ステーブルコインとは?特徴や仕組みを解説!
ステーブルコインは、暗号資産(仮想通貨)の中でも比較的安定した価値を持つことで知られています。これは、その価値が金やドルなどの実質資産や法定通貨に連動しているため、従来の暗号資産のように価格が大きく変動することが少ないとされているためです。そのため、日々の買い物から海外送金まで、幅広い用途での利用が期待されています。
ステーブルコインの魅力は、暗号資産の利便性を保ちながら、価格の安定性を提供する点にあります。これにより、消費者や企業は、価格変動のリスクを気にすることなく、安心してデジタル通貨を利用することが可能になります。特に、国際的な取引においては、迅速な取引や安価な手数料が利点でしょう。
この記事ではこうしたステーブルコインの種類や特徴に加えて、今後の動きについても解説して行きます。
ステーブルコインとは何か?
ステーブルコインは、日本円や米ドルといった法定通貨、あるいは金や白金などの現物資産の価格と連動することで、価格を一定に保つことを目的とした、暗号資産(仮想通貨)を源流とするデジタル資産の一種です。別名ペッグ通貨とも呼ばれています。
※ペッグ、ペグ/pegは「釘で固定する」の意
ステーブルコインは元々、暗号資産の一種と捉えられてきましたが、日本では2023年6月に施行した改正資金決済法を受けて、「法定通貨と価値の連動を目指す」ステーブルコインは「電子決済手段」として定義され、暗号資産とは明確に区別されました。発行者についても銀行や信託銀行、資金移動業者の3者に限定されています。
法定通貨に連動した価値を提供するため、ステーブルコインを発行する事業体は、発行額と同等の法定通貨や、法定通貨と同等の資産を担保として保有しています。日本の改正資金決済法では、発行者に発行総額を預金などで資産保全することを義務付けています。
ステーブルコインは、世界で統一された明確な定義があるわけではないものの、G20や金融安定理事会(FSB)は2020年10月の報告書で「特定の資産と関連して価値の安定を目的とするデジタル資産で分散型台帳技術(またはこれと類似の技術)を用いているもの」と定義しています。
つまり、ビットコイン(BTC)などと同様にブロックチェーンを使って発行されるものと捉えられますが、なぜ価値を安定するステーブルコインが必要とされたのでしょうか。それは、暗号資産特有の高いボラティリティが関係しています。
ステーブルコインはなぜ生まれた?誕生の経緯
一般的に、暗号資産(仮想通貨)は価格の変動幅(ボラティリティ)が高いことで知られています。ボラティリティが高ければ、投資用資産としては魅力的なものの、決済や価値の保存手段としては不安定であるといえます。
例えば、昨日までは600万円の商品を1BTCで購入できたのが、1ヶ月後には1.5BTC払わなければ購入できなくなるという状況が起きると、個人や企業は決済に使うたびに計算が必要になったり、ビジネスの計画にも影響が出てきたりするでしょう。
そこで、ボラティリティが高いという暗号資産の特徴を打ち消し、価格が安定的な暗号資産として、ステーブルコインは考案されました。ステーブル(stable)とは「安定した」という意味です。例えば、米ドルにペッグされたステーブルコインである「Tether USDt(テザー/単位:USDT)」の場合、交換レートは1ドル≒1USDTとなっており、1USDTは基本的に約1ドルへと換金ができるものとされています。
ステーブルコインのメリットは?ビットコインとの違い
それでは、ステーブルコインのメリットを整理していきましょう。特徴は以下の3点です。
- 日常的な決済に利用しやすい
- 短時間かつ低コストでの送金が可能
- 資産の避難先となる
まず、ビットコインなどのボラティリティが高い暗号資産(仮想通貨)とは異なり、ステーブルコインの価格は比較的安定しているため、日常的な決済に利用しやすい点がメリットとして挙げられます。
そして、ブロックチェーン上で流通するステーブルコインであれば、法定通貨での国際送金と比べて短時間かつ低コストで国外への送付が可能です。例えば、地震や洪水などが発生した際、災害発生地域では金融機関の機能が停止している場合があります。このような場合に、ステーブルコインであれば国内外問わず、被災エリアや被災者への送付が短時間かつ低コストで行えるというメリットがあります。
また、価格が安定し、低コストで送付ができることは、資産の避難先としても利用しやすいといえるでしょう。例えば、インフレーション(=貨幣価値の下落)により国の法定通貨の価値下落が続いた場合に、資産の避難先としてドルと同様にステーブルコインが選択されるケースも考えられます。
ステーブルコインの種類と特徴
ステーブルコインは、価格を安定させる方法という観点から「法定通貨担保型」「暗号資産(仮想通貨)担保型」「無担保型(アルゴリズム)」「商品担保型」の4種類に大別できます。アルゴリズムとは問題を解くための演算手順、又は課題を解決するための方法や手順のことです。ここでは価格を安定させるための方法だと捉えておくと良いでしょう。
法定通貨担保型
ステーブルコインの中で、時価総額で上位を占めるのが、「法定通貨担保型」です。まず、法定通貨担保型のステーブルコインとは、裏付けとなる法定通貨に価格が連動するタイプのものです。仕組みとしてはシンプルで、その価格はペッグされた法定通貨とほぼ同じとなります。したがって、担保となる法定通貨を発行している国の経済状況や世界経済・金融経済の動きによって、他の通貨との交換レートも変動します。また、基本的には担保となる法定通貨とステーブルコインは、1:1のレートでいつでも交換できます。
一方で、法定通貨担保型のステーブルコインでは、発行や管理を行う組織への信頼が崩れると、資産価値が下落するカウンターパーティリスクがあります。
前述したように、日本の資金決済法では、この法定通貨担保型のステーブルコインが「電子決済手段」に含まれます。一方で、後述する「暗号資産担保型」や「無担保型」、「商品担保型」のステーブルコインは「電子決済手段」に分類されません。
暗号資産(仮想通貨)担保型
次に、暗号資産が価値の担保となっているのが、暗号資産担保型のステーブルコインです。
暗号資産は価格が安定していない場合が多いため、ステーブルコインの価格を安定させるには工夫しなければなりません。過去には価格の維持に失敗した暗号資産担保型のステーブルコインも存在します。なお、2024年2月末時点では、時価総額や取引量が比較的多いイーサリアム(ETH)を担保としたステーブルコインであるDAIが代表的です。価格の安定が難しいことから、2024年2月末時点で、暗号資産担保型ではDAIの他に代表的なものは出てきていません。
無担保型(アルゴリズム)
価格を安定させるのが非常に難しいといわれているのが、無担保型(アルゴリズム)のステーブルコインです。法定通貨や暗号資産といった担保を用意せずに、アルゴリズムによって価格の安定化を試みます。
その仕組みを端的に表現するとしたら、中央銀行の役割をアルゴリズムで表現したものだといえるでしょう。法定通貨の発行機関である中央銀行は通常、経済情勢などを考慮しながら市場で流通する通貨の需給バランスを調整しています。同様に無担保型のステーブルコインでは、市場の需給バランスに応じてコインを発行又はバーン(焼却:使えないようにすること)することで、価格を安定化させるモデルが採用されています。なお、価格は多くの場合、ドルにペッグするように調整されています。
なお、2022年5月にペッグが崩れ、プロジェクトが破綻したテラUSDは、この無担保型ステーブルコインです。
商品担保型
金(ゴールド)や石油といったコモディティ(商品)の価値に連動するステーブルコインです。ステーブルコインの価値を裏付ける分の商品を保有している必要があります。
代表的なものとして、金価格に連動することを目指しているジパングコイン(ZPG)が挙げられるでしょう。
以上のようにステーブルコインは4種類に大別可能です。そして、ステーブルコインは既存のブロックチェーン上で発行されるのが一般的であり、ステーブルコインの発行プラットフォームとしては、ビットコインやイーサリアム、ソラナなど、様々な技術基盤が選択されています。
ステーブルコインの銘柄紹介
国外ではすでに複数のステーブルコインが発行され、流通しています。いくつか事例をピックアップしてみましょう。
法定通貨担保型
法定通貨担保型にはTether USDtやUSDC、TrueUSD が挙げられます。
Tether USDt(USDT)
テザーは、暗号資産全体の中でも、ビットコインとイーサリアムに次いで、時価総額が3位(2024年2月時点)のステーブルコインです。米ドルを担保に1USDTが1ドルになるように調整されています。
USDC(USDC)
USDCは、テザーに次ぐステーブルコインで、暗号資産全体でみても時価総額は7位(2024年3月時点)に位置しています。USDコインと呼ばれることもあります。1USDCが1ドルになるように調整されています。発行体のCIRCLE社はニューヨーク州の金融当局の規制に適応しており、管理体制に関する透明性が高いことが大きな特徴です。
TrueUSD(TUSD)
2018年1月から始まった、米ドルに連動したステーブルコインです。1TUSDが1ドルになるように調整されています。複数の信託銀行によって管理されているため、カウンターパーティリスクが少ないことが特徴です。
暗号資産(仮想通貨)担保型
暗号資産(仮想通貨)担保型はDAIが挙げられます。前述したように、暗号資産担保型は価格の安定が難しいため、DAIの他に代表的なものは出てきていません。
DAI
以前はイーサリアムのみの単一担保でしたが、2024年2月時点、イーサリアムの他にERC-20トークンやRWA(現実資産)トークンなど、さまざまな暗号資産やトークンを担保に発行されます。
無担保型
無担保型としてはAMPLが挙げられます。
AMPL
1ドルとの価格差が生じると、供給量を自動的に調整し、ユーザーが保有するウォレット内AMPLも増減することで、保有するAMPLの時価総額が安定する仕組みを採用しています。
ただ、現在ではステーブルコインとしてはボラティリティがやや大きく、安定性が不十分なことには注意が必要です。
テラUSD(UST)
テラUSDは、米ドルとの価格を連動させることを目指したステーブルコインです。テラブロックチェーンのネイティブトークンであり、ガバナンストークンでもあるルナ(LUNA)との裁定取引によって供給量を調節することで、価格の安定を図りました。しかし、2022年5月にテラUSDの信認が揺らいだことで米ドルとのペッグが維持できず、ルナとともに価格が暴落しました。
その後、テラUSDはテラクラシックUSD(USTC)という名称に変更して発行されていますが、2024年4月時点で1ドルから大きく乖離して推移しています。
商品担保型
商品担保型としては主にゴールドを担保としたステーブルコインがいくつか存在します。
Tether Gold(XAUT)
テザー社が発行する、ゴールドの価格に連動するステーブルコインです。スイスの金庫室に保管されている現物の金と交換が可能です。
ジパングコイン(ZPG)
インフレヘッジ機能など金(ゴールド)の特性を備え、デジタル化による利便性と小口化を実現した国内初のデジタルゴールドといえる暗号資産であり、概ね金(ゴールド)の価格にペッグします。
関連コラム:
「暗号資産(仮想通貨)ジパングコインとは? 特徴と将来性を解説」
ステーブルコインの現状と今後
最後に、国内外のステーブルコインの現状と今後についてまとめておきましょう。
G7やG20などの国際的な枠組みの中では、ステーブルコインについて、リスクが高いとして高い警戒感が読み取れます。一方で、主要国では、さまざまなステーブルコインの発行に合わせて規制や法案の整備が進められています。
強い危機感を示す規制当局
G7のステーブルコイン作業部会は2019年10月17日に報告書を発表しました。そこでは国際送金・決済などの分野の非効率性や技術革新による効率化の可能性を認めつつも、当時、フェイスブック(現メタ)が発表したグローバル・ステーブルコインのリブラが様々なリスクを抱えていることを指摘しました。ここでのリスクとは、金融政策や通貨主権に関する悪影響の他、マネーロンダリングやテロ資金供与、市場の公正性、データのプライバシーなどが挙げられます。
同報告書では以下のように明言されており、規制当局の強い警戒感が読み取れます。
「我々は、適切な設計及び明確かつリスクに応じた規制を遵守することによって、法律上、規制上及び監督上の課題やリスクに十分な対応がなされるまで、いかなるグローバル・ステーブルコインもサービスを開始すべきではないということに合意した。」(財務省「ステーブルコインに関するG7議長声明」より)
そして、G20では2019年10月、G7作業部会の報告書に加え、金融安定理事会(FSB)や金融活動作業部会(FATF)から提出された報告書をベースに議論が行われました。議論を踏まえて発表されたグローバル・ステーブルコインに関するG20プレスリリースでは、グローバル・ステーブルコインが政策や規制上の深刻なリスクを生じさせると記されています。G20はその後、2020年、2021年ともに一貫して「適切な基準や規制が策定されるまでは、ステーブルコインは運用すべきではない」という姿勢を崩していません。
さらに、金融安定理事会(FSB)は2023年7月に、暗号資産とグローバル・ステーブルコインの規制・監督・監視に関するハイレベル勧告を公表。2023年10月に開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議にステーブルコインに関する規制枠組の最低基準を整備するためのロードマップを提出しました。このロードマップによると、2024年末までにリスク分析の結果を踏まえて、追加の政策策定作業の必要性を評価するとしています。
なお、リブラはその後、ディエムと名称を変え、計画が進められていましたが、2022年1月に計画を断念すると発表しました。
アメリカやEU、日本の動きは?
アメリカでは2023年7月に下院金融サービス委員会のパトリック・マクヘンリー議員が「2023年ステーブルコイン支払いの明確化法案(the Clatiry for Payment Stablecoins Act of 2023)」を提出しましたが、2024年2月時点で法制化されていません。
この法案では、支払いに使用されるステーブルコインの定義のほかに、発行者の資格や要件、規制機関の活動内容などを明確化することで市場の透明性や安全性、消費者保護の強化を目指しています。
また、EUでは「暗号資産市場規制法(MiCA)」が2023年4月に可決され、ステーブルコインに関する規定が2024年7月に適用される予定です。この中でライセンス制度や資産保全といった消費者保護に関する要件が定められています。
一方で、日本では2023年6月に施行された改正資金決済法で「電子決済手段」としてステーブルコインが定義されました。規制が整備されたことで、2023年ごろから複数の銀行や事業体が連携してステーブルコインの発行に向けた動きを進めています。
まとめ
ステーブルコインは比較的価格が安定したデジタル資産です。一般的に暗号資産(仮想通貨)はボラティリティが高く、決済手段としては使いづらい点が否めません。しかし、ステーブルコインであれば、支払いに利用できる上に、既存の金融システムよりも素早く安価な国際送金ができる可能性があります。
また、ステーブルコインは大きく分けて、法定通貨担保型、暗号資産担保型、無担保型(アルゴリズム)、商品担保型の4種類に分類できます。特にTether USDtやUSDCなどに代表される法定通貨担保型は種類が多く、国外を中心にすでに使われています。
ステーブルコインへの注目が高まるにつれて、国内外での取り組みが急速に進んでおり、日本では改正資金決済法で「電子決済手段」として規定されました。米国やEUでも法整備に向けた動きが出てきており、今後も動向に注目です。
暗号資産のさまざまなニュースについて興味を持った方は「ビットコインや暗号資産(仮想通貨)ニュースの見方は?」もご参照ください。
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