ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)は有価証券化されるのか?

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有価証券
2023-02-08 更新

2022年11月現在、先進国を中心に、ビットコイン(BTC)をはじめとする暗号資産(仮想通貨)を有価証券とみなすかどうかの議論が活発化しています。もし暗号資産が有価証券とみなされれば、管轄する政府当局によって監督されることになり、今までと比べ、暗号資産の取り扱いや関わってくる規制にも変化が出てくるでしょう。

本記事では、暗号資産と有価証券との違いのほか、国内外での暗号資産の有価証券化を巡る議論の経緯について解説し、暗号資産が有価証券に該当することになった場合の影響について考察します。

有価証券とは

そもそも証券とは、財産に関する法律において定められた権利や義務について記載された証明書のようなものです。そして、有価証券はそれ自体が財産的な価値を有しているのが特徴です。

その代表例としてあげられるのが、株式や債券、手形、小切手などです。先述したように有価証券には財産的価値があるので、誰かに売る(譲渡する)ことでその対価を得られますし、それに伴って財産的な権利が購入者に移転します。

金融商品取引法2条1項では、国債、社債、株券、新株予約権証券、投資信託の受益証券などが有価証券に該当すると具体的に定義しています。

ただし、直接的には該当しないものの、投資者保護の観点から「みなし有価証券」として定義しているものもありますし、今後はさらにその対象が広がる可能性も考えられます。現に先進国の間では、ビットコインのような暗号資産(仮想通貨)も有価証券に分類するのが妥当だという声もあります。

有価証券か判断する「ハウェイテスト」

アメリカでは、金融資産が有価証券かどうかを判断する指標として「ハウェイテスト(Howey test)」と呼ばれるものがあります。ハウェイテストは「資金を集めているか」、「購入者との共同事業かどうか」、「購入者に収益性があるか」といった3点を考慮して総合点で証券性を判断するものです。

暗号資産でも証券性を持つかどうかは、このハウェイテストを満たすかどうかも重要な論点の一つとなっています。ただし、ハウェイテストは有価証券に該当するかどうかを判断する基準の一つで、テスト結果で証券性があるからといって、必ずしも有価証券になるわけではありません。

過去にICO(イニシャル・コイン・オファリング)でこのハウェイテストの結果を公表し、有価証券かどうかの判断基準を提供しているプロジェクトもあります。ICOとは、企業がトークンと呼ばれる暗号資産を発行してそれを投資家に購入してもらうことで、事業のための資金を調達するというものです。

ビットコインは有価証券か? 有価証券ならどうなる?

はたして、ビットコインをはじめとする暗号資産(仮想通貨)は世界的に有価証券とみなされることになるのでしょうか?

米国においては関係当局の間で見解にかなりの食い違いが生じています。

CFTCは「商品」と判断

米国のCFTC(商品先物取引委員会)は、2017年7月にビットコインの先物取引を認可しました。これは、CFTCがビットコインのことをコモディティ(商品)と同格と判断したことを意味しています。CFTCは、コモディティ取引やその先物取引を監督する立場にあります。コモディティとは、商品先物取引所で取引されているもので、原油・ガスなどのエネルギー、金・銀・プラチナなど貴金属、小麦・大豆・とうもろこしなど穀物、銅・アルミなど非鉄金属などといったように、実物(実際に目視できる)資産が該当します。

実は2015年頃からCFTCは、暗号資産はコモディティであり米国の商品取引法の支配下にあるものだと訴えてきました。これに対し、米国連邦地方裁判所は2018年3月6日に、「ビットコインのような暗号資産はコモディティである」との判断を下しました。暗号資産は商品取引法でコントロールすべきものであると、米国の司法が初めて認めたことになります。これについてはCFTCも2018年10月にコモディティであると判断されたことを公式に発表しています。

SECは証券と判断

一方、米国のSEC(証券取引委員会)は同年秋に、暗号資産を有価証券とみなしてICOを規制する方針を打ち出しました。

この場合のトークンは、投資家が事業のために資産を提供してくれた証として配布されるもので、出資者に株券を配る株式の発行とスキームがよく似ています。株価が上昇したタイミングで株券を売れば、出資額を上回る利益を得られる可能性があります。

ICOにおけるトークンについても、将来的にその価格が上昇していけば、株式のケースと同じように出資者は値上がり益を期待できます。株式は代表的な有価証券であり、それに類似した収益性が見込めるのであれば、同じカテゴリーに当てはめるべきだというのがSECの見解のようです。ただ、現状、SECには暗号資産市場を取り締まる権限は与えられていません。

SECは2016年6月に発生したThe DAOと呼ばれるイーサリアム上のプロジェクトへのサイバー攻撃事件に関する調査報告書においても、暗号資産が有価証券に該当するとの見解を明らかにしています。具体的には、「The DAOが行ったトークン発行が連邦証券法の規制を受ける有価証券の一つである投資契約(investment contract)締結の申込みであった」と解釈しているのです。

ただし、「ビットコインとイーサリアム(アルトコインの一種。アルトコインはビットコイン以外の暗号資産)は有価証券に分類されない」ともSECは判断しているそうです。

米国以外は?

他方、米国のIRS(内国歳入庁)は暗号資産を「財産(property)」と捉えています。では、他の国々はビットコインのような暗号資産をどのように認識しているのでしょうか? 

世界に先駆けてECJ(欧州司法裁判所)はビットコインが決済手段であると定義し、加盟国に対して付加価値税(日本の消費税に類似)を免除する対象にすべきとの判断を下しています。続いて、日本でも2017年4月1日に施行された「改正資金決済法」によって、暗号資産は「モノの購入やレンタル、サービスの提供を受ける場合に、それらの代金の支払いのために使用でき、不特定の相手と売買できる財産的価値があるもの」と定義しています。

ビットコインをはじめとする暗号資産が有価証券とみなされると、どのような変化が起こるのでしょうか?

まず、監督権限を有する政府当局(日本では金融庁)からの監視が、今まで以上に強化されることになるでしょう。

そうなれば取引の健全性や安全性が高まり、これまでと比べれば価格変動も落ち着く可能性もあるため、投資家保護の観点からも非常に有意義なことであるように思われます。

特にイーサリアムに関しては、イーサリアムをベースとして発行するトークンを巡って、投資家から資金を調達した途端に行方をくらませるという悪質な行為が横行してきたのも確かです。いわゆるICO詐欺です。

米国NASDAQ(ナスダック)のCEOも、「多くのICOプロジェクトは個人投資家に詐取を行うこと目的としている」と指摘しているようです。

もしも米国においてイーサリアムが有価証券とみなされてSECの管理下に置かれれば、そういった行為が一掃される可能性もあります。

アルトコインは有価証券との一方的判断も

CFTCが暗号資産(仮想通貨)をコモディティと定義していることは先述しましたが、その元会長は「ビットコインには有価証券の特徴が備わっていない」との解釈を示す一方で、「イーサリアムやリップルはかなり事情が異なっている」と指摘し、特にリップルについては有価証券に該当する可能性もあると言及しているようです。実際に、SECは2020年12月にリップル社が2013年に資金調達に使ったXRPが未登録証券に当たるとして提訴しました。

さらに2022年7月に海外大手暗号資産交換業者が取り扱っている暗号資産でインサイダー取引があったとして、SECが同社の元従業員を告発しました。SECが海外暗号資産交換業者で上場している7銘柄について「有価証券である」と断定していたためです。ただし、この暗号資産交換業者は「『有価証券』は一つも上場していない」と反論しています。すでに上場している暗号資産は事前にSECの審査を通過していたはずであるからです。

SECはこれまで、投資家向けに利益を期待させる投資契約としての機能をもった暗号資産は有価証券であると主張してきました。ただ、具体的にどのような機能なのかは明言してきていません。

こうした一貫性のなさについてはCFTC委員や有識者からも批判の声が上がっています。

PoS採用の暗号資産は証券の可能性?

前述したように、イーサリアムについては2018年にCFTCが「コモディティ(商品)」であると判断しました。しかし2022年9月、SECのゲーリー・ゲンスラー委員長がプルーフ・オブ・ステーク(PoS:Proof of Stake)を採用する暗号資産は証券である可能性が高いと発言しました。

PoSを採用する暗号資産では、暗号資産をブロックチェーンネットワークに預け入れることで、報酬がもらえるステーキングサービスが可能になります。

これが、銀行で貯金した際にもらえる利子のような形と似ていることで、「融資に似ている」とゲンスラー委員長が問題視したのです。これについては、2022年11月時点で結論は出ていません。

一方、ビットコインやアルトコインが有価証券となれば、株式などと同じように証券取引所に上場させることもスキーム的に可能となるでしょう。そうなると、今まで以上に取引が活発化することも考えられます。

しかしながら、その反面として、規制に縛られて暗号資産の発展が阻害されかねないとの懸念もあります。ビットコインをはじめとする暗号資産は、いまだかつてなかったユニークな発想と独創的なテクノロジーのもとで生まれたものです。それだけに、古くから存在している有価証券と同じ枠組みで取り締まると、暗号資産のポテンシャルを完全に引き出せないまま、中途半端な普及にとどまってしまう恐れがあるかもしれません。暗号資産の運営者や暗号資産交換業者も、規制への対応で金銭的コストも含めたさまざまな負担を負うことになるでしょう。

いずれビットコインは有価証券化されるのか?

振り返れば、2014年頃の時点で日本政府は、暗号資産(仮想通貨)について「有価証券に該当しない」との見解を示していました。当時は暗号資産といえばビットコインのほぼ独壇場で、アルトコインがさほど普及していなかったことがその背景として考えられます。

しかし、以降は暗号資産の多様化が加速し、SECも指摘しているように、その中には有価証券に類似した投資成果を期待できるものも出てきました。こうした状況下で取り締まるべき監督官庁が不明確だったことから、不正な操作や詐欺的行為などを未然に防ぐための厳格な対応策を打ち出しづらかったのが実情です。

そこで、米国をはじめとする先進国において、一部の暗号資産を有価証券とみなすべきだという論調が強まったわけです。

米国では2022年7月「責任ある金融イノベーション」と題した法案が上院に提出されました。数多くある暗号資産のどれが有価証券に当たるのかの判断基準を法的に規定しようという動きです。ただ、これも議論が始まるのが2023年からで、まとまるとしてもさらに先の話でしょう。

米国以外や日本の動きは?

日本では2018年4月下旬に開催された金融庁主催の「仮想通貨交換業等に関する研究会(第2回)」において、「仮想通貨自体を投機取引とする場合、金融商品取引法の有価証券に適用することを検討すべき」との提案が出ました。

また、XRPについては、2021年1月に海外メディアに対して「有価証券ではない」と回答したと報道されています。

もしも先進国の間で暗号資産を有価証券と定義する動きが活発化すれば、新興国にもその影響が及び、グローバルに拡大していく可能性も考えられます。2018年3月にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)では、同会議において暗号資産が初めて議題に取り上げられました。そして、「仮想通貨は通貨の特性を欠いている」と捉えて「暗号資産」と呼び、国際機関による監視の必要性を訴える共同声明を採択しました。加えて、「消費者と投資家保護、マネーロンダリング(資金洗浄)、テロ資金供与に関する問題を提起する」とも指摘しています。

とはいえ、けっして世界各国はすべての暗号資産を駆逐しようとしているわけではなさそうです。その高い技術や活用の可能性について前向きに評価している国も多く、規制でがんじがらめにして骨抜きにしてしまうような恐れは少ないものと思われます。

いずれにしても、「暗号資産は有価証券である」ということがグローバルなコンセンサスとなれば、今までとは注意すべきポイントが異なってくるのは確かでしょう。それだけに、各国政府の動きについて注意深く観察を続けたほうが良さそうです。

まとめ

主に先進国の間で、ビットコインのような暗号資産(仮想通貨)を有価証券と位置づけることが検討されています。実際に有価証券とみなされるようになれば、暗号資産は投資家保護やマネーロンダリングなどといった不正防止の観点から、今まで以上に規制が強化される可能性が考えられます。

とはいえ、米国内でも様々な見解が入り乱れているように、まだこの議論の行方ははっきりしていません。私たち暗号資産の利用者サイドとしては、各国政府の対応を冷静に見つつ、有価証券と定義されそうな可能性が高まってくれば、いち早くそれに応じたかたちに保有方法などを見直していくのが賢明かと思われます。

暗号資産の法律について詳しく知りたい方は「暗号資産(仮想通貨)の法律改正を解説」もご参照ください。

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