ステーブルコインはデジタル版ドルや円?特徴や仕組みを解説!
2019年6月に発表されたFacebook(現Meta)の暗号資産(仮想通貨)Libra(リブラ:現ディエム)を発端として、「ステーブルコイン」が大きな注目を集めるようになりました。その後、グローバルに流通する可能性のあるステーブルコインに対する規制の必要性が、2019年10月に行われたG7(主要7カ国)財務大臣・中央銀行総裁会議やG20(主要20カ国・地域)財務大臣・中央銀行総裁会議でも議論されるなど、世界的な関心が高まっています。
ステーブルコインという名称が大手メディアでも報道され始めたことで、「ステーブルコインって何だろう?」と思った方もいるのではないでしょうか?そこで本稿では、ステーブルコインが誕生した背景や現状、今後について解説していきます。

ステーブルコインとは何か?

ステーブルコインは、日本円や米ドルといった法定通貨、あるいは金やダイヤモンドなどの現物資産の価格と連動することで、価格を一定に保つことを目的とした、暗号資産(仮想通貨)を源流とするデジタル資産の一種です。別名ペッグ通貨とも呼ばれています。
※ペッグ/pegは「釘で固定する」の意
ステーブルコインが誕生した背景には、暗号資産の高いボラティリティが関係しています。
ステーブルコインはなぜ生まれた?誕生の経緯

一般的に、暗号資産(仮想通貨)は価格の変動幅(ボラティリティ)が高いことで知られています。ボラティリティが高ければ、決済や価値の保存手段として信頼できません。例えば、昨日までは600万円の商品を1BTCで購入できたのが、1ヶ月後には1.5BTC払わなければいけなくなるという状況が起きます。そのため、暗号資産の取引や利用を敬遠する個人や企業は少なくありません。
そこで、ボラティリティが高いという暗号資産の特徴を打ち消し、価格が安定的な暗号資産として、ステーブルコインは考案されました。ステーブル(stable)とは「安定した」という意味です。例えば、米ドルにペッグされたステーブルコインである「Tether(テザー/単位:USDT)」の場合、交換レートは1ドル≒1USDTとなっており、1USDTは常に約1ドルへと換金しやすいとされています。このように、ステーブルコインの価格は法定通貨(あるいは現物資産)と連動しているのです。
ステーブルコインのメリットは?ビットコインとの違い

それでは、ステーブルコインのメリットを整理していきましょう。まず、ビットコインなどのボラティリティが高い暗号資産(仮想通貨)とは異なり、ステーブルコインの価格は安定しているため、日常的な決済に利用しやすい点がメリットとして挙げられます。
また、価格が安定しているため、資産の避難先としても利用しやすいといえるでしょう。例えば、インフレーション(=貨幣価値の下落)により国の法定通貨の価値下落が続いた場合に、資産の避難先としてドルと同様にステーブルコインが選択されるケースも考えられます。
そして、ブロックチェーン上で流通するステーブルコインであれば、法定通貨での国際送金と比べて短時間かつ低コストで国外への送付が可能です。例えば、地震や洪水などが発生した際、災害発生地域では金融機関の機能が停止している場合があります。このような場合に、ステーブルコインであれば国内外問わず、被災エリアや被災者への送付が短時間かつ低コストで行えるというメリットがあります。
ステーブルコインの種類と特徴

ステーブルコインは、価格を安定させる方法という観点から「法定通貨担保型」「暗号資産(仮想通貨)担保型」「無担保型(アルゴリズム)」「商品担保型」の4種類に大別できます。アルゴリズムとは、問題を解くための演算手順又は、課題を解決するための方法や手順のことです。ここでは価格を安定させるための方法だと捉えておくと良いでしょう。
法定通貨担保型
まず、法定通貨担保型のステーブルコインとは、裏付けとなる法定通貨に価格が連動するタイプのものです。仕組みとしてはシンプルで、その価格はペッグされた法定通貨とほぼ同じとなります。したがって、担保となる法定通貨を発行している国の経済状況や世界経済・金融経済の動きによって、他の通貨との交換レートも変動します。また、基本的には担保となる法定通貨とステーブルコインは、1:1のレートでいつでも交換できます。
一方で、法定通貨担保型のステーブルコインでは、発行や管理を行う組織への信頼が崩れると、資産価値が下落するカウンターパーティリスクがあります。
暗号資産担保型
次に、暗号資産が価値の担保となっているのが、暗号資産担保型のステーブルコインです。暗号資産は価格が安定していない場合が多いため、ステーブルコインの価格を安定させるには工夫しなければなりません。過去には価格の維持に失敗した暗号資産担保型のステーブルコインも存在します。なお、2021年11月末時点では、時価総額や取引量が比較的多いイーサリアム(ETH)を担保としたステーブルコインDAIが代表的です。価格の安定が難しいことから、2021年11月時点で、暗号資産担保型ではDAIの他に代表的なものは出てきていません。
無担保型(アルゴリズム)
価格を安定させるのが非常に難しいといわれているのが、無担保型(アルゴリズム)のステーブルコインです。法定通貨や暗号資産といった担保を用意せずに、アルゴリズムによって価格の安定化を試みます。
その仕組みを端的に表現するとしたら、中央銀行の役割をアルゴリズムで表現したものだといえるでしょう。法定通貨の発行機関である中央銀行は通常、経済情勢などを考慮しながら市場で流通する通貨の需給バランスを調整しています。同様に無担保型のステーブルコインでは、市場の需給バランスに応じてコインを発行又はバーン(焼却:使えないようにすること)することで、価格を安定化させるモデルが採用されています。なお、価格は多くの場合、ドルにペッグされています。
商品担保型
金や石油といったコモディティ(商品)の価値に連動するステーブルコインです。ステーブルコインの価値を裏付ける分の商品を保有している必要があります。
以上のようにステーブルコインは4種類に大別可能です。そして、ステーブルコインは既存のブロックチェーン上で発行されるのが一般的であり、ステーブルコインの発行プラットフォームとしては、ビットコインやイーサリアム、EOS(イオス)など、様々な技術基盤が選択されています。
ステーブルコインの銘柄紹介

国外ではすでに複数のステーブルコインが発行され、流通しています。いくつか事例をピックアップしてみましょう。
法定通貨担保型
法定通貨担保型にはTetherやTrueUSD、Pax Dollarが挙げられます。
Tether(USDT)
テザーは、2021年11月現在、暗号資産全体の中でも一時、ビットコインとイーサリアムに次いで時価総額が3位になったこともあるステーブルコインです。米ドルを担保に1USDTが1ドルになるように調整されています。
TrueUSD(TUSD)
2018年1月から始まった、米ドルに連動したステーブルコインです。1TUSDが1ドルになるように調整されています。複数の信託銀行によって管理されているため、カウンターパーティリスクが少ないことが特徴です。
Pax Dollar(USDP)
米ドルに連動したステーブルコインです。2021年8月にPaxos Standardから名称を変更しました。ステーブルコインの中には規制当局からの認可が得られていないものもありますが、USDPはニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)の規制下にあることが特徴です。
暗号資産担保型
暗号資産担保型はDAIが挙げられます。前述したように、暗号資産担保型は価格の安定が難しいため、DAIの他に代表的なものは出てきていません。
DAI
以前はイーサリアムのみの単一担保でしたが、2021年11月現在、イーサリアムの他にテザーやUSDCoinなど、30種類以上の暗号資産を担保に発行されます。DAIは、分散型金融(DeFi)の世界で最も使用されているステーブルコインです。
無担保型
無担保型としてはAMPLが挙げられます。
AMPL
1ドルとの価格差が生じると、供給量を自動的に調整し、ユーザーが保有するウォレット内AMPLも増減すること、保有するAMPLの時価総額が安定する仕組みを採用しています。
ただ、現在ではステーブルコインとしては、ボラティリティがやや大きく、安定性が不十分なことには注意が必要です。
商品担保型
商品担保型としては主にゴールドを担保としたステーブルコインがいくつか存在します。
Tether Gold(XAUT)
テザー社が発行する、ゴールドの価格に連動するステーブルコインです。スイスの金庫室に保管されている現物の金と交換が可能です。ステーブルコインの多くはイーサリアムのERC-20規格で発行されますが、XAUTはトロンブロックチェーンで発行されています。
Facebook(現Meta)のステーブルコイン「ディエム」について

20億人以上のユーザーを抱えるFacebook(現Meta)が中心となり、発行を計画しているディエムも法定通貨担保型のステーブルコインです。当初の計画では、米ドルなど複数の資産を担保とした「バスケット型」ステーブルコインとして、2020年前半の発行が予定されていました。しかし、規制当局との調整が済んでいないことや、各国において賛否両論が巻き起こり、大幅に計画を修正しています。
「バスケット型」から「単一通貨型」
2021年11月現在では、米ドルやユーロ、ポンド、シンガポールドルなど単一通貨が裏付けとなるステーブルコインを導入するとし、大幅に方針を転換しています。
ディエムの開発を主導するデビッド・マーカス氏は、変更理由について「リブラが貨幣の主権性や貨幣政策に干渉することになるのではないか、という重要な懸念」を挙げました。2019年の発表以降、米議会を中心にディエムは米ドルを基軸通貨とした金融システムの安定性に対する脅威と見られていました。
その後、ディエムの開発は進められ、2021年8月には専用ウォレットであるNovi(ノヴィ)が米国のほとんどの州でライセンスを取得したと報じられました。しかし、2021年10月末時点では正式なローンチ日程は未定です。
ステーブルコインの現状と今後

最後に、国内外のステーブルコインの現状と今後についてまとめておきましょう。
規制当局の主な動きを紹介していきますが、一言で表すと(ディエムのような)グローバル・ステーブルコインは、規制当局の準備ができるまでサービスを開始すべきではないという旨が主要国の共通認識となっています。こうした姿勢はG20も2019年から2021年にかけて、継続的に声明やプレスリリースなどで示しています。
強い危機感を示す規制当局
まず、G7のステーブルコイン作業部会は2019年10月17日に報告書を発表しました。そこでは国際送金・決済などの分野の非効率性や技術革新による効率化の可能性を認めつつも、グローバル・ステーブルコインが様々なリスクを抱えていることを指摘しています。ここでのリスクとは、金融政策や通貨主権に関する悪影響の他、マネーロンダリングやテロ資金供与、市場の公正性、データのプライバシーなどが挙げられます。
同報告書では以下のように明言されており、規制当局の強い警戒感が読み取れます。
「我々は、適切な設計及び明確かつリスクに応じた規制を遵守することによって、法律上、規制上及び監督上の課題やリスクに十分な対応がなされるまで、いかなるグローバル・ステーブルコインもサービスを開始すべきではないということに合意した。」(財務省「ステーブルコインに関するG7議長声明」より)
そして、G20は2019年10月、G7作業部会の報告書に加え、金融安定理事会(FSB)や金融活動作業部会(FATF)から提出された報告書をベースに議論が行われました。議論を踏まえて発表されたグローバル・ステーブルコインに関するG20プレスリリースでは、グローバル・ステーブルコインが政策や規制上の深刻なリスクを生じさせると記されています。G20はその後、2020年、2021年ともに一貫して「適切な基準や規制が策定されるまでは、ステーブルコインは運用すべきではない」という姿勢を崩していません。
以上のように、法律や規制、監督態勢が整っていない現時点では、グローバル・ステーブルコインの発行がスムーズに行われる見通しは立っていません。
アメリカや日本の態度は?
一方で、日本銀行の黒田東彦総裁は2021年5月、ステーブルコインについて「多くの人が利用し得る便利な決済手段」と前向きな発言をしています。ただし、マネーロンダリングやデータプライバシー、消費者・投資家保護などの課題が残っていることも指摘しました。黒田総裁は「決済システムの改善や高度化に向けて幅広い関係者との議論を進めている」として、民間での取り組みも支援する方針を示しています。
ステーブルコインの規制については、海外でも話し合いが進められています。アメリカでは2021年7月には規制に関する大統領ワーキンググループが設立され10月には証券取引委員会(SEC)がステーブルコインの規制を主導することが明らかになりました。
規制の整備が進み、当局の懸念が払拭されればグローバル・ステーブルコインが流通することになるかもしれません。
まとめ

ステーブルコインは価格が安定した暗号資産(仮想通貨)です。一般的に暗号資産はボラティリティが高く、決済手段としては使いづらい点が否めません。しかし、ステーブルコインであれば、支払いに利用できる上に、既存のシステムよりも素早く安価な国際送金が可能です。
また、ステーブルコインは大きく分けて、法定通貨担保型、暗号資産担保型、無担保型(アルゴリズム)、商品担保型の4種類に分類できます。特にTetherやTrueUSDなどの法定通貨担保型は種類が多く、国外を中心にすでに使われています。
ただ、2019年6月に発表されたディエム(発表当時の名称はリブラ)計画を発端として、世界中で流通する可能性のあるグローバル・ステーブルコインに対して強い警戒感を明確に示す国も多いのが現状です。日本では過去、ステーブルコインは暗号資産に該当しないとの見解が金融庁から示されていますが、国際情勢も踏まえた規制のあり方が、引き続き検討されていくでしょう。
暗号資産の様々なニュースについて興味を持った方は「ビットコインや暗号資産(仮想通貨)取引の注目ニュースをまとめて解説」もご参照ください。
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