ビットコインを生んだ「サトシ・ナカモト」の正体は? 論文の内容は?

サトシナカモト
2021-02-24 更新

ビットコインは、政府や中央銀行といった特定の機関に依存することなく成立している非中央集権型の暗号資産(仮想通貨)です。従来とはまったく異なる新しい枠組みを提示し、ビットコインの基盤技術であるブロックチェーンは様々な改良が加えられ、幅広い領域で活用され始めています。

ところが実はビットコインの基礎となった論文の執筆者は、未だに正体不明の謎の人物なのです。今回はそのミステリアスなビットコインの考案者とされている「Satoshi Nakamoto」(サトシ・ナカモト)について迫っていきましょう。

ビットコインは、正体不明の「サトシ・ナカモト」が書いた論文から生まれた

ビットコインの考案者は「Satoshi Nakamoto」(サトシ・ナカモト)と名乗る人物です。名前を見ると日本人のようですが、何者かは明らかになっていません。国籍や性別、個人なのか集団なのかも分かっておらず、2020年6月上旬現在もその正体は不明のままです。正体については様々な説が噂されています。

過去、サトシ・ナカモトの正体を探す動きが見られたり、“自称”サトシ・ナカモトが現れたりしましたが、今のところ本物のサトシ・ナカモトは見つかっていません。ビットコインが稼働し始めてからしばらくの間は、サトシ・ナカモトがほとんど1人でマイニングを行っていたため、サトシ・ナカモト保有のビットコインは約100万BTC(2兆円相当。2020年12月末のレートで換算 )にものぼると推測されています。しかも100万BTCという数量は、ビットコインの総発行予定数量(約2,100万BTC)の約4%を占めています。

またこれらは、いまだにサトシ・ナカモトのビットコインウォレットで保管され続けており、送付や取引などは一切行われていません。

サトシ・ナカモトのものと思われるアドレスからビットコインを送付できるのは、サトシ・ナカモト本人のみだと考えられるため、仮にこれらのアドレスに動きがあれば大きなニュースになるでしょう。ビットコインの価格に影響を与えることも考えられます。

サトシ・ナカモトの論文の内容は?

サトシ・ナカモトは2008 年 、「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」(ビットコイン: P2P電子通貨システム) という論文を公開しました(後述)。日本語を含め31言語(2020年6月上旬現在)に翻訳されており、多くの方に読まれ続けています。

この論文は、「完全なP2P電子通貨の実現により、金融機関の介在無しに、利用者同士の直接的なオンライン決済が可能となるだろう」という、「宣言」ともとれる印象的な書き出しに始まり、ビットコインの仕組みについて論じています。

暗号学関連技術、人々の行動を変化させる経済的要因・インセンティブを組み合わせることで、例えば政府や金融機関といった「信用のおける第三者」を存在させずに、利用者間での直接的なオンライン送付を可能にする暗号資産の仕組みを記しています。

ビットコインや暗号資産(仮想通貨)の技術基盤、ブロックチェーン

サトシ・ナカモトの論文には、ビットコインの技術的基盤として「ブロックチェーン」という単語が頻繁に登場します。この「ブロックチェーン」という名称は、データの固まりにあたる「ブロック」を鎖(チェーン)のようにつなげたデータ構造である点に由来します。

ブロックチェーンにより、中央集権的な管理者を置くことなく、数学的な仕組みを用いた二重支払いなどの不正防止、改ざん耐性を持った分散型データベース(分散型台帳)といった技術を実現しています。

また、ビットコインとブロックチェーンは同時に誕生したため混同する方がいますが、「ビットコイン=ブロックチェーンではない」点を覚えておきましょう。ブロックチェーンはビットコインを起源とするものの、ビットコインとは別のブロックチェーンが数多く開発されています。

参考コラム:
ビットコインやイーサリアムの技術基盤、ブロックチェーンとは?
ビットコインとブロックチェーンの関係は?その仕組みを解説

サトシ・ナカモトの足跡をたどる

サトシ・ナカモトがどのようにしてネットの世界に出現し、消えていったのかを見ていきましょう。サトシ・ナカモトによるメールや掲示板への書き込みがあった期間は、2008年10月〜2010年12月とされています。

2008年10月31日、サトシ・ナカモトがビットコイン論文を投稿

まず、2008年10月31日、暗号理論に関するメーリングリスト「Cryptography」に「Satoshi Nakamoto」名義の論文が投稿されました。そのタイトルは「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」であり、ビットコインやブロックチェーンが誕生するきっかけとなった論文です。当時送られたメールはアーカイブされ、現在でもインターネット上で閲覧できます。

2009年1月、ビットコイン用ソフトウェアを初公開

論文の執筆には相当時間を要したはずで、実際に11月17日付のメールにはサトシ・ナカモトが2007年の前半頃からビットコインに取り組んでいることが伺える記述があります。その後、メールでのやり取りを経て、2009年1月8日にビットコインの最初のバージョン(ver0.1)がメーリングリストを通じて公開されました。それが、ビットコインプロトコルとそのリファレンス実装である「ビットコインコア」(Bitcoin Core)です。またこの日が、ビットコインの運用が開始された日とみなされています。

その後、2009年2月にはP2Pという通信技術を研究する組織「P2P Foundation」の掲示板(フォーラム)でサトシ・ナカモトがビットコイン(ver0.1)を紹介しています。P2P Foundationのアカウントプロフィールでは、ステータスが「日本」となっていますが、それがサトシ・ナカモトの国籍や住居を表しているのかは定かではありません 。

ビットコイン初のブロック(ジェネシスブロック)を生成

話が前後してしまいますが、実はビットコインのソフトウェアが公開される数日前、2009年1月3日にビットコイン初のブロック(ブロック0。ジェネシスブロック)が作成されています。サトシ・ナカモトがテスト的に採掘(マイニング)したものとされています(世界で初めてビットコインをマイニングした人物でもある)。

またこの時、最初のマイニング報酬として50BTCがサトシ・ナカモトのものと思われるビットコインアドレスへ送金されています。このブロックの中身は、特定のブロックやトランザクションを閲覧できるサービスを通じて確認可能です。

なおサトシ・ナカモトは、ビットコインを他人へ送付した初めての人物でもあります。

2010年中頃までビットコインを積極的に開発

サトシ・ナカモトは、2010年の中頃までは積極的にビットコインの開発に関わっていました。しかしその後、徐々にビットコイン開発やプロジェクト管理を他の開発者に任せるようになっていきます。ソースコードの管理やプロジェクト管理は、初期の頃からビットコイン開発に参加していたギャヴィン・アンドレセン氏に委ね、サトシ・ナカモトが所有していたビットコインのWEBサイト「bitcoin.org」のドメイン管理も、コミュニティに初期から参加していたメンバーに引き渡されました。

2010年12月以降、サトシ・ナカモトの足取りが不明に

そして、サトシ・ナカモトは2010年12月12日、ビットコインフォーラムに最新版(ver0.3.19)のソフトウェアの告知を投稿した後、一切消息を絶ち、姿を消しています。

なお、2014年3月7日にP2P Foundationのフォーラムにサトシ・ナカモトのアカウントで、「I am not Dorian Nakamoto.」(私はドリアン・ナカモトではない)と投稿されていますが、これはサトシ・ナカモトのメールアドレスが不正利用された疑い(有効期限切れによる第三者の再取得)があるため、本人の投稿かどうかは不明です。

ビットコインのもう1つの通貨単位、「Satoshi」(サトシ)

ビットコインの単位としては「BTC」がよく知られていますが、実はもうひとつ単位があります。それは、考案者のサトシ・ナカモトに由来するとされるビットコインの最小単位「Satoshi」(サトシ)です。1Satoshiは1億分の1BTCと等しく、ビットコインのソフトウェアレベルでは、Satoshiが基本的な単位として使われています。

ビットコインを少額決済に使う際にはSatoshiの方が分かりやすいという理由で、Satoshiが使われることが少なくありません。例えば、1BTC=100万円というレートなら「100satoshi = 1円」(1satoshi = 0.01円)と表示されます。

サトシ・ナカモトの正体は突き止められず

前述のように、サトシ・ナカモトが誰なのか分からないため、その正体を突きとめようとする動きは2011年頃から見られています。過去、経済社会学者や暗号理論の研究者など、何人もの候補者が挙げられたものの、ほぼ全員が疑惑を否定しました。

2014年にはカリフォルニア州に住む日系アメリカ人男性のドリアン・S・ナカモト氏が、サトシ・ナカモトの正体ではないかと大々的に報道されたものの、本人は否定しています。前述の「I am not Dorian Nakamoto.」というP2P Foundationのフォーラムへの書き込みはこの報道に関連したものです。

ちなみに日本では、P2Pのファイル共有ソフト「Winny」の開発者である、故金子勇氏ではないかとの声も挙がっています。しかし、確たる証拠はありません。

自称「サトシ・ナカモト」も登場

ビットコインの考案者探しが行われる中、自らサトシ・ナカモトであると名乗り出る人物も現れています。2019年11月現在までに、複数人が「自称サトシ・ナカモト」としてメディアなどに登場しているものの、誰もが納得できる証拠を示した人物はひとりもいません。

自称サトシ・ナカモトとして有名な人物のひとりが、オーストラリアの実業家クレイグ・ライト氏です。ライト氏は2016年5月に、自身がサトシ・ナカモトであると主張して証拠を公開したものの、客観的な証拠とはいえないと指摘されています 。2020年5月末現在でも、ライト氏は自身がサトシ・ナカモトであることを証明できていません。

また、ライト氏はビットコインキャッシュからハードフォーク(恒久的なチェーンの分岐)したビットコインSVの中心人物としても知られています。このハードフォーク時には、ビットコインキャッシュを暴落させると強く述べるなどの言動が問題視されました。

この他、サトシ・ナカモト探しに関しては、2019年4月にサイバーセキュリティ企業「マカフィー」の創業者ジョン・マカフィー氏が、サトシ・ナカモトと呼ばれる人物と話し合い、正体を明かす考えを明らかにしたことがあります 。しかしその後、マカフィー氏の弁護士から、サトシ・ナカモトの正体を暴露することでマカフィー氏が訴訟対象となるリスクがあるとして、公表は中止されました。

2019年4月当時、マカフィー氏は税金滞納などを理由にバハマへと逃亡しており、アメリカからバハマに対する身柄の引き渡し要求が懸念されていたようです。

マカフィー氏は、その後も幾度となくサトシ・ナカモトの身元を突きとめた旨の発言や、サトシ・ナカモトは個人の氏名ではなくチーム名といった発言を述べているものの、2020年6月上旬現在でもその正体を明らかにできていません。

サトシ・ナカモトは、今なお影響を与え続けている?

すでに触れたように、サトシ・ナカモトが保有するビットコインは約100万BTC(2020年12月末現在で2兆円相当)と推測されています。ですが、この保有数量については個人や組織による調査が続いており、実は約70万BTC(2020年12月末現在で1兆4,000億円相当)なのではないかという説も浮上しています。

こうした推測は、初期のビットコインにプライバシー保護の面で問題があったことから可能となっているようです。当時はブロックをマイニングした人物、つまりマイナーを推測できる構造になっていました。ビットコインは誕生当初、速いペースでマイニングを行うビットコインの保有者を「Patoshi」(パトシ)と呼んでいたようで、それがサトシ・ナカモトなのではないかとされ、そこから保有量が推定されているのです。

加えてサトシ・ナカモトは、前述のとおり活動時期を除きビットコインの移動などを行っていないことも判明しています。そのため、サトシ・ナカモトは(今後も)保有ビットコインの売買・移動を行なわないだろうという説が主流となっています(2020年12月末現在)。ただし、もしそれら大量のビットコインが売買された場合は、価格に大きく影響することが考えられるため、その動向は現在も注目され続けています。

そんな中、2020年5月中旬に2009年以来11年間休眠状態にあった50BTCが移動され、サトシ・ナカモトが採掘したものではないかと話題になりました。

様々な調査の結果、その50BTCはサトシ・ナカモトが保有するビットコインではないという説が有力視されています。とはいえ、誰が動かしたのかは依然として不明なままです。大量のビットコインを保有しているとされるサトシ・ナカモトが活動を始めたのではないかなど、多くの憶測が飛び交ったためか、50BTCが移動したニュースが報じられた際には、ビットコインの価格が下落しました。

サトシ・ナカモトのまとめ

ビットコインは2008年、「Satoshi Nakamoto」(サトシ・ナカモト)と名乗る人物が公開した論文を基にした暗号資産(仮想通貨)です。サトシ・ナカモトの正体は2020年12月末現在も明らかになっていません。国籍も性別も個人なのか集団なのかも分からないのです。

サトシ・ナカモトはビットコインのソフトウェアを2009年1月に公開した後、しばらくは他の開発者やメンバーとやり取りをしながら開発に従事していましたが、2010年12月12日のビットコインフォーラムへの書き込みを最後に表舞台から姿を消しています。

サトシ・ナカモトはミステリアスな存在であるがゆえに、これまで何度もサトシ・ナカモト探しが行われました。候補とされる人物の名前が何人も挙がってきましたが、ほぼ全員が否定しています。自称サトシ・ナカモトも複数人現れたものの、サトシ・ナカモトだという確たる証拠は提示できた人はいまだにいません(2020年12月末現在)。

また、2020年5月中旬に2009年以来11年間休眠状態にあった50BTCが移動され、サトシ・ナカモトが採掘したものではないかと話題になった点に注目しておくといいでしょう。サトシ・ナカモトの活動再開の可能性など多くの憶測・調査に関する情報が飛び交ったためか、ビットコインの価格が下落しています。

ビットコインは法定通貨とは異なる特殊な存在ですが、その考案者もまた謎の人物であり、今なお影響を与え続けているという意味でユニークな存在だといえるでしょう。

ビットコインについて詳しく知りたい方は「ビットコインとは?初心者が知るべき知識・買い方とは?」をご覧ください。

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