説
2020年5月に施行された改正金融商品取引法によって、ブロックチェーンを用いた新たな資金調達方法「STO(Security Token Offering)」が注目されており、STOのプラットフォームが立ち上がるなど、国内事業者の動きが活発化しています。
しかし、「STOってどんなもの?」「ICO(Initial Coin Offering)との違いがよく分からない」という方も多いのではないでしょうか?そこで本稿では、STOの概要やICOとの違い、STOに関する国内の動きや国外の事例をまとめて解説していきます。
STOが活発化する理由
2019年5月、「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(以下、「改正法」といいます。)が成立しました。この改正法は、本稿で説明するSTOに関係する内容であり、同法の成立を受けて、2020年5月に改正金融商品取引法が施行されました。19年に改正法が成立したことで、業界団体などが規制に関する提言書を作成したり、新たな団体が設立されたりしているのです。
国内でも業界団体が相次ぎ立ち上げ
それではSTOに関して、国内の過去の主な動きをピックアップしてみましょう。まず、2019年9月6日に「日本暗号資産ビジネス協会」(JCBA)が、協会内に立ち上げたICO・STO検討部会での議論を基に、「セキュリティトークン規制に関する提言書」をまとめました。
その内容は同年10月2日に公表されており、国内におけるセキュリティトークン規制に関して、実態に即した規制を課すよう、規制当局に求めるものとなっています。提言書がまとめられた時点では、STOに対する厳しい規制によってSTO市場への新規参入のハードルが必要以上に高くなることが懸念されていました。
なお、日本暗号資産ビジネス協会は、「日本国内において暗号資産もしくはその他のブロックチェーン上のデジタル資産に関するビジネスをはじめるにあたり、テクノロジー・税務会計・レギュレーション・商慣行などの面から会員間の知見集約、意見交換を行い、国内外の情報や業界課題の調査・研究、政策提言、ひいては業界の健全な発展を促進することを目的」に設立された団体です(同協会WEBサイトより)。
また、2019年10月1日には、国内の大手証券会社6社が共同で「一般社団法人日本STO協会」の設立を発表しました。同協会は、STOに関するビジネス機会の模索と実現、不公正取引やマネーロンダリング(資金洗浄)などの違法行為を防止し、法令遵守・投資家保護の徹底を掲げ、STOについて業界の健全な発展を図るため、自主規制の策定などを行う目的で設立されました。
そして、2020年5月1日、改正金融商品取引法が施行されました。それに伴い、日本STO協会が金商法に基づく認定自主規制団体(「認定金融商品取引業協会」)として、金融庁に指定されました。これにより日本STO協会は、セキュリティトークン(電子記録移転権利)等の売買その他の取引等に係る自主規制業務等を実施していくこととなりました。
なお、日本STO協会は2022年12月時点で、正会員14社、賛助会員58社、後援会員3社まで拡大しています。
その他にも「一般社団法人日本セキュリティトークン協会」(JSTA)が2019年5月に設立されており、同協会はSTOに関連する技術や制度、ビジネスに関して、調査・研究・普及・啓発活動を行う団体です。JSTAは毎月、セキュリティトークンに関する勉強会を開催しています。
STOとは
さて、ここまでSTOやセキュリティトークンというワードが何度も出てきましたが、そもそもSTOとは一体何なのでしょうか?
STOは「Security Token Offering」の略称であり、ブロックチェーン上で発行されたセキュリティトークンを、投資家などに売却することによって資金調達を行う方法のことです。
セキュリティトークンは、日本語では証券トークン(証券型トークン)と訳され、ブロックチェーンを用いて電子的に有価証券を発行した「デジタル証券」を指しています。なお、有価証券とは、株式や債券、手形や小切手など、財産的価値があるもののことです。有価証券は譲渡によって、その所有権を簡単に移転させられます。
ブロックチェーンを使って発行することが、これまでの紙の有価証券を電子化したものと異なります。紙の有価証券は売買単位が10株の場合は電子化したとしても10株です。しかしセキュリティトークンは売買の単位を自由に設定できるため、小口で販売することで個人投資家が参入しやすくなります。
STOやセキュリティトークンは、株式とは異なり企業の存在を前提としません。セキュリティトークンは特定の企業に紐づくこともあれば、企業が主体とならない事業やプロジェクトに紐づくこともあります。個別の事例ごとに詳細は異なりますが、調達された資金を元手に実施される事業やプロジェクトの収益などが投資家に分配される場合もあります。
また、セキュリティトークンは、ブロックチェーン上で発行されたプログラミング可能な証券であるため、所有権の移転手続きなどの効率化・自動化が可能です。この点が、既存の証券関連の業務を効率化し、コスト削減につながると期待されています。
ICOとSTOの違い
トークンを発行して資金調達を行うという点では、ICO(Initial Coin Offering)とSTOは似ています。ICOとSTOは何が違うのでしょうか?
まず、ICOとは、事業者が「トークン」と呼ばれるものを電子的に発行し、投資家に販売して行われる資金調達方法のことです。2017年~2018年に件数や資金調達額が大きく増加しましたが、不適切なICOが少なくありませんでした。ICOについては、トークンに対する信用の裏付けがあるとは限らず、発行プロセスが法律で定められているわけでもないため、投資家にとってはリスクの高い投資となっていたのです。
ICOブームが起こった時期は、その新しさ故に各国ともに規制が整っていない状態でした。しかし、リスクの高さや詐欺的なICOが問題視されたため、各国でICO規制の議論が加速することになったのです。そして、金融市場の中心地であるアメリカの規制当局、米証券取引委員会(SEC)は、ICOのプロセスで発行されるトークンは、証券法の下で規制される有価証券に該当する可能性があるとの見解を示しています。具体的にはHawey(ハウェイ)基準と呼ばれるものを使って、そのトークンの有価証券該当性が判断されます。有価証券に該当する場合には、SECへの登録もしくは登録免除を受ける必要があります。
日本では、2018年に金融庁において「仮想通貨交換業等に関する研究会」が設置され、ICOを含む暗号資産(仮想通貨)規制について議論されました。
その中で、ICOをその性格に合わせ、投資性ICOとそれ以外のICO(支払・決済手段の販売として認められるもの)とに分け、投資性ICOについては投資に関する規制(金商法)、支払・決済手段の販売と認められるものについては決済に関する規制(資金決済法)で対応する方針が示されました。この議論をもとに日本では前述の改正法が整備されました。
この「投資性ICO」が、いわゆるSTOにあたります。STOで発行されるトークンは、有価証券として発行され、投資に関する規制が適用されることになります。セキュリティトークンは、電子化された有価証券として、日本では金商法関連の規制のもとで発行される金融商品に分類されるのです。
STOの具体例は?
すでに国内外でSTOの事例が多く出てきています。例えば、アメリカのEC小売大手Overstock子会社の「tZERO」は2018年8月、アメリカの証券法に準拠したSTOによって1億3,400万ドルの資金調達を行ったと発表しました。tZERO自体は、規制に則ったセキュリティトークンの発行および取引所を展開するプラットフォームです。
また、法令遵守のセキュリティトークンの発行やSTOを容易にするためのプラットフォームなどを開発する「Polymath」は2018年2月に、STOによって5,870万ドルの資金調達に成功しています。Polymathは、ブロックチェーンを用いた有価証券の発行と資金調達を行う際の規制要件をトークンに組み込んで、事業者がSTOを実施するハードルを下げるための規格や仕組みを開発しています。
STOの現状は?今後どうなる?
国内のSTOに関する動きは活発になっており、STOの事例も登場しています。
日本国内では、社債をセキュリティトークンとして小口で販売したものや、不動産を裏付けとした信託受益権のセキュリティトークンなどさまざまな種類が出てきています。不動産も社債と同様に少額で投資が可能なため、個人投資家への間口が広がっています。
2022年12月現在で、国内の大手証券グループ5社がセキュリティトークンに参入することを明らかにしたほか、2022年8月には不動産運用会社がセキュリティトークンによる資金調達額としては国内最大となる約70億円を集めました。
さらには、これまでセキュリティトークンの販売は証券会社が担ってきましたが、証券会社以外の企業が自社プラットフォームを開発し、スマートフォンで手軽に購入できるサービスも発表しています。
日本での課題としては、前述したように発行市場が立ち上がってきてはいるものの、商品数が少ないことが挙げられます。また、流通市場の整備も課題です。二次流通市場の構築が海外と比べると進んでおらず、今後の展開が期待されています。
まとめ
STOは、ブロックチェーン上で発行されたセキュリティトークンを、投資家などに売却することで資金調達を行う方法のことで、ICOとは異なり各国の証券法に則って発行されます。
日本国内では2019年5月の改正法の成立によって、STOを行う際に従うべき法規制が明確化されました。改正法の成立を受けて改正された金融商品取引法は2020年5月に施行され、それによって国内のSTO関連団体が動きを活発化させています。日本国内でも不動産や社債などの事例が出てきています。今後は流通市場の整備も課題でしょう。
STOの法規制について興味を持った方は「暗号資産(仮想通貨)の法律改正を解説」もご覧ください。
※掲載されている内容は更新日時点の情報です。現在の情報とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
関連記事
-
ユーティリティトークンとは?特徴や機能、事例を解説
暗号資産(仮想通貨)に関連して、「〇〇トークン」という用語を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか?本記事では、トークンの概要を紹介した上で、ユーティリティトークンについて解説していきます。
-
ライトコイン(LTC)とは?初心者向けにわかりやすく解説!
ライトコイン(LTC)は、ベースとなったビットコインよりも決済が行いやすくなるように様々な工夫がなされています。本記事では、これまでのライトコインの開発や価格推移などを含め、特徴を解説していきます。
-
暗号資産(仮想通貨)のハードフォークとは?基礎知識や過去の事例を紹介
暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン界隈では時々、「ハードフォーク」という事象がニュースになることがあります。本記事では、過去に起きた事例と共にハードフォークの実態について解説します。
-
初心者でも簡単にパソコンやスマホで取引できる!ビットコインの買い方
ビットコイン(BTC)など暗号資産(仮想通貨)の取引を行うためには「暗号資産交換業者」を選ばなければいけません。今回は、暗号資産交換業者を通じたビットコインの購入方法や、手数料・取引単位について見ていきましょう。
-
ステラルーメン(XLM)とはどんな暗号資産(仮想通貨)?特徴を解説
2019年以降、日本の暗号資産(仮想通貨)交換業者でもステラルーメン(XLM)の取り扱いが始まりました。本記事では、ステラルーメンがどのような暗号資産なのか解説します。
-
DAppsとは何か?その仕組みや特徴を解説
DApps(ダップス)とは、ブロックチェーン上でスマートコントラクトを利用することで実現できるアプリケーションです。本稿ではそのDAppsについての概要を解説します。
-
アルトコイン(オルトコイン)とは?知名度の高いコインの特徴や価格を紹介!
ビットコイン(BTC)以外の仮想通貨のことをアルトコインと呼び、2021年11月現在で、世界に約6,800種類以上も存在しています。アルトコインがどんなもので、どんなメリットやデメリットがあるのかを見ていきましょう。
-
イーサリアム現物ETFとは?ETH価格への影響は?
「イーサリアム現物ETF」は、イーサリアム(ETH)の現物資産を基にした上場投資信託(ETF)です。この記事ではイーサリアム現物ETFとは何か、ETH価格への影響について検討していきます。
今、仮想通貨を始めるなら
DMMビットコイン